【2081】 貴女はそのままでいて答えはいつも私の胸に乃梨子、鼻血で貧血  (C.TOE 2006-12-25 21:25:29)


12299いぬいぬさま方向指示に因る
【No:1771】の続き(らしい)





「あら、電話だわ」

そう言って電話に出ようとした志摩子さんを乃梨子は止めた。

「志摩子さん、私が出るから」

ここは乃梨子のマンション。正確には乃梨子の親戚の菫子さんの、であるが。
現在、もろもろの事情で志摩子さん行幸中、もとい滞在中。

「はい、もしもし」

故意に低い声で応対する。勧誘電話対策だ。菫子さんなら年の功で見事に撃退するのだが、現在ここには女子高生二人きり。しかもそのうちの一人は悠長に世間話でもしかねない人だ。ここは乃梨子がきっちりガードしなくてはならない。乃梨子はその気になればかなり低い声が出せる。

『あ、乃梨子ちゃん。志摩子居るかな』

和尚だった。
というか、低い声ガードが全く通用していない。低い声を出したのに、すぐに乃梨子だと当てた。和尚は何を基準に電話の相手を確認しているのだろう?
世の無情を感じつつ、受話器を志摩子さんに渡した。

「あらお父さま。どうなさったのですか?」

志摩子さんの表情がわずかに明るくなる。やはりお父さんの声が聞けて嬉しいのだろう。あんな和尚でも、この志摩子さんの父親だというのだから、世の中不思議なものだ。

「え?あ、そういえば、そうでした。すっかり忘れていましたわ。
・・・・・・はい。
・・・・・・ええ、そうですね。
・・・・・・では明日、そちらに寄ってから、行きます。
・・・・・・わかりました」


志摩子さんに受話器を渡された。和尚が乃梨子に何か用なのだろうか?

「はい、代わりました」
『ああ、乃梨子ちゃん。さっきは言い忘れたが、志摩子が世話になってるね』
「いいえ、そんな」
『志摩子は世話かけてないかね?』
「いいえ、私のほうがすっかりお世話になって」
『うちの庫裏が、家事だけはしっかり躾ておいたからね。
そういえば乃梨子ちゃん、志摩子の料理を気に入ってたね。役に立ってるかい?』
「それはもちろん、とても上手で」

さすが寺の住職を務めるだけあって、この辺はしっかりしている。
乃梨子への挨拶を後回しにしたということは、志摩子さんに急用だったんだろうか?そのわりに志摩子さんは落ち着いているが。

『ところで乃梨子ちゃん』
「はい、なんでしょう」
『志摩子のメイド姿はどうかね?』
「失礼します」

乃梨子は電話を切った。
あの衣装は和尚の策謀で確定。
聖さまといい和尚といい、どうして志摩子さんの周りにはこんな人ばかり居るかな。

「乃梨子?」

志摩子さんが不思議そうに乃梨子を見る。自分の事を言われているようなのに突然電話を切ったりしたら、まぁ不思議に思うわな。

「それより志摩子さん、なんだったの?明日どこか行くの?」

乃梨子は話題を変えるとともに、志摩子さんに質問した。志摩子さんの口振では明日寺に帰ってから、どこかへ行くようだった。





翌日。
日舞の教室。
乃梨子は部屋の隅で見学していた。
今日は志摩子さんが日舞の教室に顔を出す日だった。寺の修築などでドタバタしていたので、本人も忘れていたのだ。志摩子さんが日舞の名取である事は聞いていたが、残念ながら乃梨子は日本舞踊については全く知らない。
志摩子さんの舞う姿を見るのはこれで二回目。
体育祭の応援合戦で志摩子さんが着物を着て真ん中で踊り始めた時は驚いた。級友から「藤娘」と聞いてもわからない乃梨子だったが、しかし華麗に舞う志摩子さんを見るのは好きだった。
穏やかな曲にあわせて流麗に舞う志摩子さん。優雅に泳ぐ水鳥のよう。飛翔する白麗。
乃梨子は志摩子さんに見とれていた。見惚れていた。





「素敵だったよ、志摩子さん」

マンションの部屋に帰っても興奮覚めぬ乃梨子は夢中で話しかけていた。

「私、日舞の事は全くわからないから、具体的にどうこう言えないけど、でもこんな感じで流麗に舞う志摩子さんはとっても素敵だった、見るのは体育祭の応援合戦のとき以来二回目だけどさ、あ、もちろんその時もとても素敵だったよ、『藤娘』もわからない私だけど、でも志摩子さんが初めて踊るのを見た時の感動は今でも覚えてるよ、とても素敵だった、うん、もちろん今日も素敵だったよ、近くで見られてホント、とっても良かった、さすが私の志摩子さん・・・」

興奮のあまり自分でも馬鹿みたいな台詞しか言ってない事を自覚していたが、乃梨子にはこれ以外の言葉は出てこなかった。乃梨子の脳裏には華麗に舞う志摩子さんが今もエンドレスで流れている。これだけでご飯3杯はいける。便利な体になったものだ。

「まあ、乃梨子ったら」

それに対して志摩子さんはほんのりと頬を染めた。照れてるようだ。



その後、志摩子さんの発案で、乃梨子は志摩子さんに日舞を教えてもらう事になった。教えてもらうといっても、基本をなにも知らない乃梨子のこと、ただ向かい合って立って、志摩子さんの動きを真似るだけである。
乃梨子にとって日舞は、甘くみていたわけではないが、難しかった。
まず、ダンスのようにはっきりしたリズムがない。曲にあわせて優雅に動くといえば簡単そうだが、曲を知らない乃梨子には動くタイミングがまるでわからない。ただ志摩子さんを見ながらぎこちなく動くだけである。

「右手をゆっくり下げて♪ここで折り返す♪♪♪」

志摩子さんが懇切丁寧に教えてくれるが、全くの初心者である乃梨子にはかなり厳しい。

「左手を・・・そうそう、上手いわ、乃梨子」

油の切れた機械が動いているようなものだが、志摩子さんに褒められると不思議とその気になってくる。

「左手をそのままで♪くるっと回る・・・あっ!」
「!」

乃梨子は志摩子さんを注視していたため、部屋の状況を失念していた。志摩子さんも乃梨子に教えるのに夢中になるあまり、部屋の状況を失念していたようだ。
この部屋は、女子高生とはいえ、人間二人が動き回れるほど広くない。

「きゃっ?」
「志摩子さん!」

机との衝突を回避しようとした志摩子さんがバランスを崩す。
乃梨子は咄嗟に志摩子さんを支えようとして、残念ながら失敗した。

その結果。

乃梨子は身体の前面に軽い衝撃を受けた。次いで視界が傾ぎ天井が回って、そのすぐ後お尻に激痛が走った。
ぶつけたのはお尻だけだったようだけど、顔に「むぎゅ」っていう妙な圧迫感がある。
目の前には・・・これ、志摩子さんの服。
あれ?
ひょっとして、いやひょっとしなくても、これ志摩子さんの谷間・・・?


「いたたたた・・・・・・乃梨子、大丈夫?」

うん、大丈夫。幸福感のほうが圧倒的に上だから。

「あ!?ごめんなさい、乃梨子。重かったでしょ。すぐに退くわ」

平気平気。志摩子さんのクッションはよく効くクッションだから。

「・・・乃梨子?」

乃梨子断定。これは・・・D6
「しま・・・」

った。自爆してしまった。

「乃梨子!?大変!」
「大丈夫、大丈夫だから」

乃梨子の出血を見た志摩子さんが慌てる。

「今、鼻を打ったのね?止血しないと!」
「いや、これは・・・」

どうも志摩子さんは、自分が乗りかかってしまったために乃梨子が鼻を打ったと思ったようだ。

「そうだ、お父さまに渡された服を・・・」
「・・・・・・着なくて良いから!」

一瞬、次はどんな衣装を着て欲しいか希望してしまった自分が悲しい。
というか、何かが失われていく量が増えたような気がするのは、気のせいではないようだ・・・

「乃梨子!?どうしましょう!?」

志摩子さん、心配してくれるのは嬉しいのですが・・・そんなに揺すると、血行が良くなって、量が増えてしまいますよ・・・・・・





何もかも、皆懐かしい・・・・・・


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