もちもちぽんぽんしりーず。
【No:1878】ー【No:1868】ー【No:1875】ー【No:1883】ー【No:1892】ー【No:1901】ー【No:1915】ー【No:1930】ーこれ。
先に、諸事情により『黄薔薇革命』編を書き直すことにしました。
申し訳ありません。平伏。
「受け取ってくれるわね。」
凛とした蓉子さまの眼差し。
「はい。」
はっきりとした祐巳の声。
「羨ましい。」
まだ形を持たない誰かの思い。
―――ちゃちゃちゃーちゃん、ちゃちゃちゃーちゃん―――
「はい。」
榎本桂が電話に出ると、知った声が耳に届いた。
「あ、桂さん?」
「どうしたの?祐巳さん。」
「うん、報告したいことがあるんだけど、・・・今大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。」
今日は、文化祭の振り替え休日。
さっき時計を見たとき、一時半くらいだったから今は40分くらい。
「で、用件は何?」
「ああ、あのね。」
祐巳さんの声はいつもより半音高い気がする。
何か良いことでもあったのだろうか。
「私ね、蓉子さまの妹になれました。」
「へー、良かったじゃない。」
目の前にいれば、トレードマークのツインテールをぴょこぴょこさせていることだろう。
「駄目かもって諦めていたから、すっごい嬉しい。」
その言葉に劇の内容を思い出した。
「ああ、セリフ間違えたもんね。私、もし妹になれなかったらなんて慰めようか考えちゃったわよ。」
「あはは、ご心配をおかけしました。
手伝ってくれて、本当に感謝しています。どうもありがとうございました。」
「いえいえ、どういたしまして。」
こーユー時、目の前に本人がいなくても頭を下げてしまうのは何でだろう?
「蔦子さんにはもう連絡したの?」
「ううん、さっき電話したら誰も出なかったから。」
「蔦子さんなら出かけるって言ってたわよ。」
少し沈黙が流れた。
どうしたら良いか考えてるようだ。
「・・・何時くらいに帰ってくるかなぁ?」
「さぁ?でも、夕方には帰ってくるんじゃない?」
「うん、じゃあ夕方にかけ直してみることにするよ。」
「その方が良いわね。」
「改めて、今回は本当にありがとう。じゃあ、また明日。」
「また明日ね。」
―――がちゃん―――
受話器を置くと、しばらく電話を眺めた。
「はー。」
ため息をひとつ。
元々居たリビングに向かうと、さっきと同じ姿勢で雑誌を読んでいるお客さんが一人。
「祐巳さんが無事蓉子さまのスールになれたって、喜んで報告してきたわ。」
「・・・・・・へー。」
テーブルに置かれた自分のカップの前に座る。
もう冷めかけた紅茶を啜ると、彼女は読んでいた雑誌を自分の横に置いた。
その雑誌は、とても彼女らしいと思わせる。
空いた手で自分に充てられたカップを持つと軽く掲げた。
「祐巳さんにスールが出来たことを祝って。」
ちらりと私を見た。
私も同じようにカップを掲げ、先に出たのと同じ言葉を繰り返す。
「祐巳さんにスールが出来たことを祝って。」
互いのカップを当てると
―――カチン―――
という、陶器独特の音がした。
とりあえず一口含む。
カップをテーブルに置くと、置いた衝撃で水面が揺れた。
同じようにして彼女のカップの中身も揺れて、黒い水面が見える。
「はー。」
細く息を吐きながら、天井を眺める彼女を私は見ていた。
時計のカチカチという音だけが響き渡る。
1分ほどそうしていただろうか。
「・・・で、用件は何かしら?」
武嶋蔦子さんは口を開いた。
明けて次の日
祐巳は、パタパタとスカートが翻るか翻らないかのぎりぎりの速さで学校内の進んでいた。
登校時間まではまだだいぶ早い。
しかし、今日に限っては遅刻するほうがマシなんじゃないかと思う。
なのに習慣とは恐ろしいもので、マリア像の前ではきちんとお祈りをする。
「ごきげんよう。」
「え?」
さて、行こうかというタイミングで声をかけられ、振り向くとカメラが居た。
「おはよ。」
もとい、蔦子さんが居た。
「ごきげんよう、なんで?」
問いに苦笑された。
「なんで?とは、酷いわね。せっかく祐巳さんの紅薔薇の蕾の妹としての初登校シーンを写真に収めようと思って待ってたのに。」
言い終わる前にカメラの構えられて一枚。
そういえば昨日、今日の予定を聞かれたけど、まさか待ち構えていようとは。
「時間は良いの?もう40分を過ぎたわよ。」
腕時計を見ながらの言葉に現状を思い出す。
「うわっ。」
『火曜日には文化祭の後片付けをするの。8時集合なんだけど、祐巳ちゃんは15分前には来てるようにしてね。』
蓉子さまの言葉が頭をよぎる。
「急がなきゃ。」
「ちょっと待って。」
くるりと回って薔薇の館に向かう私を蔦子さんは呼び止めた。
「なに?」
急いでいるので首だけで。
マリア像のまん前なのに。
申し訳ありません、マリア様。
心の中で謝っておく。
「急いでいるのは解るけど、ロザリオはそんなこれ見よがしにつけるものじゃないわよ。」
そう言って、自分の胸元を指差す蔦子さん。
「え?」
慌てて胸元を見るとゆれている金属製の十字架。
「だって、慣れてないんだもん。」
強引にセーラー服の中に押し込む。
「OK。じゃあ、頑張ってね。」
ひらひらと手を振られた。
「うん、また後で。」
また、出来る限りの速さの小走りで薔薇の館を目指す。
後ろからカシャカシャというシャッター音が追いかけてきた。
「ごきげんよう。」
1階の扉の開くと驚いた顔の志摩子さんが居た。
「・・・びっくりしたわ。ごきげんよう。」
「志摩子さんだけ?」
息を整えながら問いかけた。
なるべく優雅に、そして出来るだけ早くはとても疲れる。
「ええ、そうよ。私も今さっき来たところだから。」
そう答えながらも、見ればすでに後片付けを始めていた。
「私も手伝うよ。」
「その前に、一度上に鞄を置いてきたほうが良いわよ。
ここ意外と埃っぽいから。」
近くの棚に置こうとしていた鞄を止めた。
「そうするね、ありがとう。」
急いで二階に上がると、なるべく扉に近い席に鞄を置いた。
そして一階に戻って作業を始めたのだけど、実際そんなに量があるわけではなさそうだ。
2人でも8時前には、いやもっと前に終わりそうな感じ。
私がダンボールに使った小物を入れていると、
「祐巳さんって、蓉子さまの妹になったのよね?」
まるで確認するように志摩子さんは尋ねてきた。
「うん。」
首にかかる先週までは無かった重さ。
それにしても
「志摩子さん、誰から聞いたの?」
少なくとも、私は言った覚えは無い。
「誰かから聞いたわけじゃないわ。ただ、なったんだろうなと思っただけよ。」
「これからいろいろ教えてね。」
今までは、どこかお客さんのような扱いだったけど、これからは正式な一員。
いろいろな事務、各クラブ、各委員会、先生方との打ち合わせ、他にも細々としたこと。
覚えることは山積みだ。
「・・・それは、蓉子さまや由乃さんに聞いたほうが良いわよ。」
「なんで?」
別に色によって仕事が違うわけでもなかったはず。
「・・・だって、私はお手伝いでたまに来るだけだから。」
手を止めて志摩子さんを見ると、作業を続けたままだった。
「私は、聖さまの妹ではないし、文化祭が終われば仕事も減るでしょうし、祐巳さんが入ったから当分来る必要は無いと思うわ。」
淡々と。
なんて返せばいいか分からず。
「・・・そう。」
「・・・でも、もし祐巳さんが良かったらこれからも友達でいてくれないかしら?」
「もちろんだよ。」
どこか弱々しい問いに力強く返した。
この時、はじめて志摩子さんは手を止めた。
「ありがとう、祐巳さん。」
そう言って笑いかけてくれた志摩子さんは、何故か儚く感じられた。
「・・・しまっ」
「ごきげんよう。」
扉を開けて入ってきたのは、蓉子さま、江利子さま、聖さまの蕾さま方。
「ごきげんよう。」
私と志摩子さんも挨拶を返す。
「もう後片付け始めてるのね。」
「あ、はい、私が来たときには志摩子さんが始めていたので。」
蓉子さまの事務的な問いに答えると
「あら、やっぱり妹にするとどこか違うわね。」
江利子さまが茶化すような口ぶりで。
ここに来るまでに蓉子さまから聞いたのだろうか?
聖さままでも私を見ていた。
「うるさいわよ。」
蓉子さまは素っ気ない感じで言うと、志摩子さんの様子を見に行く。
「照れちゃって。」
ねぇ?と聖さまに話しかけるその向こうで
「もうこっちは終わりそう?」
「ええ、もう終わります。」
「そう、じゃ後は祐巳ちゃんのほうだけね。」
「わ?」
江利子さまから、「どう?妹になった気分は?」なんて聞かれていたものだから、慌てて自分の担当を見ると、ダンボールに鞄を立て掛けた聖さまが残りをやっていた。
「申し訳ありません、聖さま、私やります。」
「良いよ、もうこれで終わるし。」
最後のひとつを入れるとふたを閉めた。
「申し訳ありません。」
「いいって。」
本来なら、私がするべき仕事のはず。
ちらりと蓉子さまを見ると、蓉子さまもこっちを見ていて目が合うと、ふっと逸らされた。
(うー。)
「ごきげんよう。」
今度は薔薇さま方。
先程と同じように挨拶。
「もう後片付けは終わってしまったのね。」
「はい、今さっき終わりました。」
白薔薇さまの問いに聖さまが答えた。
「ご苦労様。2階に上がって反省会にしましょう。」
紅薔薇さまが軽く笑って労をねぎらうと、みんな2階に移動し始める。
私は、それをなんとなく目で追っていた。
「はーー。」
ため息が出る。
妹になって早速、志摩子さんとの違いを見せつけられてしまった感じ。
しかも、聖さまの手まで煩わせてしまった。
「祐巳ちゃん、いくわよ。」
落ち込んでいると、いつの間にか部屋には私と蓉子さまの2人。
「あ、はい。」
返事をして、出口に向かうと
「蓉子さま?」
蓉子さまは出口の前でじっと私を見ていた。
「妹にするにあたって言っておかないとならないことがあるのだけど。」
その言葉に、びくっと体が震えるのを感じる。
「貴女は紅薔薇の蕾の妹なのよ。その自覚を常に持つようにしなさい。」
「はい。」
「それと、一々不安になって私を見ないようにね。」
「は、はい。」
言い終わると、蓉子さまは右手を動かした。
叩かれるという考えが浮かんで身を縮めた。
―――ぽん―――
頭の上に感じる感触。
「え?」
「今日はよく言った通りに来たわね。」
くしゃくしゃと頭が撫でられた。
「・・・。」
くしゃくしゃ
「それと祐巳ちゃん。」
手が止まり、顔を近づけてくる。
目と目が合ったまま、前髪同士がぶつかりそうなほどの近さ。
「お姉さまって呼んでくれないの?」
「・・・蓉子さまだって。」
さっきから祐巳ちゃんって呼んでいる。
「祐巳ちゃんが呼んでくれたら呼んであげるわ。」
手を離して、くるりと回ると扉を押して出て行く。
「ずるいですよ、蓉子さま。」
慌てて私もついていく。
「ほら急がないと、みんなもう上に行ってるわよ。」
こんなやり取りが出来ることがとても幸せ。
2階の扉を開くと、
「あら、もう終わったの?」
「もう少しゆっくりしていてもよかったのよ?」
紅薔薇さまと白薔薇さまの言葉に迎えられた。
唯一止める力を持つ黄薔薇さまも笑っているだけで何も言わない。
「妹としての心構えを教えていただけです。
期待していることは何もありませんよ。」
「あらそう。」
紅薔薇さまは素直に引き下がった。・・・ように見えた。
「じゃあ、祐巳ちゃんに聞くわ。」
「え!?」
突然の言葉に、志摩子さんの手伝いに行こうとしていた私は紅薔薇さまを見た。
「祐巳ちゃんは蓉子ちゃんと何をしてたのかな?」
白薔薇さまは笑いながら、この場合、面白そうという笑い方だけど。
「わ、私、志摩子さん手伝わないと。」
そそくさと逃げた。
「ざーんねーん。」
元々、本気ではなかったご様子で、そして蓉子さまをからかうのが楽しいご様子で。
「好きよ、祐巳。とか?」
「でも、生真面目な蓉子よ。手を握るのがやっとよ。」
「案外、祐巳ちゃんのほうが積極的だったりして。」
薔薇さま方が好き勝手言うのを、蓉子さまはじっと耐えていた。
「ごめんね。私もやらないといけないのに。」
志摩子さんに小さい声で謝ると
「良いのよ、蓉子さま楽しそうだし。」
「楽しそう?」
楽しそうというか、不愉快そうの方がぴったりだと思うんだけど。
志摩子さんの入れた紅茶をお盆に載せていく。
「あんなに感情を出しているのは珍しいのよ。」
「そうなんだ。」
2人でお盆を一つずつ。
「あれ、そういえば由乃さんは?」
お盆の上のカップを数えていて気付いた。
遅い!って言わないでほしい。
それだけ、目の前のことに一生懸命だったんだから。
「ああ、由乃なら熱出してお休みだって。」
江利子さまによると、お祭りとかイベントの後は必ず熱を出すらしい。
記憶の中の由乃さんの思い起こして納得する。
「カップは行き渡ったかしら。」
紅薔薇さまが全員を見渡した。
「では、文化祭の成功を祝って。」
一同がカップを軽く掲げて口に含む。
「そして、蓉子ちゃんが無事祐巳ちゃんを落としたことを祝って。」
「「げほっ。」」
2人咳き込んだ。
「まさか祐巳さんから惚気られようとは。」
講堂の裏でお昼のご飯の時間。
今日は天気も良いし風も無いから、陽だまりにいると気持ちがいい。
もう冬の雰囲気を感じるから、ここで食べるのもあとわずか。
銀杏を拾う志摩子さんが見れるのもあとわずか。
落ちている数も少なくて、ちょこちょこと割り箸で落ち葉をひっくり返している。
「惚気じゃ無いもん。」
蔦子さんがため息混じりで肩をすくめたのに対して、反論を試みる。
「あら、知らなかった?本人たちはみんなそう言うのよ。」
出し巻き卵を食べながらの一刀に何も言えず、残ったご飯を口に運んだ。
ふと、桂さんが今日あんまり会話に参加していないことに気付く。
桂さんは、蔦子さんを挟んで反対側。
「桂さん?」
蔦子さん越しの桂さんは、ぼーっと正面を見ていて、お弁当にもほとんど箸をつけていないようだった。
「桂さん?」
もう一度呼んだけど、聞こえていないようだ。
「桂さん。」
「な、何?」
少し強く呼んで、やっと気付いてくれた。
「何?じゃなくて・・・どうかしたの?」
窺うように桂さんを見ると、変な顔をした。
「あーーーー。」
少し考えるような仕草をすると、意を決したかのように話した。
「お姉さまにロザリオ返しちゃった。」
小首を傾げて言う桂さんって可愛いな。
じゃなくて、
「・・・えーと、誰が?」
蔦子さんが変な顔をした。
うん、変なこと言ったのは分かってるんだけど、確認のために。
「・・・私がお姉さまに。」
「嘘でしょ?」
少し声が大きくなって、志摩子さんがこっちを向いた。
「本当よ。」
箸に乗っていたご飯が漫画みたいにぽろっと落ちた。
この章は、あんまり原作に拘らないことにしました。由乃の他に祐巳の親友である『榎本桂』(この苗字定着しないかな。)に焦点を当てていきたいなと思います。(オキ)
原作に桂の出番がほとんど無いので、馴染みが無いと思いますが愛しんであげて下さい。因みに桂の電話呼び出し音は『クラッシュのロンドンコーリング』です。意味はありません。(ハル)
*最初にも書きましたが、『黄薔薇革命』編を書き直すことにしました。
ハルに「一度最後まで考えてみな。」と言われて、考えたら6話でまとまらない上に内容がうまくまとまらない、止めに「面白くない。」と言われたので、アマチュアであるということに甘えさせて頂くことにしました。二度と無い様に致します。これからもよろしくお願いします(オキ&ハル)*