昔々、薔薇の館に一人の紅薔薇さまがおりました。
紅薔薇さまは、一般生徒たちとも仲良くしたい、薔薇の館を一般生徒のあふれる場所にしたいと考えて、薔薇の館の前に立て札を立てました。
心のやさしい薔薇さまのうちです。
おいしいお茶とお菓子を用意してお待ちしています。
どなたでもお気軽においでください。
けれども、やはり畏れ多いのか、あるいは単に怖いのか、はたまた自分でやさしいと言う人が優しかったためしがないと思われたのか、一般生徒たちは誰一人遊びにきませんでした。
紅薔薇さまは悲しみ、嘆き、悔しがり、しまいには腹を立てて、ハンカチを引き裂いたり、立て札を引き抜いたりしてしまいました。
そんなおり、友達の青薔薇さま……………なんてのはいないので、白薔薇さまと黄薔薇さまが訪ねて来ました。
話を聞いた二人の薔薇さまは、ある計画を思い付きました。
白薔薇さまと黄薔薇さまが一般生徒の中へ出かけて悪さをする。
そこへ紅薔薇さまがやってきて二人をこらしめる。
そうすれば、一般生徒たちにも紅薔薇さまがやさしい薔薇さまだということがわかるだろう、というものでした。
しかし、それでは二人にもうしわけない、っていうか薔薇さまが問題起こしたらダメだろうとしぶる紅薔薇さまでしたが、
「よし、まかせとけっ!」
「ちょっと、」
止める間もなく飛び出していった白薔薇さまの後を、紅薔薇さまはあわてて追いました。
紅薔薇さまが追いついてみると、白薔薇さまはさっそくやらかしていました。
「ご、ごきげんよう、白薔薇さま」
「ごきげんよう、天使たち」
きゃーとさざめく下級生達に、白薔薇さまはあろうことかタイを直してあげ始めました。
「なにやっとんじゃー!」
「ぐばぁっ」
条件反射でいきなり延髄蹴りをかます紅薔薇さまです。
なにかごきりと嫌な音が聞こえたような気がしましたが、それどころではありません。
「薔薇の館の品位を貶めるようなマネをするなー!」
怒りに顔を真っ赤に染めて白薔薇さまをこらしめる紅薔薇さまはまさに鬼の形相だったといいます。
首をありえない方向に曲げたまま返事もしない白薔薇さまの態度に埒が明かないと思ったのか、紅薔薇さまはその場にいた他の生徒達の方にぐるりと首をめぐらしました。
「あなたたち」
「ひぃっ!」
恐怖に顔を引き攣らせ、一般生徒達は逃げるようにその場を後にしました。というか、死に物狂いで逃げ出しました。
「薔薇の館にって、ああっ!? なぜ逃げるのっ!」
「そりゃ逃げるでしょ」
腹を抱えて笑う黄薔薇さまの横で、紅薔薇さまは目の幅いっぱいの涙を流して泣いたのでした。
数日後、ようやく笑いの収まった黄薔薇さまは、当初の計画通り悪者役をやることにしました。
「それじゃあ、ちょっくら大暴れしてくるかな」
「ちょ、待ちなさい。大暴れって何する気!? そもそも『ちょっくら大暴れ』って日本語変よ?」
止める間もあらばこそ、黄薔薇さまは意気揚々と出陣し、言葉通り大暴れをして見せました。それはもう、黄薔薇さまのことですから大変な大暴れでした。
「えーかげんにしなさいっ!!!」
あやういところでどつき漫才のようにわって入った紅薔薇さまが阻止しなかったらどうなっていたことか。
こうして、紅薔薇さまは意外にひょうきんだという話が広まったおかげか(?)、一般生徒達は安心して薔薇の館に遊びにくるようになりました。
薔薇の館は生徒たちが溢れる場所となり、紅薔薇さまは大喜びです。その結果仕事が滞るようになったのは別の話ですが。
しばらくすると、あの事件以来薔薇の館に顔を出さなくなった黄薔薇さまのことが気になってきました。
紅薔薇さまが黄薔薇さまの教室を訪ねてみると、そこには黄薔薇さまの姿は見あたらず、紅薔薇さまへの手紙が残されていました。
「そろそろ来る頃だと思っていたわ」
取次ぎに出た内藤克美さまがそう言って差し出した手紙を、紅薔薇さまは驚きながらもさっそく開いて読んでみました。
旅に出ます。探さないでください。
くしゃ
紅薔薇さまは思わずそれを握り潰していました。
なにこれ。ギャグ?
1枚目に書いてあるのはそれだけでした。
丸めた紙をもう一度開いて見ましたがもちろん内容は変わりません。
裏返して見るとさらに一言だけ何か書いてありました。
『うけた?』
ぐしゃり
………いや、落ち着け。アレはそういうヤツだ。手紙はまだ終わっていない。
手紙は2枚目に続いていました。
紅薔薇さまは2枚目に目を通しました。
追伸
紅薔薇さま
わかってはいると思うけど、もし私がこのままあなたと付き合っていると、紅薔薇さまに悪い噂が立つことになるでしょう。
おいしいところはおおむね終わったようだし、私は旅に出るけれども、悪役を押し付けられたことはいつまでも忘れません。
一般生徒たちと楽しく暮らしてください。そして仕事もちゃんとやっておいてください。
あの事件の被害の弁償代は生徒会予算から必要経費として計上しておきました。
お茶代、お菓子代はもちろん紅薔薇さまが招いたお客様なので紅薔薇さまのポケットマネーで計上しておいてあげました。
ほとぼりがさめるまでは帰れませんが、協力してあげた礼金も紅薔薇さまのポケットマネーから貰っておきました。
それではさようなら。体を大事にして、一人で仕事がんばってください。
いつまでもあなたの友達、黄薔薇さま。
紅薔薇さまは、黙ってそれを読みました。突っ込みどころ満載でした。
読み進めるうちにぷるぷると手が震えだしました。
読み終わった紅薔薇さまは薔薇の館に走り、そのまま1階の物置に飛び込むとそこらじゅうをひっくり返し始めました。
「ないないないないない!!!」
はらりと落ちた手紙の3枚目にはこう書いてありました。
追伸2
学校にヘソクリを隠すのはどうかと思います。
悪い人見つけられたら大変だぞ(はあと)
ひとしきりひっかきまわしたあと、紅薔薇さまはがっくりと肩を落としてうなだれると、しくしくとなみだを流して泣きました。
血の涙だったといいます。
必ず見つけ出してLH 大トo o-s 廿廿T s=| sトやる。
紅薔薇さまは血の涙を流しながら心に誓ったのでした。
おしまい