「ねぇ由乃さん」
「なに? 祐巳さん」
紅薔薇のつぼみ福沢祐巳が、黄薔薇のつぼみ島津由乃に話しかけた。
「志摩子さんが、変なの」
「いつものことじゃない」
「………」
しまった、相談相手を間違えた。
祐巳の表情が、雄弁にそう語っていた。
「そもそも、まともだったことがあったかな?」
(うわー、素でヒデーこと言ってるよ)
こりゃ話にならない。
祐巳は、このまま由乃に相談し続けることを諦めた。
「ねぇ志摩子さん」
「なに? 由乃さん」
黄薔薇のつぼみ島津由乃が、白薔薇さま藤堂志摩子に話しかけた。
「祐巳さんが、変なの」
「何を今さら」
「………」
しまった、相談相手を間違えた。
由乃の表情が、雄弁にそう語っていた。
「そもそも、まともだったことがあったかしら?」
(うわー、素でムゲーこと言ってるよ)
こりゃ話にならない。
由乃は、このまま志摩子に相談し続けることを諦めた。
「ねぇ祐巳さん」
「なに? 志摩子さん」
白薔薇さま藤堂志摩子が、紅薔薇のつぼみ福沢祐巳に話しかけた。
「由乃さんが、変なの」
「当たり前じゃないの」
「………」
しまった、相談相手を間違えた。
志摩子の表情が、雄弁にそう語っていた。
「そもそも、まともだったことがあったっけ?」
(あらあら、素でエゲツナイこと言ってるわ)
こりゃ話にならない。
志摩子は、このまま祐巳に相談し続けることを諦めた。
「ねぇ令」
「なに? 祥子」
紅薔薇さま小笠原祥子が、黄薔薇さま支倉令に話しかけた。
「最近、二年生たちが変じゃない?」
「うん、由乃以外はね」
「………」
一瞬、祥子の頬がピクリと痙攣する。
祥子の表情が、まるで般若の面のようになっていた。
「そもそも、由乃以外の二人が、まともだったことがあったの?」
(令……、どうやらあなたには、この世の未練は無さそうね)
祥子は、令の首を後ろから掴むと、そのまま階段まで引きずり、躊躇うことなく蹴り飛ばした。
「黄薔薇さま」
「なに? 乃梨子ちゃん」
白薔薇のつぼみ二条乃梨子が、黄薔薇さま支倉令に話しかけた。
「最近、二年生の方々が変なのですが」
「うん、由乃以外はね」
「………」
一瞬、乃梨子の頬がピクリと痙攣する。
乃梨子の表情が、まるで仁王像のようになっていた。
「そもそも、由乃以外の二人が、まともだったことがあったの?」
(令さま……、どうやらあなたには、現世に生きる資格は無いようです)
乃梨子は、令の髪を後ろから掴むと、そのまま窓枠まで引きずり、躊躇うことなく突き落とした。
「あれ? 令ちゃんは?」
薔薇の館に来るなり由乃は、室内のみんなに訊ねた。
「令なら、階段から落ちたって話よ」
「令さまなら、窓から落ちたって話です」
「頭を強く打ったって聞いたよ」
「後頭部を強打したって聞いたわ」
「つまり、頭が変になって病院に行った、ってワケね」
変な人だらけの薔薇の館。
一番酷いことを言ったのは、やっぱり由乃だった。