【2167】 寄り道魔法が使えない祐巳と由乃  (クゥ〜 2007-02-24 15:44:18)


 島津祐巳と島津由乃は双子の姉妹である。
 祐巳はお父さん似、由乃はお母さん似、顔が似ていないのは二卵性だからだ。
 二人には共通の幼馴染であり従妹の支倉令は、由乃のリリアンでの姉妹。
 そして、一方の祐巳は、紅薔薇のつぼみである祥子さまからロザリオを受け取った。



 その一【No:2045】その二【No:2058】その三【No:2098】【No:2101】【No:2109】【No:2123】―今回






 「で、ロザリオ受け取ったんだ」
 「う、うん」
 「ふ〜ん」
 祥子さまとのデートが終わり帰ってきた祐巳を待っていたのは、白いゴスロリを着込んで憮然とした表情の由乃&ニコニコ令姉ちゃんだった。
 祐巳が出かけた後、何があったのかは知らないが珍しく由乃が負け、令姉ちゃんが勝ったのだろう。
 そして、それで更に機嫌を損ねた由乃の恨みが、今朝のことと祥子さまにロザリオを受け取ったことで倍増され祐巳に向かってきているようだ。
 ……面倒だよね。
 そうは思っても付き合わないといけない。
 由乃は祥子さまを認めていないからだ。
 祐巳は性格からか、自分達だけがよければそれで良いとは思えないからだ。
 「それで、祥子さまの別荘まで行ったのに、ロザリオは倒れられた祥子さまに付き添っていたとき受け取った……だっけ?」
 「……そうだよ」
 「バカ!!じゃない?!」
 由乃のその言葉には流石に祐巳も少しムッと来た。
 「なんでよ、それなら由乃だってバカじゃない。ここで横に成っているときに令姉ちゃんから貰ったんだし」
 「だから、バカって言っているのよ!!」
 由乃は祐巳に更に食って掛かる。
 「なんでそんなに素敵な場所に行って、ロザリオ受け取ったのがベッドの横なのよ!!全然、素敵じゃないじゃない!!」
 「うっ!!」
 由乃の言葉に反応したのは祐巳以上に令姉ちゃんの方だった。
 「違うよ……由乃にはそうは思えないかもしれないけど、私は十分に素敵なロザリオの授受だったよ。自分が渡したいからって急いで差し出したわけじゃないもん!!」
 「おぉ!!」
 祐巳の言葉に再び令姉ちゃんが反応する。
 「ムードが無いじゃない!!」
 「うっ!!」←令姉ちゃん悶える。
 「由乃とは違う!!祥子さまは素敵だった!!」
 「あぁ!!」←令姉ちゃん苦しむ。
 「何が素敵よ!!ベッドの横なんて、もう少し雰囲気を考えないとダメ!!」
 「ごっ!!」←令姉ちゃん飛ぶ。
 「令ちゃんと同じじゃない、バカ!!」
 「ひぃぃぃ!!!」←令ね……跳ねる。
 「令姉ちゃんとは違うもん!!意気地なし!!」
 「あっあぁぁぁ!!」←頭を抱える。

 「令姉「令ちゃんのムードなし!!」」

 「ごめんなさい!!……て?!何で私が怒られているのよ!?」←半泣き。
 「「だって、ねぇ」」
 祐巳と由乃は顔を見合わせる。
 「「こんな服を送るから問題になるのよ」」
 祐巳と由乃は声合わせ、ステレオで令姉ちゃんに迫る。
 「令ちゃん」
 「令姉ちゃん」
 「「どっちが似合っている?」」
 祐巳と由乃に迫られて令姉ちゃんが出した結論は……。
 「どっちも可愛いよ♪」
 ――それは、言っては成らない言葉だった。
 「あっぎゃぁぁぁ!!!!!」
 祐巳と由乃による制裁の後。
 由乃は憮然としたまま呟いた。
 「……認めないから」
 それに対して祐巳は笑い。
 「認めさせて見せるから」
 と、お互いに宣戦布告をしていた。



 結局、祐巳と由乃の気まずい関係は翌朝も続いていた。
 一先ず昨夜は令姉ちゃんがクッションに成ってくれたし……まぁ、本人は堪らないだろうが、この役目は昔から令姉ちゃんにしか務まらないから仕方がない……気まずいとは言っても並んでの登校は何時も通り。
 何も変わらない。
 「「ごきげんよう」」
 「ごきげんよう」
 「ごきげんよう、黄薔薇のつぼみに祐巳さん、由乃さん」
 挨拶も変わらないからよほどの人でないと、祐巳と由乃の喧嘩は分からないだろう。
 だが、嵐は近づいていた。
 「祐巳さ〜ん!!」
 プリーツを乱れまくり、セーラーカラーを翻しながら駆けて来るのは剣道部で祐巳の仲良しのちさとさん。その手には何か紙が握られ手いるようだが……。
 「祐巳さん!!紅薔薇のつぼみの妹に成ったって本当なの!?」
 ちさとさんの言葉に周囲の生徒達の視線が一瞬で祐巳に集中した。
 「ど、どどどど」
 慌てる祐巳に向かって、ちさとさんが手にした紙を差し出す。
 それは、リリアン高等部の新聞部が発行するリリアン瓦版だった。
 見出しは『紅薔薇のつぼみ秘密デート!!』
 「なによコレ!!」
 『紅薔薇のつぼみの妹誕生!!……………………………………ヵ?』
 どこぞのスポーツ新聞のような見出し。
 しかもそこに載せられていた写真は……ゴスロリを着込んだ祐巳と祥子さまが駅前で落ち合った時のモノだった。
 「あっあぁぁぁぁ!!!!!!」
 祐巳の悲鳴が木霊する。
 祥子さまの事以上に祐巳にはゴスロリ姿が写真で載った事の方が一大事だった。
 すぐさま原因を探る。
 ……菜々!!
 祐巳は一目散に中等部の方に駆け出した。
 菜々と会ったのは別荘地だったのだから犯人ではないのだが、今の祐巳に冷静な理性は存在しなかった。
 もの凄い勢いで走っていく祐巳を、由乃たちは呆然と見送っていた。
 何が起きたのかは理解できなかったようだ。
 「ぷっ!!あははは!!!」
 そして、その姿を見て由乃だけが楽しそうに笑った。


 菜々のタイミングは非常に悪かった。
 今日は厄日ではないかと思うほど悪かった。
 友人がたまたまリリアン瓦版を入手して、皆で見ているところに菜々が来た。その上、祐巳の写真を見て別荘で見たことを口にしてしまった瞬間。
 祐巳がそこに辿り着いた。
 「菜々!!!!!」
 「……あは」
 「菜々、貴女のその軽い口にはキャンディーではダメだったようね」
 「ゆ、祐巳さま、ごきげんよう」
 「ごきげんよう、菜々」
 何時しか周囲の中等部の生徒達は菜々の側から逃げていた。
 祐巳から放たれるオーラは、一般生徒でさえ感じられる鬼そのものような恐ろしいものだった。
 「キャンディーよりも、竹刀の方が好みだったなんて長い付き合いだけど知らなくってごめんね」
 「キャンディーですか?……もしかして飴と鞭の駄洒落ですか?祐巳さまは笑いのセン……いえ!!甘いものの方が好みです!!」
 菜々は祐巳の表情に気がつき慌てて言い直す……が、遅い。
 「いいのよ、貴女と私の中じゃない……沢山、可愛がってあげるわ!!」
 既に火に油は注がれていた。
 「心の奥底からお断りします!!」
 「遠慮はいらないよ……菜々!!」
 「ひやぁぁぁぁ!!!!!祐巳さま、顔が怖いです!!」
 菜々の悲鳴が響き渡り、周囲の生徒達はとばっちりが来ないようにと菜々に手を合わせ拝んでいた。
 結局、祐巳は勘違いのまま菜々を粛清しのだが……そんな事をしているものだから遅刻し、先生に怒られ更なる恥の上塗りと成った。


 「まったく、笑わせてくれるよね。祐巳は」
 「あの服にさせたのは由乃じゃない」
 お昼休み。
 リリアン瓦版のおかげですっかり有名に成ってしまった祐巳は、由乃と一緒に中庭で昼食を取っていた。
 祥子さまとのロザリオの件は、嘘をついても仕方がないので、素直に置け取ったと言うと以外に皆祝福してくれた。ただ、問題はあの服。
 祥子さまの妹のことと共に広まった祐巳の服装。
 お昼にはすっかり祐巳の私服=ゴスロリが定着し、中にはゴスロリファン(祐巳の知る限り手芸部の生徒)から誘われたり。ヨーロッパで買ったのかと祥子さま張りの素っ頓狂なことを聞いてくる生徒たちまでいて、祐巳は騒動の張本人とも言える由乃を連れこうして昼食を食べていた。
 「あっ」
 「むぅ!!」
 そこについに騒動の当事者である祥子さまが祐巳の方に向かってきた。
 「ごきげんよう、祐巳、由乃ちゃん」
 「ごきげんよう、祥子さま」
 「ごきげんよう、紅薔薇のつぼみ」
 ―――ばっち!!
 笑顔の祥子さまと由乃が顔を合わせ、火花が散る。
 ……うわぁ、怖いよ。
 その火花の原因である祐巳は二人の様子に少し及び腰。
 そして、笑顔で睨み合った祥子さまと由乃はゆっくりと戦いを開始した。
 「……ようやく、祐巳を妹になされたそうですね。祥子さま」
 「えぇ、本当にようやくだったわ。祐巳を口説き落とすのに大変だったのよ」
 「そうですか、それは大変だったみたいですね。いっそのこと諦めた方が良かったのでは?」
 「そうは行かないわ、私は祐巳が良かったのよ。祐巳以外に妹は考えられないほどにね」
 「そうなのですか?祥子さまなら祐巳以外なんかではなく、より取り見取りのような気がしますが?」
 「あら、人の妹に対してなんかとは聞き捨てならないわね。実の双子のお姉さんでも言ってはいけない言葉はあるのよ?」
 「大丈夫です。祐巳とは生まれたときから一緒ですから、この程度なら笑って済ませられますわ」
 「あら?祐巳のことではなくって姉である私には謝罪が欲しいのだけれど?」
 「祐巳のお姉ちゃんは私ですけれど?」
 「あぁ、そうなのですか?それはすみません、まだ妹からお姉さまと呼ばれていないようなので姉妹とは思えなかったものですから、おほほほ」
 「そう、そうね。祐巳には言い聞かせないといけないわね。おほほほほほ」
 「無理強いはいけないと思いますが?おほほほ」

 「「おほほほほほほ」」

 ドッバチバチバチ!!!!!!
 笑顔のまま更に激しい火花が散る。
 ……どうしよう。
 睨み合う祥子さまと由乃を目の前に祐巳は困っていたが、その様子を楽しそうに傍観している人たちもいた。


 「あはははは、祐巳ちゃん困ってるよ」
 「本当に楽しそうね」
 「アレが楽しそうといえるなら既に人間終わりね。黄薔薇さま?」
 ここは薔薇の館。
 その二階から笑って眺める人影が三つ。
 いわずと知れた薔薇さま方は、祐巳たちの様子を楽しそうに眺めていた。その後ろには、困り顔の志摩子さんと祐巳と由乃の危機に駆けつけようとして薔薇さま……主に黄薔薇さま……に邪魔をさせないと縛られ床に転がされた令姉ちゃんが泣いていた。
 「それなら仲裁に行けばよろしいのでは?紅薔薇さま」
 「そうそう、妹と孫の一大事よ?」
 「う〜ん……やめておくわ」
 「そう?」
 「えぇ、私も楽しんで見ている事にするわ」
 「人間として終わりね」
 「そうね、ふふふ」
 結局、三人の薔薇さま方は仲裁には向かわず。ただ、眺め。
 令姉ちゃんはシクシクと泣いていた。


 祥子さまと由乃は、まだ、睨み合っていた。
 「そろそろ止めてくれるかしら?由乃ちゃん……私は、祐巳と話がしたいのよ」
 「ふふふ、それは残念でしたね。もうすぐ授業開始ですよ、時間切れですわね」
 「それでは放課後にリベンジかしらね」
 「……受けて立ちましょう!!」
 「「ふふふふふ」」
 睨み合い笑う祥子さまと由乃。
 「「そう言うことだから、祐巳……?」」
 だが、フッと横を見れば確かにそこにいた祐巳の姿が消えていた。
 「「祐巳?」」
 「祥子さま!!由乃!!授業始りますよ!!」
 祐巳は既に校舎に戻っていて廊下から二人に声をかけてくる。祐巳は、二人の喧嘩に呆れて、さっさと祥子さまも由乃も置いて一人だけ教室へと向かったのだ。
 そして、午後の授業開始のチャイムが容赦なく鳴り響いた。
 「……祐巳ってこういう時は、薄情ですよ」
 「……そのようね」
 無常なチャイムを聞きながら、祥子さまと由乃はヤルセナイ気持ちのまま同時に溜め息をついた。
 「「……はぁ」」


 「「はぁ」」
 放課後、薔薇の館でも同時に溜め息をつく祥子さまと由乃。
 原因は、午後の授業に遅れたことだ。その事が薔薇さまの耳に入り怒られていた。
 祥子さまと由乃は頭を下げ俯いているので分からないだろうが、祐巳や志摩子さんに令姉ちゃんは笑いながら怒っている薔薇さまたちを見ていた。
 明らかに、三人の薔薇さま方は楽しんでいた。
 「はぁ」
 「大丈夫ですか、祥子さま」
 「祐巳、ありがとう」
 祐巳は薔薇さまたちのお小言が終わるのを見計らって、祥子さまと由乃に飲み物を差し出す。
 「姉妹に成った早々に貴女に恥ずかしいところを見られたわね」
 「ふふふ、そうですね。でも、祥子さまの妹に成れたからこそ見られた姿ですから」
 少し俯いて微笑む祥子さま。祐巳も楽しそうに笑う。
 「……なに、アレ?」
 「ホットケーキに砂糖蜂蜜をかけたくらいに甘い空気ね」
 「潰す!!」
 「こらこら」
 物騒なことを言って、祐巳と祥子さまの間に割って入ろうとした由乃を、令姉ちゃんが抑える。
 「……令ちゃん放してよ」
 「まぁまぁ、祐巳は楽しそうだから余り邪魔をすると馬に蹴られるよ?」
 「……むぅ」
 由乃は不満な表情のまま祐巳と祥子さまを見た。
 「ほら、祐巳」
 祥子さまは少し乱れた祐巳のタイに手をかけ整え、一方の祐巳は少し気恥ずかしそうに俯いていた。
 「はい、これでいいわ」
 祥子さまは祐巳のタイが綺麗に揃えられ嬉しそうだ。
 「す、すみません。祥子さま」
 「いいのよ。それよりも祐巳」
 「はい?」
 「その祥子さまと言うのもうお止めなさい。貴女は私の妹なのだから」
 「……は、はい」
 祥子さまの言葉一つ一つに、少し照れくさそうに頷く祐巳。
 「……あっ」
 それを見た由乃は、自身の手を握り締める。
 
 誰も由乃の様子に気がつかない。

 「まったく、あの二人は本当に楽しそうだよね。些細なことにも反応してさぁ」
 令姉ちゃんの何気ない感想、由乃は顔を上げ笑う。
 それを見て、令姉ちゃんは安心をしたようだが、由乃の目は笑っていなかった。
 何時もなら気がつくであろう由乃の反応、だが祐巳の視線は祥子さまへと向き。
 令姉ちゃんの視線は、初々しい祥子さまと祐巳の方に向いていた。

 だから、誰も気がつかない。

 そう、気がつかない。








 と、言うことでようやく、島津祐巳その三終わりです。
 色々、厄介ごとが収まったので、少しは書ける時間が取れそう……ここまで読んでくださった方に感謝。
 今回は、その三のまとめという感じです。最後の方は、まぁ、ここに来る人にとっては周知の展開に成りますかね……あはは。

                              『クゥ〜』
 


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