【2233】 放課後の惨劇世に出せない画像貴女だけの特権  (若杉奈留美 2007-04-14 23:29:52)


目の前に広がる雑多なモノたちの砂漠、あるいは海。
自分の部屋でありながら、主がそこに足を踏み入れるのを全力で拒否するかのようなその場所。
それを目にした彼女にできることは、ただ1つ。

「…呼ぶんじゃなかった」

自らの遠縁で幼馴染を部屋に上げたことを、悔やむことだけだった。
そんな彼女の名は、野上純子。


今年の白薔薇のつぼみは、「伝説のパティシエ」と呼ばれたかつての黄薔薇さま以上のお菓子作りの腕前を持っていた。
小学校3年生のとき、初めて作ったオレンジゼリー。
両親が大喜びしてくれたことからお菓子作りに目覚め、今ではプロも顔負けのスイーツを見事に作り上げるまでになっていた。

そんな純子が新作お菓子をお披露目しようと思ったのは、ある日の朝のこと。

「あっ、純ちゃん。ごきげんよう」
「ごきげんよう智ちん。ねぇ、今日あいてる?」
「放課後ならいつでもあいてるけど…どうした?」

純子は得意げな表情になった。

「今日さ、新作のお菓子作るから、智ちんに試食してほしいんだ」

とたんに智子の目が輝きだした。

「純ちゃんの新作!?食べる食べる〜」
「じゃあ放課後うちに来てくれる?」
「うん、行く!」

そして放課後。
純子は「体に優しい雑穀と黒砂糖のシフォンケーキ、ヨーグルト添え」の準備をしていた。

「智ちん、少し時間かかるから部屋で待ってて。暇だったらテレビとか見ていいし、
本も読んでいいから」
「おっけ〜」

それだけ言うと、純子はそのままキッチンへと向かった。
この時点で彼女は気づくべきだったのだ。

この汚れブゥトンを放っておくと、ろくなことにならないと。

「さて…と」

純子はお菓子に集中しだすとまわりが見えなくなるタイプ。
ましてや2階の智子の様子にはまったくおかまいなしだ。
生まれたときから仲がよく、いつも一緒だった智子はそれを一番よく知っている。
つまりこの部屋は、今の時点では智子の思うがままになるのである。

智子は手当たり次第に本棚から本を取り出して読み始めた。
やがてそれにも飽きると今度はテレビをつける。
しばらくはテレビを見て笑っていたが、また本を読み始めた。

(あっ、もう本がこんなに。でもコタツから出たくないな〜。いいや、後で持ってけ)

どうせ家に帰っても一人なのだから、泊めてもらうのも悪くない。
そう思って事前に着替えを用意していた。
制服を脱ぎ、ゆったりした長袖のTシャツとズボンに着替える。
もちろん脱いだ制服と下着は放置。
シャツとズボンはもう2週間ぐらい洗濯していないせいか、かなり匂う。
しかもそれを着る智子自身も、このところお風呂に入っていない。

(純ちゃんまだかな〜、おなかすいちゃったよ)

ガサゴソとカバンの中をあさっていると、美咲にもらった駄菓子が少し残っているのが見えた。

(これでも食べて待ってよっと)

食べ終わった駄菓子の袋は当然、床に放置。
そしてまた本を読み、読み終わったら床の上に置き、テレビを見て、少しうたたねして、またテレビ。
画面を見ながらうとうとしていると、純子の声がした。

「智ち〜ん、できたよ〜。今すぐ持っていくからね〜」
「は〜い」

すでにこの時点で、床は本と駄菓子の袋と制服と下着、その他いろいろなモノたちに埋め尽くされていた。
お泊り用に用意してきた歯磨きセットは、きっと床…正確には、かつて床だった場所のどこかに埋もれているのだろう。
しかしそれを探す気は、智子にはかけらもない。
さすがに自分の部屋ではないため、腐臭を放つ生ゴミやキムチを捨てるわけにはいかないし、ワインを持ち込むこともできない。
ひそかに持ち込んだゴミ袋を見つめ、溜息をつく智子。

(純ちゃんの部屋でも意外に制約あるもんだね)

服と体からえもいわれぬ匂いを発しながら、智子は純子のお菓子を待っていた。

そして冒頭の後悔に至る訳である。

「…智ちん」
「なーに?」

体の全器官がマグニチュード8クラスで揺れに揺れまくっている純子。
それを天使の笑顔で見つめる智子。
そしてついに、白薔薇のつぼみは火山となった。

「このお菓子を持って、今すぐ出て行きなさい!」

そのあまりの剣幕に一瞬ひるむ智子だったが、転んでもただでは起きなかった。
さっそく携帯を取り出して、どこかへ電話をかけている。

「あっもしもし、私だけど。ごめん、純ちゃんとこに泊まるつもりだったけど追い出されちゃった。そうなのよ、最近純ちゃん疲れてるみたいでね。もしかしたらアレかもしれない。そんなわけで、今晩よろしくね。大丈夫よ、散らかしたりなんてしないから」

電話を切ると、智子は意外にもあっさりと帰り支度を始めた。

「…今晩どうするつもりなの?」

あまりにも素直なその姿に、一抹の不安を覚えながら純子はたずねた。

「今晩美咲が家に1人なんだって。だからいつでもどうぞって」

(美咲ちゃん、ご愁傷様…)

純子は内心で手を合わせた。


翌日美咲は学校に来なかった。
なぜかって?
それは世話薔薇総統さまに説明していただきましょう。

「…ゴミの下敷きになってた上に、悪臭で意識を失って病院へ運び込まれたのよ…
もちろん、治療費は全額智子のポケットマネーで出させたわ…」

智子が来たりて部屋汚す。


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