【203】 こりこりした食感の祐巳さんの記事が  (いぬいぬ 2005-07-12 01:36:49)


冬の気配が次第に強まる朝。福沢祐巳は今日ものんきにリリアンへと登校してきた。
この後巻き起こる騒動なぞ、まるで予想もせずに。

そこへ、慌しく駆け寄る人影が一つ。新聞部の山口真美嬢であった。
「祐巳さん、ごめん!!」
「へっ?何が?」
いきなり謝られても、祐巳には何のことやら、さっぱりだった。
「・・・その様子じゃ、まだ読んでなかったみたいね」
「??だから何が?」
頭の上に盛大に?マークを浮かべている祐巳に、真美はそっと一枚の紙を差し出す。
そこにはこんなショッキングな見出しが踊っていた。

【紅薔薇の蕾は口に含むとこりこりした食感?】

「・・・・・・・・・な、なんじゃこりゃ────!!!」
「ゆ、祐巳さん落ち着いて」
「ど・ど・ど・ど・ど」
「・・・久しぶりに聞いたわね、それ。どういうことか聞きたいのね?」
無言でぶんぶん首を縦にふる祐巳
「お姉さまがね、卒業記念に何か飛びっきりのスクープが欲しかったらしいんだけど、結局何も無くて、瞳子ちゃんのインタビューに脚色して、とりあえずインパクトだけは豪快にくる記事に仕立て上げたのよ」
「えっ?瞳子ちゃん?なんで瞳子ちゃんがそんな危ない話題を・・・」
「祐巳さん、この間、調理実習でババロア作ったわよね?」
「うん。・・・でもそれが?」
「でも水分の量を間違えて、なんだかこりこりした食感の不思議なババロアになってしまったでしょう?」
「あっ!そう言えば・・・あれ、瞳子ちゃんにもあげたっけ・・・」
「そのインタビュー記事から、意図的に"ババロア"って単語を抜いて、なにやら祐巳さん自身を口に含んでみたら、こりこりした食感だったかのような記事に仕立てたのよ。・・・まったく懲りて無いんだから、お姉さまは」
「わ・わ・わ・私自身を口に含んだ?!」
「ほら、ここの所に"この記事は紅薔薇の蕾謹製のババロアについての記事です"って注釈が入ってるでしょう?」
「あっ!モノスゴイ小さい字で書いてある!」
「とりあえず、お昼休みに訂正と謝罪を載せた号外を書いて配っておくから、それまでは申し訳無いけど、こらえてちょうだい」
「うう〜。三奈子さまめ〜。」
さすがに配られた新聞はどうしようもなく、祐巳も歯噛みしつつもあきらめるしか無かった。
「それよりも、私は別の不安があるのよ」
「別の不安って?」
「私の杞憂なら良いんだけど・・・」
「???」
しかし、残念ながら、その不安は的中する事となる。
その事実は、白薔薇の蕾と共にやってきた。
「祐巳さま!」
「乃梨子ちゃん、どうしたの?」
「瞳子が・・・瞳子が・・・」
普段、あれほど冷静沈着なイメージの乃梨子が、息を荒げて会話もままならない様子に、祐巳の脳裏に一つの恐ろしい推測が浮かぶ。
「まさか瞳子ちゃん、三奈子さまに何かしたんじゃ・・・」
祐巳は、自分の血の気がさーっと引いて行くのを自覚した。



「三奈子さま?いえ、そうじゃなくて・・・」
「そうじゃなくて?」
肩透かしをくらった祐巳は乃梨子の次の言葉を待つ。
「さっき、リリアン瓦版を読んだとたんに、鼻血吹いて倒れちゃったんですよ!」
「・・・・・・・・・はい?」
祐巳には理解できなかったのであろう。瞳子が祐巳自身を口に含み、あまつさえこりこりした食感を味わう妄想に囚われて悶死したなどと。
「遅かったか・・・」
後には、山口真美の呟きだけが残るばかりであった。

この騒動は、後に祐巳が瞳子の元に駆けつけ、危うく本当に失血死させそうになったり。復活した瞳子が、影でこっそり三奈子嬢に別のネタで創作小説(18禁)を依頼したり。怒った真美嬢に縛り上げられた三奈子嬢が、何やら新たな境地に目覚めてみたりと、色々と禍根を残すのだが、どれもどうでもいい話である。


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