※ 何かが色々とおかしなSSです
本気で小ネタ集。
本編
【No:2000】→【No:2003】→【No:2004】→【No:2007】→【No:2021】→
【No:2026】
番外
【No:2031】→【No:2040】の続き
*1*
ゴロゴロゴロゴロ
授業中、黒い雲の広がっている空で雷が鳴り始めた。
その様子を窓辺の席で眺めていると、突然強烈な光が世界を満たした。
視界が白一色に染まる。
ドーーーーン
光とほぼ同時に、とんでもない轟音が鳴り響いた。
大気が震え、窓――どころか校舎全体が揺れた。
どうやら、すぐ近くに雷が落ちたようだ。
教室のあちこちで、クラスメートの悲鳴が上がった。
けれど、落雷なんてほんの一瞬のこと。
確かに怖いことは怖いけれど、終わってしまえばどうってことはない。
「今のは驚いたわ」
隣の席で、呻くように言ったのは武嶋蔦子さん。
流石の蔦子さんも、先程の落雷には驚いたようだった。
「でも、祐巳さんは微動だにせずか。凄いわね」
紅薔薇のつぼみになったからかしら? とか言っている。
けれど、当然そんな理由からではない。
やがて、落雷によって騒いでいたクラスメートたちも落ち着き、授業が再開されることとなった。
(さて、と)
授業が再開される前に、私は動かなければならない。
「先生」
私は、今だ! とばかりに天井に向かってビシッと手を伸ばした。
「どうしました?」
急なことだったので、驚いている先生。
私は、自分の前の席――背筋をピシッと伸ばし、真っ直ぐに黒板へと顔を向け、
ピクリとも動かない、魂が半分抜けかけている幼馴染の彼女へと視線を向けた。
「祐巳さんが気を失っています」
「ええっ!?」
祐巳さんは、小さな頃から雷が大の苦手だった。
「というわけで、祐巳さんが天に還ったので、今回は私こと島津由乃の視点でお送りいたします」
「あの……由乃さん? 私、生きてるんだけど」
「でも、魂が抜けかけていたじゃない」
「ちょっと失神してただけだもん」
*2*
冬のある日。
「寒いなぁ、水星あたりなら暖かいかな?」
両腕で、自分の身体を抱き締めながら祐巳さんが言った。
いきなり何を言い出すんだろう、と由乃は自分の額に手をやった。
最高温度と最低温度の落差は激しいが、水星の平均表面温度は、百七十九度である。
「そうね。でも暑すぎて住めないわね」
呆れている由乃の代わりに、志摩子さんが答える。
住む、住まないとかじゃなくて、それ以前に生きていられない。
「そっか、暑すぎて住めないのか」
残念そうに祐巳さんが項垂れた。
夏のある日。
「暑いなぁ。土星あたりなら涼しいかな?」
頬を伝う汗を、ハンカチで拭いながら祐巳さんが言った。
いきなり何を言い出すんだろう、と由乃は自分の額に手をやった。
土星の平均表面温度は、マイナス百三十度である。
「そうね、でも寒すぎて住めないわね」
呆れている由乃の代わりに、志摩子さんが答える。
すると、祐巳さんが言った。
「そっか。土星は寒くて、水星は暑いのか。よかったぁ、地球に生まれて」
「……」
「……」
この太陽系で、地球以外のどこに生まれる気だ? と思った。
*3*
「由乃ちゃんっ!」
慌てた様子の祐巳さんが、昨日、今日と学園を休んだ由乃の部屋に駆け込んで来た。
由乃の部屋に祐巳さんが来るのは久しぶりなのだが、彼女はそれどころではないらしい。
「どうしたの?」
「どうしたの、じゃないわよ。いったいどういうこと? 黄薔薇革命って何なのよ!?」
叫びながら、由乃にリリアンかわら板を突きつけて来る。
「黄薔薇革命?」
聞き慣れない単語ではあったが、予想はつく。
祐巳さんから今回のかわら板を受け取って、一通り目を通してから、由乃は呆れた。
本当に、体中で、心の底から呆れた。
相変わらず、好き勝手書いてくれている新聞部にも、目の前にいる祐巳さんにも。
新聞部のことは仕方がない。どうせ、いつものことだ。
けれど――祐巳さんってば相変わらず、情報収集能力が低いというか、世間のことに疎いというか。
二日経って今ごろ黄薔薇革命だなんて、いくらなんでも遅すぎる。
そんなことは、とっくに生徒たちの間で噂となって広まっているはずなのだ。
祐巳さんが、祥子さまの妹になった時もそうだったし。
まぁ、それはともかく。
目の前で心配そうに由乃を見ている祐巳さんに、フォローをしておかないといけない。
「心配しなくてもいいわよ。別に――」
ロザリオは返したけれど、令ちゃんとの絆まで捨てたつもりはない、
と続けようとした由乃を遮って祐巳さんが言った。
「令ちゃんは無事なの? 由乃ちゃんのことだし、容赦なく罵詈雑言を浴びせたんでしょう?」
「落ち着いて、祐巳さん。呼び方が昔に戻っているわよ」
あと、罵詈雑言って何よ? 罵詈雑言って。
「ま、まさか、令ちゃんってば、ショックで病院のベッドで唸ってたりしないよね?」
「……」
失礼にも程があると思う。
「どうして令ちゃんが、病院のベッドで唸らなきゃならないのよ?」
「え? ……あ」
強く睨みながら言うと、祐巳さんがようやく我を取り戻したらしい。
キョトンとした表情を由乃に見せたあと、自分の失言に気付いたようで、羞恥に顔を染めた。
「そ、そうだよね。そんなはずないよね。私ったら何を言ってるんだろう」
心配しすぎて混乱するほど、由乃たちのことが心配だったみたいだ。
祐巳さんらしいといえば、祐巳さんらしいのだけれど。
「心配してくれるのは嬉しいけど、病院だなんて。まったく――」
「ご、ごめんね」
「令ちゃんは意外と打たれ強いんだから」
「うんっ…………え? あれ?」
何か思うところでもあったのか、祐巳さんが面白い表情を浮かべながら首を傾げた。
*4*
「私と志摩子さんって、最近まであまり会話しなかったわよね」
「そうね。実は、嫌われているのかと思っていたのよ」
「あはは。由乃さんは人見知りするから」
「ちょっと、余計なことは言わないでよ」
「ふふっ。でも、私も同じようなものよ。あまり人と会話するのが得意ではないの」
「え? でも、私とは普通に会話していたような気がするんだけど」
「そうなのよ。不思議なことに、祐巳さんとは会話し易かったわ」
「祐巳さんはいつも能天気だから」
「ちょっと、由乃さん」
「さっきのお返しよ」
「くっ。最近、止まることを覚えた青信号のクセに」
「……それは私が、右折や左折はおろか、止まることすらできない人間だと言いたいのかしら?」
「ちゃんと、止まることを覚えたって言ったわよ」
「そうね。人間は進化できる生物なのだということを、改めて教えられたわ」
「……」
「……」
「私が、今もこうしてこの学園にいられるのは、お姉さまや乃梨子のお陰だけれど、
祐巳さんのお陰でもあるの。人付き合いの得意でない私に、たくさん話し掛けてくれたから」
「って、何事もなかったかのように話を進めないでよ」
「志摩子さんって、ひょっとして由乃さんのこと嫌いなの?」
「いいえ、そんなことはないわ。好きよ」
「……面と向かって言われると、流石に照れるわね」
「いいなぁ。ねぇねぇ、私は?」
「勿論、好きよ」
「……」
「自分で聞いておいて、顔を赤らめるのはどうかと思うわよ」
「だ、だって、仕方ないじゃない」
「はいはい。顔に出るのは、よーっく知ってるから。あぁもぅ、そんな可愛い顔しないの。
祥子さまや白薔薇さまに襲われるわよ」
「由乃さんは、まるで祐巳さんのお母さんのようね」
「……」
「……」
「どうしたの?」
「それ、昔からよく言われるの」
「私としては、こーんな大きな娘を持った覚えはないんだけど」
「……二人は幼馴染なのよね」
「一応。幼稚舎の頃から」
「充分、幼馴染でしょ」
「二人の出逢いって、どうだったのかしら?」
「教室に由乃さんが一人でいたから、 『遊ぼう』 って私が誘ったんだけど」
「病弱だった私を、あちこち引っ張り回してくれたのよ。お陰で、次の日は寝込んだわ」
「……ごめんね」
「落ち込まないでよ。別に責めてるわけじゃないの。むしろ、感謝してるんだから」
「本当?」
「当たり前じゃない。そのお陰で、こうやって祐巳さんと仲良くなれたんだし」
「ぎゃう。もうっ、急に抱きつかないでよ」
「いいじゃない」
「まぁ、いいけど」
「……本当に仲が良いわね」
「幼馴染だし」
「親友でもあるし」
「でもね、仲が良いのは由乃さんだけじゃないよ」
「?」
「お姉ちゃんと令さまもそうだし。聖さまや蓉子さま、江利子さまもそう。それに、志摩子さんも」
「私も?」
「うん、志摩子さんも」
「でも、私はあなたたち程……」
「その先は言わなくていいわ」
「え?」
「私たち、もっともっと仲良くなれると思うの」
「そうそう。離れようとしても、ムリヤリ引っ張って行っちゃうんだから」
「……そうね。これからもよろしくお願いするわね」
「ええ。どーんと大船に乗ったつもりで、私に任せておきなさい」
「由乃さんに舵を任せると、真っ直ぐにしか進めないけどね」
「祐ぅ巳ぃさ〜ん〜」
「うわっ、怒った。志摩子さん、逃げようっ」
「え? え、ええ。でも……」
「いいから、いいから」
「ちょっと、待ちなさいっ!」
「待たないよーっだ」
「ふ――ふふふっ、あはははははっ」
*1* 視点で遊んでみよう、と思って作った話。
*2* 謎な話。
*3* 令さまを出そうと思ったのに、出ないどころか方向を間違った話。
*4* 結局のところ、特に何もせずとも仲良しな三人組+セリフだけで作ってみた話。