前置き 前山百合会の2年生と3年生を入れ替えてあります。
あと、祐巳と志摩子は中学からの友人です。
春
一目会った瞬間に惹かれるものを感じた。
「ごきげんよう、白薔薇さま。」
人形のような顔で、囀るような声で、藤堂志摩子は私の心に強い印象を残していった。
秋
あの桜の下で、今は少女が一人泣いている。
幹に顔を押し付けて、泣き声を殺すかのように。
声を出さずに、私はそれを見ていた。
遠くから授業の開始を知らせるチャイムが聞こえる。
遅刻するのを覚悟で教室に行くつもりらしい。
強引に涙を止めるように、鼻をすすり制服の袖で顔を拭う。
私がここに来る以前から居たのだろう。
振り返った顔は、明らかに泣いていた顔だった。
目は赤く、その周りははれぼったい。
その目が私の目と合う。
「・・・白薔薇さま。」
「どうしたの、祐巳ちゃん?」
事の起こりはなんだったのだろうか?
ここであの時、志摩子に会ってしまったことだろうか。
いや、もっと正確に言えば、薔薇の館で「志摩子。」と口に出してしまったからかもしれない。
どんなに過去を思ったところで、たどり着いた結論はポケットの中に入れられた紙切れが雄弁に語る。
―――紅薔薇の蕾の妹、誕生―――
「・・・なんでもないんです。」
特徴的なツインテールを振りながら首を振る祐巳ちゃん。
「・・・授業が始まっていますから。」
そう言って横を通り過ぎようとする。
「・・・蓉子のこと?」
ポツリと、それでもちゃんと聞こえるような声量で言うと、祐巳ちゃんは足を止めた。
「・・・気付いてらしたんですか?」
「まぁ、祐巳ちゃん、結構顔に出るタイプだから。」
少し通り過ぎた位置に居る彼女を振り返ると、むこうもこっちを向いていた。
「・・・私、友人にも言われるんですよ、顔に出やすいタイプだって。」
ははっと、軽く失笑。
「でも、それは良いことだと思うよ。」
「・・・そうですか?」
「それで一つお願いがあるの。」
祐巳ちゃんに歩み寄ると、手を掴んで桜の木の下まで引っ張っていく。
「な、なんなんですか?」
先輩のすることに嫌とは言えず、なんだかんだ言いながらも大人しく従う。
「座って。」
ポケットのかわら版の入っていない方からハンカチを取り出した。
直に座るように言うのは、流石にリリアンでは憚られる。
「あ、自分の持ってますから。」
そう言うとさっさと自分のハンカチを出して、地面に引いてしまう。
「そう、ゴメンね。」
私の我侭に付き合うためにハンカチを汚してしまうことに一応謝罪。
「で、なんですか?」
自分で自分のハンカチを引いて二人とも体育座りに座ると、開口一番に聞いてきた。
そりゃ当然か、と心の中で笑いながらも理由を述べる。
「うん、私の分も泣いてくれない?」
「え?」
「祐巳ちゃん、蓉子に失恋っていうのかな?
だから泣いてるんでしょう?」
窺うように顔を見ると、立てた膝を抱えて丸まるようにしてから応えた。
「・・・はい。」
「私も失恋したの。」
「・・・志摩子さんですか?」
「うん。」
風が少し吹いた。
茶色に染まった落ち葉がはらりはらりと流されてくるのが視界に入った。
「でね、とても悲しいはずなのに泣けないんだよ。
ここにくれば泣けるかなって思ったら、祐巳ちゃんが居た。
私は、祐巳ちゃんみたいに泣きたいんだけど泣けないの。
だから祐巳ちゃんが代わりに泣いて。
ああ、別に私の代わりだからって志摩子のこと浮かべなくても良いから。
蓉子のことで良いから。」
なるべく淡々と言うと、祐巳ちゃんの腕を引っ張って寄りかかる様な体勢にした。
「きゃ。」
「祐巳ちゃんは、蓉子のどこが好きなの?」
何か言う間を与えずに、質問した。
「えっとですね・・・。」
私がする質問の答えに徐々に涙が混じっていく。
福沢祐巳。
その名前を聞いたとき、「目出度そう。」と言った。
人の顔や名前を覚えない私が顔も名前も覚えているという珍しい子だった。
そして、珍しいといえば極めて珍しいのが志摩子が友達だとはっきり言ったことだった。
人当たりの良いと思われる志摩子だが、人の名前を挙げるとき友人ということはほとんど無い。
大多数をクラスメートで済ませる中で、数少ない例外。
会った時の第一印象は、単純と素直が紙一重の子。
思ったことが顔に出やすくて、言ったことを素直に受け取ろうとする。
そんなところが志摩子と合ったのかもしれない。
移動教室やらで見かけるときは、殆ど志摩子と一緒だった。
祐巳ちゃんが蓉子に惹かれていると分かったのは、すぐ。
たまたま、私と蓉子、志摩子と祐巳ちゃんが出会った。
面白いように、蓉子に尋ねられたり、視線を向けられると挙動不審。
「やっぱり、薔薇さまって敷居が高いのかしらね。」
「かもね。」
生返事に受けながら、あれは蓉子一筋って感じだと思うよ。
思うだけに留めておいた。
もう泣き声だけだった。
祐巳ちゃんは私の体に押し付けるようにして泣いていた。
腕を背中に回して撫でてあげる。
「・・・申し訳ありませんでした。」
泣き止んだのは、昼に近い頃だった。
「ん、良いよ。私が頼んだんだから。」
「・・・でも。」
真っ赤な瞳が至近距離で見上げてくる。
「・・・ごめん。」
私がつぶやく。
「え?」
祐巳ちゃんが声をあげる前に、私の唇と祐巳ちゃんの唇が軽く触れた。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。今年の目標は他の人の作品にコメント出来るようになることです。良いの?って感じですから。笑(オキ)
謹賀新年。数日後から忙しくなるので、急がないとって現状です。今年もよろしくお願いします。(ハル)