【205】 幸せだと思う  (ケテル・ウィスパー 2005-07-12 11:46:53)


・・・No.184を加筆修正してみました。 なお、一部15禁に近い表現が含まれます、少し修正はしましたが、読む場合はその旨ご了承ください。・・・・・・

 卒業旅行第4話 Ver.1.002

 大沢温泉ホテルの送迎マイクロバスは、伊豆急下田駅には来なくて一つ東京よりの蓮台寺駅までしか来ていないんだそうだ。 下田市と松崎町の中間より松崎町よりの山の中に目指すホテルはある。
 愛染明王堂から2人とも無口になっている。 事務的な言葉は出てくるのに会話が続かない。 
 今更ながら思い出させられたと言う事……たぶん祐麒君も意識してるはず……今夜は2人きりで同じ部屋に泊まる………2人は付き合っている…学園祭の劇の時のお詫びとしてデートした時以来……今まで不思議とそんなこと意識してこなかったけど……こわいの? 不安? 後悔してるの?
 あ〜〜〜〜もう!! 私らしくも無いこといつまでグチグチ考えてる! しっかりしろ由乃!! 
 ぐるぐるぐるぐる、堂々巡りしている頭の中に喝を入れた頃、宿泊先大沢温泉ホテルに到着した。
 
「………あ、そうか。 そういうことなんだ」
「? ど、どうしたの? 由乃さん」
 
 マイクロバスを降りてから古い日本家屋の連なっているようなホテルを見たとき、私の中で歯車か何かが”コトッ”っとはまって、大げさだけどすべてが分かった気がした。 簡単だけど、大切なこと。 それさえ見失わなければ私は大丈夫だ。

 300年前の建物を改修したというホテルは、重厚な趣があって私好み。 『はなれ』と言う建物の中にある部屋に案内された、夕食は6時半だそうでそれまではくつろぐことにした。

「で〜、さっきのはどうしたの?」
「どうもしないわ。 簡単なことを改めて思い出しただけ。 それが分かれば、こわがることも、不安がることも無いんだな〜って。 それに、祐巳さんたちがうらやむような思い出を作らなきゃ。 って、これは後付の理由かな」
「簡単なことって? 俺はまだなんか、意識してるんだけど」
「わたしは、祐麒君が好きなんだ、ってこと。 それさえ忘れなければ、私は大丈夫」
「俺……由乃さんのこと好きだよ………でも、まだちょっと……」
「気負わなくても良いでしょ、夜はこれからだし。 さてと、浴衣に着替えましょうか………見る? あ・な・た」
「あなたって、そりゃ夫婦ってことで宿帳には書いたけど。 う〜〜ん。 いいや、俺先にトイレ行って来る」
「は〜〜い」

 その後、海の幸山の幸いっぱいの夕食に舌鼓を打つ。 祐麒君も自分の中での葛藤に決着がついたのか楽しく過ごすことができた。
 山菜の桶寿司、山菜は都会で売っているパック詰めのものとは大違いで、香りも良くしっかりした歯ごたえが好印象、一つの桶から2人で分けて食べると言うプロセスもなんかいい。 季節と言う事で金目鯛の煮付けも出てきました、40cm位もあるのが1匹ど〜んと。 味付けはちょっと濃い目、でもそれに負けないほど脂が乗っていてしっかりとした味のある身に、最初『大きいのではないかな?』っと思っていたのに2人で一匹食べきってしまった。
 屋上露天風呂『満天』へと行って(水着着てました)星を見ながらのお風呂タイム。それから総檜風呂があったのでそこにも入った(別々によ、変な期待するのは早いわ)。 『美肌の湯』ですって。 


 そんなことをしている内に、部屋の方では仲居さんが布団を敷いてくれていた訳だけど、夫婦な訳だから当然、ダブルサイズの布団に枕は二つ。 先に部屋に戻っていた祐麒君は開け放った窓枠に腰掛けて夜景を見ていた、私は掛け布団をめくり上げて、バスタオルを広げる。 そして、布団の上に正座をして祐麒君の方を見つめる。 祐麒君は正座している私の方に顔を向ける、暫らくそのまま見詰めていたが、ゆっくりと立ち上がり、窓と障子の立て戸を閉めてから、私の正面に来て正座した。

「……なんか、分かっててもやっぱりドキドキするね」
「俺も……緊張してる」
「と、とりあえず。 不束者ですが、よろしくお願いします」

 三つ指を突いて深々と頭を下げてみたりする。 祐麒君もあわてて頭を下げる。

「え? あ〜、その……よろしくお願いします」
「っぷ、ふふふふ、な、なんか変」
「変だよな〜やっぱり……?………由乃さん?」
「……あ、あれ? なんか、涙が……」

 悲しいわけでもないのに、頬を涙が伝う、祐麒君が指先でそれを拭ってくれたあと、頬にキスしてくれた、私はその胸に顔をうずめる。 少しの間肩を震わせたあと、潤んだ瞳のまま想い人の顔を見上げる、ゆっくりとまぶたを閉じて、触れる唇の温もりを思う。

「んん、んぅぅん」

 2度、3度。 キスの時間は長くなっていく。 

「……ん、っんぁ………んん?!」

 酔いそうなほどの甘いキスから、ゆっくりと、でも不意に私の唇を割って入って来た祐麒君。 ちょっとびっくりして固まってしまった。 そうだ、ね、私も答えなきゃね……。 祐麒君の首の後ろで手を組み、舌先で遠慮がちに触れてみる……最初遠慮がちだった動きも、徐々にお互いが相手の舌を愛撫するように絡み合う。 

「……んん〜、ゆぅき…くん、あ、ん…ゆう‥き…ゆうき」
「よ…のふ…ぁ……ん。 よ…しの……よし…の」
 
 祐麒…の唇は、私の首筋へと伝って行き、2人は布団の上へとゆっくりダイブする、長い髪が波模様を描くようにふわりと広がる。 浴衣の上から胸をすくい上げる様にもまれる、もやもやとした暖かさが育っていく、でも、ごめんね……大きくないから、祐麒そんなに楽しくないかも。

 恥ずかしくなってあわてて口を手でふさぐ。 しかし、すぐに呼吸が苦しくなって手を少しどけるとまた大きな嬌声が出てあわてて手でふさぐ、そんなことの繰り返しが続く。

 ………あ、そうだ。 でも……やっぱ自分からは恥ずかしいよ。 でも、こういう事ってやっぱり共同作業なんだから。 いや、そんなはしたない………。 決めていたことを実行するだけじゃない。 だ、だからそれをするためには……自分で……。 
 などと思っている間に、もう自分の手はゆっくりと動き出していた。
 襟元に両手の指先を入れて、ゆっくりと帯の辺りまで降ろしていく。 それを見てちょっとびっくりした顔の祐麒。
 
「……まだ……見えると思うけど………祐麒」

 荒い息呼吸に合わせて上下している浴衣をゆっくりはだけていく。 顔から火が出そうなほど赤くなっているのが分かる。 震える指先で、右胸の下の私の勲章を指差す。 

「……ここ、分かるかな?」
「? あ、例の手術の痕……」
「そう……私の…勲章なの……。 祐巳さんたちと…山百合会の……ことで…走り回ったり………体育祭…に出て…飛び回ったり……青信号で…突っ…走ったり……竹刀を振るったり……そして、祐麒と…つきあえて……こうして…愛し合えるのも……この…痕のおかげ……だから勲章なの」
「……見えるよ、由乃…の…肌がほてっているせいかな、よくわかるよ。 そっか、感謝しないといけないね…」
「んあ、ぁ〜ぁ」

 『電気を消して』と言わなかったのはこのため、祐麒には絶対に見てもらいたかったから。
 祐麒は、傷痕にキスをしてくれた。 やさしく、ほんとうにやさしく。 

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