【2166】 先手必勝!裁判  (若杉奈留美 2007-02-24 11:48:51)


フィガロの結婚クロスオーバー。
サブタイトル:「真里菜の結婚・なんでそ〜なるの!?」


(第3幕・嘘と真実と奇跡の法廷)

祐巳・聖ペア対真里菜・美咲ペアの争いは、とうとう法廷にまで持ち込まれてしまいました。
この国の裁判制度はちょっと変わっていて、毎週水曜日に首都にある競技場で公開法廷というものが開かれます。
この公開法廷には国民全員が参加することができ、望めば裁判員として自ら裁きを下すこともできます。
また、重大な犯罪や事件の裁判の場合は、裁判官の判決とは別に被害者が判決を下すこともでき、意見が分かれた場合には、
傍聴する人々の投票によって決められます。
まあ今回は、ご領主の家で起こったちょっとした揉め事の裁判なので、傍聴人も少なく、競技場は閑散としたもの。
ところがここで、予期せぬ出来事が起こります。

「まず被告人への人定質問を行います。被告人は氏名と住所、年齢、職業を答えなさい」
「岡本真里菜。港町通り12番地。24歳、職業は領主公邸使用人です」
「被告側弁護人。出生証明書の内容を説明してください」

真里菜さん側の弁護に立ったのは、敏腕弁護士として知られる水野蓉子さんです。
しかし、蓉子さんの表情にわずかながら戸惑いがみられます。
なぜなら、証明書に記入されていたのは…

「被告人、岡本真里菜は聖帝暦3027年第6月の第26日、医師佐藤聖と領主公邸使用人福沢祐巳の長女として誕生しました。
しかしながら、佐藤聖と福沢祐巳は正式に婚姻届を出しておらず、それが原因で家族や親族に養育を反対されたため、
港町通り12番地在住の岡本夫妻の養女として、養子縁組の手続きを行っております。
これは被告人出生後3日目のことです」

つまりはこういうことです。
24年前の6月26日、若き医師佐藤聖とご領主の屋敷の使用人福沢祐巳の間に女の子が生まれました。
しかしながら2人は正式に結婚したわけではなく、真里菜さんが生まれた当時はまだ20歳と18歳。
あまりにも若すぎると周囲が反対したため、子どものいなかった岡本夫妻の娘として育てられることになったのです。
それが原因で2人は別れてしまいました。

「佐藤さん、福沢さん、間違いありませんか」

裁判官の質問に、祐巳さんは涙声で答えます。

「間違いありません。岡本真里菜の実の両親は私どもです」
「真里菜…許して。あなたが憎くて捨てたわけじゃない」

初めて聞く実の両親の声。

「美咲ちゃん…ごめんなさいね。あなたが昨夜あの部屋にきたとき、
私にはすべてが分かってしまった…あの子の許婚なんだってことが。
でも、せっかく真里菜ともう一度一緒の場所で生きることが許されたのだから、
せめて母親として最後の悪あがきをしたかった」

美咲さんはやはり、といった表情でうなずきました。

「確かに予想の斜め上を行く真実ではありましたが…私たちが祐巳さまと聖さまに初めてお目にかかったとき、
明らかに真里菜さまと祐巳さまの反応がおかしかったのです。
聖さまも一見無表情でしたが、目は口ほどにものを言いましたね。
動揺しているのが手に取るように分かりました。
でも私は、それを敢えてその場で指摘するのはやめようと思っていました。
いずれは明らかになるべきことなのだし。
…ここまで大騒ぎになるとは、思ってもみませんでしたけれど」

裁判官が、持っていた木槌で机をたたく音が響きます。

「静粛に!これより被告人の罪状認否に入ります。
被告人岡本真里菜は、福沢祐巳より20万円の借金をしていながら、これを返さず、
福沢祐巳に損害を与えた。認めますか」
「裁判長!」

今度は聖さんが叫びました。

「娘は借金などしていません。本来ならその被告席に立つのは、私たちのはずです。
私たちのせいでこんなことになってしまった…
裁判長。お願いです。どうか、どうかこの訴訟を取り下げることをお許しください。
そして、真里菜と美咲ちゃんの結婚をお認めください。
私たちも、これまでの生き方を悔い改め、正式に夫婦として暮らします。
祐巳ちゃん…遅くなってごめんね。もう一度夫婦としてやり直そう」
「はい…」

聖さんは真里菜さんに改めて向かい合いました。

「真里菜…私たちを、告訴したい?」

真里菜さんの瞳に、なんともいえぬ色が浮かびます。
しばらく沈黙したあと、きっぱりと真里菜さんは言い放ちました。

「それは今後のあなたたちの態度次第です。
今まで育ててくださった岡本夫妻への思いもありますし、何より私はあなたたちの
奔放な生き方の犠牲になったんですよ。
もし自分たちを私の両親だというのなら…もう2度とこういうことをなさらないで下さい。
これは私からの切なる願いです」
「分かった…もう絶対しないから」
「それと。岡本のお父様、お母様はこれから先、私という娘を1人失うことになります。
それは今まで培ってきた家族の絆を失うのと同じです。
あなたがたにはその意味を深くかみしめていただきます」
「もちろん、できる限りのことはさせていただくつもりよ。
岡本さん、どうも本当に申し訳ございませんでした…」

そろって土下座する実の両親を見て、ようやく真里菜さんも許す気持ちになったようです。

「もういいでしょう、真里菜さま…お義父さま、お義母さま、ふつつかな嫁では
ございますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「大歓迎だよ、美咲ちゃん…」

固く抱き合う4人。
その姿を見た裁判長は判決を出しました。

「今回の訴訟を無効とし、佐藤聖と福沢祐巳、岡本真里菜と大願寺美咲の2組の結婚を許可する」

大きな拍手が沸き起こる中で、1人がっくりと肩を落とす人間が。

「あてがはずれたわね…これじゃ何のために初夜権を復活させたのか分からないわ」

そう、ご領主の瀬戸山智子さんです。
傍目から見ても分かるほどに、彼女は落ち込んで帰っていったのでした。
そして落ち込んでいる人がもう1人。

「ちくしょう…どうして俺がクビ食らわなくちゃならねぇんだ」

ご領主の秘書、小野寺涼子さんです。
なぜ彼女がクビになったのか?
それはまた次回にお話することに致します。





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