「その、菫子おばさん。お願いがあるんだけど。」
「どうしたんだい、あらたまって。」
「前に私、菫子おばさんの勧める武蔵野のリリアン女学園を受けたじゃない。それでさ、じ、実は千葉の県立校落ちちゃって・・・。それで、リリアン女学園に行きたいな、って。」
「へー。受験するときはいかにもお義理でって感じだったのにどういう風の吹き回しかねぇ。他の滑り止めに受けた学校には行かないのかい?」
「え? 他の滑り止めの私学? そ、それは、その、ほら、菫子おばさんもリリアン女学園っていいところだって言ってたじゃない、だから、心機一転っていうか、ほら、ついたケチをキリスト様にでも払ってもらうとかね。」
「マリア様だよ、それが本心なら嬉しいんだけどねぇ。乃梨子ちゃん。何か隠し事してない?」
「ななな、なにも隠してなんか無いよっ、やましいことなんかしてないって、菫子おばさん。」
「“してない”ねぇ・・・ところでさぁ、あんた頭いいのになんで本命の学校落ちたんだい?」
「え? そ、それはその試験の前の日に京都のお寺で20年に1回しかみれない玉虫観音のご開帳日でさ、どうしても見たくて行ったのよ、私落ちるなんて思ってなかったからね、んで夜大雪になって電車とまっちゃってさ、は、ははは、後悔先に立たずってやつよね、はは。」
「京都のお寺にねぇ。それはまたお金かかったんだろうねぇ。旅費とかどうしたんだい。」
「うぐっ、旅費・・・そそそれは、その、お、お小遣い貯めてたのよ、私」
「挙動不審だね、乃梨子ちゃん。千葉のお家に聞いてみようかね」
「え?ウチに確かめる?! ややややめてっそれだけはやめてっ、親に調べられたら私っ」
「・・・乃梨子ちゃん。リリアン行きたかったら正直に白状しな。家族にはだまっててあげるから。なにか後ろ暗いことしたんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃったの」
「え? 聞こえないわよ。」
「受験料使い込んじゃったのよっっ!!」
「ぶっ・・・・くっくっくっくっく、そっかそっか、それじゃリリアンいくしかないわけだ、あっはっはっはっは、よかったねぇ、リリアンは私が払い込みしてて。まぁ親には言えないよねぇそれは。」
「宿代なかったから野宿するはめになって京都の雪の中で凍死しそうになるし、ルーベンスの絵が見えかけたよもうっ」
「あっはっはっはっ、いやー悪いことはできないねぇ、マリア様はしっかり見てらしたわけだ。」
「はぁ、これで親にバレて趣味もやめさせられるか・・・パソコンも禁止されるだろーなぁ・・・おこづかいもなくなるだろーし・・・玉虫観音の写真集捨てられたらどーしよ・・・。」
「まぁ人生経験にはなったろ。安心しな、親に言ったりしないよ、私だって夢だったリリアンの後輩ができるんだからね。1つだけ約束してくれれば黙っといてあげるよ。」
「えと、菫子おばさんどういう条件で?」
「簡単なことさ。私のこと「菫子おばさん」なんて呼ばずに「菫子さん」て呼んでほしいんだよ。私も「リコ」ってあだ名で呼ぶからね。」
「それだけでいいの?」
「ははは、堅苦しいのはあたしも苦手だからね。弱みを握って思い通りに、とか絶対服従とかじゃ肩が凝っていけないからね。友人関係でいたいんだよ。」
「・・・・・・年の離れた、ね。」
「年のことは言うんじゃないよ、リコ。」
「了解、菫子さん。」
「さて、あんたの親をごまかすための作戦を立てようかい。」
「いえっさー、菫子さん。」