【2161】 ニコニコしてる悪魔の囁き  (若杉奈留美 2007-02-18 23:08:25)


「フィガロの結婚」クロスオーバー。
サブタイトル:「真里菜の結婚・なんでそ〜なるの!?」
【No:2114】の続きです。
大幅にアップが遅れましたことを、この場を借りてお詫び申し上げます。

(第2幕・裁判沙汰です、お姉さま)

「どういうことなんですか、祐巳さま」
「そこに書いてあるとおりよ、美咲ちゃん」

1枚の書類を手に、美咲さんは祐巳さんとの間に見えない火花を散らしています。

「どこまで卑怯なんですか、あなたは」
「あら、借金のときには担保がつきものなのよ」

その書類は真里菜さん直筆の借用書。
そこにはなんと、「借金が返せなかったときには福沢祐巳と結婚する」と
書いてあったからさあ大変。
真里菜さんが止めるのも聞かずに、怒って祐巳さんの部屋まで乗り込んでいった美咲さんですが…。

「そんなことは百も承知です!本人の意思とは関係なしに強要された借用書は
無効であると、わが国の民法はちゃんと定めているではありませんか!」
「じゃあ借りたものを返すのは、民法ではどうなっているのかしら?」
「うっ…」

頑張れ美咲さん。
ここで諦めたら、真里菜さまとの結婚がボツになっちゃいますよ。

「…祐巳さま。あなたいつからそんなヤミ金もどきの取立てなんてするようになったんですか」

祐巳さんはまったく動じていません。

「ヤミ金なんて人聞きの悪いことを…私は遊びすぎて金に困ってたあの娘を援助しただけよ」
「その『援助』の見返りがこれですか…やっぱり私の思ったとおりでしたわね」
「思ったとおり?」

一瞬、祐巳さんの表情が変わったのを、美咲さんは見逃しませんでした。

「なんだか嫌な予感がして、少し調べてみたんです…どんな手段かはお話できませんが。
そしたら、どうなったと思います?」
「…どうなったというのかしら」

美咲さんはわが意を得たりとばかりに叫びました。

「真里菜さまは、最初から、借金なんてしていなかったんですよ!」

青ざめる祐巳さんの前で、テープレコーダーが回ります。
そこから聞こえるのは、明らかに自分と聖さんの声。

『ねえ聖さま、昔のよしみで相談があるんだけど』
『別れた人間に、いまさら何の用なの?』
『そんな冷たいこと言わないで。どうしてもあなたの力が必要なの』
『今まで何度それで煮え湯を飲まされたと思っているのよ。もう私のもとに現れないで』
『…分かったわ。じゃあこれで最後にする。ねえ、祐巳の最後のわがまま、聞いてくれる?』
『…なんだよ』
『あなた、ちあきちゃんと結婚したがっていたでしょう?』
『それが何?』
『ちあきちゃんを今のご領主さまに奪われたのは、真里菜のせいでしょう?』
『話が見えないね』
『だったら真里菜に復讐してやるチャンスよ。まずは適当な口実をつけてあの子を呼び出して。
それでたっぷりとお酒を飲ませて、したたかに酔っ払わせるのよ。
その上で、ありもしない借金話をでっち上げて、酔った勢いで借用書を書かせるの。
もちろん真里菜自身にね。
そうすれば私は真里菜と結婚できるし、あなたは真里菜に復讐できる。
悪い話じゃないでしょう?』
『祐巳、あんたいつからそんなに黒くなったの』
『嫌だわ聖さま、生きるためにはこういう技術も必要よ』
『…参ったね、君には』
『どこに?』
『君のすべてにさ』
『じゃあ、協力してくださるのね?』
『ああ。でもこれが終わったら…そのときは私たちも終わりだよ』
『私たちの、最初で最後の共同作業に、乾杯』

テープはここで止まりました。
おやおや、先ほどまで優勢だった祐巳さんが、今や自分の足で立つのも精一杯。
美咲さんはそんな祐巳さんに、相変わらず強気な態度です。

「…分かったわ。そこまでやるなら、すべて法廷で明らかにしましょう!」
「望むところです。ただし祐巳さま、1つ覚えておいてください」

部屋を立ち去る寸前、美咲さんは意味深なセリフを吐きました。

「真実というのは、ときに私たちの予想の斜め上をいくものなんですよ」


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