ARIAクロスです!!思いっきりごちゃ混ぜ状態だったりします。
【No:1328】【No:1342】【No:1346】【No:1373】【No:1424】【No:1473】【No:1670】【No:2010】【No:2044】―今回
まつのめさま―【No:2079】
「嘘!?」
それがリリアン女学園に着いた祐巳の第一声だった。
今はマンホームと呼ばれる地球に、ARIAカンパニーの社員旅行としてやってきた祐巳はハッキリ言って後悔していた。
そこに祐巳が知るものは何も無かったからだ。
海にも空にも巨大な都市が建造され、目に映るのは都市の姿だけ。
まぁ社長ではないが気分は沈んでいくばかりだ。
その、まぁ社長はどうやら火星猫の性質がマンホームと合わないのか体調を崩し、一緒に来たオレンジぷらねっとの期待のルーキーで祐巳の親友であるアリスさんと一日先にAQUAへと帰っている。
祐巳もこのリリアン女学園を見たら再びAQUAへと帰る。
どうして、先にリリアンへ来なかったのかと言えば怖かったからだ。
知っている姿が、全て知らないというのは恐怖しか生まない。
『変わった』では、すまないその変化に祐巳は嫌悪感を覚えていた。
だから、リリアンに来るのが怖かった。
祐巳にとってどこよりも大事な場所。
今の祐巳と過去の祐巳を繋ぐ思い出がある場所。
そこが変わっていたら祐巳は本当に自分自身耐えられないと思っていたのだ。
だが、祐巳たちアリアカンパニーが来るということで案内をかってくれたアイちゃんが自信を持って大丈夫ですというのでようやく最後に来たのだ。
そして、祐巳は声を上げたのだ。
そこには祐巳の記憶と殆ど変わらない景色が残っていた。
確かに新しい校舎や体育館などは見えるし、銀杏並木の木々も驚くほど大木に成ってはいたが、それでもマリアさまはそこにいて、祐巳が過ごした校舎も未だに残っていて使用もされていると知った。
そして、薔薇の館。
確かに今は使われていないのかも知れないが、祐巳の記憶のままにそこにあった。
「祐巳さん、入りますか?」
そう言ってアイちゃんは薔薇の館の古びた扉を開く。
一歩、中に入る。
「……」
階段のステンドグラスから差し込む光。
そこには蔦子さんと一緒に、志摩子さんに案内されて初めて感じた薔薇の館の空気がそのまま残っているような感じさえ受けた。
「上がってもいいかな?」
「どうぞ、見学は出来ますから」
アイちゃんに促され祐巳は階段を上る。
――ギシギシ。
今にも壊れそうな音が響く。
「ここに薔薇さま方はいらっしゃいませんが、山百合会の別室として管理されているんです」
「それじゃ、今の薔薇さまたちが管理しているんだ」
「正確にはつぼみの方々ですね。つぼみの業務としてあるようです……山百合会が開く茶話会などの会場としても使われているようです」
「えっ?使われているの?」
祐巳の言葉にアイちゃんは頷く。
少し驚きだ、祐巳は使われていないと思っていたからだ。それに……。
「……茶話会?」
祐巳は階段の途中で止まり、後ろのアイちゃんを見る。
「はい?どうかしましたか」
「ううん」
あの当時の茶話会が、まだ続いているとは考えられない。今の薔薇さまたちが始めたと思った方が自然だろう。……だが、もしも続いていたのなら過去の多くの薔薇さまたちに感謝したい気分だ。
その中には、勿論、志摩子さんや由乃さん、志摩子さんの後を継いだであろう乃梨子ちゃんも含まれている。
「開けるね」
「どうぞ」
祐巳はゆっくりと手に力を込めた。
ビスケット扉がゆっくりと開いていく。
……。
…………。
宇宙船がマンホームから離れていく。
小さくなっていくマンホームを、祐巳は眺めていた。
「地球……綺麗ですね」
「……祐巳ちゃん?」
一つ本当に良い事があると人の思い出は本当に素敵なものになる。
終わりよければ全て良しではないが、まぁ、そんな所だ。
「祐巳ちゃん、旅行どうだった?」
「楽しかったですよ、本当に灯里さんとアリシアさんには感謝しています。来て良かったと思えますから」
「そう、それは良かったわ」
祐巳は、灯里さんとアリシアさんの笑顔に笑顔で帰す。
「それにしても、マンホームの東京にあんな学校が残っていたなんて知らなかった。私も通いたかったな」
「ふふふ、そうですね」
シミジミ呟く灯里さんに祐巳は笑い。もう一度、リリアンに思いを馳せる。
薔薇の館の二階、今は茶話会の会場として使われている場所もまた、祐巳がいたときと何も変わってはいなかった。
窓から差し込む優しい光。
少し古びた木の香り。
ビスケット扉を開けば、そこに祥子さまや仲間達が待っているようなそんな錯角さえ覚えた。
涙腺が弱くなる。
祐巳は泣かないようにと思いを別のことに移そうとして、一つのことを思い出す。
……そういえば。
祐巳が思い出したのは、薔薇の館の窓辺に書かれた悪戯書き。
窓辺の柱に掘り込まれそれは、長い年月の間に読みにくく成ってはいたが傷跡はまだ残っていた。
そんなものを祐巳がどうして見つけ出せたのかは分からないが、こんな事を過去の薔薇さまがしたのかと思うと少し悲しくなった。
柱に刻まれた傷跡。
読めなかったが、この傷跡の話は有名らしく。アイちゃんの話では、病気で来られなくなった薔薇さまに妹が宛てたメッセージだとも、その逆だとも言われているようで本当のところは分からないと笑いながら伝わっているメッセージを教えてくれた。
『私は貴女の側にいます』
たった、それだけのメッセージ。
何時誰が誰に宛てたのかも分からない言葉。
アイちゃんの話では、謎めいたメッセージはリリアンの乙女達の格好の話の話題に成りやすいらしい。
確かにリリアンの乙女達にとっては楽しい話題の一つになるだろう。
彼女達にとって、このメッセージは昔話の物語なのかも知れないが、祐巳にとっては……。
「これってもしかすると祐巳さんに宛てた手紙なのかも知れませんね」
アイちゃんの言葉が頭に響く。
祐巳も、もしかしたらとも思うが、違うのかも知れない。
……お姉さまが、そんなこと許すかな?
祐巳が違うと思う理由、それは祐巳のお姉さまである祥子さまのことを考えると有りえないとしか考えられないからだ。
……お姉さまなら、どんな理由があっても許さないだろうなぁ。ふふふ。
その様子は簡単に頭に思い浮かべることが出来た。
「お姉さま」
今の祐巳と祥子さまの距離は信じられないほど遠い。
それでも繋がっていると感じられるのは祐巳の勝手な思い込みだろうか?
窓の外に目を向けると、もう地球は見えなかった。
祐巳は目を閉じて体重を座席に預ける。
少し、眠ることにした。
「祐巳ちゃん、祐巳ちゃん」
祐巳は自分を呼ぶ声で目を覚ます。
「ふぁぁ」
「AQUA見えてきたよ」
祐巳を起こしたのは灯里さんだ。
「AQUA……」
窓の外を見ると青い星が見えた。
地球――マンホームではないAQUAだ。
「なんでしょう?何だかホッとしますよね」
「あっ、やっぱりそう?私も同じだよ」
「「……あははは」」
マンホーム出身の二人がホッとするのがAQUAの方なのだから笑うしかない。
だが、それが本当に気持ち。
しかも、ネオ・ヴェネツィアが見えてくれば尚更で、降り立ったときには本当に帰ってきたと言う気分だった。
「ん〜っあ!!」
背筋を伸ばしAQUAの空気をおもいっきり吸い込む。
胸いっぱいに広がる潮を含んだ空気、帰ってきたって感じる。
祐巳の横では、灯里さんも同じ事をしていた。
「あらあら、それじゃ私も」
それを見てアリシアさんも空気を吸い込む。
「すっわ!!……お前達は何をやっているんだ?」
後ろからかけられた声に振り向くと、姫屋の晃さんが立っていた。
「人が朝早くから迎えに来てやったというのに」
晃さんの言葉に近くの時計を見れば、まだ、朝の九時。
「あらあら、ありがとう。晃ちゃん」
「ごきげんよう。晃さん……AQUAを感じていたんです」
「AQUAはホッとするんですね」
「……あのなぁ……まったく、大ボケ三人組が……でもまぁ、お前達らしいよ」
笑う晃さんと一緒に船着場に向かう。
船着場には姫屋の晃さんの白いゴンドラが停留されていた。
「さっ、乗りな。送っていくから」
晃さんの漕ぐゴンドラで今や我が家であるARIAカンパニーに戻っていく。
「ところでマンホームはどうだった?楽しかったか」
晃さんの質問に祐巳は灯里さんとアリシアさんと顔を合わせ、ニッぱっと笑った。
「ほぉぉ、楽しかったようだな」
「はい、とっても」
「それは良かった。だが、お前達がいない間、こっちでも楽しいことがあったぞ」
ニヤニヤと何やら楽しそうな晃さん。
「楽しいことですか?」
「そうだ、楽しいことだ」
「あらあら、晃ちゃんが楽しそう」
「何なんですか?」
晃さんはまた笑って……。
「今は秘密だ!!」
ハッキリと楽しそうにそう言って、また、笑った。
「帰ってきた〜!!」
晃さんに送ってもらい数日振りの我が家。
「祐巳ちゃん、窓を開けてくれる?」
「は〜い」
祐巳は先にARIAカンパニーに入り、窓を開いていく。
濁った室内の空気が、潮を含んだ新しい空気に入れ替わっていく。
「祐巳ちゃ〜ん!!」
「はーい!!」
窓を開けて快晴のAQUAの空を見ていた祐巳は、アリシアさんの声に急いで戻る。
「あっ、アリシアさん、どうしたんですか?」
一階に降りた祐巳は、ARIAカンパニーの制服に着替えたアリシアさんを見つけた。
「アリア社長を迎えに行ってくるから」
「えっ、あぁ、それなら私も」
「あぁ、祐巳ちゃんはゆっくりしていていいわよ」
「ですが……」
そういった雑用は祐巳の仕事だ。
「あらあら、本当にいいのよ。グランマにも少しお話があるしね」
「そうですか」
「それじゃ、船着場まで送ってやろう」
祐巳が頷くと、アリシアさんは晃さんのゴンドラに乗り出かけていった。
「いってらっしゃ〜い」
祐巳はアリシアさんを送り出して、灯里さんが居ない事に気がつく。
「灯里さ〜ん」
「はーい!!」
少し探すと灯里さんも制服姿で二階から下りてきた。
「灯里さんも着替えたんですか?」
「うん、お土産を配ってこようと思って」
「それなら私も」
「祐巳ちゃんはゆっくりしていてよ。それじゃぁ、少し行ってくるから」
「行ってらっしゃい」
灯里さんを見送ると、ARIAカンパニーには祐巳一人だけが残ることになる。
……ゆっくりしていて良いと言われてもなぁ。
祐巳はそんな事を思いながらプライベートルームに上がり、下りて来たときにはARIAカンパニーの制服に着替えていた。
「うん!!」
祐巳は気合をいれ船着場に向かい、手馴れた感じで準備を終えるとゴンドラを漕ぎ出す。
祐巳の操るゴンドラは、ゆっくりとARIAカンパニーの前の海に漕ぎ出す。
祐巳のオールだけでゴンドラは緩やかに進む。
「……これで落ち着けるんだから、すっかり慣れちゃったよね」
頬を潮風が撫でていく。
ゴンドラを止めただ波に揺られる。
マンホームに行って良かったと思う。
祐巳にとって大事な繋がりがそこにあることを確認できたから……。
薔薇の館も。
リリアンも。
本当に祐巳の大事な場所。
そして、あのメッセージ。
「……私の側にいるかぁ」
祐巳はロザリオを握り締める。
「でも、こちらも今では大事な場所なんだよね」
ここで不意に、祐巳の本来の世界に戻ることが出来るとしても祐巳には答えは出ないだろう。
だから、戻れないというのは逃げかもしれないが選択肢が無いことに祐巳は少しだけ安堵していた。
ただ、心残りがあるとすれば……。
「……瞳子ちゃん」
最初の出会いは最悪だった。
それでも今では瞳子ちゃんにロザリオを渡さなかったことを後悔している。勝手な願いだが、瞳子ちゃんが紅薔薇さまを継いでくれていると、祐巳は嬉しい。
「ふふふ、こんなんじゃまた由乃さんに怒られちゃうなぁ」
祐巳は会えない友人の事を思い出す。
以前、由乃さんに『祐巳さんは後から考えてウジウジと悩むタイプよね』とか言われたことがある。
本当にそうだと思う。
「……てっ、また考えているし」
人間、環境が変わったくらいではそうそう変わらないということか?
「困ったものだ……ん?」
ARIAカンパニーに戻ろうとした祐巳は少し離れた岸側をフラフラ進む黒いゴンドラを見つけた。
乗っているのはどうやら二人。
白い服からして水先案内人=ウンディーネ見習いといったところか?
流石に距離があるので、制服のラインの色までは分からないからどの会社所属かまでは分からないが、少し羨ましい。
ARIAカンパニーは少数の小さな小さな会社。
同僚はいない。
アリシアさんも灯里さんも優しく立派な先輩だし、アリスさんのような友人もいるが、それでも時々お邪魔する姫屋やオレンジぷらねっとで同じ同僚らしいウンディーネ見習いが話しているところなんか見ているとやっぱり羨ましい。
見習いのウンディーネが漕ぐゴンドラは、フラフラしながら祐巳の方に気がつくこともなく離れていった。
「さて、お昼でも準備しとこうかな」
祐巳は、危なっかしいゴンドラを見送り。ARIAカンパニーへと戻っていく。
アリシアさんも灯里さんもお昼に戻ってくるかは知らないけど、まぁ、残ったら夕食で食べればいいだけのことだと考え。
祐巳は自分の好みで昼食のメニューを決めたのだった。
結局、お昼はアリシアさんも灯里さんも戻って来たし、アリシアさんと一緒にアリア社長も戻ってきたので、少し昼食の量が足りなくなった程だった。
「それじゃ、私は一度、家に戻るわね」
「はい」
「灯里ちゃんと祐巳ちゃんはどうする?」
「ほえ〜、私は少しお昼寝します」
灯里さんは疲れたところにお腹が膨れたためか、少し眠そうだ。
「それじゃぁ、私は少し行きたい所があるので出かけてきます」
祐巳は眠そうな灯里さんに確認を取る。
「いいよ。でも、どこに行くの?」
「私もお土産を渡したい人がいるので」
そう言って祐巳は、白い包装紙に赤いリボンがついた小さな箱を見せる。
「あれ、そんなお土産何時買ったの?」
「えへへ、リリアンの購買部で……本当はお土産用ではないんですけどね。大事な友人は喜んでくれると思って、アリア社長!!」
「ぷいにゅ?」
「すみません、付き合ってもらえますか?」
「ぷいにゅ!!」
祐巳の言葉に大きく頷くアリア社長。
「それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
アリア社長を乗せてた祐巳のゴンドラはゆっくりとARIAカンパニーを離れる。
目的地は今は誰も使っていない古びた水路の奥。
祐巳の秘密の場所……と言うほどでもない。
灯里さんもアリスさんも知っている。それどころか藍華さんも知っているらしい。
でも、誰も積極的に行くことはしない。
祐巳も本当に用事のとき以外は行こうとは思っていない。
あそこは猫たちのテリトリーだから、人が荒らすことは許されない場所。
ただ、今回は手渡しが出来なくても、祐巳自身の手で届けたいのだ。
細い水路を抜けると今は水の中に浸かった体育館のような廃墟に出る。
シンと澄んだ冷たい空気がそこは支配していた。
……ここの空気って。
それは薔薇の館に似ていた。
祐巳はここが本当に大事な場所だと感じ、祐巳はゴロンタを呼ぶのを止め。静かにお土産を小さな瓦礫が水の上に顔を出していた場所に置く。
「……この方が良いですよね」
祐巳は確認を取るようにアリア社長を見るが、アリア社長は小さく首を傾げただけだった。
祐巳はゴンドラをUターンさせ、水路に戻っていく。
「それじゃ、またね」
そこでようやく祐巳は姿が見えない友人に呟いた。
祐巳は振り向かずゴンドラを自分達の場所へと進めていった。
ARIAカンパニーの社員旅行も終わり。日常が戻ってくると思いきや、祐巳は右手にデッキブラシ。左手にホースを持って、目の前には陸に揚げられた祐巳のゴンドラがデン!!と鎮座していた。
何でもARIAカンパニーのお休みは今日まで取ってあり、今日はゴンドラを陸に上げて普段水中に使っている部分の掃除とメンテナンスをやるのだ。
「うっ!!」
ゴンドラの船底には、よく海で見かけた貝などが取り付いていた。
「祐巳ちゃん!!やるわよ!!」
灯里さんも自分の白いゴンドラを前にして気合を入れている。
「はい!!」
当然祐巳も気合をいれ掃除に取り掛かる。
まずはコテで貝を剥ぎ取る。
――ぱこ、ぱこぱこ。
面白いように取れていく。
貝を取ったらブラシでゴシゴシ。
「う、うでが〜!!」
ゴンドラ漕ぎで体力はついている筈だが、この作業はやたらと疲れるし肩が痛い。
「灯里さ〜ん、腕痛いです!!」
「ほぇ〜、私も同じ〜」
祐巳も灯里さんもそんな事を言いながら顔は笑っているので、実際としては楽しい作業なのだ。
ちなみにアリシアさんはARIAカンパニーのゴンドラの許可の更新に行っているのでココにはいない。
アリシアさんのゴンドラはまた後日清掃と言うことで、今は泡だらけにした二つのゴンドラを水で洗い流し、乾いたタオルで隅々まで水を拭き取っていく。
「よし、拭き終わった!!」
「それじゃ、次はコレだよ」
「はい?」
「まずは防水コートオイルで、次にコレが水滑り用オイルと仕上げのアリシアさんお手製スペシャルワックス!!」
「おぉ!!これ三種類とも塗るんですか?!」
祐巳の言葉に灯里さんは嬉しそうに頷いた。
祐巳はゴンドラを洗っているとき、父が車を洗っているのを思い出したがそれ以上に手間隙をかけて大事にするんだなぁと感じたが、やり始めるとついつい凝ってしまうもので……。
「二度塗り終わりました!!」
「こっちも終わり!!」
ゴンドラはピカピカに成りました。
「綺麗ですね」
「綺麗だね」
「ピカピカですね」
「ピカピカだね」
綺麗になったゴンドラを灯里さんと眺めている。
秋の暖かい日差しが、一仕事終えて疲れた体に心地よい。
――チリ〜ン。
「……」
――チリンチリン。
「あっ、この鈴の音……ゴロンタ?」
それは祐巳がリリアンのお土産としてリリアンの購買部で買った鈴の音。まぁ、鈴の音の聞き分けなど、祐巳には出来ないが。
祐巳はゆっくりと鈴の音の方に顔を向ける。
いつの間にか赤い夕日が海を照らしていた。
その夕日の中を、一艘のゴンドラがスーと……。
スーと……。
……ゆっくりと進んでいく。
鈴の音は、そのゴンドラの方から聞こえてくるようだ。
ゴンドラには二人の人影のシルエット。
祐巳はゆっくりと立ち上がり背を伸ばす。
潮が満ち始めゴンドラが浸かりだしていた。
「行きますか灯里さん」
「そうだね、アリア社長行きますよ!!」
「ぷいにゅう」
祐巳は綺麗になったゴンドラを海に出し、灯里さんもゴンドラの下から這い出してきたアリア社長を乗せ白いゴンドラを海に出す。
「祐巳ちゃ〜ん、灯里ちゃ〜ん」
「あっ、アリシアさん」
祐巳と灯里さんがゴンドラを漕ぎ出したところにアリシアさんも戻ってきた。
それから祐巳はアリシアさんと灯里さんと一緒に、夕焼けの海でゴンドラを遊ばせ。
何時しか、鈴の音は止み。
あのゴンドラも居なくなっていた。
〜おまけ〜正しいアリア社長の遊び方(嘘)
今日はゴンドラを洗っている。
アリア社長も手伝っている。
「ぷいにゅ?」
ふとゴンドラの下を見れば、真ん丸のアリア社長でも通り向けられるくらいの隙間を発見した。
「……」
見習いの祐巳とARIAカンパニーのホープである灯里は、ゴンドラを洗うのに夢中のようだ。
――ドキドキ。
以前、一度だけ行ってしまったパラレルワールド。
男女あべこべの世界。
そこに祐巳は居るのだろうかと好奇心が生まれる。
「にゅっにゅっ」
お腹がつかえて中々進めない。
「ぽにゅう!!」
お腹が抜け、コロンコロンと転がっていく。
無事抜けれたようだ。
「もう、アリア社長何しているんですか?」
そこはアリア社長の願いでは、男女あべこべの世界だったはずだ。
だが、アリア社長は知っている声に、顔を上げ固まった。
祐巳がいた。
いつものツインテールに、ARIAカンパニーの制服を着込んでいる。
「……」
どうやら失敗だったようだ。
「ぷいにゅ」
アリア社長はがっかりと項垂れる。
「アリア社長、そんなところにいると濡れますよ?」
アリア社長はその声に振り向く。
短パン姿の灯里がいた。
男の子の灯里、でも祐巳は女の子。
「????」
アリア社長の頭の中は大混乱。
「祐麒ちゃん、アリア社長を連れて離れていて」
「はい」
祐麒?
祐巳ではないのかとアリア社長は思った。
やっぱりここはこの前とは違うけれどパラレルワールドのようだ。
アリア社長は逃げ出すことにした。
「あっ、アリア社長!!」
祐麒の腕から逃げ出したアリア社長はゴンドラの下に逃げ込む。
「アリア社長!!ダメですってば!!」
祐麒が追いかけてくる。
掴まる前に逃げなくては!!
アリア社長は間一髪逃げ出し、ゴンドラの下を潜り抜けた。
「ぷいにゅ〜」
「アリア社長、どうしたんですか?」
そこには女の子の灯里がいた。
「灯里さ〜ん!!」
「祐巳くんが待ってますから行きましょう」
どうやら祐巳らしい。
アリア社長は安堵して、灯里のゴンドラに乗り込んだ。
アリア社長の今回の小冒険も無事終わったのであった。
先に出た祐巳のゴンドラが近づいてくる。
祐巳は、短パンのARIAカンパニーの制服を着ていた。
「ぷいにゅ〜う!!!!」
マンホームは最初、リリアンも変わってしまって祐巳の思い出など無い方向で進めていたのですが、どうも違うだろうと残す方にしました。
コレ以降は、あまり、まつのめさまの方とは絡まないので、まつのめさまご自由に楽しんでください。
あと、おまけは今回ARIAの絡みが少なかったので、前からやりたかった小ネタなのでやってしまいました。
ここまで読んでくださった方々に感謝。
『クゥ〜』