【2101】 風に吹かれる道名前のない未来図七日間  (クゥ〜 2007-01-03 00:33:03)


 島津祐巳&由乃。その三の続きです。

 【No:2045】【No:2058】【No:2098】―今回。


 島津祐巳と島津由乃は双子の姉妹。
 双子なのに顔が似ていないのは、祐巳がお父さん似で由乃がお母さん似の二卵性だから。
 由乃は、祐巳と由乃の幼馴染で従妹の令姉ちゃんと姉妹になり。
 祐巳は、紅薔薇の蕾である小笠原祥子さまから妹に成りなさいと告白されていた。




 「一週間よ!!その間に、祐巳ちゃん。貴女を私に振り向かせて見せるわ」
 薔薇の館に、祥子さまの声が響いた。


 「はぁ、どうしてこんなことに」
 祐巳は重い足取りで帰宅する。
 「お帰り」
 「由乃……」
 帰宅したのは双子の姉である由乃だった。
 「遅かったね」
 「うん、少しね」
 「祥子さまのロザリオ受け取ったの?」
 由乃は真っ直ぐに祐巳を見つめていた。
 「やっぱり知っていたか……令姉ちゃんから聞いたの?」
 由乃は、今日体調が悪く休んだようだ。だから、今日起こった祥子さまの騒ぎを知るはずはない。
 「うん、さっき一足先に帰ってきて教えてくれた」
 「そうか」
 令姉ちゃんから由乃に伝わることは分かっていたが、少し嫌な気分だ。
 「受け取っていないよ」
 「なら断ったの?」
 「うん」
 「そうか……」
 「でも、保留になっちゃった」
 「はっ?何で」
 祐巳は由乃に説明する。
 令姉ちゃんと別れた後、祐巳は薔薇の館で祥子さまに会った。薔薇の館には薔薇さま方と志摩子さんがいた。
 勿論、祥子さまと祐巳との噂はご存知だったから、楽しそうに笑っていたが、祐巳がハッキリ断ると驚いた様子だった。だが、それさえも祥子さまは予想していたのか祐巳に理由を聞いてきた。
 祐巳が祥子さまのロザリオを受け取らないと決めた理由は、二つ。

 一つは祥子さまを素敵な人だとは思うが、やはりよく知らないこと。

 もう一つは、祐巳自身未練がましいと思うが、令姉ちゃんの存在。

 祐巳は二つの理由をハッキリと述べた。それが祥子さまに対する礼儀だと思ったからだ。
 少し寂しいが、祐巳は仕方がないと思っていたのに祥子さまは違った。
 それなら知り合う期間が欲しいと言って、ついには一週間で祐巳を祥子さまに振り向かせて見せるとまで薔薇さまたちの前で宣言した。
 この言葉に、祐巳はハッキリ言ってドキッとする。
 祥子さま……祥子さまだけではなく。祐巳は、令姉ちゃん以外の人をお姉さまと当てはめて考えていなかった。
 だから、素敵だとは思っても祥子さまのロザリオを断ったのだが、今の祥子さまの言葉に祐巳は惹かれてしまう。
 「……」
 祐巳が少し嬉しそうに言うと、由乃はそれ以上何も言わなかった。



 「ごきげんよう、祐巳ちゃん」
 「ごきげんよう、祥子さま」
 祐巳は約束通りに、騒動の次の日から薔薇の館に顔を出すように成った。
 これは紅薔薇さまこと水野蓉子さまの提案だった。
 蓉子さまは祥子さまのお姉さま。
 祥子さまと祐巳の接点が少ないと祐巳に薔薇の館での手伝いを頼んできたのだ。
 どう考えても宣言した妹を堂々と助けているようにしか思えないが、祐巳の方も祥子さまの宣言に驚いていたので承諾した。
 だが、祐巳は部活をしている。山百合会の仕事を手伝うと成ると両立しなくてはならないが、ここで発言したのが黄薔薇さまこと鳥居江利子さまだった。
 江利子さまは言わずと知れた令姉ちゃんのお姉さま。
 令姉ちゃんは祐巳と同じ剣道部と言うことで、両立に関しては無理やり令姉ちゃんに江利子さまが承諾させ。
 そして、クラスでの調整は白薔薇さまこと佐藤聖さまが妹に成った志摩子さんに、これも命令した。
 こうして祥子さまの宣言は、三人の薔薇さまの承諾と言うよりも後ろ盾を得て実行に移ったのだ。
 祐巳と祥子さまが二階のサロンの入り口で挨拶していると、祥子さまの後ろに複雑な表情の令姉ちゃんと少し怒った感じの由乃の姿が見えた。
 だが、二人には江利子さまから再び関わらないようにとの指示が出されている。
 「ごきげんよう、皆さま」
 祐巳は一先ず挨拶をして祥子さまの横に座る。
 「それでは祐巳ちゃんも来たから、仕事を始めましょう」
 満面の笑みで微笑む蓉子さまだった。
 ……。
 …………。
 「祥子さま、ココは?」
 「そこはね」
 祐巳は成れない書類整理を祥子さまに教わりながら進めていく。
 だが、そのスピードは祥子さまが三枚整理する間にようやく一枚が終わるという感じだった。
 だから、少しでも役立とうとして、せめてお茶くらい淹れようとするが物の置き場所も分からない祐巳は役立たずだった。
 見かねてやってきた由乃に仕事を取られてしまう始末だった。
 それなのに祥子さまは笑っていた。
 祐巳が謝ると。
 「いいのよ、それでね」
 と言われた。
 こう見ると祥子さまは優しいように見えるが、そうではない。祥子さまは怒るところはしっかりと怒る人だった。
 それは迂闊に令姉ちゃんと呼んだときだった。
 祥子さまは、即座に間違いを正させた。そんなこと令姉ちゃんくらいしか出来ないと思っていたのに、それを注意されて祐巳は反省するしかなかった。
 だが、その行動に祐巳は好感を持ったのも事実だった。
 薔薇の館での仕事が終わり、祐巳は本当なら由乃や令姉ちゃんと帰るところを祥子さまと帰宅する。と言っても、校門前までだが。
 「それでは祐巳ちゃん、また明日ね」
 「ごきげんよう、祥子さま」
 祥子さまと別れ少し先で待っていた由乃たちと合流する。
 「ごめんね」
 「別に良いけど、楽しそうね」
 「うん、祥子と良い感じじゃない。もうこのまま姉妹に成っちゃいなよ」
 何故か由乃と令姉ちゃんに祐巳は攻め立てられる。
 だが祐巳には不思議とその言葉が楽しく聞こえていた。


 次の日からの祥子さまの行動は薔薇の館だけに留まらなかった。
 剣道部の朝連に出ていたとき、部活に参加していた生徒達が騒がしくなったので見てみればそこには祥子さまがお姉さまである蓉子さまを連れて見学に来ていた。
 そう言えば令姉ちゃんから聞いたことがある。
 令姉ちゃんのお姉さまである江利子さまの猛烈アタック。当時の黄薔薇さままで連れてきて無言の圧力をかけていたらしいが……。
 まさか、祐巳がその当事者に成ろうとは思ってもいなかった。
 おかげで祐巳と親しくまだ妹のいない先輩たちが、祐巳から一歩引いてしまった。
 まぁ、祥子さまと蓉子さま。紅薔薇ファミリーの登場に萎縮しない生徒は少ないだろう。
 令姉ちゃんと江利子さまのことは剣道部では『黄色の衝撃』と当時言われたらしいが、紅薔薇の場合は『紅い重圧』と言うところだろうか?
 部活にも顔を出した祥子さまは、クラスにも顔を出すようになった。
 受け答えをした桂さんの驚きに満ちた表情は面白かったが、笑ってばかりもいられない。
 既に朝の部活での騒動は伝わっているので、当然クラスの中は騒がしいくなる。
 祐巳はこれ以上騒動が広がらないように志摩子さんに助けを求めることにしたのだが、志摩子さんは祐巳の視線を受けるとただニッコリと笑っていただけだった。
 「しまった、志摩子さんは白薔薇さまの手先だったんだ」
 祐巳は誰にも聞こえないように呟く。
 「祐巳ちゃん、行くわよ」
 「は、はい!!」
 祐巳は仕方なく祥子さまの後を着いていく。
 ……。
 …………。
 「あの……」
 「何かしら?」
 「どうしてココなのですか?てっきり薔薇の館で食べるものだと思っていましたが」
 そう祥子さまに連れてこられたのは薔薇の館ではなかった。
 祥子さまが祐巳との昼食の場所に選んだのはミルクホールだった。
 「薔薇の館だと二人に成れないでしょう?」
 ミルクホールの方が二人に成れないような気がするが、祥子さまにとっては大勢の生徒よりも薔薇さまたちの方が気に成る相手なのだろう。
 「ふふふ、本当ね。黄薔薇さまの言われるとおりだわ」
 「はっ?黄薔薇さまですか?」
 「そうよ、祐巳と二人で昼食を楽しむならミルクホールが良いと教えてくださったの、生徒は多いけど。誰も話しかけてきたりはしないだろうって」
 ……そうか、黄薔薇さまの入れ知恵なんだ。
 確か由乃が江利子さまのことを天敵とか言っていた。なんでもトラブルなどの楽しいことが好きらしい。
 ……権力を持った菜々ってところかな?
 考えるだけで相手にはしたくない気がする。とにかくそんな人が祥子さまに入れ知恵したということはこの騒動をさらに大きくしようと考えているのだろう。
 「さぁ、食事にしましょう」
 「はい」
 嬉しそうな祥子さまを見て、祐巳は頷くしかなく。結局、祐巳は好奇心の目で見られながら祥子さまと昼食を食べ。別れ際に、明日は薔薇の館でと頼み込んでおくしかなかった。


 祥子さまが宣言して数日。
 薔薇の館に出入りする祐巳や部活を視察に来る祥子さまと蓉子さま。
 お昼を仲良く食べる祐巳と祥子さまなど。
 他の生徒たちに大いに噂の種を振りまいていた。
 だが、祐巳はそんな噂を気にしながらも祥子さまと一緒に行動していた。
 一緒にいて祥子さまの知らない姿が見えてくるようにもなった。
 祥子さまは一見完璧なお嬢様だ。
 容姿端麗、頭脳明晰、家柄もよくお金持ちでもある。
 それなのに一般常識に欠けるところがあり、怒りぽいところがあり。食べ物の好き嫌いもかなり多い。我侭お嬢様って感じだ。
 そんな祥子さまに祐巳は興味を持っていた。
 ただの憧れではない。
 祥子さまのことを知りたいと思う気持ち。
 それは姉妹に成るとかではないが、祥子さまは祐巳の中で憧れから、気に成る上級生にと確実に変わってきていた。
 今までの祐巳の世界の基本には、令姉ちゃんと由乃そして祐巳が作る三角があった。だが祥子さまと姉妹に成ると今までの形ではなく成ってしまう。
 由乃と令姉ちゃんとの世界は壊したくはない。
 祥子さまも気に成る。
 祐巳はジレンマに陥りそうで、気分もイライラしてくる。

 「……こんなときは素振りをするに限る」

 祐巳はそう思い、高等部の武道館では祥子さまたちが騒がしいので中等部の方に向かう。
 ……そうだ、菜々にも付き合わせよう。
 この前のお仕置きにちょうどいい。
 「菜々はいるかしら?」
 「ゆ、祐巳さま!?」
 祐巳がヒョコッと武道館に顔を出すと準備中だった剣道部の生徒達、おもに二年と三年が驚いた表情を見せる。
 「少し素振りしたいから場所かして」
 「えっ?別に構いませんが……あのどうしてこちらに?」
 「少しね、今、色々あるの。それと……」
 「なっ!?何ですか、祐巳さま」
 「菜々を借りるね」
 危険を察知して逃げようとしていた菜々を捕まえる。
 「この前、菜々とあったときに私のことをシゴキの鬼とか言っていたからつき合わせたいんだけど良いよね?」
 「あっ、はい、どうぞ」
 祐巳がニッコリ微笑むと現部長はあっさり菜々を差し出し、祐巳は菜々を連れて隅の方に向かう。何やら後ろの方で現部長が菜々に十字を切っているようだが見てみぬ振りをしてあげよう。
 「あの、祐巳さま……何回くらい素振りをするのですか?」
 「私の気が済むまでよ」
 祐巳の言葉に菜々が悲鳴を上げた。
 「いやぁぁぁ!!!!!鬼!!!!」
 シゴクこと決定。
 ……。
 …………。
 「……流石は菜々ね。凄く素敵だったわ」
 「……祐巳さま」
 菜々は膝をつき赤い顔で祐巳を見つめている。
 「やっぱり菜々は最高ね、ふふふ」
 そう言って祐巳は菜々の赤い頬に触れる。
 「祐巳さま……ありがとうございます」
 菜々は目を閉じて涙を流す。

 やっぱり、二時間ぶっ通しの素振りについてこれるのは、中等部の生徒では菜々くらいだから。

 「でも、ダメ」
 ――ごん!!
 だが、ペースが自分のでなかったためか、凄い音を立てて崩れ落ちた。
 「シゴキの鬼……あう」
 「あはは、まぁ、着いてこれたから今の言葉は流してあげるよ。部長!!」
 「はい!!」
 「菜々を、お願いね」
 「分かりました」
 倒れた菜々を部長に任せ祐巳は高等部の方に戻ることにした。
 今日の自主練は祥子さまに伝えてあるから、今から薔薇の館に向かっても祥子さまはいない可能性のほうが高い。それでも祐巳は向かうことにした。
 ……。
 …………。
 「んっ?」
 薔薇の館にはまだ人がいるようだった。
 それは玄関を開け、薔薇の館に踏み込んだとこに事だった。
 「祥子さま!!いいかげんにしてください!!」
 それは滅多に聞くことのない由乃の大声だった。
 祐巳は慌てる。
 由乃が怒ると体調には良くない。
 「お姉ちゃん!?」
 祐巳は急いで階段を駆け上がると話が聞こえてきた。
 「どうして祐巳を妹なんてしようとするのですか!!」

 「えっ?」

 祐巳は足を止め、聞き耳を立てる。
 「あら、私が祐巳ちゃんを妹にしたいと思ったからよ、当然でしょう」
 今度は祥子さまの声。
 「理由を聞いているんです」
 「理由なんてないわ。ただ、妹にするなら祐巳ちゃんが良いって思ったのよ」
 「理由はない?」
 「そうね、あえて言うなら、妹にしたいと思ったのが理由よ」
 何だか扉の向こうが険悪な感じだ。
 「そんな理由なら、祐巳を妹にするのをやめて下さい!!」
 「由乃!!」
 令姉ちゃんの声も聞こえる。
 「嫌よ、祐巳ちゃんは必ず妹にしてみせるわ。私はね、由乃ちゃん、祐巳ちゃんが良いの彼女じゃないと嫌なのよ」
 祐巳は祥子さまの言葉にドキドキしていた。ここまで言われたことなんて無かったからだ。だが同時に怖くもあった、祐巳にそこまで求められるほどの価値があるのかと。
 祥子さまの言葉で、部屋の中から聞こえていた声が聞こえ無くなっていた。
 祐巳は入るチャンスだと思って深呼吸をする。

 「ごきげんよう」

 案の定、部屋の中の空気は最悪だった。しかも、祥子さまに由乃と令姉ちゃんだけと思った部屋の中には三人の薔薇さまたちと志摩子さんまでがいた。
 「……祐巳」
 「……祐巳ちゃん」
 「「「ごきげんよう、祐巳ちゃん」」」
 「ごきげんよう、祐巳さん」
 驚いている由乃や祥子さまと違って薔薇さまたちは祐巳を見て余裕の表情をしている。
 「今、祐巳ちゃんの話で盛り上がっていたのよ」
 「……知っています。声が外まで響いていましたから」
 「「祐巳!!ちゃん!!」」
 祐巳は誤魔化しても仕方がないと聞いていたことを認めた。当然、祥子さまと由乃は驚く。
 「……普通は誤魔化すようなところなのに」
 聖さまが祐巳の反応に楽しそうに笑っている。
 「本当、楽しいわ」
 江利子さまは嬉しそうだ。
 「あなた達、いい加減にしなさい」
 蓉子さまは呆れているようにも見えるが……今、祐巳を見て笑った。
 祐巳は本能的に恐怖を感じた。
 「さて、祐巳ちゃん」
 「は、はい!!」
 「話を聞いていたのなら説明は良いわね。祐巳ちゃんはどうしたいの?」
 蓉子さまはニッコリと微笑んだまま祐巳を見つめている。
 祥子さまも由乃も動かないし、発言もしない。

 「私は……いえ、それ以前に祥子さまとの一週間はまだ終わっていません。約束の一週間が過ぎてから決めても良いでしょうか?」

 祐巳は最初こそ戸惑ったものの最後にはしっかりと発言した。
 「つまり、一週間はどんな結果を選ぼうと祥子に付き合うということね」
 「はい」
 「二人はそれで良いかしら?」
 蓉子さまは祥子さまと由乃を見る。
 「はい、もとよりそれが約束ですし、ただ一言言わせてもらえれば一週間以内に祐巳ちゃんを振り向かせるつもりでいますから、残り数日で祐巳ちゃんを振り向かせます」
 「おぉ、祥子は凄いね……で、由乃ちゃんは?」
 聖さまが楽しそうに由乃を見る。
 「……それが祐巳の考えなら従います」
 「OK、これで決まりね」
 「あの、お姉さま」
 「令、貴女に発言の権利はないわよ。これは祥子と祐巳ちゃんの問題で、由乃ちゃんは祐巳ちゃんの双子の姉として発言を認めているだけ。少し前に同じこと言ったわよね?」
 「はい……」
 令姉ちゃんは江利子さまに言われ発言を控える。

 「それでは祐巳ちゃん、残り数日。頑張ってね」
 「祥子もね」
 「由乃ちゃんも!!」

 三人の薔薇さまが祐巳たちを見ながら微笑んでいた。

 それを見て祐巳は、少し早まった気分に成った。






 まだ、続く……どうして?

                            『クゥ〜』


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