「ふうむ」
自他共に認める写真部のエース、武嶋蔦子さんが写真を眺めてため息をついている。そんなシーンを見てしまったら真美としても見過ごすわけにはいかなかった。いろんな意味で。
「どうしたの?」
「ああ、真美さんか」
「ご挨拶ね。なに? なんの写真?」
蔦子さんは黙って机の上の一枚の写真を指差した。
「あら? 志摩子さんじゃない。最近カメラ目線ばっかりでまともな写真が撮れないって言ってたけど……」
そのへんの事情は【No:105】,【No:108】,【No:149】あたりに詳しいが、この写真の志摩子さんの表情は自然なものに見えた。
「これは良いんじゃない? どうやって撮ったのよ?」
「……偶然撮れた」
「え?」
「全く別の被写体を追ってたのよ。カメラを流していた時にたまたま志摩子さんがフレームに入ってきて、条件反射でシャッターを切ったの」
「条件反射って……まあいいけど。狙って撮れたわけじゃないから浮かない顔をしていたの?」
「まあ、そうなんだけど。でもこれで一つわかったことがあるわ」
蔦子さんは眼鏡をくいっとずらすと、顔の前で手を組んだ。
「わかったこと?」
「つまり、志摩子さんは気配に反応してるってこと」
「気配?」
「自分に向けて写真を撮ろうとする意識とか、シャッターを押す瞬間の気配とか。言葉はなんでもいいんだけど、なにかそういったものに反応してるってこと」
「……なんだかよくわからない世界だけど、つまり他のものを撮ってた時に偶然写ったものだから撮れたってこと?」
「たぶんね。でもそれならそれで、やりようはあるわ」
蔦子さんはニヤリと笑った。こういう時の蔦子さんは凄みがあるというか、ちょっと不気味で、ちょっとカッコイイ。
「やりようって、どうするのよ?」
「ようは気配、だかなんだかを、消せばいいのよ」
「……そんな簡単にできるものなの?」
「簡単にはできないでしょうけどね」
あれから1週間程経つが、蔦子さんはずっと学校を休んでいる。
「笙子ちゃん」
「あ、ごきげんよう、真美さま」
「ごきげんよう。ところで、蔦子さん最近どうしてるか聞いてる?」
「はあ……」
笙子ちゃんは困ったように笑った。
「なんでも、インドで修行してくるとか言ってそれっきり……真美さまも聞いていないのですか?」
「………」
ああ、本気なんだね、蔦子さん……
友人の一日も早い社会復帰を祈らずにはいられない真美だった。