【2123】 はぴねすりらっくすプリクラ貴女への気持ちは  (クゥ〜 2007-01-11 23:10:15)


島津祐巳&由乃、その三の四。

その一【No:2045】その二【No:2058】その三【No:2098】【No:2101】【No:2109】


 島津祐巳と島津由乃は双子の姉妹。
 双子なのに顔が似ていないのは、祐巳はお父さん似で由乃はお母さん似の二卵性だから。
 そんな二人も高等部に上がり、幼馴染で従妹の支倉令と由乃はリリアンでの姉妹に成り。そして、祐巳は紅薔薇のつぼみである小笠原祥子さまから姉妹の申し入れをされていた。
 本日は、その祥子さまとのデートである。




 「祐巳ちゃん……」
 「祥子さま……」
 駅前、そこに一人は大人っぽいスーツ姿の女性。もう一人は、どう見てもゴスロリの少女が並んでいる様子は目立っていた。
 「大丈夫、令が連絡をくれたわ、洋服がダメになったから少し変わった格好で来るって……」
 これが少し変わった格好だろうか?
 「でも、祐巳ちゃん。お人形さんみたいで可愛いわよ」
 祥子さまの目は本当に嬉しそうだ。もしかしてとは思うが、祥子さまはゴスロリを知らないのでは?
 「でも、そういったファッションもあるのね、私も試してみようかしら」
 そう言って笑う祥子さま。
 祥子さまは笑いながら、どこに売っているのと祐巳に聞いてくる始末。祐巳は慌てて令姉ちゃんからの贈り物だと伝え、お店も知らないと答えておく。
 「そ、それよりも祥子さま!!デートを始めましょう!!」
 「あぁ、そうね。せっかくのデートなんですものね」
 慌てて話を変え、祥子さまは祐巳の服のことを諦めてくれたようだ。
 「それで、どちらに行かれるのですか?」
 「そうね、私から誘ったのだし一応は考えているのだけど。祐巳ちゃんは希望はあって?」
 祐巳としては一先ず普通の服が欲しかった。
 「あの何処か量販店の服屋さんで着替えたいのですが」
 「あら、似合っているのに……でもそんなにその服が嫌なら制服でも良かったのにね」
 「あっ……」
 祐巳は制服に意識がいっていなかった。
 確か部屋にいたときに視界のすみに見たような記憶もあるが、それでも制服を着るということに結びついていなかった。
 「祐巳ちゃん、どうかしたの?」
 「いえ、少し自己嫌悪に……」
 「そう、ところでデートなのだけどリクエストがないのなら、私に任せて欲しいのだけど、それに私が向かうのは人が少ないからその姿でも大丈夫だと思うの」
 祐巳は、人が多い少ないの話ではないと思いながらも頷く。
 「よかったわ。さぁ、こちらよ」
 そう言って祥子さまは黒塗りの高級車の前に立った。
 すぐに運転手の人が降りてきてドアを開く。
 「乗って」
 「……」
 祐巳は祥子さまに言われるままに車に乗り込んだ。
 「あの、どちらに」
 「別荘の方にね。今日のデートは祐巳ちゃんに私のことをもっと知ってもらうのが目的だから」
 「祥子さまのこと?」
 別荘と言う言葉にも驚くが、祥子さまが自分のことを知ってもらうために向かうという言葉に驚く。
 「そう」
 祥子さまは楽しそうに頷き。
 車は駅を離れた。

 その様子を見ていた者たちがいた。
 「あぁぁぁ」
 「どうしましょう」
 「写真は撮ったけど……」
 「まぁ、祐巳さんのあの姿が撮れましたし」
 「そうね、あの姿なら、あのお方たちも満足してくださいますわよね」
 「早く現像したい」
 駅の柱の横にいた怪しい三人組は追跡を諦めた。だが、その表情には落胆の色は見えなかった。


  車が駅を離れて少しすると祥子さまは酔い止めの薬を飲み、祐巳の横で眠ろうとしていた。
 祐巳にも祥子さまは酔い止めを渡し、一応、祐巳も飲んだ。
 祥子さまは車などの乗り物に弱いらしく、よほどの事情がない限りは海外など遊びで行くことなど考えられないらしい。
 しかし、これがデートかなと思う。
 ただ、二人で車に乗っているだけ。祥子さまはこんな姿を祐巳に知ってもらいたかったのか?
 疑問が噴出す。
 祥子さまにとっての祐巳とは?
 祐巳にとっての祥子さまとは?
 それを知るためのデートのはずなのだが、祐巳はただ車の外を眺めていた。
 ……。
 …………。
 「祐巳ちゃん、祐巳ちゃん」
 「……ん?」
 「着いたわよ」
 祐巳は自分を起こしたのが祥子さまだと一瞬理解できなかった。
 「……祥子さま?」
 「ふふふ、おはよう。祐巳ちゃん」
 酔い止めが効いていたのか眠ってしまったようだ。祐巳はようやく、祥子さまとのデート中だったことを思い出す。
 「いいのよ、元はといえば私のほうが先に眠ってしまったのだから、それよりもここから先が本当のデートよ」
 そう言って祐巳の手を引く祥子さま。
 祐巳が車から降りると、そこにはちょっとした小奇麗な感じのペンションみたいな感じの別荘があった。
 正直、祥子さまの家の別荘と言うことで、少し大げさな感じの屋敷を想像していた。
 「お嬢さま!!」
 別荘を見ていると中から老夫婦が出て来る。
 「祐巳ちゃん、こちら沢村さんご夫妻よ」
 「ごきげんよう、島津祐巳です」
 リリアン生らしく出来るだけ優雅に振舞う。
 「こちらこそ。ところでお嬢さま方、お昼は?」
 沢村さんに聞かれ、祐巳は朝のゴタゴタで朝食もとっていないことを思い出す。
 ……あっ!!やば!!
 食事の単語に、お腹が空いているのを体は思い出したのか祐巳に危険が迫った。
 祐巳は不味いと思ったが遅かった。

 カエルの鳴き声が響いた。

 全てが台無しになった瞬間だった。
 「あらあら」
 「それでは急いで用意しましょう。お嬢様は?」
 「私はお茶だけで良いわ」
 「……はい」
 「松井さんもどうですか?」
 「では、頂きます」
 顔を真っ赤にした祐巳の横で昼食の話は進む。
 「祐巳ちゃん、さっ、こちらよ」
 祐巳は祥子さまに案内され、別荘のテラスで沢村さんが用意してくれた昼食を食べたが、祥子さまは紅茶を一杯だけ飲んだだけだった。
 祐巳も食事を終え、紅茶をいただく。
 運転手の松井さんや沢村夫妻は。祐巳たちに気を利かせてか奥のほうで休んでいるようだ。
 「お茶をいただいたら、デートに出かけましょう」
 「えっ?」
 「祐巳ちゃん、忘れないでね。今デートの途中よ」
 忘れていたわけではないが、自然に囲まれたこのテラスで祥子さまとのお喋りもそんなに悪くは無いと思っていたところ。
 「今は観光シーズンから時期が離れているから、ゆっくりとお店や買い物が楽しめるわよ」
 そう言って祥子さまは積極的に祐巳を連れ出そうとする。
 祐巳もそんな祥子さまに連れられて、街に行くことにした。
 ……?
 「祐巳ちゃん、早く」
 「あっ、はい」
 祐巳は、出かける前に飲んだ後のカップを片付けようとして祥子さまの席に、いつの間に置かれたのか破れた白く小さい紙の袋を見つけた。
 砂糖の袋ではないようだ。
 そこに沢村さんがやって来て早く祥子さまとデートを楽しんでいらっしゃいと祐巳を急かすので、祐巳は少し気に成った袋のことを忘れて祥子さまの後を追った。
 祥子さまの別荘から街までは湖畔沿いを十分くらい歩いた。
 街は、確かに観光シーズンでないためか、開いているお店も少ないが、観光シーズンを前に開店準備をしているお店も見受けられ。
 街には以外に人が溢れていた。
 そんな中をゴスロリで歩く祐巳。
 一瞬、祥子さまの嘘つきと思ったが祥子さまは祐巳の姿が気に入ったようで、洋服屋さんを避けていく。
 おかげで祐巳の足取りは重く進まない。
 それを見て祥子さまは、突然、祐巳の手を握った。
 「いいから、いいから、旅の恥はかき捨てよ」
 祥子さまは笑って祐巳を見て何だか信じられないことを言っているが、祐巳の方は突然握られた手の方にドキドキしていた。
 少し服は場違いだが、祥子さまとこうして歩くのは楽しいと思える。祥子さまは、人気のあるお店や人気スポットなどにも祐巳を案内した。
 その後、日差しが暑いのでアイスを買い、祥子さまと二人で木陰のベンチで食べていたのだが……。
 「祥子さま?」
 「えっ?なに」
 祥子さまは時々祐巳の話を聞いていないときがあった。
 「いえ、何だか調子が悪そうなので」
 「そんなことはないわよ」
 祥子さまは祐巳の言葉に笑って応えた。だから、祐巳はそうなのだと思ったがどうにも心配が拭えない。
 由乃で、他人の体調のことを、つい心配してしまうのが癖に成っているせいかも知れないが……。
 「ゆ、祐巳さま!?」
 そこに祐巳は誰からか呼ばれ、突然の声に振り返る。
 こんな所に知り合いは居ないはずなのだが、振り返り固まった。
 「……な、菜々!?」
 そこには四人の女性がいた。
 祐巳はその四人とも知っていた。
 「し、島津さん」
 「た、田中さんたちまで!?」
 そこに居たのは菜々と、菜々のお姉さんたちで太仲女子の田中三姉妹。
 その中の一人は祐巳と同級生なので試合になるとまずぶつかる相手。
 恐ろしく冷たい空気が流れる。
 だが、祐巳にとって問題は田中三姉妹ではない。
 そう思ったとき菜々の表情が歪んだ。

 どう見ても笑っている方に……。

 「菜々!!」
 祐巳の叫びと同時に菜々は逃げ出した。
 頭の中には、菜々に口止めをしなければ成らないと言う気持ちだけがあった。
 祐巳の危険人物ランキングで最近でこそ薔薇さまたちが上がってきたが、それまでは常に一位だったのだ。
 祐巳はゴスロリだろうが、田中姉妹が見ていようが菜々を捕まえ口止めをしなければと駆け出した。
 それを見て祥子さまが慌てて立ち上がり。
 「祐巳ちゃん!!」
 祐巳を呼んで……。
 ――どさっ!!
 祥子さまは倒れた。

 「さ、祥子さま!!」

 祐巳の声が響いた。



 「……ん……祐巳ちゃん」
 「はい」
 祥子さまが目を覚まし、付き添っていた祐巳は笑いかけた。
 「ここは……」
 「別荘のお部屋です」
 祐巳と祥子さまが今いるのは別荘の一室だった。
 ここは祥子さまが、お泊りに成るときに使う部屋との事だ。
 「お医者さんが言うには、車酔いと生理が重なっただけだからちゃんと寝ていれば夕方には回復するだろと言う事でした」
 祐巳は一応、祥子さまにお医者さんの報告をする。
 だが、祥子さまはご自分の体の体調よりも祐巳の方を心配していた。
 「私、デートをダメにしてしまったのね。ごめんなさい」
 祥子さまはベッドで横になったまま頭を下げる。
 「本当です。体調が悪いのを薬で誤魔化してまでデートするなんて……」
 「ごめんなさい」
 「謝ってほしいのではなく、体調が悪いというのなら言ってくださいと言っているんです」
 「でも、せっかくの祐巳ちゃんとのデートなのに」
 「……そう言ってくださるのは嬉しいのですが、病気とかで約束が無くなるのは慣れていますから、言ってもらった方が楽なんです」
 体調が悪く倒れるというのは、どうしても由乃を連想してしまう。
 「それって由乃ちゃんのこと?そんなこと言っていいの?」
 「そうですが……別に隠すことでもないですし、由乃の方もハッキリ言った方が楽なようなので問題はありませんよ。むしろ気にして言わない方が由乃を怒らせますし」
 そう、由乃は逆に令姉ちゃんのように曖昧にするほうが許せない性格をしている。そして、令姉ちゃんが由乃に怒られる理由の一つでもある。
 「ふふふ、貴女たちは本当にお互いが分かっているのね。そういえば洋服、由乃ちゃんが何かしたのでしょう?」
 「知っていらしたんですか?」
 祥子さまの言葉に少し驚く。事情を知っているのは、祐巳と由乃そして令姉ちゃんにお母さんくらいなはずなのに、誰から聞いたのか。
 令姉ちゃんが、そこまで言うとは思えない。
 「何となくそう思ったのよ……でも、当たりみたいね」
 うっ!!顔に出ていたようだ。
 「話、聞かせてもらってもいいかしら?」
 「……そうですね」
 祐巳は少し躊躇したが頷いた。

 「……由乃は不安なんです」
 「不安?」
 「はい、由乃と令姉ちゃんそして私……私たちは幼い頃からそれこそ物心ついたときには一緒でした。どこかにいくのも遊ぶのも、そのうち令姉ちゃんが家の剣道を習い始め私も令姉ちゃんのマネをして剣道を始めましたが、由乃は体が弱く出来ませんでした。そして、それが逆に令姉ちゃんが由乃を大切にさせ、私はそんな由乃が羨ましくて、由乃はそれを気にして私に気を使うようになった。これが幼い頃からの私たちの関係だったんです」
 祥子さまは祐巳の言葉を真剣に聞いている。
 「そこに他人が入る余地は無かったんです……が、そこに入ってきたのが黄薔薇さまでした」
 「黄薔薇さま?」
 「そうです。正直、黄薔薇さまが令姉ちゃんのお姉さまになったときは、私も由乃も複雑な気分でした。確かに高等部に成ればお姉さまが出来るのは普通なのですが、令姉ちゃんに、お姉さまが出来るということが不安に成ったんです」
 「それは祐巳ちゃんも?」
 「由乃もですが、私こそがだと思います」
 祐巳は頷く。
 「それまで令姉ちゃんの隣に立つ人は居ませんでしたから、私と由乃だけの令姉ちゃんだったんです。それが黄薔薇さまの登場で、私は焦りました」
 「焦った?」
 「はい、令姉ちゃんの片方に黄薔薇さまが立ったことで、もう片方に立つのは妹と言う一人だけだと分かったんです。それまでも漠然とは思っていたことでしたが、黄薔薇さまが令姉ちゃんのお姉さまに成った事で本当に分かったという感じでした……」
 「祐巳ちゃんは、本当に令の妹に成りたかったのね」
 祐巳は祥子さまを見て、そして、頷いた。
 「はい、でも、やっぱり由乃には敵いませんでした。昔から分かっていたことだったのですが」
 祐巳は笑った。別に自虐的な笑いではないが、まぁ、少しはそれもある笑いだった。
 「でも、それでどうして由乃ちゃんが不安に成るのかしら?」
 「それは由乃が令姉ちゃんの妹に成っても、それは三人とも分かっていたことだったので三人の関係に変化はないという事です。令姉ちゃんの妹が由乃それで双子の私、黄薔薇さまのときのように新たな登場人物は居ませんでしたから」
 「そう、そこに私が祐巳ちゃんを妹に宣言したことで、私が新たな登場人物に成ってしまって由乃ちゃんを不安にさせた?」
 「そう……ですね」
 祥子さまの言葉に祐巳は頷く。
 「私たちの関係が変わっていく、そんな不安があるのだと思います。いくら私が関係は変わらないと言っても、やっぱり今までと本当に変わらないかと言われれば、即答は難しく成ってしまいます……」
 祐巳は少し言葉をため。

 「……現に、私は今ここにいますから」

 祐巳は言い、祥子さまはその言葉に微笑んだ。
 「そうね、そうすると私は祐巳ちゃんを由乃ちゃんから奪おうとする悪人に成ってしまうのね」
 「悪人は嫌ですか?」
 「いいえ、素敵な役だわ。でも、そうなると由乃ちゃんと対決しないといけないわね」
 「対決ですか?」
 祥子さまは奇妙なことを言う。
 「そうよ、大事な対決……ねぇ、祐巳ちゃん」
 「はい」
 「話は少し変わるけど、私がどうしてこんな所まで来て祐巳ちゃんとデートしようとしたか分かる?」
 そう言われても、祐巳には分からないので首を振る。
 「ここはね、私がとても好きな場所なのよ……」
 そう切り出して祥子さまは少しだけここでの思い出を話してくれた。
 お父さまのこと。
 お母さまのこと。
 お爺さまのこと。
 ここにある思い出。
 「だから、ここで私のことをもっと知って欲しかったの、失敗してしまったけれどね」
 そう言って祥子さまが笑ったので祐巳も笑った。
 「……それにしても本当に迷惑をかけてしまったようね」
 少し申し訳なさそうに言う祥子さま。
 「いいえ、私は良いのですが田中さんたちに改めて御礼を言わないと」
 「田中さん?そういえばあの時、祐巳ちゃんの知り合いの方に会ったのよね。お友達だったの?」
 祥子さまの言葉に祐巳は首を振る。
 「田中さんたちは太仲女子の剣道部の人たちで、そのお爺さまが大きな道場を開いていて、そのお弟子さんの開いた道場がこちらにあるようで来ていたそうです」
 「そうなの?あの菜々って子は親しく見えたのだけど?」
 「菜々ですか……菜々は違います。あの子だけは家庭の事情でリリアンの中等部に在籍しているんですよ」
 「菜々さんも剣道を?」
 「えぇ、勿論。それも強いですよ」
 祐巳は嬉しそうに菜々のことを話す。
 祥子さまは少し考え、祐巳を見る。
 「それでは将来の祐巳ちゃんの妹候候補なのね」
 「えっと……それはないと思いますよ。菜々は中二ですし」
 「あら、白薔薇さまと志摩子と同じでしょう」
 「それは、そうですが……」
 戸惑う祐巳を、祥子さまは楽しそうに見ている。
 「でも、今は将来の妹よりも、お姉さまよね」
 「えっ?」
 真っ直ぐ祐巳を見る祥子さまに今度は顔を赤くする。
 「祐巳ちゃん、顔が真っ赤よ」
 「祥子さまこそ……」
 「それはそうよ、だって今から私は祐巳ちゃんに大事なことを言わないといけないんだから」
 「大事なこと……あっ……」
 祐巳の顔はさらに赤くなる。
 「祐巳ちゃん」
 「は、はい!!」

 そして、祥子さまは微笑んだ。



 「ありがとう、祐巳」






 やっぱり終わらなかった……でも、どうにか次で、その三は終わりそうです。
 ここまで読んでくださった方々に感謝!!


                                     『クゥ〜』


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