【2160】 ハートを射止めること手芸部の商い  (砂森 月 2007-02-18 22:10:17)


※未使用キー限定タイトル1発決めキャンペーン第11弾です
 ところどころ抽象的な部分は想像にお任せします(何



 とある放課後、まだ紅薔薇姉妹2人だけの薔薇の館に珍しい客がやってきた。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう。さっそく来たのね」
「ええ」
「あの、お姉さま。なぜ手芸部の部長がここに?」
「うふふ。それはね……」

「ごきげんよう……って、祐巳さん?」
「うぅ、恥ずかしい……」
 程なくやってきた志摩子と乃梨子が目にしたのは、手芸部部長手作りの妖精風ワンピースを着た祐巳の姿だった。
「似合ってますよ、祐巳さま」
「そうね、とっても似合っているわ」
「そ、そう?」
「そうよね、やっぱり白薔薇姉妹は話が分かるわ」
 恥ずかしがる祐巳を横に早口でまくし立てる祥子に微かな不安を抱いた2人。
「ということで、お二人にはこれを」
 そして案の定、その不安は現実になるのだった。

「ごきげんよう……わっ、どうしたのこれ」
「志摩子さん、凄く似合ってますよ」
「乃梨子もよく似合っているわ」
 少し遅れてやってきた令が見たのは妖精祐巳に西洋人形志摩子と日本人形乃梨子だった。
「ごきげんよう、黄薔薇さま」
「あ、手芸部の部長じゃない。あなたがこれを?」
「ええ。紅薔薇さまに相談したら是非にと言われたので」
「そういうことよ。ところで令」
「んっ、なに?」
 目をきらんとさせて令に密談を持ちかける2人。ちなみに白薔薇姉妹は2人の口八丁に簡単に乗せられて、そのまま2人の世界に突入していた。
「私はいつまでこの格好をしていればいいんですかぁ」
 なので祐巳のつぶやきに答える人はその場には1人もいなかった。

「ごきげんよう……おわっ、なんじゃこりゃ」
「蔦子さん、まだ撮るの?」
「後で焼き増しお願いしてもいいかしら?」
「ええ、それはもちろん」
 部活に行っていたのでかなり遅れてきた由乃が見たのは妖精祐巳と西洋人形志摩子に日本人形乃梨子、そして3人を激写している蔦子さんに何やら怪しげな視線を送ってくる薔薇さま2人+手芸部部長だった。
「待っていたわ、由乃ちゃん」
「さあ、由乃もこれに着替えて」
 そしてさっそく差し出された衣装はというと……。
「えーと、何でメイド服に猫耳なのですか?」
「由乃さんに似合うと思って」
「あ、お仕事はもう終わっているんですね。じゃあ先に帰らせて……」
「だーめ。これもお仕事よ、由乃ちゃん」
「そんな、横暴ですよ」
「由乃さん、諦めて着ちゃいなさいな」
「そうだよ、私達だって着てるんだし」
「うーっ、分かったわよ」
 抵抗してみたものの多勢に無勢、諦めて着替えた結果どうなったかというと。
「なんかものすごく似合ってますね」
「あんまり嬉しくないなぁ」
「もう、素直に喜べばいいのに」
「祐巳さん、恥ずかしくないの?」
「うーん、最初だけだよ」
 4人の中で一番好評だったらしくて。内心まんざらでもなかったのだけれど、令ちゃんが変なことを言い出したからとりあえず踏んでおいた。というか令ちゃん、その発言の瞬間みんな引いてたよ?


「……と、このように薔薇さま方をメロメロにさせられるくらい魅力的な衣装を作ることを1つの目標として頑張って欲しいということを部長として最後の挨拶にかえさせて頂きます」
 手芸部員からひときわ大きな拍手が上がる。受験のために早めに部長交代をしたいというお姉さまの願いを受けて今日から私が部長になるわけだけれど。
(でもお姉さま、それは個人的な願望だったのでは……)
 以前2人で話していたときに、この2年弱は概ね満足しているけれど祐巳さま達に自分が1から作った衣装を着て欲しいというのが心残りと言っていたのを私は覚えている。いつの間に実現させたのかは知らないけれど、それを部の目標にするのはどうなんだろう? まあ、目標としては良いのかもしれないけれど。
 さて、次は私の挨拶だ。とりあえず大体何を言うかは考えてきたのだけれど、今の発言に突っ込みを入れるかどうか。それが私の最初の試練なのかもしれない。
(……って、それどんな試練だ私ー)
 なんとなく、心の中で泣いてみた。


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