【1935】 この世は祐巳で回る藤堂シマコの憂鬱  (雪国カノ 2006-10-16 13:41:13)


 
『マリア様もお断り!?』シリーズ

これは『思春期未満お断り・完結編』とのクロスオーバーです。元ネタを知らなくても読めます。

多分に女の子同士の恋愛要素を含みますので、苦手だという方は回避して下さい。

先に【No:1923】をどうぞ。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「あ、志摩子。ごきげんよう」

教室に入ると一番に由乃が声をかけてきた。

「ごきげんよう」

由乃とは長いリリアンでの学校生活の中で――志摩子は中等部からだが――三年生になって漸く同じクラスになれた。

志摩子は自分の机に鞄を置いた。窓際の、由乃の後ろ…そこが志摩子の席。由乃と前後なのは偶然ではない。

三年生は三学期が始まると席順は自由となる。皆、思い思いに好きな相手と好きなところに座る。もちろん志摩子たちもそうだ。

「…祐巳は来てないの?」
「挨拶の次にそれですかい」
「あ…ごめんなさい」

由乃の呆れた顔を見ながら苦笑いして謝る。確かにこれは由乃に失礼だ。

「別にいいわよ。いつものことだし?どうせ来てたら朝からいちゃつこうとでも思ってたんでしょう?ごちそうさま!!でも、ざーんねんっ!祐巳はまだ来てないわよ」
「いちゃつくだなんて、そんな……由乃は今日も朝から機関銃のようね」
「…アンタねぇ…喧嘩売ってんの?」

睨んでくるが気にしない。

「嫌だわ、由乃ったら…そんなにカリカリして。カルシウム足りてないんじゃない?」
「〜〜〜っ!志摩子ーっ!!」
「ふふ…ごめんなさい。冗談よ」

(やっぱり由乃といると楽しいわね)

由乃と軽口を言い合う。志摩子が一年生だった頃には考えもつかないような光景だろう。でも今はこの関係を手にしているのだ。そのことを志摩子はとても幸せに思う。

「相変わらず仲がいいわね…ねぇ、そう思わない?」

声をかけられたと同時にフラッシュが光った。

「ふむ…『白薔薇さまと黄薔薇さま、仲良くお戯れ』ってところかしら?」
「真美さん!蔦子さん!」
「あら…」
「ごきげんよう、お二人さん」
「ごきげんよう」

その飛び入り参加者たちは志摩子たちにとっては最早お馴染みの蔦子と真美だった。

「「ごきげんよう」」

志摩子たちの挨拶を聞きながら二人は鞄を置く。

志摩子、祐巳、由乃、蔦子、真美――と、皆同じクラスだ。

そう。このクラスには偶然にも学園の有名人が五人も揃っているのだ。三年生のクラス発表時に話題になったのは言うまでもない。

「祐巳さんなら見ていないわよ」
「え?」

蔦子はそう言ったが志摩子は何も言っていない。しかし聞きたかったことに違いはないので、どうしてかと首を傾げていると、蔦子は『その顔もいい』なんて言ってシャッターを切っている。

そして更に不思議なことを言った。

「志摩子さんてさ…ますます祐巳さんに似てきたわよね」
「あーわかる!反応とか、祐巳ほど酷くはないけど表情に出やすくなったところとか…」
「あと…由乃さんのいじり方とか?」
「真美さんっ!」

由乃が蔦子の言葉に逸速く同意したが、そんな由乃を真美がからかった。

(私が…祐巳に?)

「恋人に似てくるって本当なのねぇ」
「…っ!」

そう言ってにやにや笑う由乃の言葉に志摩子は瞬時に耳まで赤くなる。

「おぉ〜そういう初な反応は志摩子さんのものよね」
「祐巳だと一拍間が空いてからだもんね」
「いい写真をありがとう。志摩子さん」

次々に言われる好き勝手なことに志摩子は二の句も継げないで、ただ顔を赤くしていることしかできなかった。

「っと!冗談は置いといて。ねぇ…志摩子さん?」
「な、何かしら?」
「あのさ…日出実からちょっと妙な話を聞いたのよ…」
「?」

真美が声を潜めたため自然と皆近寄る。

「昨日の放課後、薔薇の館に外国人が来たって…」
「 !! 」
「何それ…って志摩子?」
「その様子じゃ当たりのようね」

明らかに『外国人』の言葉に反応した志摩子に三人の視線が集まる。

「志摩子?」

由乃の促しに応じて志摩子は昨日の出来事を話し出した。


***


「金髪セクシーダイナマイツが祐巳略奪!?」

これが志摩子が話終えた後、開口一番の由乃の言葉だった。

「…由乃さん。仮にもリリアンの乙女がセクシーダイナマイツはないでしょう…」

蔦子が頭を押さえている。志摩子だってそうしたい気分だ。

(まさか由乃がそんな発言をするなんて…)

「ごめんごめん!…んーでも祐巳が?最近あんまり学校に来てないけど、毎日電話はしてるんでしょ?」
「ええ…でもここ数日は連絡取ってないわ。何だか忙しいみたいなのよ。昨日も電話してないし…」

祐巳はこの一ヶ月、あまり学校に来ていない。家の事情らしいので誰も詮索しようとはしないが、卒業も近いため高等部の生徒は皆、落胆の色が大きい。

リリアンでは受験シーズンになると三年生の登校は強制されない。だが大多数の生徒は一日でも多く友人たちと一緒に過ごしたいと思って登校するのだ。

「確かにここ最近の様子はわからないけど…でもあの祐巳さんがそんなことするかしら?」
「私にも何が何だかわからないのよ」

真美の言葉を肯定したいのは山々なのだが、本当に志摩子にも訳がわからない。

「でも、さぁ…私もそんなことは絶対にないと思ってるけど!でもね。もしかして、もしかしたら有り得るかもしれないわよ?」

由乃がとんでもないことを言い出した。志摩子は思わず由乃の顔を見る。

「由乃さん。さっきから…」
「ま、真美さん!可能性の話だから!ねっ?」
「…でも。意外に祐巳さんって面食いだし」

驚いたことに蔦子が由乃の支持をした。面食いという尾鰭をつけて。

「そうなの?」

志摩子にとって祐巳が面食いだというのは初耳だった。確かに祥子や瞳子は美人だと思うが。

「今更何言ってるのよ。祥子さまに瞳子ちゃん…それに何と言っても志摩子!あなたよ」
「わ、私!?」
「そうよー志摩子さんは誰もが認める美少女なのよ」

真美の言葉に蔦子も『うんうん』と頷いている。

「祐巳さんがねぇ『あんなにも可愛い志摩子の恋人になれた私は幸せだ』って言ってましたよ〜?」
「な、何言って…祐巳の方が私なんかよりもよっぽど可愛いわ…」
「うわっ!出たよ…惚気が」
「はいはい。真美さん、今は惚気の話してるんじゃないでしょうが」

脱線しかかった話を蔦子が元に戻す。

「ごめん。面食いだっけ?面食いに…それに祐巳さんって天然たらしなところ、あるよね」
「そうそう。たらされた人その1」

そう言って由乃が志摩子を指差す。

(何だか私と祐巳って酷い扱われようね)

志摩子は普段からこんな風に思われていたのかと、皆の認識を新たに知った。

「まぁ祐巳さんにその気はなくても相手が勝手に好きになっちゃった、とかかもしれないわよね」
「…だとしてもよ、蔦子さん?それで外国人の方と一体どこでお知り合いになる訳?」

(確かにそうよね。祐巳が外国人の方と……あ!)

「あ!」

志摩子と同じ考えに行き当たったのか由乃が声を上げた。

「真美さん!祐巳、夏休みに一度、ご家族でカナダに行ってるのよ」
「…その時に出会って祐巳さんに一目惚れ?」
「で、今になって志摩子さんに略奪宣言?」

由乃の後に蔦子と真美がまるで割り振られた台詞のように続けた。

「じゃあさ。どうして今なの?祐巳さんが旅行した夏休みの後じゃなくて」

再び真美が疑問を口にする。

「あ、待って。祐巳がカナダへ行ったのは去年の夏休みだけじゃないの」
「どういうこと?」
「皆は知らないと思うけれど、先月にも一度カナダへ行ってるのよ」

「「「えーっ」」」

志摩子の言葉に三人は同時に叫んだあと、顔を見合わせてまた仲良く同時に言った。

「「「それだ!」」」

「志摩子、どうしてその外人女に会ったときに気付かなかったのよ!そうしたら何か言い返せたのにさっ!」
「だって…まさか関係あるなんて思わないじゃない」
「祐巳、外人、カナダ……ぴったり符号は合ってるじゃないのよっ!」

気付かなかったものは気付かなかったのだ。それに終わってしまったことを今更言っても仕方がない。

「何にしても…祐巳さん本人から話を聞かない限りわからないことよね」

蔦子のその言葉に志摩子は隣の祐巳の席を見る。

「祐巳、今日は来るのかしら?」
「さぁ…どうだろう」

由乃が時計を見たところで、謀ったように朝拝の鐘が鳴った。


***


今は昼休みも終わりかけ。しかし祐巳はまだ来ていなかった。

志摩子はお弁当を食べてからぼんやり窓の外を見ていた。

(祐巳…)

いつも志摩子が物思いに耽るときは、誰にも何にも邪魔をされることはない。

だが今日は少し勝手が違っていたようだ。



『ねぇ、見て』『素敵ね』『**さん!こっち向いて』『きゃぁぁぁーっ!』

――バタバタバタッ



(何だか廊下が騒がしいわね)

志摩子が廊下の方に目を向けた瞬間、教室の扉が勢い良く開かれた。

「志摩子っ」
「ゆ、祐巳!?」

騒ぎの犯人は祐巳だった。なぜ騒がれたのかと言えば、久しぶりの登校はもちろんのこと彼女が私服姿だったからだ。上からコートを着ていたが前が全開だったため私服であることは一目瞭然だった。

祐巳は周りの視線も気にせず志摩子の方へと歩いてくる。

「…どうしたの?その恰好」
「ん…ちょっとね。先生たちには事情を話して許可は貰ってるよ。それよりさ!」

そう言って祐巳は志摩子の手をぎゅっと握った。

「前に今週は用事ないって言ってたよね?」
「ええ。そう…だけれど?」
「今日も?」

頷くと祐巳の表情がぱぁっと明るくなった。

「じゃあうちに来ない?」
「え?」
「今日は誰もいないんだよね。だからゆっくりできるよ!」
「あの…」
「決まりねっ!」

戸惑う志摩子を置いて祐巳はどんどん話を進めていく。

「4時にM駅の改札口で待っててね」
「ちょっと、ゆ…」
「あ、もう時間だ。ごめん!それじゃあ私、行くね!ごきげんようっ」



――バタバタバタッ



祐巳はそのまま走り去ってしまった。

結局、祐巳が話すだけ話して志摩子の言葉は何も聞いてもらえなかった。

「何事?祐巳ったらどうなってるのかしら?」
「さぁ…」

側に寄ってきた由乃にも何をどう説明すればいいのかわからない。

「でもまぁ…後で会うんでしょう?だったら、何もかも全部聞けるチャンスじゃない!」
「ええ」

真美と蔦子もにやにやしならが側に来る。

「是非とも今のを記事にしたいわ!――紅薔薇さまと白薔薇さま、熱愛発覚!!卒業間近に愛の炎も燃え上がる!?『今日は誰もいないの…』紅薔薇さまの妖しくも甘い誘惑――みたいな?」
「ちなみに手を握り合ってる写真付き」

蔦子が眼鏡を光らせてカメラを持ち上げた。

「真美さん、蔦子さん…やめてちょうだい。心臓に悪いわ」
「あはは!冗談だって」
「でも後でちゃんと写真はあげるわね」










少女たちが戯れる中、昼休みの終了を告げる予鈴が鳴った。

To be continued...


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