【2108】 愛姉弁当爆発  (タイヨーカ 2007-01-06 02:19:40)


 ドッカ〜〜〜〜ッン!!!



 さわやかな昼の爆発音が、澄み切った青空にこだまする。
 マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も悪魔のように黒くなった顔で、爆心地から離れていく。
 汚れたばかりの心身を包むのは、深い色の制服    はボロボロ。
 スカートには黒いススが、白いセーラーカラーも真っ黒。それを直さないのがここでのたしなみ。
もちろん、爆心地の中心にいて素っ裸になってしまったなどといったはしたない生徒など存在していようはずもない。
 私立リリアン女学園。
 明治三十四年創立のこの学園は、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統あるカトリック系お嬢さま学校である。
 東京都下。武蔵野の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、神に見守られ、幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられる乙女の園。
 時代は移り変わり、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、十八年通いつづければ温室育ちの純粋培養お嬢さまが箱入りで出荷される、という仕組みが未だ残っている貴重な学園で今日も、各地で大きな爆発音が鳴り響く。



「……なにもかも、お姉さまもせいですわ」
「あはは。なんだか、悪いことしちゃったかなぁ」
 紅薔薇姉妹は、そう言ってため息をついた。

「そもそも、なんでも真似しようなんて精神がダメなのよ。ダーメ」
「でも、そもそもそれをした人も、真似した人もある意味ですごいですよね」
 黄薔薇姉妹は、そう言って笑っている。

「みんなダメね。私みたいに、威力を最小にして見た目だけをハデにすればいいのに」
「お、お姉さまのはマジで危険でしたよ。威力最小とかウソでしょ?ねぇ、志摩子さん?ねぇ?」
 白薔薇姉妹は、そう言ってにらみ合いをしている。


 ここは現在の山百合会の総本山、薔薇の館セカンド。
 今日の議題は最近リリアンではやっている『爆発弁当』についてである。

 ことの発端は一週間前。
 紅薔薇である福沢祐巳が、妹である紅薔薇のつぼみ・松平瞳子に対して用意した『ビックリ弁当』が原因である。
弁当に喜びふたを開けた瞳子を襲ったのが、ビックリ弁当と名づけられた一種の『兵器』であり、
その日、薔薇の館が半焼するという大事故となった。
 現在の薔薇の館は復興作業中であり、会議などはその隣に新設された『薔薇の館セカンド』で行われている。

 そんな爆発事件から数日経ったある日、再びリリアン校内で謎の爆発が起こった。
 なぜそうしたのか。原因は不明だが、一般生徒が紅薔薇姉妹の真似をし、『ビックリ弁当』別名『爆発弁当』を製作。
それを自分の妹に開けさせたという事件である。
 一件だけならまだどうにかなる。しかし、その爆発事件は日に日に増殖。
 今となってはリリアンにとって弁当はイコール兵器であり、お昼休みの時間は戦場である。

「でもなー、私もまさかあんなに爆発するなんて思ってなかったし…」
「そもそも爆発させるなんて事を考えないでくださいませんかお姉さま!?」
 祐巳のどこか見当違いな発言に、瞳子は血の涙を流しながら講義する。
 あれ以来、瞳子の自慢のドリルはどこか寂しげである。おそらく爆発の影響で故障したのだろう。

「よし、こうなったらもうしょうがない。お弁当撲滅作戦。略してOBB作戦の決行よ!!」
「お姉さま、全校でどれだけのお弁当があるか理解していますか?」
「それよりむしろ、その中から爆発弁当を見つけるって作業の方が大変じゃないですか?」
 勢い良く立ち上がったはいいが、下級生である乃梨子と菜々の勢いを殺す発言に、由乃は耐え難い衝動を覚えた。
とりあえず近くの瞳子のドリルへ発散しておくことにした。
「い、痛いです由乃さま!」
「瞳子ちゃんのドリルなんて、祐巳みたいなツインテールに変えてやる……」
 それはそれで幸せそうな顔の瞳子だったとか。

「うーん…事の発端として学園長直々の指令なんだけど、正直難しいなぁ……」
「もういっそ、お弁当を禁止をするのはどう?」
 志摩子はいい事をおもいついた。といった様子で手をたたいた。
が、乃梨子達はあまりいい顔をしていない。
「……なにか不満があるの?乃梨子」
「いや、志摩子さんが考えたことに意義を唱えたくないけど、それは難しいんじゃない?」
「そうね。むしろ禁止したら逆に持ってきたくなるじゃない。普通」
 それはお前だけだ。とみんなが心に思いながらも、それでは話が進まない。
 あれがいい。それはだめ。これがいい。それもだめ。では完全に無限ループとかいたちごっことかである。

「うーん……あ、そうだ。お腹が空いてるからいい考えが浮かばないんじゃない?」
 完全に意見が無くなって数分。祐巳が楽しそうに大きなバスケットを取り出した。
「お、気が利くじゃない祐巳〜」
「そうね、少しお腹が空いてるし、いただこうかしら」
「お姉さまが作ってくれたものなら、なんでも食べますわ!」
「……そう言えば瞳子。結局爆発弁当の爆発以外の部分は食べちゃってたね…」
「よくあんな消し炭みたいなもの食べれましたね、瞳子さまは…」
 さっきまでの重い空気はどこへやら。わいわいがやがやと活気がついてきた。
「じゃ、開けちゃうよ〜」
 そんな空気に満足してか、祐巳は勢い良くバスケットのフタをとった。




 ちゅどぉ〜〜〜〜〜〜っん!!




 その日。薔薇の館セカンドは1週間の短い役目を負え、全壊した。

「あははー。ごめんみんなー」
 廃墟の中、真っ黒になりながらも笑っている祐巳。
 そこで、祐巳以外の全員の意見が一致した。


 結論。とりあえず、祐巳をどうにかしないと終わらない。


 後日、祐巳の持ち物検査を徹底的に行っている山百合会メンバーが各地で目撃された。
 しかしそれでも祐巳発祥の爆発事件は後を絶たず、リリランが平和な時代を取り戻せるのは、まだまだ先になるのだった。



 終劇!!


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