明日は、学区内対抗の交流試合。交流試合といっても成績はもちろんでる。
2年生が主体となるこの交流試合。お姉さまと一緒に試合に出る最後のチャンスでもある。
だから、私は、お姉さまにとがめられるのを承知で、このラケットを使うことに決めていた。
グリップをまき直し、ガットの張りを調整する。
明日、絶対勝ちたいから。だから、私はこのラケットを使うと決めていた。
会場でこれを取り出したとき、お姉さまは少し複雑そうな顔をしたけれど、次の瞬間にはにっこり笑ってくれた。
それは、去年卒業された、お姉さまと同じくらい大好きだった人のラケット。
「それ……。桂ちゃんは、あの人のこと好きだったもんね。バレンタインにもこっそりチョコ渡していたみたいだし」
「ど、どうしてそれを……」
「あのね、妹のことよ。それくらいわかるわよ。卒業のときにそのラケットもらって半泣きだったこともね。私の前でそのラケットを出した以上、負けることは許さないわよ」
「勝つつもりです。今日はお姉さまに私の勝つところを見て欲しいと思ったから、このラケットを持ってきたんです。私、お姉様のこと大好きです。でも、試合になるといつもいい成績のこせなくて……。」
リリアンの部活内で行う練習試合での成績は悪くない。比較的うまい方に入るくらいだ。
でも、試合となると緊張して、最後の最後に負けてしまうことがほとんどだった。私の公式戦での成績は、圧倒的に負けが多い。
「お姉様と一緒に試合ができる最後のこの交流試合はどうしても勝ちたくて、だから、このラケットを持ってきました。本当は、お姉様の応援だけで勝てればいいのですけど、それができないから」
言いたいことはいっぱいある。でも、気持ちだけが大きくなって、言葉をうまく紡ぐことができなかった。
「がんばってらっしゃい」
お姉さまはその言葉に目を細めて頭をなでてくれた。
そうは言ったもの、私のテニスのレベルは人並み。ラケットを変えたからって、腕が良くなるはずはない。
だから、最低一試合お姉さまに、自分の勝ったところを見てもらう。
それがこの試合の目標だった。
でも、そんな目先の強い目標が良かったのか、あの人のラケットおかげか、お姉さまの声援のおかげか、気がつくと次は決勝戦。自分でも信じられなかった。
本当にこんなところにいてもいいのだろうか、そんな不安な気持ちをお姉さまは吹き飛ばしてくれた。
「そのラケットの効果かな? ちょっと悔しいぞ。でも、今日はいい試合してるよ。でも、桂ちゃんはまだ、上のレベルにいけるよ」
「はい」
「次は強豪だけど、勝つところも見せてくれるんだよね?」
「えっと……」
「まあ、そんなに気負わなくてもいいよ。誰もが、相手が勝つと思ってるよ。だから、桂ちゃんは、勝ち負けじゃなく、私に見せたいテニスをしておいで」
「はい!」
こういうところはやはりお姉さまだなあと思う。私の気持ちがわかった上で、優しくフォローしてくれるのだから。
「桂ちゃん! 次はいよいよ決勝ね、悔いの無い試合をしてらっしゃい!!」
「はい! お姉さま!!」
私はあのラケットをぎゅっと握って決勝のコートに立った。
対戦相手は、今回の交流戦の優勝候補筆頭。勝てるとは思わない。
だから、勝とうと思わなくてもいい。でも、負けようとは思っていない。
お姉さまに教えてもらった事を全部出したいから。全部見せたいから。
審判のコールとともに、ボールを高く上げ、サーブを打ち込んだ。
自分のできることを全部やろう。私には、お姉様とあの人がついてる。
そう思うと、不安な気持ちがスーと消えていった。
そして…………。
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