【1998】 奇跡の目覚めたもう、終わりにしよう  (杏鴉 2006-11-19 08:50:57)


これは『ひぐらしのなく頃に・解 罪滅し編』とのクロスオーバーになります。
とりあえず惨劇は起こりませんが、元ネタを知らないとわけが分からない不親切な内容です。すいません……。





それはいつものように薔薇の館で仕事をこなし、一息いれようとお茶を飲んでいる時に突然訪れた。


福沢祐巳はこの世界とは違う、けれどこの世界ととてもよく似た世界の記憶を犹廚そ个靴伸瓩里澄

祐巳の震える指からティーカップがするりと抜け落ちた。
右手から離れたカップは、左手に持ったソーサーに一度バウンドしてから床に転がった。
幸い中身はほとんど飲み干していたので制服が汚れるような事にはならなかったのだが、こんな不作法を厳格な祥子が赦すはずがない。



「祐巳!あなた何をし……」



しかし祥子の叱責は中途半端なところで消える。祐巳が真っ青な顔でガタガタと震えているのに気付いたからだ。
尋常ではないその様子に祥子だけではなく、他の面々も驚いて祐巳を見つめる。
ただその中で志摩子だけは驚きもせず、どこか興味深げにじっと祐巳のことを見ている。



「……祐巳。どうしたの?身体の具合でも悪いの?」



先ほどとは違い祥子が優しく祐巳に問いかけ、その肩にそっと触れた瞬間――



「うわあぁあぁぁぁあぁあぁっ!!」



祐巳は弾かれたように叫び声を上げ、そしてそのまま頭を抱えてうつむいてしまう。
しん、と静まりかえった薔薇の館で、祐巳の慟哭にも似た嗚咽だけが漏れ聞こえている。



「――ゆ、祐巳さん!どうしたの!?」



凍りついた時をいち早く動かしたのは由乃だった。
由乃は椅子が後ろに倒れるんじゃないかというぐらいの勢いで立ち上がり、祐巳のもとへと駆け寄った。

そんな由乃の行動で、はっと我に返った令も慌てて祐巳に駆け寄る。



「……祐巳ちゃん。いったいどうしたっていうの?」



だが祐巳は二人の問いかけには答えず、頭を抱えたまま嘆くばかりだ。
由乃は途方に暮れたように令を見上げ、令はそんな由乃の視線を受けつつ祐巳の隣に座る祥子の様子をちらりと窺う。
祥子は手を中途半端な位置に浮かせたまま固まっていた。
無理もない、令はそう思った。
なにしろ自分が触れた瞬間にこんな事になってしまったのだ。
自分の所為、とまでは考えなくとも拒絶されたような気分でいっぱいなのだろう。


祥子と黄薔薇姉妹がそれぞれ苦悩している今、乃梨子もまた苦悩していた。
二人につられて勢いよく席を立ったものの、隣にいる志摩子は微動だにしない。
姉である志摩子を差し置いて祐巳のもとへ行くわけにもいかず、かといってまた座り直すのもおかしい気がして身動きがとれなくなってしまったのだ。
オロオロしながら視線を行ったり来たりさせて祐巳と志摩子を交互に見るが、祐巳は相変らずだし、志摩子もまた、変わらず祐巳を見つめているだけだった。



全員が……いや、志摩子以外の全員が、どうしたらいいのか分からず黙り込んでいると、事の発端である祐巳が、しゃくりあげながらも何とか言葉を紡いだ。



「……っく……わ、私は…お姉さまの…うぅ……お姉さまのロザリオを……返してしまったっ!!うわあぁああぁっ!」



「「「――っ!?ええぇぇえぇえぇぇっ!?」」」



由乃、令、乃梨子の三人は驚愕の声を上げた。祥子に至っては驚きすぎて声も出ていない。
そんな中、志摩子だけが落ち着いているように見えた。
だが本当に志摩子を知る人物……例えば聖ならば、あるいは通常時の乃梨子であれば、きっと気付いたであろう。彼女が今、激しく感情を揺さ振られている事に。



それは、例えるなら砂漠で落としたビーズを見つけた時のような感情。


《見つけた!見つけた!アレは確かに私が落としたビーズだ!……でも、とても信じられない……こんな広大な砂漠でたった一粒のビーズを見つけられるなんて……。もっと近づいて手に取ってみないと本当にそうなのか分からない……》


そう、それは望むモノが手に入るかもしれない犂望瓩汎世蕕譴覆った時、絶望しないための犁刃猫



志摩子が希望と疑惑の狭間で揺れ動いている頃、由乃が祥子に食ってかかっていた。



「どういう事ですかっ!?祥子さま!!いったい祐巳さんに何をしたんですっ!!」



先ほどからずっと固まっていた祥子だったが、由乃のこの発言によって復活した。ヒステリーと共に。



「ちょっと由乃ちゃん!どういう意味なのそれは!?私が祐巳に何かするわけないでしょう!?」



「ちょっ、ちょっと二人共!落ち着いてよ!」



今にも掴み合いになりかねない二人を令が宥めようとするが、一度頭に血が上ったこの二人をクールダウンさせる事は容易ではない。令は少し強引かな、と思いながらもビスケット扉の向こう側へ二人を引きずっていった。この状態の二人を祐巳の傍におくのは良くないという判断からだった。



静かになった室内(正確には扉の向こうから怒声が小さく聞こえているのだが)には白薔薇姉妹と祐巳が残された。



乃梨子はますますどうしていいか分からず、三人を見送った後すぐに、助けを求めるような眼差しで隣の志摩子を見た。
が、そこに志摩子はいなかった。
驚いて視線をさ迷わすと、いつの間にか志摩子は祐巳の隣に立っていた。
どうやって隣の自分に気付かれずに移動したんだろう、と乃梨子は訝しく思ったが志摩子のいつになく真剣な表情に、全てをまかそうと考えた。



志摩子は祐巳の肩にそっと手を置いた。祐巳は瞬間、びくりと身体を強張らせたが祥子の時のように叫びだしたりはしなかった。志摩子は手を置いたまま、静かに祐巳に問いかける。



「ねぇ、祐巳さん。あなたの首にはちゃんとロザリオがかかっているわ。どうして祥子さまにロザリオを返してしまった、なんて思ったのかしら?」



志摩子のその言葉に乃梨子がはっとなって祐巳の胸元を見る。乃梨子の位置からではロザリオの有無は分からないが、志摩子にはしっかりとロザリオのチェーンが確認できた。



「自分でも…よく分からないの……。こことは違う…でもこことよく似た別の世界で……私はお姉さまにロザリオを返してしまった……それから……それからお姉さまを……うぅ…私は何てことを……」



「私には、これが奇跡だという事が分かる。祐巳さん。あなたの罪は誰にも赦してもらえないでしょう。けれど、私なら赦してあげる事ができる。祐巳さん……あなたの罪を赦しましょう」



祐巳は涙でグシャグシャになった顔で志摩子を見上げている。
テーブルを挟んだ向かいでこの様子を見ていた乃梨子は、まるで罪を犯した罪人をマリア様が救っているようだ、といささか祐巳に対して失礼な事を考えていた。



志摩子がハンカチで祐巳の涙を拭いてやっていると、部屋の外に出ていた三人が帰ってきた。
祥子と由乃は冷静、とまではいかないが互いの話に聞く耳を持つくらいには落ち着いていた。令の尋常でない疲れた様子から、彼女がいかに苦労したかが窺える。



「だから、さっきから言っているでしょう?私は祐巳にロザリオを返された覚えなどないって」



「ですが祥子さま。先ほど祐巳さんがハッキリと言ったじゃないですか、ロザリオを返したって」



声は荒げていないものの、やはりまだ揉めている二人に祐巳が歩み寄る。

先に気付いた由乃が声をかける前に、祐巳は祥子を抱きしめた。



「――っ!?ゆ、祐巳!?ど、ど、どうしたというの!?」



突然の事に祥子はめずらしくどもりながら、耳まで真っ赤になった。



「ごめんなさい、お姉さま。どうか私を赦して下さい……」



「わ、私、祐巳に謝ってもらうような事された覚えはなくてよ?」



「覚えてなくてもいいんです。分からなくてもいいですから……どうかあの日の私を赦して下さい」



普段の祥子なら猜からなくてもいい瓩覆鵑道を言われたら怒り出すだろう。
だが、唯々ひたむきに自分に赦しを乞う祐巳の姿を見ていると、とてもそんな気にはなれなかった。



「――馬鹿ね。私があなたを赦さない、なんて事あるわけないでしょう?」



祥子が優しく祐巳の背中に手をまわした。祐巳の方が抱きしめていたはずだが身長差があるので、こうなると祥子の方から抱きしめているようにしか見えない。



「……あぁ…もう……心配して損した」



由乃が自分の席に戻り、冷めきった紅茶をすすりながらぶつぶつと文句を言っている。顔が少々赤いのは怒りの所為ではないだろう。


令はキョトンとしながらも、上手く収まってよかった、と言わんばかりの表情で由乃の隣の席についた。


薔薇の館にいつもの穏やかな時間が戻ってきた。みんなそう思ったに違いない。
だが乃梨子は気付いていた。志摩子の表情が険しい事に。


これ以上いったい何が起こるというのか……?


乃梨子のそんな疑問は次の瞬間、あっさりと解けた。



――バタンっ!!



不意にビスケット扉が勢いよく開かれる。

薔薇の館の住人は全員ここにいる。住人でもないのにノックもせず、あまつさえこんな不作法な開け方をするなんていったい誰だ!?

乃梨子はそう思いながらも実は誰であるか、確かめる前から薄々勘づいていた。

この薔薇の館はかなり老朽化が進んでいて、歩くと結構な音がする。だが扉が開く前、足音などいっさい聞こえなかった。
乃梨子が知るかぎり、足音を立てずにここまで来られる人物はたった一人しかいない……。



「は〜い、皆さま〜。さっさと席について下さいませ〜」



「……瞳子。あんた……その手に持ってるのって……」



乃梨子にとって見慣れた友人は、見慣れぬ表情で、見慣れぬモノを握りしめてやって来た。



――それは、鉈。



「やっぱり避けられないのかしらね……?まぁいいわ。おいでドリ……鉈女。遊んであげる」



「し、志摩子さん!?……言い直したところも凄く気になるんだけど……それって瞳子に言ってるんだよね?……どうして瞳子じゃなくて猜畢瓩諒を向いてるの……?」



「あら、ごめんなさい。ちょっとあの猜畢瓩慮こう側に、ポップコーン片手に楽しそうにこちらを見ている人達がいるような気がしたものだから、つい」



「??????」





   ――次回予告――

薔薇の館の屋根で繰りひろげられる祐巳と瞳子の死闘。
祐巳は瞳子を説得し、姉妹になる事ができるのか!?それとも瞳子が勝ち、全ては終わってしまうのか!?


次回、マリア様がみてる 罪滅し編「リセット」


――あなたは、信じられますか?





注・ウソです。続きません。





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