【2191】 嘘つきも恋のうちお後がよろしいようで  (若杉奈留美 2007-03-12 19:13:15)


フィガロの結婚クロスオーバー。
サブタイトル:「真里菜の結婚・なんでそ〜なるの!?」
最終回でございます。

(第8幕・修羅場のあとには大団円)

お屋敷の中庭は、大変なことになっています。
その瞳に激しい怒りを込めて、ご領主さまは真里菜さんをにらみすえます。
急を聞いて集まってきたお屋敷の使用人たちが、不安そうに見守っています。

「真里菜さま…あなたもやってくれますよね」
「それはこっちのセリフだ」

突如として冷たい風が一陣、吹き抜けたあと。
ご領主さまと真里菜さんは、手にした剣を激しくぶつけあいました。

「ああっ!」

悲鳴とも驚きともつかない声が、まわりから上がります。
ご領主さまの攻撃をすばやくかわしながら、真里菜さんも攻撃の手をゆるめません。
剣の腕においては、智子さまも真里菜さんもまったくの互角。
今回は特に、それぞれに大事な人への思いがかかっている分、手加減するわけには
いかないのです。

(討ちてし止まむ…!)

その一念のみが、2人をここまで駆り立てているのです。
しかし…ここで智子さまが真里菜さんのわずかな隙をついて右手首に強烈な一撃!
思わず剣を落とした真里菜さんの胸に、剣の切っ先が迫ってきました。

「負けを認めなさい。そしたら命だけは助けてやるわ」
「冗談じゃないね。誰があんたなんかに」

智子さまの顔色が土気色になり、さらに剣が迫ってきます。

(もうだめかも…)

真里菜さんの脳裏に、これまでの日々がよみがえってきました。
優しい育ての親とともに過ごした日々。
ご領主さまのお屋敷に働きに出て、そこで美咲さんと知り合ったとき。
恋する気持ちが結婚にまで高まった瞬間。
そして…今目の前にいる領主の横恋慕とともに、終わろうとする命。
静かに目を閉じる真里菜さん。

「さあ、やりなよ」

目を閉じたままで最後の言葉をかけたとき。

「いい加減にしなさい、智子」

それは聞き間違いようもない、領主夫人ちあきさまの声。
驚いて目を見開く真里菜さんと、手にした剣を落とす智子さま。

「…お姉さま…じゃぁ、ここにいるのは…!」

あたりを見回して、ようやく自分の犯した罪に気づいた様子です。

「すべてはあなたの浮気心が起こしたことよ」

智子さまはがたがたと震えだし、ついにその場にへたりこみました。

「許して…!お姉さま、お願い、許して…!」

その姿を見た真里菜さんは、その場に立ち上がって一言。

「智子。自分の家族を幸せにできない女に、国を治めることなんてできないよ…
美咲やちあきの気持ち、考えたことある?」

地面にひざまずき、智子さまの目をしっかり見据えて話しかける真里菜さん。
そこにはもう、先ほどまでのような激しい感情はなく、あるのはただ穏やかな色のみ。
その目を見た智子さまの目から、とめどなく涙があふれます。

「…お姉さま…申し訳ありませんでした。これほどお姉さまに愛されていながら…」
「もういいの。気づいてくれたなら」

ちあきさまは優しく許してくださいました。

「美咲…今まで邪魔してごめんなさい。もう私のことは大丈夫だから…
真里菜さま。この子は私の大切な妹です。
どうか、どうか幸せにしてあげてください…」

ようやく美咲さんを送り出す決心がついた智子さま。
その表情はとても明るく、慈愛に満ちています。
これから先はどんなことがあっても、ちあきさまと一緒に幸せを築くことができるでしょう。

「あとさ、涼子ちゃんのことだけど…この国の兵役は確か2年だったよね?」
「はい。本人側によほどの事情がない限り、原則2年が法で定められておりますが…」

すると先ほどから沈黙を守っていた美咲さんが、一枚の書類を智子さまに差し出しました。

「これは…!」
「まぎれもなくお姉さまの字ですよね?」

そこに書かれていたのは、自分の屋敷の使用人は兵役期間を短縮、または免除するという内容の決定。
軍隊にとられて公邸内の人材が減るのを恐れた智子さまが、裁判所にかけあって自分の名前で通達を出したものです。

「…分かりました。涼子ちゃんの軍隊行きはなかったことにします」
「だってさ、涼子ちゃん。よかったね」

パチンと指を鳴らす音が響いたかと思うと、次の瞬間そこに見えたのは、
自分がかつて追放した秘書の姿。

「理沙ちゃんが智子のお部屋を掃除したときに見つけたんだってさ。
大事な書類はちゃんとしまっとかなきゃだめだよ?」

ぼうぜんとする智子さま。

「もう…これだから智子さまは放っておけないんだ」

涼子さんは苦笑いしながら、再び主人となった人に向かい合いました。

「ごめんね涼子ちゃん…これからまたよろしくね」
「もちろんですよ」

その瞬間、一部始終を見守っていた人々の中から大きな拍手と歓声が沸き起こりました。

「さあ、みんな宴会の準備をしてちょうだい!今夜は朝まで祝宴よ!」

パンパンと勢いのいい手拍子の音と、ちあきさまの張りのある声が中庭に響き、
和やかな宴は朝日が昇るまで続いたのでした…

騙し騙され、嘘つきつかれ、いろいろあった一夜の出来事。
お楽しみいただけたなら、この上もない喜びでございます。


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