クリスクロスP38より
「それ、笙子ちゃんから?」
「あ、……うん」
蔦子さんは、嬉しいというより困惑した表情でうなずいた。
「どうしたの?それ、チョコじゃないの?」
「うん」
うん、というのはチョコなのか、違うのか。
蔦子さんは、紙袋を前に置いたままため息をつき、答えた。
「あのさ、私も、くれるんだったらチョコレートだろうって、思い込んでいたんだよね」
「違ったんだ。もらって困る物だったの?」
笙子ちゃんが、蔦子さんに「困る物」をプレゼントするとは思えないけれど、一応聞いた。
「ううん。すごくうれしい物だった。
ただ、悩んでいるのよ」
「え?」
「バレンタインデーに写真のフィルムを大量にプレゼントされたら、ホワイトデーに何をお返ししたらいいんだろう、って」
「そんなの簡単じゃない。笙子ちゃんの写真を撮って、ホワイトデーにプレゼントすればいいじゃない」
祐巳がそう言うと、蔦子さんはちっちと指を振りながら言った。
「祐巳さん、わかってないわね」
「なにが?」
「いい、今は冬なのよ!夏じゃないのよ?
冬だから、半袖夏服じゃなくて、長袖冬服コートにマフラーまでしてるのよ!?
冬だから、体操服の上にジャージ着てるのよ!?
冬だから、水泳の授業も無いのよ!?
夏服も体操服姿も水着姿も無しでこんなにたくさん写真撮らなくちゃいけないなんて、拷問よ!?」
悩んでる原因はそこかよ!?