【190】 タイの間違った使い方体重測定  (柊雅史 2005-07-11 01:08:20)


「ごきげんよう、お姉さま」
「ごきげんよう、祐巳」
マリア様の前で朝の挨拶。今日は朝から祥子さまに会えるなんて、なんとも幸先の良い一日である。
「――あら、祐巳?」
「はい、お姉さま?」
ほわわん、と幸せをかみ締めていた祐巳は、祥子さまがそっと自分の襟元に手を伸ばしてくるのに気付いて我に返った。
「あなた、タイ――」
祥子さまの手がそっと祐巳のタイを掴む。
「――ジュウが増えていてよ?」
「へ?」
「どっしゃあーーーー!」
ぐいっ。ぐええっ。
祥子さまが祐巳のタイを持ちながら、まるで背負い投げのようにして祐巳を担ぐ。
「ほら御覧なさい。昨日よりもタイが伸びているわ。祐巳、不摂生は良くないわ、早死にしてしまうわよ?」
いえ、今正に、祥子さまに首を絞められて早死にしそうなんですが。
もちろんそんなツッコミは、ぎりぎりと首を絞められている今は発することが出来ない。
――このまま祥子さまになら殺されても、なんて危険で甘美な夢に逃げようとしたところで、祥子さまはようやく祐巳を解放してくれた。
「――あら、祐巳?」
「ひっ! な、なんですか!?」
「タイが曲がっていてよ。身だしなみはきちんとね」
そりゃ曲がりますとも。
もちろんそんなツッコミは、するするとタイを直されている幸福感の中では発することが出来ない。
タイを直すのも体重を測るのも、姉妹のコミュニケーションの一つである。


「……由乃さん、なにこれ?」
「漫画・リリアン女学園校則図解よ」
「……だから、なに?」
「リリアン女学園の校則をまとめたもの。今度の新入生に配ろうと」
「いや、そうじゃなくて。それは分かってるんだけど。内容が変じゃない?」
「だって仕方ないじゃないの」
由乃さんが「ほらここ」と指し示したのは、分厚いリリアン女学園生徒手帳の1ページ、リリアン女学園校則第256条128項のページである。

『タイは常に清潔に保ちましょう。
 尚、次のようなタイの使い方をしてはいけません。
   一.刺繍などを施す
   二.色を染める
   三.物を縛る
   四.拘束する
   五.体重を測る                           』

「なんだこの学校……?」
「いたんじゃないの、体重測った姉妹が。こんな風に」
それこそ『なんだこの学校』だと思うよ、由乃さん……。


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