【1953】 想いの紡ぎ方合わせ鏡の儚き夢  (クゥ〜 2006-10-23 23:19:36)


 テンプスパティウム宮の空の上。

 白い船体に三色の薔薇が描かれた空中船が浮いていた。

 通称、薔薇の船。

 そう呼ばれる船の上に一人の少女が立っていた。

 少女の前には、翠の光り輝く球体を持つ白い機体。シムーンと呼ばれるテンプスパティウムのための祈りの機体。

 今日、少女は、少女のパルと共にテンプスパティウムの元に旅に出る。

 「瞳子ちゃん」
 「祥子さま」
 一人、機体を見上げる瞳子の後ろから声をかけてきたのは祥子さま。
 シヴュラ・アウレア・ロサ・キネンシスの名を持つ黄金の巫女であり、瞳子の所属するコールの長であるレギーナでもある。
 「いよいよ、今日ね」
 「はい」
 些細な会話ですぐに沈黙。
 「あの、祥子さま」
 「なに?」
 「すみません」
 「どうして謝るの?」
 「私が祐巳さまをとってしまったから」
 「そう」
 祥子さまの沈黙が重い。
 「ね、瞳子ちゃん」
 「はい」
 「私は祐巳に求婚するつもりでいたの、私が泉で男性を選び、祐巳に女性に成って欲しかったのよ」
 「えっ!?」
 祥子さまの言葉に瞳子は驚きを隠せないが、同時にやはりとも思っていた。
 元々、祐巳さまは祥子さまのパルだった。
 それを瞳子が奪った。
 少なくとも多くのシヴュラがそう思っているだろう。
 ……祐巳さま。
 瞳子は、自分のパルの名を想う。
 祐巳さまを始めて見たのは、ココに来てしばらくしてのことだった。コール見習いとして送られてきた瞳子は、既に祥子さまのパルとして、シムーン・シヴュラとして活躍している祐巳さまのマージュを見て息を呑んだ。
 マージュとは、薔薇の船に作られた空間で行うリ・マージョンの練習のこと。
 だが、今まで何人かのシムーン・シヴュラのマージュを見てきたが、ココまで綺麗なリ・マージョンを見たことは無かった。
 その時、瞳子は思った。

 彼女のパルに成りたいと。

 だが、そんな簡単な話ではなかった。
 何よりそのときはただの見習い巫女。
 相手は祥子さまのパル。
 次期、シヴュラ・アウレア・ロサ・キネンシスの名を告ぐことが決まっている。
 そんな相手のパルに成ろうと言うのは、簡単に考えても無謀としか言えなかった。
 だから、瞳子は考えられるだけの努力をした。
 シムーンの練習機であるシミレ・シムーンでの訓練で誰よりも上手くリ・マージョンを出来るようにもなった。
 そればかりかシムーンは複座式の機体。
 操縦者をアウリーガ。
 ナビゲーターを努めるのがサジッタ。
 祐巳さまはアウリーガ、当然パルに成るならばサジッタの技術が必要になる。
 だから、瞳子は祥子さま以上のサジッタとして祐巳さまのナビに着こうと、サジッタの訓練もした。
 それでも祐巳さまのパルは祥子さまだった。
 やはり儚い夢だとも思った。だが、それはある日突然だった。
 どうにかシムーン・シヴュラと成った瞳子は何時もの時間にマージュの練習に赴いた。そこに祐巳さまがいた。
 驚いた。
 祐巳さまがマージュをする時間では無かったから。
 この時、瞳子は初めて祐巳さまと会話をした。
 信じられなかった。
 祐巳さまから瞳子とマージュをしたいと申し込んでこられたから。
 祐巳さまとのマージュ。
 それはこの上ないほど幸せな時間だった。
 瞳子は更に祐巳さまのパルに成りたいと思うように成っていった。

 だが、やはり祐巳さまのパルは祥子さまだった。

 それでもそれから時々、祐巳さまが瞳子をマージュに誘うことがあった。それがしばらく続いた頃、瞳子は祐巳さまから驚きの言葉を聞いた。

 翠玉のリ・マージョン。

 テンプスパティウムに捧げられる最高の祈り。

 これを成功させた者は、テンプスパティウムの側に仕えるのだという。成功しても失敗しても戻ることは無い。リ・マージョン。
 祐巳さまは薔薇の船の更に上の空を見上げそう呟いた。
 その話に瞳子は驚いた。
 祐巳さまはきっと祥子さまと泉に行くと思っていたからだ。
 それが翠玉のリ・マージョンを望んでいるなど誰が気がつけよう。
 だから、その場では頷くしかなかった。

 しかし、祐巳さまは本気だった。

 ある日、同僚の乃梨子さんとテラスでティータイムを楽しんでいるところに祐巳さまが現れた。
 祐巳さまは言った。
 ――私のパルに成ってと。
 その言葉に、周囲にいた人々がざわめいた。
 そして、差し出された手。
 瞳子は迷った。
 その手をとるかどうか。
 とれば、きっと非難が起きるだろう。
 とらなければ、もう二度目は無いだろう。
 瞳子は迷った。
 迷いに迷い。
 そして……。

 瞳子は祐巳のパルに成った。

 だから、言える。
 「今、祥子さまは祐巳さまに求婚したいと言われましたね」
 「えぇ、言ったわ」
 「私は祐巳さまと飛びたいと思いました」
 「そう、それが貴女の答えね」
 「はい」
 真っ直ぐに祥子さまを見つめ返す。
 「瞳子」
 そこに祐巳さまがコールの仲間達を連れやってくる。
 「ごきげんよう、お姉さま」
 「祐巳、行くのね」
 「はい、それが私の本当の望みでしたから」
 優しく祐巳さまに触れる祥子さま。きっと、祐巳さまは祥子さまの求婚を受けても幸せに成られただろう。
 そして、神官たち巫女たちがやってくる。

 奏でられる音楽。

 神官の声が上がり。

 巫女達が祈りを唱える。

 祈りを捧げるのは瞳子と祐巳さまなのだ。

 瞳子と祐巳さまは口付けを交わし、シムーンにキスをする。

 「行くよ、瞳子」
 「はい、お姉さま」
 ヘリカル・モートリスが回り。
 シムーンが青い空に飛翔する。
 それに続いて何機ものシムーンが続く。その先頭のシムーンには祥子さまが見える。
 祐巳さまが操るシムーンの後方に何機ものシムーンが光の光跡を残していく。
 シムーンで行うテンプスパティウムへの祈りはこの光跡が生み出す。リ・マージョンで行われるのだ。
 「お姉さま!!」
 「あぁ、アサナギのリ・マージョン」
 「アサナギのリ・マージョン」
 「そう、旅立つ仲間を送るためのリ・マージョン」
 「旅立つ仲間……」
 「瞳子は寂しい?」
 「えっ?」
 僅かな沈黙。
 「いいえ、お姉さまと一緒ならどの空でも飛べます!!」
 瞳子はハッキリと応えた。
 「よし!!行くよ!!」
 「はい、お姉さま!!」

 青い空に光の軌跡が描かれる。

 翠玉のリ・マージョン。


 光が空を包んだ。








 「あっ」
 「あっ」
 そして、出会う。
 「ごきげんよう、私、松平瞳子と言います」
 「ごきげんよう、福沢祐巳です」
 当然のように。
 偶然ではなく。
 必然として。







 あははは、やっちゃった。
 知らない人が多いかなとも思うけど、シムーンという話のクロスです。
 どうやって絡ませようか考えてはいたのですが、シムーンのラストを使って設定を少し混ぜ込んで、名前はカナではなく漢字でしてみました。
 そして、そのまま時代をシムーン前の時代の感じでしてあります。
 言い訳は以上です。
                                   『クゥ〜』


 用語解説

 テンプスパティウム……この世界のマリアさま?泉の意味があります。
 テンプスパティウム宮……泉のある神殿。
 泉……女しか生まれないこの世界で、成人後に男女を決定する神聖な場所。

 シムーン……複座式の飛行艇。ヘリカル・モートリスで動いている。

 ヘリカル・モートリス……二つの車輪が上下に重なる形をした遺跡から見つかる機械。
 パル……シムーンに乗るペアのこと。
 コール……シムーンの部隊のこと。
 レギーナ……コールの隊長。
 シヴュラ……正確には、シムーン・シヴュラ。シムーンに乗ってテンプスパティウムに祈りを捧げる巫女のこと。
 アウリーガ……シムーンのメインパイロット。
 サジッタ……シムーンのナビゲータ。

 リ・マージョン……シムーンで行う儀式。光の航跡で紋章を描きことで様々な現象を引き起こす。翠玉のリ・マージョンやアサナギのリ・マージョンなど。

 マージュ……無重力の空間で行うリ・マージョンの練習。


 基本用語はこんなところでしょうか?あとは、混ぜてあります(笑


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