フィガロの結婚クロスオーバー。
サブタイトル:「真里菜の結婚・なんでそ〜なるの!?」
(第6幕・今夜、姉が浮気します…か?)
「今、なんとおっしゃったのですか、ちあきさま」
「その手紙にOKの返事を出しなさいと言ったのよ」
すらりと背が高く髪の長い女性と、彼女よりは少し背の小さいかわいらしい女性が
言葉も少なく向かい合います。
「…まさか、ちあきさま…」
一瞬の沈黙。
そのあとに続く言葉を、お互い探しあぐねていると。
「ぷっ…くくく…あ〜っはははは!」
ちあきさまは突然笑い出しました。
「もう!何がおかしいんです!」
「美咲ちゃん、人の話は最後まで聞くものよ」
怒る美咲さんに、ちあきさまはなおも笑いながら言います。
やがて笑いも落ち着いたころ、改めて美咲さんの目を見つめました。
「智子の部屋には私が行きます。あなたは私と入れ替わってちょうだい」
「???」
「どうせ智子は酔っ払って千鳥足でご帰還なのだから、たとえ入れ替わっていたって区別はつかないわ。
まずは『しばらく外で酔いをお覚ましになったほうがよろしいのでは?』かなんか、
適当なことを言って智子を中庭に引き止めておいて。
あの子は一度酔うとかなり後まで冷めないから、その間にいくらでも盛り上げられるわ」
ちあきさまがニヤリと笑っています。
「なるほど…」
美咲さんもちあきさまの意図を察したのか、笑顔になります。
「部屋の前まで来たら、智子に先に部屋に入って待っているように言って。
その間に私と入れ替わればすべてOKよ」
「で、頃合を見計らって正体をばらす、というわけですね」
「そういうこと」
うふふ、と笑いあう2人。
「…でも、あのお姉さまのことだから、逆ギレすると大変なことに…」
その瞬間、ちあきさまの笑顔に底知れぬ邪悪なものが宿りました。
「大丈夫よ。そうなったらなったで、ワインの樽にでもぶち込むわ。
もちろん中身は別のものだけど…そう、たとえば、汚物とか…」
「…ちあきさま…」
小さいとはいえ一国一城の主が、自らの浮気が原因で汚物の樽に投げ込まれる。
それを想像した美咲さんは、さすがに少し青ざめています。
「心配ないわよ、美咲ちゃん。智子にそんな真似はできないし、させないわ。
あれはあくまで最後の手段」
なんだかちあきさまが言うと最後の手段に聞こえません。
その他にも様々な手段を講じていそうで、よけいな口出しができなくなってしまった美咲さん。
「くれぐれも智子にはナイショでね」
「はい、かしこまりました」
しかし、一見完璧に見えるこの計画も、思わぬところからほころび始めたのです。
「どういうことよ…美咲が智子と会うって!?」
別の部屋では、真里菜さんがメイドの1人を問い詰めています。
「ええ、確かに美咲さんが、中庭に向かうのを見ました…あの中庭はご領主さまのお気に入りの場所で、
普段はご領主さまと奥様以外は入れない場所のはずですが…」
「それで!?美咲はなんか話してた!?」
「それが…ただ、笑ってらっしゃるだけで…あっ、真里菜さま!?」
(冗談じゃない…よりによって初夜に裏切られるなんて!)
真里菜さんはこのあと起こることも知らずに、さっさと中庭へ向かったのでありました…。
(第7幕・危機一髪!)
さて、走り出してはみたものの、具体的に誰とどういう話し合いをするかまでは
何一つ決めていない真里菜さん。
無理もありません、ちあきさまと美咲さんの密約については何も知らないのですから。
(とりあえず隠れて様子見るか…)
中庭の真ん中にある東屋近くの植え込みに隠れて、あたりに人がいないか見回していると。
「やっとあなたと結ばれるのね…早くここへきて、愛しい人よ」
なんと、美咲さんが真里菜さんの存在に気づいたようで、古い時代のラブソングを
歌い始めてしまいました。
(ちょ、ちょっと、あれ、ちあき…じゃないの!?)
もちろん真里菜さんは、美咲さんとちあきさまが入れ替わっていることに、まったく気づいていません。
「今夜は月もきれいだし、2人愛し合うなら今しかないわ…」
(…何が愛し合うならよ!)
たまりかねて飛び出す真里菜さん。
「ちょっと!何が愛し合うならよ!よりによってあんた、初夜にいきなりそれはないでしょう!?」
「ま…真里菜さま。落ち着いて。私です」
ここにきて真里菜さまは、目の前にいる奥方さま似の人の背が低いことと声が違うことに、ようやく気づいたのでした。
「…美咲。そんなところで何やってんの」
「実はね」
ひそひそと耳打ちをする美咲さん。
「なるほど、そういうことだったのね。さすがは美咲」
「もちろん、私には真里菜さましかおりませんもの」
「私にだって、美咲しかいないわよ。頭も良くて美人で優しくて、私なんかには
もったいないくらい」
「あら、真里菜さまだってかっこよくて優しくて強くて。あなたは女の中の女ですわ」
「美咲…」
「真里菜さま…」
向かい合って互いに目を閉じ、顔がキスできる距離にまで近づいたところで。
「ふ〜ん…そういうことだったんですか、真里菜さま」
なんと、すでに酔いも冷めてすっかりまじめな顔になったご領主の智子さまが、
鬼の形相で仁王立ちしているではありませんか。
「智子…どうしてあんたがここにいるのよ」
「なんとなく嫌な予感がして…今日は早めに切り上げてきたんですよ」
さあ、どうなる!?