初めて書いた文章を投稿するという無謀な行為……。
駄目なところたくさんありますが、許してください。
修学旅行2日目の夜の話のつもりです。
「ねえ、祐巳さん」
「なあに、由乃さん」
「初恋っていつ?」
「……えっ!」
「大きな声出さないでよ」
「だって、いきなり何なの?」
「修学旅行の夜っていったらこういう話をするものでしょ?」
「そういうもの?」
「そういうものよ。それに、大勢いるところだと話せなくても2人なら話せるんじゃないかと思って」
「うーん。私はそういうのまだないかな」
「そうね。祐巳さんの初恋は祥子さまって感じよね」
「あはは。でもそれでいいなら由乃さんの初恋だって令さまでしょ?」
「それは違うかな。令ちゃんとは本当に姉妹のように育ったから」
「あ、そっか。じゃあ由乃さんの初恋は?まだなの?」
「どうなんだろう?」
「……?どういうこと?」
「旅行前にこういう話をしようかなって考えたときに、よく考えたら私にはそういうのないかもしれないと思ったわけ。で、祐巳さんに話をふるだけで私が何も話さないのはフェアじゃないと思ったのよ」
「うん。それで?」
「それで、色々と昔のことを考えて、何かないかと思い出そうとしたのよ。そしたらね、ある男の子のことを思い出したのよ」
「男の子?」
「うん。幼稚舎の頃のことだから、恋とかそういうものではなかったと思うの。実際、この間まで忘れてたわけだし。でも、私に結構大きな影響を与えた男の子の話。祐巳さん、聞きたい?」
「うん。由乃さんがいいのなら」
「もちろん。祐巳さんは親友だもの。あれは……」
***
あれは、まだ私が幼稚舎のときの話。
生まれつき心臓が悪かった私は、その頃は本当にちょっとしたことで体調を崩していたの。
年齢を重ねるごとに少しずつではあるが丈夫になっていってはいたが、それでも1年の3分の1ちかくを病院で過ごしていたように記憶しているわ。
何が原因だったか、今となっては覚えていないが体調を崩した私は入院することになってしまったの。
最初のうちは親もつきっきりで看病してくれてるんだけど、体調が安定してくるとずっとそばにいてくれるわけじゃなくて家に帰ってしまう時間がだんだん長くなっていくわけ。
それでも日中はほとんど一緒にいてくれるんだけどね。
私は本当は夜に一緒にいて欲しかった。
病院って暗いと本当に不気味なのよ。
夜中に目が覚めて1人だと怖くて、でも頼れる人もいなくて。
しょっちゅう泣いてたかもしれない。
でも、その頃の私は我侭を言えなかったの。
病気のことで親に迷惑をかけてるって思ってたし、いつも疲れたような顔してたから。
何より迷惑をかけすぎることで、私のことを生まなければ良かったなんて思われたくなかった。
親に嫌われること、そして生まれてこなければ良かったと思われることが夜の病院より怖かった。
だから夜も一緒にいてほしいなんて言えなかった。
あの夜も怖くて泣いてたのよ。
そしたら隣のベッドで寝てた子が起きちゃったみたいで話しかけてきたの。
「どうしたの?ないてるの?」
私はそれに答えられなかった。
その当時、私は人見知りが激しかったし、幼稚舎でも体の弱い私は敬遠されてたから友達もいなかった。
令ちゃんと令ちゃんの家族、私の家族以外と積極的に話すことはなかったから、他人と話すことに慣れていなかったの。
突然の問いかけにびっくりしてたっていうのもあるかもしれない。
でもびっくりしたお陰で涙は止まってたわ。
「なんだかこわいよね。びょういんって」
私は何も答えなかったのに何故か向こうには気持ちが正しく伝わってしまったみたいだった。
きっとただの偶然だったんだろうと今なら思う。
その子がその時偶然思ったことをただ口にしただけだろう、ってそう思う。
でもその時は、きっとこの子は魔法使いなんだ、って思ったわ。
「きみもこわいんでしょ?ぼくもこわいからおはなししよう」
とても落ち着かせてくれる声だったような気がする。
今思うと、きっと気を使ってくれたんだなあと思う。
「うん」
人と話すのは苦手だったのに、なんでかそう答えてた。
それから色々なことを話したわ。
最初は自己紹介のようなものだったと思う。
年齢は私の方が1つ上だった。
向こうは誕生日が4月だって言ってたから、学年としても私が1つ上になるのかしら。
好きな食べ物とか、そんなことも話したような気がする。
次に話したのは私の不安について。
迷惑をかけて親に嫌われたらどうしよう、ってこと。
こんなこと初めて話す相手に相談されても困るわよね。普通は。
でも、その時の私はその子のことを魔法使いみたいに思ったりしてたから、もしかしたら解決してくれるかもしれない、って思ったの。
「どうしてきらわれるの?こまらせてもきっときらわれないよ」
その子はあっさりそう言ったわ。
「まえ、おかあさんがいってたんだ。こどもはおやにとってはいのちよりたいせつだから、どんなことがあってもきらいにならないしかわいいとおもえるんだって。それにこまらせられるよりも、こどもにさびしいおもいをさせるほうがつらいって」
だから、我侭を言ってもいい、って。
結局は聞き入れられなくても本当の気持ちは、さびしい気持ちは言ってもいい、って。
そう言ってくれた。
「それに、うまれてこないほうがいいっておもうはずもないよ。おやはこどもがいきててくれるだけでうれしいんだって」
優しい声でそう言った。
どうやらこれもその子の親が言った言葉らしい。
聞くと、その子はかなり危険な状態で生まれたらしい。
小さいまま生まれた、と言っていたから、おそらく未熟児だったのだろうと今では理解できる。
その子が成長して元気な様子を見せると、親がいつもその話を持ち出すらしかった。
「やさしいおかあさんとおとうさんだね」
そう私が言うと、その子は嬉しそうに答えた。
「うん。おねえちゃんもやさしいんだ。ひとりでもなかないようにヒヨコのタオルをくれたんだ」
話しているうちになんだか温かい気持ちになってきて、だんだんと眠気がおそってきた。
「おやすみ」
意識を手放す寸前にそんな声がふってきたような気がする。
翌日、その子は退院してしまった。
最後の会話はこんな感じだったと思う。
「もう、おわかれなんだ」
悲しそうに言った私にその子は笑いながら、
「だいじょうぶ。またあえるよ。だってぼくたちトモダチ
だもん」
と言った。
そして、私より一回り小さい手で握ったタオルを差し出してきた。
「ぼくはもうだいじょうぶだから。こわくならないように、なかないようにオマモリ」
それからの私は少し変わったと思う。
寂しい気持ちをしっかり親に伝えたことはじまりに、自分の気持ちをしっかり人に伝えられるようになった。
少し我侭になりすぎたような気もするけど……。
でも自分らしくなれた。
そしてそんな自分が今は大好きだ。
***
「……とまあこんな感じかな」
「ふーん。そんなことがあったんだ。そういえばその子に貰ったタオルって由乃さんが昨日も使ってたやつでしょう?」
「うん。今まで大事に使ってたのにそれをその子に貰ったって言うのもこの前まで忘れてたんだけどね」
「忘れてたってことは、まだ再会できてないんだよね?」
「それが、よく考えてみたら名前だけは聞かなかったし、教えなかったような気がするの。とりあえず、私は覚えてないわ。顔もうろ覚えだし……。会ってもお互い気づかな
いと思うわ」
「なんだか残念だね。初恋の人……かもしれないんだよね?」
「ううん。それに近いものではあったけど、やっぱり恋とは違うと思うんだよね。多分恋をするには幼すぎたんだと思うの。でも、また会いたいとは思うんだよね。会ってお礼を言いたい。私を私にしてくれてありがとう、って」
「会えるといいね」
「うん。もし会えたら、今度は……」
「今度は?」
「ううん。何でもない」
今度は……きっと恋に落ちる。
そんな気がする。