【195】 蔦子女史曰く  (篠原 2005-07-11 20:27:23)


  前回までのあらすじ
 権謀術数を弄して(っていうか隠し撮りした写真で)蔦子の妹におさまった笙子だったが……【No:192】参照)

「それじゃあ、あなたの姉として、同じカメラマンの先輩として、一言いいかな」
「はい」
 返事をした瞬間、笙子はばこっと頭を叩かれた。
「あっつう……蔦子さま?」
 いきなりなことに涙目になって笙子は蔦子さまを仰ぎ見た。
「誰に対してであれ、今後2度と写真を脅しの道具に使わないように。もしまたこんなことをしたら、あなたとの姉妹関係を解消します」
「………」
 こんなに怖い蔦子さまは始めてだった。
「……返事は?」
「は、はい。ごめんなさい」
 涙で滲んだ視界が歪む。軽蔑されたと思うと恐ろしかった。なにより、蔦子さまの冷たい視線が哀しかった。
「ご、ごめんなさい。2度としません」
「……わかってくれればいいのよ」
 伸ばされてきた蔦子さまの手は、今度はやさしく笙子の頭にポンとのせられた。
「殴って悪かったわ。ごめんなさい。これでおあいこということにしましょう」
 そう言って笑ってくれた蔦子さまは笙子が大好きないつもの蔦子さまで、そしていつにもましてとても格好良いと笙子は思った。


「え? ロザリオ返しちゃったの!?」
「はい。せっかくの祐巳さまのご好意を無駄にしてしまったようで申し訳有りません」
「ううん、それはいいんだけれど……ごめんね。かえって余計なことしちゃったかな?」
「いえ。いかに自分が何も考えていなかったか、気付かされて良かったと思います」
「…そう」
 それはとりもなおさず、祐巳も何も考えていなかったということになるのだが……。
「だって蔦子さまの写真は見る人を幸せな気持ちにしてくれる写真ですもの」
「そう……だね」
「今度はちゃんとカメラマンとして認めてもらえるように頑張ります」
「そっか」
 笙子ちゃんはなんだかさっぱりとしたようでとてもいい表情をしていた。
 蔦子さんがいたら良い写真が撮れるだろうにな。この後その蔦子さんに締め上げられることになるとも知らず、祐巳はノンキにそんなことを思っていた。


 まさかあの場でロザリオを返されるとは思わなかったなあ……。
 こんなやり方でなく、ちゃんと蔦子本人に認められて妹にしてもらいたいという笙子ちゃんの心意気は買うし、好ましいと思う……のだが、これでも一大決心のつもりで妹にした蔦子は、ちょっと複雑なのだった。


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