【2202】 幸せ気分いっぱいです  (琴吹 邑 2007-03-26 07:48:53)


『がちゃSレイニー 行くべき道』篇

お久しぶりのがちゃSレイニーシリーズです。
とりあえず、これで一区切りです。




 〜 最初から読まれる方 〜

・ 『筋書きのない人生の変わり目 【No:132】』が第一話です。
 くま一号さんの纏めページ。
 ⇒ http://homepage1.nifty.com/m-oka/rainyall.html
 確認掲示板をご参照ください。
 ⇒ http://hpcgi1.nifty.com/toybox/treebbs/treebbs01.cgi




 風さんの『花も恥じらう乙女の心とはなんぞや  【No:1880】』の続きです。
 
 
 
 
 
 薔薇の館での作業が終わり、今日は紅薔薇姉妹だけで帰っていた。
 こうした雰囲気の中でのんびり帰れるのはやっぱり幸せなことだなと思う。

 瞳子ちゃんが私の妹になって2週間。白薔薇革命と姉妹複数人制の騒動は、白薔薇さまと紅薔薇のつぼみの妹、いわゆる原点に近い人たちによるによるロングインタビューと紅薔薇さま・黄薔薇さまのコメントがリリアンかわら版に2週間にわたり掲載されたことによって、今では完全に収束していた。
 目下のリリアン生の注目は黄薔薇のつぼみの妹が誰になるか。
 それにしても、由乃さんがあの日以降、何人も薔薇の館に妹候補生を連れてきたのはびっくりした。
 妹候補生たちはしばらくの間、薔薇の館にお手伝いに来ていたけど、菜々ちゃん以上にぴんと来る子はいなかったようで、いまでは全員お払い箱にされてしまっていた。

「祐巳さま。どうしたんですか?」
 瞳子ちゃんがいつものように、話しかけてくる。
「べつに。なんでもないの。由乃さんは妹どうするのかなって。私には瞳子みたいな素敵な妹が出来たから、由乃さんも出来るといいなって思ったの」
「素敵な妹だなんて。祐巳さま、突然何言い出すんですか!」
 私の何気ない言葉に、首筋まで真っ赤になっている瞳子ちゃんを見て、私は内心クスリと笑う。
「だって本当のことだから」
「な、な………」
「祐巳は瞳子ちゃんのことそう思っていても、瞳子ちゃんは祐巳のこと、ちゃんとしたお姉さまと思っていないかもしれないわね」
 ゆでだこになっている瞳子ちゃんを優しい目で見ながら、お姉さまはすこし意地悪そうな口調で言った。
「なっ、そんなことありません。祐巳さまは、私にとってれっきとした………」
「ストップ。別に言い訳なんか聞きたくないわ。私はあなたが祐巳と姉妹になってから2週間も経つのに、未だに祐巳のことを祐巳さまって呼ぶ事実に対して言及しているだけ」
「祐巳さまは、祐巳さまで、私がどう呼ぼうが祥子さまには関係ありません」
 その言葉にお姉さまは肩をすくめながら言った。
「別に私は、良いんだけどね。祐巳が良いなら」
「私は………」
 瞳子ちゃんから、祐巳さまと呼ばれるのが今までは普通だったから、別にかまわないと言えばかまわない。でも、やっぱり、瞳子ちゃんからお姉さまって呼ばれたいなとこっそり思っていたりもする。
「黄薔薇革命の頃を思い出すわね。本当にそっくりなんだから」
 そしてお姉さまは私の方見てクスリと微笑む。
「ちょっと、用事があるの思い出したわ。先に帰るわね。それでは、ごきげんよう」
 そういって、かなり速い足取りで、バス停へと向かわれた。 
「ごきげんよう」
 今のはきっと瞳子ちゃんと二人きりにしてくれたんだろうなあと、感謝の念を送りながら遠ざかっていくお姉さまを見送った。
「ところで祐巳さま。黄薔薇革命の頃って何かあったんですか?」
 瞳子ちゃんの言葉に、私も首をかしげる。お姉さまが、今わざわざこの場で口にするような、出来事があったかなあと。
 しばらく考えて、その出来事に思い当たった。
「うん。あったよ。瞳子にも教えてあげるね。」
「はい」
 それは、黄薔薇革命が終わった後のこと、ちょうど今みたいに、騒動から一息ついた頃のことだった。あの時、あの出来事があって、私はお姉さまのことを祥子さまから、お姉さまと呼ぶようになったのだ。
「ところで、瞳子」
「なんですか?」
 きっと私はあの時のお姉さまと同じように少し意地悪な目をしていることだろう。
「今度から、瞳子から『祐巳さま』って、呼ばれても返事しないことに決めたからよろしくね」
「えっ?」
「だって、全然呼び方かえてくれないんだもん」
 そう言って、私は瞳子ちゃんをおいてすたすたと歩き出す。
「良いじゃ、ありませんか。別に呼び方がどうであろうと。私は祐巳さまと、呼ぶのが好きなんです。いけませんか? 祐巳さま?」
 まあ、別にそれでも良いんだけどね。思わずそう言いそうになる気持ちを抑えて、私はそのまま歩き続ける。
「祐巳さまぁ」
「無視されたくなかったら、ちゃんと呼んでね」
 このときの瞳子ちゃんの表情を無性に見たいという誘惑に駆られつつも、その誘惑を何とか振り切り、歩き続けた。
「お姉さまっ、待ってください」
 しばらく経った後、ようやく覚悟を決めたのか、瞳子ちゃんのよく通る声が私の望んでいた言葉を発した。
 私はその言葉に微笑みながら、くるりと振り返ったのだった。
 
 
 
 
FIN


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