※このSSは、エロい表現をふんだんに惜しみなく使っておりますので、あらかじめご了承下さい。
二条乃梨子は理解できずにいた。
(これはいったい、何の話だろう?)
いや、正確には理解したくなかったのかもしれない。
(まさか・・・いやいや、志摩子さんに限って・・・いやでも・・・)
話は5分ほど遡る。
乃梨子は書類を抱え、薔薇の館へと戻るところだった。
職員室で簡単なコピーを取り、それを薔薇の館で待つ志摩子、祐巳、そして由乃と共に綴じてまとめれば、今日の仕事は終わりのはずであった。(紅薔薇様と黄薔薇様は、進路についての説明会で不在)
軽い足取りで薔薇の館の扉を開けると、由乃のこんな声が響いてきた。
「ええっ!?志摩子さん、アレ使った事無いの?」
(?何を使った事が無いって?)
乃梨子はなんとなく、足音を忍ばせて階段を登り、耳を澄ませてみた。
「ええ。変かしら?」
志摩子の戸惑った声が聞こえてくる。
「変って言うか、もったいないわよ!すっごい気持ち良いんだから」
「でも由乃さん、人によってはアレを使うよりも手でやるほうが気持ち良いんじゃないのかな?」
なんだか青信号が点灯しているらしい由乃の声に続いて、祐巳の声も聞こえてきた。
ここで乃梨子は冒頭の疑問にたどり着いたのである。
(何の事だろう?・・・え〜と、手や道具を使って・・・気持ち良くなる・・・ってまさか・・・)
「今度試してみてよ志摩子さん。あの振動がクセになることうけあいよ?」
「あ〜。確かにアレは、脳の奥にまで響くと言うか・・・」
(振動する道具を使って脳の奥まで気持ち良い・・・・・・・・・・やっぱりアレの事なのか?!)
由乃と祐巳の会話から導き出された推測に、乃梨子は全身が赤く熱くなるのを感じていた。
(リリアンで、しかも薔薇の館で、なんつーいやらしい話題を振るのよ!・・・あっ、このままじゃあ、志摩子さんも困っちゃうだろうな。・・・よし!)
乃梨子は、自分という異分子の侵入により会話の流れを途切れさせるべく、扉に手を掛けた。
(ほんとうにアの手の会話なら、一年生の私の前じゃ、口にしづらいはず)
もはやいやらしい会話であると確信している乃梨子は、深呼吸して、顔の赤さを消すべく、お使いで冷えた手を頬に軽く押し当ててから扉を開いた。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい乃梨子。紅茶でも入れてあげましょうか?」
「ううん。自分でするわ」
志摩子の様子がいつもどおりなのを確認し、とりあえず乃梨子は安堵した。
そして、乃梨子の帰還により、室内の会話が途切れた。
(・・・やっぱりいやらしい会話だったんだな。まったく、志摩子さんに向かって何て話題を振るのよ!・・・おおかた由乃さまだろうけど・・・なんか祐巳さままで乗ってたっけ)
ふと、祐巳を見ると、なんとなく憂いを帯びた顔で、窓の外を見ていた。
先ほどまでの話題と相まって、変に祐巳に「女」を感じてしまい、乃梨子は気恥ずかしさに目をそらした。
そんな挙動不審な乃梨子の様子に気付いたのは、以外にも由乃だった。
(?何赤くなってるんだろう?何かチラチラとコッチを伺ってるし・・・)
不審に思いつつも、特に問いただす事もせず、由乃は自分のコーヒーを一口飲んだ。
(よかった。さすがにもう、アレの話題は出さないだろう)
静かになった室内に満足感を得た乃梨子は、自分の分の紅茶を持ち、志摩子の隣りに座った。
(志摩子さん。これからも私が護ってあげるからね)
密かに決意しつつ、乃梨子は紅茶を飲んだ。
「でも志摩子さん、やっぱりアレは試してみるべきよ。絶対気持ち良いんだから!」
ゴフゥッ!!
鎮圧したとばかり思っていた敵の再襲撃に、乃梨子は激しくむせた。
「大丈夫!?乃梨子」
「ごふっ!だっ・・・けふっ!・・・大丈夫。ちょっとむせちゃっただけだから」
志摩子が心配そうに見つめる横で、由乃は乃梨子の様子に、内心首を傾げた。
(さっきから様子がおかしいわね?何かを気にしてるみたいだけど・・・)
この時点で、由乃レーダーは、乃梨子にロックオンされたのだった。
(おのれ由乃!(呼び捨て)まだその話題を引っ張るか!)
乃梨子がなんとか体勢を立て直そうと紅茶を一口含むと、ふいに志摩子が呟いた。
「でも由乃さん、私、体の中に入れるモノに機械を使うのって、何だか抵抗があるわ。普段、手でしている事を機械でするなんて、ちょっと違和感がありそうだもの」
ゲフゥッ!!!
(普段、手でしてる?!・・・し、志摩子さん、ふだんからしてるの?!是非今度見せて・・・いや違う!・・・私がいつも繋いでいる手でふだんは・・・いやいやいや!そうじゃなくて!!)
「どうしたの!?乃梨子!」
「大丈夫?乃梨子ちゃん!」
志摩子と祐巳が心配そうに聞いてくる。
ピンク色の妄想にとり憑かれ、「い、いや、その」などとしか言えなくなっている乃梨子に、志摩子が顔を近づけたり、ハンカチで口元を拭こうとしたりして、乃梨子の混乱に拍車が掛かってしまった。
(し・し・し・志摩子さんの指!唇! お、落ち着け!二条乃梨子!!)
仏像に愛着持ってる割に煩悩が多いな乃梨子。
乃梨子が混乱の極地に陥っている横で、由乃レーダーは、その観測結果から、乃梨子がどうやら、「入れる」「機械」「気持ち良い」等のキーワードから、ある誤解をしているという結論に辿り着いた。そしてこう思った。
(面白い・・・よ〜し、もっと面白くなってしまえ!)
由乃は密かに(邪悪に)微笑んだ。この場に令が居れば、由乃が何か企んでいる事に気付き、たしなめただろうが、あいにく今日は救世主不在である。
乃梨子のダメージが回復しきらないうちに、由乃はさらに攻勢に出た。
「ねえ志摩子さん。道具使うと、いつもより早く済ませられるよ?・・・ちなみにいつもはどのくらい時間かけてしてるの?」
微妙な言い回しを含めつつ、志摩子との会話に不自然さも無く。まるで江利子さまが乗り移ったかのような巧妙さで、由乃は会話をうながす。
「そうね・・・五分くらい?」
志摩子が答えつつ小首を傾げる。
(五分?!五分で済ますの? 私にやらせてくれりゃあ、もっと時間を掛けて丁寧に・・・だめよ二条乃梨子!そんな志摩子さんを汚すような事・・・いやでもしてみたい・・・じゃなくて!)
もはや崩壊寸前の乃梨子を見て、由乃はさすがに可哀そうになってきた
(うわ、真っ赤だ!鼻血吹くかも・・・うん、鼻血吹いてお姉さまに優しく介抱してもらいなさい♪)
訳はなかった。まさに侍、攻撃する事にためらいが無い。
そしてさらに畳み掛ける。
「五分かぁ。でも、五分もしてると、オツユが垂れてきちゃわない?」
「最初にあまり濡らさないで始めれば、意外と平気よ?」
なにやら分かってやってるんじゃないかというほど、志摩子の返事も誤解させやすい物だった。
(ぬ!ぬら!ぬら!濡らさないでって、志摩子さんてば以外と強引なのが好き?!)
乃梨子はすでに臨界点を突破し、その思考はピンクに輝く地平線の彼方へと飛び始めていた。
由乃は、もはや乃梨子がまともに会話を聞き取れていないと判断し、角度を変えた一撃を放つ。
「そうだ!乃梨子ちゃんも使ってるんじゃないの?アレ。乃梨子ちゃんにもアレが気持ち良いのか聞いてみてよ(笑」
そして、乃梨子の死角から放たれた一撃は、志摩子の天然という追い風を得て、まさに一撃必殺の刃へと昇華し、結果、容赦無いトドメの一撃となった。
具体的に言うと、志摩子が頬を染めつつ、上目遣いに乃梨子にこう問いかけたのだ。
「乃梨子・・・今度、使い方を教えてくれる?でん・・・」
ブバッ!!
煩悩も極めればある種の悟りに辿り着くのであろうか。乃梨子は何の邪気も感じさせない笑顔で、鼻血の海へと沈んで逝った。
「どう歯ブラシの・・・って乃梨子?!どうしたの?しっかりして!」
「機械」が「振動」して「気持ち良い」。確かに電動歯ブラシは歯ぐきに気持ち良いのかも知れない。
最初に先入観を持たずに、冷静に会話を聞いていればあるいは、以外と簡単に真実へと辿り着いたのかも知れないが、乃梨子はまだ若すぎたのであろう。
隣りでは由乃が必死で笑いをこらえ、その横では、何が起きたのか理解できない子狸がオロオロするばかりであった。