【2100】 はなぢを垂らす乃梨子  (タイヨーカ 2007-01-02 16:46:39)


【No:1846】とかの続編。
祐巳が二条家なパロです。昔懐かしのシリーズです。何話目とかは考えてない番外的な感じです。




「いつもの事じゃない」
「ちょ、可南子さん。それは聞き捨てならないよ!」
 ノートを書く手を休め、私は仏頂面で外を眺めている可南子さんをにらみつけた。
いや、そもそもそんな話題をしだした瞳子にも問題はあるんだけれども。
「そうかしら?私が乃梨子さん見る時は大抵鼻血を出してるんだけど?」
「可南子さぁーん。いったいそれは誰を見てるの?それは本当に二条乃梨子だったの?」
 少なくとも、そんな見られるたびに鼻血が出てるような鼻が弱い子じゃないよ私は。
 なんて私がだいぶ弱々しい様子で(自覚あり)ノートを書くのを再会すると、可南子さんは小さく笑った。気がした。
「…なによ」
「別に?ただ、祐巳さまと同じような顔で拗ねるんだな。って思っただけよ」
 そう言っている可南子さんの顔は、入学当時には見せなかったような柔らかい笑顔で。
ここにもまた、祐巳姉ぇの毒牙にかかった…と、思われる女子が1人。いたのだった。




 祐巳姉ぇがガン見してる
         Vol.XX 『はなぢを垂らす乃梨子』



 そもそも。今は文化祭も終わってちょっとひと段落着いているところで。ここは一年松組の教室で。
私は、その日すっかり寝ていて聞いていなかったし写していなかった数学のノートを、可南子さんに借りている途中であった。
 可南子さんは文化祭の時に手伝ってもらったばかりか、その後始末までもキッチリとやってくれたり、今日ノートを貸してくれたりで、
私の中でかなり好感度が上がっている級友の1人だ。
 どこかの自称親友のドリルとは大違いだ。
人を散々鼻血キャラのように吹聴しておきながら、窓の外から祐巳姉ぇが見えただけですっ飛んでいった。そんなドリルとは。
 そして今。窓からは2人は見えない。ほんとに、仕方がないヤツだ。あのドリルは。

「乃梨子さん。ドリルドリルうるさいわよ。静かにしてよ」
「あ、ごめん。口に出てたかな」
 言葉こそは怒ってるようだけど、可南子さんの顔は和やかだった。
なんていうか、志摩子さんに近いような。自愛の笑み?みたいな?
「どうかした?私の顔に何かついてる?」
 そんな私の視線に気づいたのか、可南子さんはちょっと困ったように笑って顔中を触っている。
「あ、なんでもないよ。うん。しいて言うなら、耳と口と王がついてるかな」
 自分でもなに言ってるかわからないけど、まぁついていたんだろう。恐らく。
「そんな、乃梨子さんの天敵じゃないんだから」
 可南子さんはそう言って声を出して笑っている。なんか意味が通じていてホッとしたというか。
天敵という表現がピッタリすぎて薄ら寒い物を感じたというか、そんな気分になった。

「そう言えば、可南子さんは瞳子みたいに祐巳姉ぇ追わないの?」
 可南子さんが笑い終わって。少し前から疑問に思っていた事を私はぶつけた。
可南子さんも祐巳姉ぇにどこか惹かれた者の1人なんだろうと私は思っているので。ってそう思ったんだけど。
可南子さんはちょっと眉をひそめると、手元のシャーペンをクルリと回した。
「瞳子さんみたいに、はしたない真似はしたくないじゃない。そもそも、ここに乃梨子さんがいるんだから否が応でもそのうちここに出てくるでしょ?」
 なんという事だ。可南子さんってばかなり計算高い女だったんだ。というか、この場合は瞳子が猪突猛進的過ぎるのだろうか。
「ふーん。みんな大変だねぇ、あんな変な人追いかけたり待ち構えてたり」
「嫉妬したの?」
 可南子さんが、不適な笑みを浮かべていた。なんとなく祐巳姉ぇに通ずる物があるような笑みだ。
 しかし、志摩子さんといい可南子さんといい。どうも察しの良い人はすぐにこう言いたがるから始末に終えない。
私はどう反応するのが正解なんだ。その問いかけは。クソッ。

「うん、そうだよ」
 というわけで、今回は肯定してみることにした。嘘じゃないし、志摩子さん相手にはしたくない反応だし。
「へぇ…乃梨子さんがそんな素直な反応するなんて、珍しいのね」
 言いながら可南子さんは笑っているようなそうでもないような反応をした。
思ってたような反応じゃなかったけど、それを気にするまもなく、教室の扉が大きな音を立てて開いた。
 大体分かってたことだけど、あの人の登場だった。

「ノリー。早く帰ろうよー」
「いつ祐巳姉ぇと一緒に帰る約束したって言うんだ」
「祐巳さま、ごきげんよう」
 祐巳姉ぇは肩で息をしながら教室に入ってきて、私はシャーペンの先を祐巳姉ぇに向けていて、可南子さんはイスに座ったまま祐巳姉ぇに頭を下げていた。
というか、瞳子がいない。
「祐巳姉ぇ、瞳子は?一緒じゃないの?」
「うん。途中で祥子さんと会ってね。祥子さんってば怖い顔して瞳子ちゃん連れて帰っちゃったんだ。嫉妬深いね祥子さんってば」
 なんて性悪だこの女狐もとい女狸は。こんなのが姉なんて頭が痛いよ。
「あ、そう言えば可南子ちゃん。この間借りたCDよかったよ。ありがとねー」
「いえ、どういたしまして。気にいって頂ければ幸いですよ」
 にっこりと可南子さんに微笑む祐巳姉ぇと、しっとりと微笑む可南子さん。見事な対比。

「それで、ノリ?まだ終わらないの。もう待ちくたびれたんだけど」
 可南子さんとCD談義が続く中、ふと祐巳姉ぇが私に問いかけた。
正直、そばであんな大声で喋られたら集中できないのでほとんど進んでいなかったりする。
「もう先帰っていいよ祐巳姉ぇ。というかそもそも約束もしてないし。正直、ウザいし」
「ちょっとウザいとか言わないでよー。静かにしてるからさー」
 泣きつく祐巳姉ぇ。構ってやりたいけど、とりあえず今はノート写しが先なんだよ。これ可南子さんのノートだし。
「……そういう事ですから、祐巳さま。私が付き添いますから帰りましょうか」
 纏わり付いてきて正直本気でウザくなってきた祐巳姉ぇを、可南子さんが言葉でひきつけた。ありがとう可南子さん。
「…わかりましたー。可南子ちゃんがそう言うなら、帰るよ」
「それがいいよ。可南子さん、ノート明日返すから。ごめんね」
 いいのよ。可南子さんはそれだけ言うと祐巳姉ぇを引き連れて教室を出て行った。
去り際に祐巳姉ぇが私になにか合図っぽいのを送っていたけど、私にはなんのことだかさっぱりだったのは秘密だ。
 さて。やっとこれで、静かにノートを写すことができる。


 数十分後。やっとノート写しを終えた私は外をみた。日は落ちかけていて、なんか幻想的な光景だった。
「(なんて考えてないで、さっさと帰ろう)」
 帰ったら今日の事で祐巳姉ぇがウダウダ言ってくるだろうけど、まぁしょうがないか。


「…あれ?」
 急いで教室をでて昇降口まで来た私の目に、不思議な光景が見えた。
「…可南子さん、何してるの?」
「あ、やっと終わったの?遅かったわね」
 私の疑問には答えずに、可南子さんは笑って片手を差し出した。
「え?」
「ノート。もう終わったんでしょ?」
「まさかそれだけの為に?明日返すって言ってるのに…」
 これは非難というか、驚きから出た言葉で。
私はかばんから可南子さんのノートを取り出して、そのついでに自分の靴も取り出した。
「まぁ、ありがとね。助かったよ」
「どういたしまして。じゃあ帰りましょ」
 そりゃあ後は帰るだけなんだけど。可南子さんってさっき祐巳姉ぇと帰ったんじゃなかったっけ?
 なんてつぶやくと、可南子さんは意味深に微笑んだ。
「乃梨子さんと帰りたかったから、戻ってきただけよ。さぁ帰りましょ」
 は?
 なんてまぬけな顔で止まっている私の手をとると、可南子さんはさっさと歩いていった。
 え?なにこの状況っていうかさっきの言葉は。
そんな私の心境を知ってか知らぬか。可南子さんはさっさと歩いていく。どんどん歩いていく。
「か、可南子さん。足、速いよ」
 身長差からくるであろう歩幅の違いに悪戦苦闘している私が思わず言った言葉で、やっと可南子さんの足は止まった。
「それもそうね。もっとゆっくり歩かないと面白くないわね」
 そう言うと、可南子さんはパッと手を離して私を見た。
なんというか、それこそ祐巳姉ぇのような、にっこりとした笑みで。

「えーっと…とりあえず聞きたい事があるんだけど」
「祐巳さまとは、バス停で分かれたわよ。忘れ物したって言ったら笑顔でじゃあねー。って」
 私は可南子さんの忘れ物か。
というか私はこんな時どういう顔をすればいいのかわからないんだけれど。笑えばいいんだっけ?
「あはは。祐巳さまみたいな百面相ね。さすが姉妹」
「ぐっ……否定できないのがつらい」
 それほどまでにそろそろ自覚できてきた自分の百面相具合。じゃなくて。
「それもあるけどさ、そうじゃなくて…」
「私が乃梨子さんが好きだから」
 …………はい?
 可南子さんはそう言うと、さっさと歩き出した。慌てて私も後を追う。

「ちょっと可南子さん」
「友情としても、愛情としても」
 それはどういう好きなの?
「足速いよ可南子さん」
「むしろ逆」
 それは私が祐巳姉ぇに似てるから?
「もうすぐマリア様の所だよ」
「細川家に代々伝わる秘術よ」
 さっきから読心術しすぎだろコラ。
「いい加減、普通に話そうか」
「そうね。いい加減疲れたしね」
 ここに、瞳子、祐巳姉ぇ、聖さまに続いて4人目の読心術キャラが登場した。
なんというか。私の周りの人って変わった人ばっかりだなぁ。

 さて。普通に話そうと言っても、むしろ私としては何を話していいのかわからなくて。
心臓バクバクというか。なんか恥ずかしいわけで。
「返事とかはいいよ。乃梨子さんの白薔薇さまに対するガチっぷりほどじゃないから。ただ、私は乃梨子さんを好きだよ。って」
「一瞬聞き捨てならない言葉が混じってたんだけど?」
 不思議な人だ可南子さんっていうのは。どこまでが冗談でどこまでが本音なのかが判断しづらい。
「そうね。言うなら……乃梨子さんが祐巳さまを。祐巳さまが乃梨子さんを思ってるくらいには、好き」
「……難しい好き具合だね」
「そうね」
 言いながら可南子さんは笑った。
 そんな例を出されると、なんとなく理解できてしまうから何もいえない。
「それじゃあ、今日は楽しかったわ。ごきげんよう、乃梨子」
 不意打ち気味に。可南子さんはそう言ってマリアさまに祈るのも忘れて走っていった。
 くそぅ……あんな見事な不意打ち、志摩子さんにやられたって大ダメージだっていうのに。
さっきまでなんというか、『変な話』していた相手に言われたら、私はそれこそどんな顔すればいいんだよ。
「……ごきげんよう、可南子」
 だから私は、なんとなく悔しくて。可南子が去った後に、ボソリとつぶやいて見た。


 家に帰ると、祐巳姉ぇがジットリとした目で私を見ていた。
「……なに」
「ノリって、いつも予想外に萌えさせられると鼻血出してるね」
 萌えさせられるとか言うな。というか拭いた跡を見ながら言うな。
そして嫉妬丸見えな視線で私を見るんじゃない。私は悪くない!!

 あぁもう、どうしようか。明日から可南子さんにどういう顔をすればいいんだってんだ。


終わる


一つ戻る   一つ進む