【2032】 戸惑い  (杏鴉 2006-12-04 19:19:38)


『藤堂さんに古手さんのセリフを言わせてみる』シリーズ

これは『ひぐらしのなく頃に』とのクロスオーバーとなっております。惨劇は起こらない予定ですが、どうぞご注意を。

【No:2006】→【No:2025】→コレ






――変わる世界――


私にとって一刻も早く記憶から削除しなければならない一日(けれどそれは非常に困難だ)が過ぎ去り、今日は楽しい土曜日である。
授業が終わり、薔薇の館に向かう。今日は掃除当番ではなかったので、もしかしたら一番乗りかもしれない。のんびりと行こう。

それにしても、昨日は酷い目にあったな……。プールや海以外で水着になるのがあんなに恥ずかしいとは思わなかった。
まさか今日も罰ゲームあったりしないよね……? 間違っても定着なんてしないよね……?
…………あの二人ならやりかねないなぁ。
志摩子さん……には言っても無駄だろうから、お姉さまにお願いして止めてもらおうかな?
いや、たぶん爛潺垢靴覆韻譴个いい犬磴覆き瓩琉豸世妊丱奪汽蠅世蹐Δ覆 帖弔△呂蓮
私の心に渇いた笑いが響いた。

遠い目をしながらフラフラ歩いていると急に目の前を牴燭瓩、さっと横切りビックリして足を止めた。――なんだろう?

「――あ、ゴロンタ」

そこにいたのは聖さまが可愛がっていたネコのゴロンタだった。なんだか久しぶりに見た気がする。
ゴロンタは私の声に足を止め、振り返った格好でじっと私を見上げていたが、飽きてしまったのかトコトコと歩きだして私から離れて行った。
いつもならこういう場合、そのまま見送るのだが……何故だか今日はもう少し一緒にいたいなぁ、と思った。
最近まったく見かけていなかったからかもしれない。

私はゴロンタの後ろを、彼女の歩調に合わせてゆっくりとした足取りでついて行った。
背後の気配に気付いたゴロンタが足を止めて振り返ったので、私もピタリと足を止める。しばらくするとゴロンタは歩きだし、私もまた歩きだす。
そんな事を三回ほどくり返した頃、ゴロンタは爐△ △發Α9イにして瓩箸いΥ兇犬膿兇衒屬蕕覆なった。

お許しがでたと受け取った私はゆらゆらと揺れるゴロンタのしっぽを眺めながら、自分がどこに行くのか分からないという奇妙な感覚を楽しんでいた。
まだ時間に余裕があるし、さすがに学園内で迷子にはならないだろうしね。
本当は軽く掃除をしたり、お茶の準備をしたりといろいろやる事はあるのだが……一人の空間というのはちょっぴり寂しいわけで……。
ビスケット扉を開いた時爐瓦げんよう瓩醗Щ△靴董中からも爐瓦げんよう瓩畔屬辰討てほしい……できればそれがお姉さまなら最高だと思う。
普段はそうでもないのに、何故か今日はそんなセンチメンタルな気持ちに支配されていた。
秋でもないのにどうしてだろう……?
昨日が騒がしかったから、その反動だろうか?

そんな事をぼんやり考えながらゴロンタの後姿ばかり見ていた私は、ふと気付くとまったく人気の無い所を歩いていた。
あれ……? ここってどこかな……?
立ち止まって、辺りを見回すがやっぱり見覚えがない……。
いくらなんでも学園内で迷ったりしないと高をくくっていたが……私って今ひょっとして迷子……?

「ゴロンタ〜〜」

救いを求めるようにゴロンタを呼ぶが、彼女は私をチラリと見上げただけで歩みを止めようともしない。
爛▲鵐燭勝手についてきたんでしょ瓩噺世錣鵑个りの態度だ。
確かにそうなんだけど……。もうちょっと優しくしてくれてもいいのになぁ……。
途方に暮れるあまり、ネコに対して無茶な要求をしてしまう私。
そうこうしている間にもゴロンタはスタスタと歩みを進め、どんどん私から離れていっている。
引き返せば良いのだろうが、どっちから来たのかさえ定かではないこの間抜けな状況で、ゴロンタとはぐれるのは不安以外の何物でもなかった。

「ま、待ってよ! ゴロンタ〜!」

ゴロンタは情けない声を出しながら駆け寄る私を立ち止まって待つ、という優しさは見せてくれなかったものの、走り去るという非情さも見せなかった。

「ねぇ、ゴロンタ。ここってどの辺かな? もしかして高等部の敷地じゃないの?」

返事が返ってこない事はさすがに私も分かっていたが、何かしゃべっていないと不安でしかたなかった。
少しでも見知った場所は無いかと、周囲をキョロキョロしながら歩いていた私がゴロンタに視線を戻すと……ん?……戻……せない……。

――ゴロンタがいない。

ナンテコッタイっ!? ちょっと目を離した隙にゴロンタがいなくなっているじゃないかっ!?

「うわあぁぁ! ゴロンタ〜〜!?」

たった今まですぐ目の前にいたのにっ! ど、どこに行ったのゴロンターっ!?
私はパニックになってゴロンタを捜しまわった。
おろおろと視線をあっちやこっちに飛ばしていた私の耳に、なにやらガサガサという音が聞こえてきた。
音の出所を探ろうと耳を澄ますと、どうやら私の右手にある茂みの中から聞こえているようだ。

ゴロンタさん? 私はあなたほど小柄ではないのですが……。
私が発した心の呟きがゴロンタにとどくわけもなく、音は次第に小さくなっていく。

「……………………えいっ!」

私は思い切って茂みの中に飛び込んだ、が――

――歩き辛っ!?

ものの二秒で後悔した。
しかし引き返したところで見知らぬ場所に置いてきぼりにされるだけなので、頑張って先に進んだ。
ゴロンタ! 私の底力を舐めないでよね!
自分でもよく分からない気合が、私の足を前へ前へと進めた。

ガサガサガサ

制服のあちこちを引っかけながらも茂みを行くと、思ったよりあっさりと開けた場所に出た。
やれやれ助かったと制服に付いた葉っぱを掃いつつ、ゴロンタを捜して辺りを見回す。
すると記念碑のような物の上で寝ころがっているゴロンタを見つけた。

「もう、ゴロンタ〜。急にいなくならないでよ〜」

私は唇を尖らせながらゴロンタに文句を言ったが、あっさり無視された。
日陰で冷やされた石はひんやりして気持ち良いのか、もう眠りについてしまったようだ。

「……困ったなぁ。これからどうしよう……?」

実質一人になってしまった私はその場に立ちつくしたまま、所在無くゴロンタの寝姿を眺めていた。
そうしているうちに一つ疑問がわいてきた。
どうしてこんな人気の無い所に記念碑(?)があるのだろう……?
そもそも記念碑というのは、物事を後世に伝える為に建てるんじゃなかったっけ?
こんな人目に触れない場所に建てる意味があるのかな……?

興味がわいた私は、何が書いてあるのか確かめようと記念碑らしき物に近づこうとした。

ところが――

「祐巳! あなたそこで何をしているのっ!?」
「うわっ!? お、お姉さまっ!?……え?……ど、どうなさったんです?」

誰もいないと思っていたのに、横合いから急に怒鳴られて私は滑稽なほど驚いてしまった。
怒鳴ってきた相手が自分の姉なのだからなおさらだ。
今の私には迷子にならずに済んだ安堵も、大好きなお姉さまに会えた喜びも、感じている余裕はなかった。
私にあるのは、戸惑いと不安……そして恐怖だけだった。
どうしてだか分からないが、お姉さまが私に怒りの感情を向けていたのだから。
ビックリしてどうしていいか分からずに、とにかくわけを聞こうと思ったけど……それはお姉さまにとって不快な事であったらしい……。

「質問に質問で返すのはお止めなさい。私は何をしているのかと聞いているの」

眉根のシワを増やしたお姉さまは、凍えるような声で私に詰問した。
他にどうする事もできない私はうつむき震えながら、たどたどしく事の成り行きを説明した。

「あの……私……その、ゴロンタを追いかけていて……道に迷ってしまって……えっと…………それで、記念碑のような物があったので……何が書いてあるのかと……」

自分でも説明になっているのか、いないのか判別しにくい説明をしていると、近くにやってきたお姉さまが溜め息を一つもらした。

「……あなたね。高校生にもなって、ネコを追いかけて迷子になるなんてどういう事なの?」
「す、すいません……」

言葉はキツイものだったが、口調はさっきのように怒りの混じったものではなくなっていたので、謝りながら恐る恐る顔を上げてみた。
するとやっぱりお姉さまの顔からは怒りは消えていて、代わりに呆れたような表情になっていた。

「……すいません」

私の中にあった恐怖感は無くなったものの、今度は情けなくなってきてもう一度謝った。

「ふぅ……。もういいわ。さぁ、薔薇の館へ行きましょう」

お姉さまは私の手を取り、さっさと歩き出した。まるで一刻も早く私をこの場から遠ざけようとしているかのように。
手を引かれながら、私はほんのちょっと振り返った――

「祐巳」

咎めるような響きで呼ばれた私は、すぐに視線をお姉さまに戻した。
けれどお姉さまは私を見ていなかった。真っ直ぐ前を向き、それ以上何も言おうとはしなかった。
私は口に出せない疑問を込めて、お姉さまの美しい横顔を見つめ続けた。

「――祐巳。あの場所には近づいてはダメよ」

お姉さまは私に一瞥もくれず、ただ淡々とそう言った。
そこにある感情は、間違えようもない――

――拒絶。

私はお姉さまの顔を見ているのが辛くなり、視線を落とした。
落とした視線の先には繋がれた手があった。

確かに繋がっているはずなのに……こんなにも傍にいるのに……どうしてそんなに遠いトコロにいるのですかお姉さま?


繋がれた手をキュッと握ったけれど、お姉さまがその手を握り返してくれる事は結局なかった……。










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