【2170】 道場破り予想以上の内容で第四種接近遭遇  (いぬいぬ 2007-02-25 22:12:17)


※このSSは、がちゃS許容限界付近(およそR15指定?)のエロスを含んでおります。
 あと、調子に乗って作中で由乃をイジリ倒していたら無駄に長くなったので、前編後編に分けました。
 それでは前編をどうぞ。








 咲き誇っていた梅の花も、そろそろ桃に春の主役の座を譲ろうかというのどかな朝。
 支倉道場には、早朝からぴんと張り詰めた空気が漂っていた。
 張り詰めた空気を醸し出しているのは、剣道着姿のふたりの少女。
「 えぇぇい!! 」
 裂帛の気合と共に、剣道の基本である中段から面を打ち込むのは、今や次期黄薔薇さまとなることが決まった島津由乃。
「 ・・・体が前に泳いでる。軸がぶれてきているよ 」
 そんな由乃に指導しているのはもちろん、先代黄薔薇さまこと支倉令。
 リリアン剣道部に在籍中は、由乃へのひいきになりかねないと、個人的な指導は一切しなかった令だが、正式に剣道部を引退してからというもの、こうして由乃に請われて個人指導をしてくれるようになったのだ。
「 正中線を乱すことは、隙につながるからね 」
「 はい 」
 由乃は素直にうなづき、正中線を保つことを意識し、また面を打ち込むべく中段に構える。
 由乃と令では実力差がありすぎるので、かえって練習の妨げになるからと、令は実際に剣を交えることはしてくれないが、自分の素振りを見てもらい、間違いを正してもらえるだけでも大きな収穫になると思い、由乃は黙々と素振りを繰り返していたのだ。
「 えぇぇい! 」
「 うん。良くなった 」
 最近、令の指導を受けるようになってから、由乃は自分の動きに無駄が無くなってきているような気がしていた。
 こうして無駄を削ぎ落とした先に、令のような強さがあるのかも知れないと考え、竹刀を握る由乃の手には、いっそう熱がこもる。
 由乃がさらに面を打ち込もうと再び中段に構えた時、そんな彼女の気合に水を差すように、支倉道場の電話の音が鳴り響いた。
「 あ、今日、家のほうに誰もいないんだっけ・・・ 」
 令が呟き、電話のあるほうへと向かう。
 道場の電話は支倉家の電話の“子機”であり、“親機”のある支倉家に誰もいなければ、道場のほうで“子機”の電話を取る必要があるからだ。
「 丁度良いから休憩にしようか。ちょっと家のほうで電話に出てくるから、きちんと礼をしてから休憩するんだよ 」
 支倉道場備え付けの古式ゆかしい神棚を見ながら由乃に言いつける令に、由乃も素直に「 はい 」と返す。
 道場にいる時は、師匠である令を敬う由乃なのだ。
 ・・・学校などでは「 令ちゃんのバカ! 」だけど。
 令に言われたとおり、神棚に向かい正座して礼をすると、由乃はふぅと一息ついた。そこで初めて、汗のにじんでいる自分に気付く。どうやら自分の疲労に気付かぬほどに素振りに熱中していたらしい。
 由乃はそんな自分に薄く笑うと、水でも飲もうと立ち上がる。
 その時、突如支倉道場の玄関先に、威勢の良い声が響き渡った。
「 たのもーう!! 」
 「こんにちは」でも「ごめんください」でもなく「たのもう」。
 まるで時代劇に出てくる侍のような挨拶に、由乃は首を傾げる。
「 ・・・誰かしら? 」
 だいぶ特殊な挨拶だが、声の主は女性のようだ。
 由乃はなんだかその声に聞き覚えがあるような気がして、声のするほうへと顔を向ける。
「 た の も ー う ! ! 」
 お約束の「 どーれ 」という返事が無いのが気に入らなかったのか、声の主は更にボリュームを上げて叫んでいた。 
「 ・・・・・・まさか、道場破り? 」
「 たのもーう!! たのもーう!!」
 いくらなんでも今どき道場破りは無いだろう。そんな由乃の自嘲をよそに、声の主は更にヒートアップしていた。
「 たのもーう!! たーのーもーうー!! 」
 何の用かは解からないが、このまま気持ち良く叫ばせていたら近所迷惑だ。
 由乃は疲れた体で道場の玄関へと向かった。
「 たのもーう!! たのもーう!! たのもうったらたのもーう!! たの・・・ 」
「 うるさいわね!! 聞こえてるわよ!! 」
 がらりと玄関の戸を開けながら怒鳴り返した由乃だったが、そこで動きが止まってしまう。
「 ・・・菜々? どうしたのよいきなり 」
 先程から玄関先で絶叫していたのは、由乃が今最も気になる自分の妹候補、有馬菜々その人であった。
 春らしい薄緑のカーディガンと白いミニスカートを纏う可愛らしいその姿からは、とても先程の絶叫の主とは思えない。
 玄関先で迷惑な大声を上げていたのが自分の妹候補だと知り、由乃は戸惑った。
 彼女が今日尋ねてくるなんて話は聞いていなかったし、何より彼女が剣道をする時以外に大声を出すのなんて初めて見たから。
 だが、戸惑う由乃を見た菜々も、何やらコメカミに指を当てて「 え〜と・・・ 」と悩んでいる。
「 ちょっと、どうしたのよ菜々? 今日は何の用で来たの? 」
 てゆーか何で私の家でなくて令ちゃんの家、しかも道場の方へ来るんだ。
 由乃がちょっとすねかけていると、菜々は急にぽんとひとつ手を打ち、笑顔になった。そして、由乃を指差しこう言った。
「 島田由乃! 」
「 ・・・“島田”と“呼び捨て”とどっちに突っ込んで欲しいのよ 」
 眉間にシワを寄せ、軽くメンチを切りながら問う由乃に、菜々は「 あれ? 」と呟き、再び人差し指をコメカミに当てて考えだした。
「 ん〜・・・ ああ、島津由乃か。何でひとりの人間に対して二つも名前を記憶してるんだろう? この地球人 」
「 は? アンタ何言ってんの? 」
 菜々の呟きの意味が解からず、由乃は気味の悪いモノを見る目で彼女を凝視する。
「 ああ、気にしないで下さい。まだ接続が上手くいってないだけだと思いますから 」
「 ・・・接続? 」
 益々困惑する由乃に、菜々はにっこり笑いながら告げる。
「 え〜・・・ 初めましてになるのかな? いや、この体の持ち主は初対面ではないし・・・ まあ良いか、どうせ喋るのは私なんだし 」
「 ・・・ちょっと菜々、本気で意味が解からないわよ? 大丈夫? 」
 もしかしたら熱でおかしくなっているのかと思い、由乃は菜々の額に手を当てようとした。
「 いやいや、この体は正常に機能してますよ。別に熱がある訳でもどっか壊れちゃった訳でもありませんからご心配無く! 」
 にこやかにそう言いながら、菜々は由乃の手を押し戻す。
「 実は私、いわゆる宇宙人という存在なのです! 」
「 ・・・ホントに頭大丈夫? 」
 笑顔で元気良く宣言する菜々の様子に、由乃は本気で心配になってきた。
 だが、菜々はそんな由乃の気持ちなど1ミリも気にせず続けた。
「 地球人の貴方にも解かり易いように言うと、私の本体は現在この体の脳に寄生してまして・・・ 」
「 うん、解かった 」
「 やあ、理解が早いですね! それで、今日私が何故この体に寄生したかと言いますと・・・ 」
「 解かったから病院行こうね 」
「 一度地球人の言う剣道というモノを体験してみたかっ・・・て、ああっ! 理解してくれてない!? いや、もしかして病院に連れて行くのがこの星の歓迎の方法とか? 」
 由乃は「 そんな奇妙な風習は地球上のどこにも無ぇ! 」と突っ込みたかったが、とりあえず菜々を医者に診せるべく、グイグイと無言で彼女の手を引っ張った。
「 あの、歓迎してくれるのはありがたいのですが医者に脳内を調べられるのは私としては非常に迷惑というか私本体に悪影響を及ぼしかねないので食事なりなんなりもう少し穏便な歓迎の方法を行なってもらうとありがたいのですが! 」
 あくまでも自分は“宇宙人”と言い張り、病院への連行を“歓迎の一種”として拒む菜々に、由乃はもはや一刻の猶予も無いとばかりに益々手を引く力を強めた。
「 あの、私の話し聞いてますか? 」
「 うん、聞いてるから早く病院に行きましょうね 」
「 ああっ! やっぱり聞いてない!! てゆーか理解してない?! えっと、日本語通じてますか?! 」
「 あなたの日本語が理解できるからこそ、一刻も早く病院に連れて行こうとしてるんじゃないのよ! 」
 そう怒鳴り返す由乃に、菜々は溜息を吐きながら「 仕方ないですね・・・ 」と呟いた。
「 筋力を70%限定解放。活動限界まで残り30秒 」
 やけに無機質な声で菜々がそう宣言すると、由乃に引っ張られていたはずの彼女の足がピタリと止まった。
「 ?! ちょっと菜々、抵抗しないでおとなしく一緒に病院に行くのよ! 」
 由乃はそう言いながら菜々の手を強く引くが、彼女はまるで足に根が生えたようにびくともしなかった。
「 あまりこの体に負荷を掛けたくなかったのですが、このまま病院に行く訳にも行かないので、筋力を操作させてもらいました 」
「 訳の解からないこと言ってないで素直に・・・ 」
 菜々のセリフを聞き流そうとした由乃だったが、そこで言葉が途切れる。
 由乃は更に強い力で菜々の手を引いたが、彼女の上半身を揺らすことさえできなかったのだ。
 普通、手を引っ張られれば、頑張ってその場に留まることはできても、上半身などが揺らぐはずなのだが、今の菜々にはそんな揺らぎすら無かった。
「 な、何で急にこんな力が・・・ 」
「 これで解かってくれましたか? 今私は、後遺症の残らないレベルでこの体の筋力を解放しているのです 」
 落ち着き払った菜々の声に、由乃も思わず手を引くのをやめる。
「 筋力を・・・解放? 」
「 そうです。この星・・・ あなた方が言う地球の人類は、自らの筋力による肉体の破損を防ぐために、筋力を全開にすることはありませんが、私が操作することにより、この体は今、本来の70%の筋力を使っています 」
「 肉体を操作してる? 本来全開にならないはずの筋力を操作してるってこと? 」
 呆然と呟く由乃に、菜々は微笑んでみせる。
「 解かりましたか? つまり私が操作していなければ、こんな筋力はありえないということです 」
「 そんな馬鹿な・・・ 宇宙人だなんて・・・ 」
 いきなり宇宙人ですと言われて信じる由乃ではなかったが、実際に押しても引いてもビクともしない菜々を前にしては、ちょっと自信が無くなってきていた。
「 私が・・・ 現在この体に寄生している私が宇宙人であると理解できましたか? 」
 菜々の顔で、菜々の声で、由乃に問い掛ける“自称”宇宙人。
 だが、由乃はまだ信じられなかった。 
「 脳に寄生するなんて、そんな馬鹿なことがあるはずが・・・ 」
 先程の勢いを失いつつも、未だ自分の言うことを信じようとしない由乃に、“自称”宇宙人の菜々は「やれやれ」とでも言いたげに首を振ると、再び由乃の説得にかかる。
「 仕方ありませんね・・・ これだけはやりたくなかったのですが 」
 真剣な表情でそう言いながら、みずからの腰に手を掛ける菜々の様子に、由乃はゴクリと息を呑む。
「 これでアナタも信じざるをえないでしょう! 」
 自信満々でそう言い放つと、“自称”宇宙人は恐るべき行動に出た。
「 ・・・・・・ちょ! 何してんのアンタ?! 」
 驚く由乃の眼前で、“自称”宇宙人は勢い良くスカートを脱ぎ、それを「すぱーん」と投げ捨てた。
「 地球人は肉体を衣服で包む習性がありますが、寄生体である私にはそんな概念はありません。よって、こんなことをしても恥ずかしくなんかありません 」
 叫ぶ訳でもなく、むしろ厳かとも言える口調で宣言するが、ぱんつ丸出しでは威厳も説得力も何も無かった。
「 いきなり何してんのよ! 」
「 これで私が宇宙人だと理解できましたか? 」
「 やかましい! いいからスカートはきなさいよ! 」
 もはや目の前にいるのが宇宙人かどうかなど関係無く、由乃はただ、ぱんつ丸出しの菜々を放置できなくなっていた。
 由乃は菜々の投げ捨てたスカートを拾いに走る。
「 前々からおかしいと思ってたんですよ。何故、地球上で人類と呼ばれる種だけが、肉体の上にさらに何かを纏うのか 」
 菜々のスカートを握り締め慌てて戻ってくる由乃に構わず、“自称”宇宙人は何やら主張をしている。
「 恐らく体毛という毛皮を失い、体温調節機能を失った人類の、肉体を防御するための行動なのでしょうけど・・・ 」
「 ちょっと! 」
「 本来ならば失った機能を回復すべきなのに、衣服に頼ることで人類は益々毛皮という保温機能を退化させることになる訳で・・・ 」
「 とりあえずスカートはきなさい!! 」
 ぱんつ丸出しで偉そうに自説を語る“自称”宇宙人に、由乃はとにかくスカートをはかせようと、彼女の足を持ち上げようとする。
 ・・・が、先程言っていた「筋力の解放」のせいなのか、由乃はその足を持ち上げることができない。
「 この・・・ 足を上げなさいってば 」
 必死に彼女の足を持ち上げようとして顔が真っ赤な由乃に、突然彼女は問い掛ける。
「 アナタもおかしいとは思いませんか? 」
「 おかしいのは今のアンタの格好よ! おとなしくスカートはきなさいってば!! 」
「 いや、これは大切なことなんですよ? 人類が毛皮という肉体の保温機能を取り戻せば、もう衣服の必要が無くなる訳で・・・ 」
「 今大切なのはアンタがスカートをはくこと! とにかく足を上げなさいってば!! 」
 支倉道場は支倉家の敷地内にあるが、塀をひとつへだてた向こうは、普通に人の行き交う道路だ。つまり、ぱんつ丸出しな彼女の姿は、何時通行人に見られてもおかしくないのだ。
 由乃は一刻も早く彼女にスカートをはかせるべく、更に手に力を込めた。
「 う〜、足を上げなさいってば〜 」
 もはや首まで赤くなるほど力む由乃だったが、彼女の足は相変わらずビクともしなかった。
「 そうだ! 」
 何やら思いついたらしい“自称”宇宙人が、急に足元の由乃に笑顔を向けた。
「 ここで知り合ったのも何かの縁。アナタ、地球人に毛皮を取り戻す実験をしてみませんか? 」
「 ・・・は? 」
 彼女の言った意味が解からず困惑する由乃の脇に手を入れ、“自称”宇宙人はヒョイと由乃を立たせた。
「 幸い、人類にとってはまだ寒い季節のようですし、上手くいけば、アナタは毛皮という保温機能を取り戻せるかも知れませんよ? 」
 笑顔でそんな提案をする“自称”宇宙人。
 彼女の言っている意味が解からず固まる由乃だったが、そんな由乃にお構いなしに、“自称”宇宙人はさっそく笑顔で「実験」に取り掛かった。
「 寒さを感じれば、肉体が防御反応を起こすと思うんですよね〜 」
「 いったい何を・・・ キャアァァァァァァァァァ!! 」
 肉体が寒さを感じる。それはつまり、保温のための衣服を脱ぐことに他ならない訳で。
 “自称”宇宙人は嬉しそうに由乃の袴の腰紐を解き、脱がしにかかった。
「 ちょちょちょちょっと!! アンタ何してくれちゃってんのよ!! 」
 袴の腰紐を解かれ、危うくぱんつが露出する寸前で袴を押さえることに成功した由乃だったが、“自称”宇宙人は不服そうな顔をしている。
「 おとなしく脱いでくれないと実験にならないじゃないですか〜 」
「 バカ言ってんじゃないわよ! 誰がこんなところで・・・ イヤアァァァァァァ!!! 」
 由乃が文句を言おうとした瞬間、彼女は素早くしゃがみ込みながら、一気に由乃の袴を「すぽーん」とずり下ろした。
「 な・な・な・な・何を・・・ 」
 ぱんつ丸出しになり慌てながらも、降ろされた袴を拾いはき直そうとしゃがみ込む由乃。
「 何で私まで・・・ うひぁあ! 」
 由乃が袴をつかもうとしゃがんだ瞬間、“自称”宇宙人は由乃を背後から羽交い絞めにする。
 プロレスで言うところの「フルネルソン」の体勢だ。
「 着てしまったら実験にならないじゃないですか〜 」
 呑気な口調で言いながら、フルネルソンを決めたまま、何故か由乃共々ごろんと床に転がる“自称”宇宙人。
「 わ、私が何時! 実験に協力するなんて言ったのよ! 」
 そう叫びながら、なんとか拘束から逃れようとジタバタもがく由乃だったが、相変わらず彼女の手はビクともしない。ぱんつ丸出しのまま“自称”宇宙人に拘束されたまま、ふたりで仰向けに床に転がったままだ。
 ぱんつ丸出しのまま剣道道場の玄関先にころがる美少女ふたり。それはもはや、エロいを通り越してシュールな情景だった。
「 これは、人類が失った機能を回復させる重要な実験なんですよ? 何故嫌がるんですか? 」
「 こんなとこで脱がされてたまるか!! 」
「 ここじゃなければ良いんですか? 」
「 そういう話しじゃない!! 」
「 やれやれ、地球人の羞恥心というものは理解できませんねぇ・・・ 」
「 こんなとこで脱ごうってほうが理解できないわよ! いいからその手を離しなさいよ!! 」
 (あたりまえだが)非協力的な由乃に、“自称”宇宙人は困った顔をしていたが、再び何か思いついたらしく、由乃を羽交い絞めにしたまま背後から囁く。
「 解かりました。ひとりで脱ぐから嫌なんですね? 」
「 ・・・はい? 」
 またも意味が解からず固まる由乃を置き去りに、“自称”宇宙人は次なる行動に出た。
「 私も・・・ と言うか、この肉体の持ち主も脱げば、恥ずかしさも薄れるでしょう? 」
「 な、何よその強引な理論?! 」
「 地球には“赤信号、みんなで渡れば怖くない”という格言もあるくらいですし・・・ 」
「 何でそんな昔のネタを知って・・・ ちょっと?! アンタ何してんの?! 」
 両足と片腕を使い、上手いこと由乃を羽交い絞めにしたまま、“自称”宇宙人は器用にカーディガンを片腕づつ脱ぎ始めた。
 絶妙なテクニックでカーディガンを脱ぎ終えた“自称”宇宙人は、カーディガンをスカート同様「すぱーん」と投げ捨てる。その結果、上は白のブラウスで下はぱんつ丸出しという、なんとも艶かしい姿になってしまった。靴を履いたままなのが妙にシュールだが。
「 そ、それ以上脱ぐんじゃない!! 」
 大切な菜々を、こんなところで全裸にする訳にはいかないと、由乃は“自称”宇宙人に必死で待ったをかける。
「 う〜ん・・・ これ以上はボタンとか面倒なモノがあるから、アナタを拘束しながら脱ぐのは無理っぽいですねぇ・・・ 」
 “自称”宇宙人の言葉に思わずホッとする由乃だったが、事態はまだ解決していなかった。
「 仕方ない。アナタから先に脱がしましょうか 」
 いや、事態はむしろ、由乃にとって更に過酷な展開となりそうだった。
「 ふざけんな! これ以上私に何かしたら・・・ うわやめてやめてやめて!!! 」
 とうとう由乃の上着の紐を解きにかかる“自称”宇宙人。
 片腕と両足で由乃の自由を奪いつつ、器用に脱がしにかかる彼女の技は、桜庭和志あたりが寝技の一種として採用しそうな程、無駄にテクニカルな動きを見せていた。
「 ふっふっふっ。おとなしく実験に協力してください 」
「 いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」
 由乃は全力で抵抗するが、やはり彼女の拘束から抜け出すことはできなかった。
「 え〜と・・・ あれ? ・・・・・・う〜ん、やっぱり密着した状態だと脱がしにくいなぁ 」
 上着の紐も解け、由乃はもはやブラまで見えそうなほどの状態だったが、そこから先は難しいらしい。
「 む、難しいようなら、今日の実験はこの辺で終わりという方向で! 」
 力ではかなわないと悟り、今度は懐柔する作戦に出た由乃だったが、その程度で諦める“自称”宇宙人では無かった。
「 アナタ、自分で脱いでくれませんか? 」
「 なるほど、アンタが脱がすのは無理だけど私が自分から脱げばOK・・・ってそんなことできるかぁぁぁ!!! 」
 極限状態が由乃のノリ突っ込み能力を開花させたようだが、今、そんな能力は何の役にも立たなかった。
「 うふふふふふふ。おとなしく脱いでくれないなら、宇宙人らしくインプラントとかしちゃおうかな〜 」
 なんだかとても嬉しそうに、由乃のぱんつに手を滑り込ませようとする“自称”宇宙人。
「 ど・ど・ど・ど・ど・ど・ど 」
 何処に何をインプラントする気だオマエは。
 そう突っ込もうにも、あまりの事態に祐巳クラスの道路工事を始める由乃。
( くっ・・・ 落ち着け、落ち着くのよ島津由乃。こんな時は・・・ )
 混乱しながらも、事態の解決策を考える由乃。
 しかし、相手は基本的に人の話を聞かないヤツ。しかも、今まともに動かせるのは首から上くらいのものだ。
( これじゃ振りほどくことも・・・ ん? まてよ、首が動くなら・・・ )
 勢い良く頭を振れば、もしかしたら上手く頭突きをかませるかも知れない。
( そうよ! ここで一発逆転よ! )
 女の子の顔に、ましてや大切な菜々の顔に頭突きをするのは気が引けるが、今はそんなことにこだわっていられないほどの緊急事態だ。
( 悪く思わないでね菜々 )
 決意を固めた由乃は、できる限り首を前に振りかぶる。後は勢い良く後ろに振りぬくだけだ。
 由乃は、後頭部に来るであろう衝撃にそなえ、歯を食いしばった。
( せ〜の・・・ )

 ふぅ

「 うひやぁぁぁぁぁぁ?! 」
 衝撃は、由乃の予想していなかった角度から来た。
 具体的に言うと、耳に熱い吐息を吹きかけるという形で。
「 な・な・な・な・何すんのよ!! 」
「 いやぁ・・・ 息を吹きかければ、もっと寒さを感じて実験の結果が出やすいかと 」
 真っ赤な顔で抗議する由乃に向かって、いけしゃあしゃあと笑顔で言い訳する“自称”宇宙人。
「 ついでに言えば、余計な攻撃を受けたくありませんでしたから 」
「 うっ! 」
 ニヤリと笑いながら言う“自称”宇宙人。どうやら由乃の企みなど、お見通しだったらしい。
 万策尽きた由乃は、がっくりとうなだれる。
( くっ・・・ こうなったら、令ちゃんが戻ってくるのを待つしかないのか・・・ )

 ふぅぅぅぅ

「 ひぃぃぃぃあぁぁぁぁ!? 」
 熱い吐息再び。
「 や、やめなさいってば!! 」
「 しかし、アナタが自分から脱いでくれない以上、こうやって寒さを増幅させるくらいしか実験の継続が・・・ 」
「 継続すんな!! その無駄な熱意を別の方向に・・・ 」

 ふぅぅぅぅ

「 ひぇぇぇぇぇ?! 」

 ふぅぅぅぅ

「 うひぁぁ?! 」

 ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

「 いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!! 助けて令ちゃぁぁぁん!! 」
 
 外は、呆れる程の春の陽射しで輝いているというのに。
 支倉道場には、由乃の悲鳴と、“自称”宇宙人の熱い吐息だけが木霊し続けるのであった。
 







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