薔薇の館、ビスケット扉を開けると、祐巳さまが泣いておられる様子がいきなり飛び込んできた。
「ゆ、祐巳さま?いったいどうなされたのですか?」
私は慌てて祐巳さまに駆け寄ると、祐巳さまは泣き腫らした目で瞳子を見上げて、
「と、瞳子ちゃ〜ん。」
と言って私に抱きついてこられた。
「ゆゆゆ、祐巳さま!?本当に、どうなされたのですか?」
私が困惑していると、祐巳さまは私から離れて一冊の本を取り出した。
「あのね、令さまから小説を借りて読んでたんだけど、余りにも悲しい小説でね。」
そう言って祐巳さまは、私に、読んでみて、と本を渡される。
その本の題名は『リバーズ・エンド』。全6巻からなる小説で、悲しい運命を受け入れた少女と、過酷な運命を背負う少年の淡いラブストーリーである。透明感のある独特な文体が特徴的であった。
「私ね、それを読んであの雨の日を思い出したの。」
「祐巳さま……。」
かつて自分が引き起こしたしまった事件の事を言われ、心が軋む。
「それでね、この男の子の気持ちに共感しちゃて……。
おかしいよね。お姉さまはもう卒業されたのに、こんな事を思い出すなんて。でもね、もうあんな事、起こって欲しくないから、きっと思い出しちゃうのかもしれない。」
そう淡々と語る祐巳さまに、私はお借りした本を祐巳さまに手渡す。
「瞳子ちゃん?」
「私は、ずっと祐巳さまの側にいますわ。断られてもずっといますから。明日も明後日も…ずっと……。」
私の言葉に、祐巳さまは優しい笑みで浮かべて、私を抱き締める。
「ありがとう、瞳子ちゃん……。」
〜川の終わりは海の始まり〜
〜絶望の終りは希望の始まり〜
つむぐ明日に思いをたくし……。