【220】 黄昏の夢  (ケテル・ウィスパー 2005-07-14 08:12:15)


・・・・卒業旅行 No.5・・・・

 チチッ チチチッ チチッ

 小鳥の声…? ぁぁ、窓の外が明るくなってきてる。 黒くて太い梁や欄間…あ〜そうだ、卒業旅行に来てたんだっけ。 緩慢な動作で寝返りを打つと、そこには祐巳さんや志摩子さんではなく……祐麒…? 私が頭を乗せてるのは、祐麒の腕。
………。
………………。
……………………………あ、そうか、そうでした。 私と祐麒はついに……。 しかし、人間の体って不思議だな、だって……ねぇ…。 2回まではなんとか覚えてるんだけど、その後どうなったんだろ?
 そのまま体を寄せてそっと祐麒の顔に近づいてみる、いつ起きるのかな? 目を細めて見つめていると、やがて祐麒もゆっくりと目を開ける。

「……おはよう、祐麒」
「おはよ、由乃…」

 そのまま顔が自然に近づいて軽くキスをする。 

「いつもこんなに早いの?」
「ううん、ここって静かじゃない、小鳥の鳴き声で目が覚めちゃったの」
「……ほんとだ、良く聞こえる。 朝ご飯までまだ1時間あるね」

 掛け布団で胸元を隠しながら身を起こす。 私が身を起こし終えたのを確認してからなのか、遅れて祐麒も起き上がる。

「う〜ん、やっぱりお風呂行きたいかな? 汗流したいし」
「俺も入ろうかな」
「……一緒に入る?」
「そこの内風呂? ふ〜ん、襲っちゃったらごめんね」
「ふふふ、返り討ちにしてくれるわ」

 2人そろって朝風呂と決め込んで内湯へ向かう。 お風呂場でこんなに騒いでいいのかというくらいじゃれあって、昨夜脱いだきりの浴衣に再び袖を通し少し体の熱りが抜けてきた頃、朝食を取りに「母屋」の大広間に向かった。
 朝食は純和風、ご飯にお味噌汁、鯵の干物と卵、海苔、おしんこ、それから伊豆の名産わさび漬け。 お醤油を少し付けて、ご飯にのせて海苔を巻いて食べる。 うん、お土産一つ決定。 絶対買っていこう。

 さて、伊豆の移動で、いや違う。 田舎での移動で必要な物は何でしょう?  答え=車又はバイク。 
 祐麒達がバスの時刻表を入手した時に判明したことだったそうだ。 西伊豆には電車は無い、自動車を持っていないなら移動はバスと言う事になる、しかしその便数が少ないのだ。 1時間に2本なんていうのは多い方だったりする。 
 支度を済ませた私たちは、一旦松崎町へと出ることにした。

 2人とも一緒に教習所に行ってたし、本試験も一緒に行って受かった時喜び合ったっけ。 
 レンタカーを借りて、いざ、2日間限定2人だけの卒業旅行2日目のスタート。
 変に観光地開発されている東伊豆と違って、西伊豆は自然が良く残っている、車窓からも変化に富んだ海岸線が見られる。
 
「ちょっと意外な発見だな」
「なにが?」
「由乃って、以外とスピード出さないんだ」
「あ〜、教習所の先生にね『もっとスピード出せ』って言われたこともある」

 自分の足で走り回っているなら被害は高が知れている。 でも車ではそうも行かない。 まだ慣れていないというのもあるかもしれないけど、運転の時にはかなり慎重になってしまう。

 遊覧船での洞窟クルーズ。 堂ヶ島洋らんセンター。 黄金崎クリスタルパーク。
深海魚寿司の盛り合わせなんていう物も食べてみました。 味は淡白でも脂が乗っている白身魚、……味は良いんですよ、でも、陳列ケースの中の魚の見た目がね〜〜。

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

「やっぱり、なかなか取れないもんだね」
「え〜〜と、あ〜、やっぱりダメ」
「ダメだった? う〜んこの辺で取ってみてもう一回」
「下の方から砂を取った方がいいのかしら?」
「どうなんだろ? 確かに金は重いから下の方が確率は上がる……のかな?」

 さっきからなにをしているのかというと、砂金を採っているのです。 黄金崎にあるその名も『黄金館』。 土肥という所には昔金山があったとかで、鉱山の歴史などを見せてくれる、圧巻なのはギネスにも載っていると言う『200Kgの金塊』実際に触れるのでぺたぺた思いっきり触ってしまった。 その後30分間砂金採りに挑戦、っと言うわけなのですが、いい加減腕が痛くなってきた。 洗って〜、上澄みの砂をどけて〜、ゆすって〜、上澄みどけて〜…………あっ。

「あった〜〜〜〜!!」
「え?! ……ほんとだ! やったね」

 採った砂金はお土産にできる。 小瓶に水を入れてその中に収穫物合計9粒ほどの砂金を入れる、キラキラ輝いてとっても綺麗。 祐麒はがんばって、20粒ほどGetしてしてた。


 さていよいよ次は、2人で行き先を決めた時、一致して行こうということになった所

『恋人岬』

 駐車場から歩いて15分程、腕を組んでゆっくりと歩いてきた岬の先端にある展望台は、駿河湾と富士山が一望にできて景色は格別。 空の色は少しづつ赤くなりつつある。 周りにはカップルが5,6組。 にこやかに他愛の無いことをしゃべっているらしい。 一組、また一組と展望台にある「愛の鐘」を3回鳴らして去っていく。 私と祐麒はその光景を黙って寄り添いながら見ている、特に言葉を交わさなくても心地良い時というのは確かに存在すると思う。 やがて私たちだけが展望台に残された。 
 寄り添って鐘の所にへ、見詰め合ってから2人で鐘の紐を握る。

 1回目は、自分の身を清める為

       2回目は、相手の心を呼び、

             3回目は、2人で愛を誓う。

「……永遠の愛なんていらないの」

「永遠に変わらない愛なんて、そんなのつまらないじゃない」

「せっかく好きになって、愛し合っているんだもの、昨日よりも今日、今日よりも明日。 もっともっと好きになりたい。 もっともっと愛していきたい」

 海風にあおられて乱れた髪を直してくれる優しい大きな手。
 無茶なことをやろうと走り出しても頭ごなしにダメ出しせずにすぐ後ろでフォローしてくれる。 

「私は、祐麒のことをあ……」

 次の言葉を言おうとした私の唇に、祐麒が人差し指をあてて止める。

「責任重大な俺の方から言わせてくれないかな。 俺は、……島津由乃のことを……愛している」

 人差し指を唇からゆっくりと離すと、暖かく抱きしめられる。 私も祐麒の背中に手をまわし、耳元に口を近づける。

「私も、…福沢祐麒のことが好き、……愛してるわ」

 ロマンチックな夕日の中、自然に近づき何度目かのくちづけを交わす。 


 宿に向かう車の中、私は表情緩みっぱなしだった。 いや、分かってはいるんだけど、こんなものただの印刷物だって。 でも、お金払って交付してもらった。
     ”恋人宣言証明書”
 そして、祐麒が私に買ってくれた物は………。
  ”恋の記念切符 恋人岬から結婚ゆき 発効日より無期限有効”
  


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