久々の投稿は未使用キー限定タイトル1発決めキャンペーン第5弾です
分かる人には分かるネタがちらほらと。。(笑)
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トゥルルルル トゥルルルル
休日の支倉家に電話の音が鳴り響く。
試験勉強を行っていた令は、電話は家族に任せて勉強に打ち込んでいたのだが。
「令ー、鳥居さんから電話ー」
そう言われては手を止めないわけにはいかなかった。
1.祥子
「……で、何か面白い料理はないかってことなんだけど」
お姉さまからの電話はシンプルな内容だった。要するに普通の料理に飽きたから何か面白いレシピを教えて欲しいとのこと。お姉さまらしいといえばらしいけれど、料理が得意な令にもそれは少し難しい課題だった。
「悪いけど、私は普通の料理しか作れないわ」
「まあそうだろうね」
親友の返答はあっさりしたものだった。でも祥子にそういった方向で意外性を求めるのは難しい。もちろん令もそれは承知の上、狙いは祥子本人ではなかった。
「清子小母さまは? こう言ったら失礼かもしれないけど小母さまなら何かあるかもって思ったんだけど」
「別に失礼とか言う仲でもないでしょうに」
「でも、親しき仲にも礼儀ありって言うじゃない」
「それもそうね。でも残念ながら物はまともなのよね。過程や量はとんでもない事が多いけれど」
「そっか、ありがと」
「力になれなくてごめんなさい」
「気にしなくていいよ。それに変な料理を作れる人がごろごろ居たら大変だし」
「それもそうね」
ふふっと微笑んで仕事に戻る親友を横目に、令は次の人に話を振るのだった。
2.志摩子
「志摩子は何かない?」
「そうですね……面白いかどうかはわかりませんけれど、精進料理なんかでは野菜などで肉に見立てた物を作ったりはしますね」
「なるほど」
次に令は志摩子に声をかけた。祥子同様あまり変な物は作りそうになかったのだけれど、そこはお寺の娘だからか和食方面で使えそうな知識を幾つか教えてもらう事が出来た。ただ、訊くのはそこで止めておいた方がよかったかもしれない。
「参考になったよ。ありがとう、志摩子」
「いえ。あと、ちょっと作ってみたいなって思っている物もあるんですけど」
「へぇ、どんなの?」
「たこ焼き風銀杏とか、梅干し風銀杏とか、毬藻風銀杏とか……」
「ごめん志摩子、それくらいでいいわ」
「そうですか……」
少し残念そうな顔をする志摩子だったけれど、さすがに銀杏フルコースをお姉さまに提案する気にはなれなかった。気を取り直して仕事に戻った志摩子を横目に、令は次の人に話を振るのだった。
3.祐巳
「祐巳ちゃんは何か知らない?」
「そうですねー……」
次に令は祐巳ちゃんに声をかけた。祥子や志摩子と違って案外変わったものを作っているかもしれないし、そうでなくても一般家庭にはその家独自の料理があったりするので少しは期待できそうだ。
「あ、そういえば」
「なになに?」
「前に刻んだニンニクとショウガを同じ皿に入れて冷蔵庫に入れちゃった事があるんですけど、次の日出してみたらエメラルドグリーンになってました」
「へぇ」
「味は特に問題なかったんですけどあれには少し驚きましたね」
「そうなんだ」
それは知らなかった。料理上手な令はその手の失敗をする事が少ないのでこういったエピソードは持っていない。ある意味祐巳ちゃんならではのレシピと言えるかも知れない。他にも炊くのに失敗した(炊飯と保温を押し間違えたらしい)ご飯をお好み焼き風やかき揚げ風に料理する方法や白身魚の唐揚げ粉ムニエルとかも教えてもらう事が出来た。このあたりは庶民ならではの知恵というか、祐巳ちゃんなにげに料理上手だったりするのかもしれない。ただ失敗したご飯のレシピは出来ればやる機会がない事を祈りたい。手間がかかる上に後片づけも大変らしいから。
「ありがとう祐巳ちゃん」
「いえいえ。あっ、味を気にしないのならもう1つあるんですけど」
味を気にしないなら……お姉さまならありかもしれない。
「一応教えてくれる?」
「はい。えっと、ホットミルクの苺牛乳割りです」
言われて想像してみたけれど、かなり微妙な気がする。祐巳ちゃんはそんなことをしてみた事があるのだろうか? でもそれはあまり気にする事ではないだろうと、もう一度簡単にお礼を言ってから令は次の人に話を振るのだった。
4.乃梨子
「乃梨子ちゃんはどう?」
最後に令は乃梨子ちゃんに声をかけた。乃梨子ちゃんも祐巳ちゃんと同じ庶民派な上に、仏像鑑賞で色々なところに行ってもいるから実は一番の期待株だったりする。
「そうですね、色々ありますよー」
乃梨子ちゃんは待ってましたとばかりに色々なレシピを教えてくれた。各地の少し変わった名産から闇鍋で出てきた変な料理、旅先で偶然やっていたおかず風スイーツからインターネットで見つけたものや某喫茶店の甘味麺に辛味氷などなど。祐巳ちゃんの時に味を気にしなくても良いと言ってしまったから結構変な味のものも混ざってそうだけど。
「色々知ってるね」
「まあ、あちこち行ったりしてますから。ああそれと、見た目や味は普通ですが名前が面白いものも幾つか」
それは令にとって盲点だった。確かにお姉さまは面白い料理としか言ってないわけだから、名前が面白いというのもありかもしれない。
「へぇ。どんなのがあるの?」
「まず、偽たらスパ」
「偽?」
「ええ、正確に言えば糸こんにゃくのタラコ和えですから」
確かに糸こんにゃくをスパゲティと見立てればたらこスパゲティと言えなくもない。乃梨子ちゃん曰く、この偽スパ系は麺と具材の組み合わせが非常に多いらしい。
「次に、豚肉の黒こげ」
「は?」
名前だけ聞くとなんかまずそうだ。周りを見渡すといい感じに仕事は片づいていて、聞き耳を立てていた面々が少し引いている。乃梨子ちゃんは名前だけと言っていたから普通の料理の事なんだろうけれど、考えてみても何か分からないのは令以外も同じらしい。
「えーと、それは何なのかな」
「豚肉の黒胡椒揚げの略です」
「変な略し方しないでよ……」
乃梨子ちゃんの答えに由乃がツッコミを入れた。でも、インパクトはかなりあると思う。
「あとは、伝説のうなぎどんぶりと伝説のうにどんぶりですね」
「伝説の?」
これには祐巳ちゃんが反応した。確かに名前だけ聞くとかなり凄そうだけれど、今までのパターンから考えてそのままという事は有り得ない。
「その心は?」
由乃、それじゃ落語だよ。心の中で思わずつっこんだけれど、乃梨子ちゃんの答えは思わず吹き出してしまうものだった。
「まず、うなぎのほうですけど……」
一同が頷くのを見てから乃梨子ちゃんは続けた。
「うなぎが乗ってないうなぎどんぶりです」
これにまず2年生3人が。
「そしてうにのほうですけど、栗ご飯です」
そしてこれに3年生2人が、文字通り紅茶を吹いた。
乃梨子ちゃんの話によれば、これが伝説と表される理由はいずれもある伝説の少女にまつわる話だからだそうだ。その少女は貧しくて不幸で優しい人物で、うなぎのほうはある時おごってもらったうな丼を上司の頼みで半分譲った時に「上半分」を食べられた事から。うにのほうはとある高級丼物専門店で出されたうに丼に「これはうにじゃない」と言って栗ご飯を出させた事に由来するらしい(ちなみにこの時の栗ご飯は「LV7うに(byエリアト)」を使用していたのである意味本当に伝説のうにどんぶりかもしれない)。
とにかく、色々教えてくれた乃梨子ちゃんにお礼を言って令は話を切り上げることにした。もっとも、ずっと炊いておいた緑色のご飯だけは絶対にやらないと思うけれど(というかそれは腐っているだけ)。
5.由乃
「お姉さまは甘いわ」
切り上げるつもりだった話を何故か由乃が引き継いだ。
「あの江利子さまがそれくらいで納得するわけないじゃないですか」
それくらいって、かなり色々出た気がするけれど。まだ何か出ていない物があるのだろうか?
「由乃、何かあるの?」
由乃は元々余り料理をしないし、家も隣同士で基本的に仲がいいから令が知らない料理を由乃が知っているのか疑問だったが、反面自分も知らなかった一面を知る事が出来るかもしれないと思い直してとりあえず訊いてみることにした。
直後、令は訊いたことを思い切り後悔することになる。なぜなら……
「江利子さまでも手を出していないだろう料理。それは、げてものよっ」
由乃の解答はあまりに予想外かつ自分が苦手な物だったのだ。
「祐巳、帰るわよ」
「は、はい、お姉さま」
この解答に、紅薔薇姉妹は即座に逃げ出した。
「あら、由乃さまもそちらに興味がおありなんですか?」
そして逆に食いついてきたのは乃梨子ちゃん。
「蛙の唐揚げって……」
「ヤモリの……」
「そう言えばネズミって……」
「カマキリとかは……」
そのまま熱い議論を始めた2人に、乃梨子の予想外の行動で逃げ遅れた志摩子と話を振った立場上逃げられない令は揃って小さくため息をついたのだった。
後日、由乃がお姉さまからげてもの料理店に誘われて一緒に行くのを断ったらぶっ飛ばされたのはまた別のお話。
(おまけ)
拝啓
志摩子さん、お元気かしら? この前の薔薇の館の騒動、楽しく読ませて貰ったわ。そうそう、イタリアでもこの前ヴェネツィアで創作料理コンテストがあって水路風の水色スパゲティとかゴンドラチーズケーキなんてのがあったわ。創作料理も結構奥が深いようね。面白そうなのはレシピを書いて送るからもしよかったら作ってみるといいわ。但し味は保証しないけどね。
皆さん元気そうで何よりね。来年度も白薔薇さまをやるらしいけれど、志摩子さんなら大丈夫よ。そうそう、この前フィレンツェのお店に聖さまっぽいインコが居たのだけれど聖さまって最近イタリア旅行したのかしら? もし何か知っていたら教えてね。
もちろん私は元気よ。大学受験もあるから少し大変だけど、塾の先生も大丈夫って言って下さっているから次の手紙ではきっと合格の報告が出来ると思うわ。楽しみにしていてね。
それでは。まだまだ寒い日が続きますがお体おいとい下さい。
蟹名 静