私は賢者蓉子。三賢者(通称Magi)のうちの一人、赤の賢者(マギ・キネンシス)である……。
最悪だ。「私」がはっちゃけている。私の体で、私の顔で、私の声で、「私」がハジケている。正確には「私」の姿をした聖だが。
前回、江利子の魔術のせいで私と聖の体が入れ替わって以来(No.172)聖のハジケっぷりが日増しに酷くなっていく。今までは、私というリミッターがあったが、今では、私が手をだせない事をいいことに完全暴走体と化している。私が一緒にいるときはまだましだが、目を離してしまうと、ナンパしたり、セクハラしたりしている。おかげで前の村では、「オヤジな赤の賢者」という印象が根づいてしまった。帰る時はぜっっったいに、違うルートで帰らねば!何があろうとも!!
「ねえ、蓉子。解説とかしてて良いの?何だかんだ言ってるうちに聖を見失っているわよ?」
はっ……!!しまったぁぁ!!
「ねえ、そこの貴方。」
「はい?私ですか?」
少女が振り返った先には、理知的な瞳を持った、麗しき女性が立っていた。
「そうよ。そこの綺麗で可愛いお嬢さん。」
優雅な物腰で少女の頬に手を触れる麗しき女性。ただでさえ、美しい女性に迫られて緊張しているのに、綺麗と言われて少女の顔は真っ赤になる。
「そ、そんな、わ、私なんか……。あ、貴方様のほうがよっぽど綺麗ですっ!」
「そう、ありがとう。」
そう言って少女の頭を撫でる女性。「でもね」と言いながら目線を少女の高さに合わせる。
「そんな綺麗で可愛い貴方が、私は好きよ。」
と言い、少女の頬に軽く口づけをする。この時点で少女は陥落している。
「じゃあ、これから私に付き合ってくれるわね?」
「は、はい……。お供させて頂きます……。」
(よっしゃー!!一人ゲーット!いやぁ蓉子の力って凄いわ、マジで。)
内心の高ぶりを少女に悟られぬよう、態度を保ちつつ、今まさに、宿屋につれこもうと……
「…聖、何をやってるのかしら?」
だが、そのもくろみは数歩手前で崩れさった。
「げ!よ、蓉子……。」
「貴方、人の体で何をしようとしてるのかしら?」
「……え〜っと、ナニ?」
ぴしっ、と場がヒビ割れする。
「江利子、こいつを捕縛して。そして貴方の魔術で精神にダメージを与えるのよ。出来るでしょ?」
「まあ、出来るわね。」
満面の笑顔で江利子が近づていく。
「く、来るなぁ〜!!」
元に戻るまで、後10日……。