【2261】 世界迷作の森  (クリス・ベノワっち 2007-05-13 04:02:02)


〜〜シンデレラ〜〜

「祐巳!祐巳はどこなの!」
「は、はい!ただいま参ります」
「私の部屋の掃除が終ってないじゃないの、どうして貴方はそう行動が遅いの」
「すいませんお姉さま、今すぐに・・」
「もう、いいわよ!大体貴方は・・・」
くどくどくど、今日も姉に怒られる祐巳。同情はいりません。なぜなら祐巳は姉に怒られるのが大好きな、ちょっと痛い子なのです。
「祐巳ちゃーん、ちょっとちょっと」
継母が呼んでいます。怒られながらうっとりしていた祐巳は、継母を視界に捕らえると軽くため息をつきました。
「なんでしょう、ままはは」
「その呼び方やめれ。んで、お使いに行ってきてー」
「何を買ってくるのですか?」
「エロ本」
にかっと笑って親指を立てるセクハラ親父(継母)祐巳はガックリと肩を落としました。
「あー、うそうそ。本当は違うものを買ってきて欲しいの」
祐巳は顔を上げ、続きを促しました。そして酷く後悔しました。
「男性用下着を買ってこい」
「・・・・・」
祐巳は継母の首を軽く絞めてみる事にしました。
「ちょ、冗談だってば祐巳ちゃん」
暴れながら祐巳の胸やらお尻やらを触ってくるので、容赦しないことにしました。力の限り絞めてみます。
『私まだ出番あるのに―』とかいいながら、継母は力尽きました。
「ちょっと聖、継母いなくなったらお話すすまないわよ」
姉Bの登場です。
「ごきげんよう、おばあちゃん」
祐巳にとって、お姉さまのお姉さまは『おばあちゃん』です。
「その呼び方、おやめなさい。もう仕方ないわね、継母役は私がするわ。姉は2人いなくても何とかなるでしょう」
そう言うと、ズルズルと元継母だったモノを壁際まで引きずっていきカーテンの裏に投げ捨てました。そして何事も無かったかの様にストーリーを進めようとします。
「買い物に行ってちょうだい」
命令です。顔色ひとつ変えずに親友を処理する姿を見てしまった祐巳は、ガクガク震えながら頷くのみです。
そうして祐巳は逃げるように屋敷を出て、買い物に向かいました。


買い物を終え屋敷に帰る途中、祐巳は令さまに会いました。
「ごきげんよう祐巳ちゃん」
「ごきげんよう。どこからどう見ても男にしか見えない為にシンデレラどころか姉役も貰えなかった令さま」
令は力尽き倒れた。返事がない。ただの屍(しかばね)のようだ。
良く見れば令さまは大きなカボチャを持っていました。祐巳はせっかくなので頂いていく事にします。
足元を見てみると、綺麗なガラスの靴を履いています。こんな大きいサイズの靴は正直いりませんが、売れば小遣い程度にはなるでしょう。これも頂く事にします。
貰ってばかりでは悪いので、何かあげようと思った祐巳はコンビニ袋から男性用下着を出しました。聖さまの墓前にお供えしようと買ったものですが、正直、早いトコ処理したかったので令さまにプレゼントです。
もう取るべき物が見当たらないので、祐巳は屋敷に帰る事にしました。あんまり遅くなると大好きなお姉さまに怒られてしまいます、それはとても楽しみです。嗚呼早く私を叱ってお姉さま。

あ、令さまは放置の方向でどうぞ



屋敷には誰もいませんでした。祐巳を残して舞踏会に行ってしまったのです。仕方ないのでご飯を食べる事にしました。ご飯を食べていると玄関の方から祐巳を呼ぶ声がします。
「ごきげんよう、祐巳さん」
「あ、魔法少女志摩子」
「早速だけど舞踏会に行きたいわよね?」
「え?そうでもないよ。人前で踊るのなんてはずかしいし、第一踊れないよ」
「いいえ、祐巳さんは舞踏会に行きたいのよ」
「いや、だから私は・・」
「祐巳さんは舞踏会に行きたいの、私は知っているわ」
「そ、そうなのかな・・」
「そうよ、祐巳さんは行くの、絶対に」
「は、はい」
逆らうと危険だ、と察した祐巳は舞踏会に行くことにします。
「でも舞踏会はお城だよ、遠いし、今から行っても間に合わないよ」
「そんな祐巳さんにプレゼント」
志摩子が呪文を唱えると何かが光りました。
「うわ、まぶしいっ」
目を瞑った祐巳が再び目を開けると、そこには由乃さんがいました。
「由乃さん、何してるの」
「ひひーん」
「由乃さん?」
「ひひーん」
「ダメよ祐巳さん、これは馬なの。」
「へ?」
「馬なの。名前はね『暴れ由乃』っていうのよ」
「馬、なんだ・・」
ははは、と乾いた笑いを返す祐巳に、『暴れ由乃』は、ひひーんと泣きます。いや、鳴きます。
「でも私、馬乗れない」
「大丈夫、私が馬車を用意するわ。ねぇ祐巳さん、かぼちゃを貸してくれるかしら?」
「あ、ごめん。食べちゃった」
「・・・・・え?」
「おなか空いてたから」
「じゃ、じゃあ別のモノにしましょう。祐巳さん、何かお野菜はあるかしら」
「・・・ないかも。ちょっと待っててね、見てくる」
祐巳が冷蔵庫を開けると、志摩子にも確認出きるほど中はスカスカです。
予定が狂い落ち込む志摩子でしたが、ほどなく、祐巳が指先で何かをつまんで戻ってきました。
「・・・ニラね」
「・・・うん、ニラじゃダメかな」
「・・・い、一応やってみるわね」
志摩子が呪文を唱えます。その時、祐巳の視界の端に動くモノがありました。カーテンの影から江利子さまがこちらを伺っています。
「江利子さま、そこで何を・・・」
と、突然江利子さまはそのお凸を全開にします。
「うわ、まぶしいっ」
目を瞑った祐巳が再び目を開けると、緑色の荒縄が一本ありました。
「馬車よ」
「いやいやいや志摩子さん、これは100歩ゆずっても縄だよ」
「馬車なの」
「いや無理、だって乗れないから」
「・・・少し待って、乗り方を考えるわ」
縄と由乃さんを交互に見て考え中の志摩子さん。祐巳はそれをほっといてカーテンに向かい話し掛けます。
「江利子さま、何してるんですか」
「特殊効果よ」
「ひょっとして出番てこれだけですか」
「・・・特殊効果よ」
もう何も聞くまい。祐巳はそう思いひっそりとそこを離れましたが、せっかくなので別のカーテン裏に捨てられていた聖さまを、江利子さまのカーテン裏に投げ入れてやりました。『眩しくて死ねない。いっそ殺して』とか『ちょっと触んないでよ、あ、もう、ちょ』とか聞こえてきますが知ったこっちゃありません。
「わかったわ。ねぇ祐巳さん、これなら舞踏会に行けるわよ?」
志摩子が嬉しそうに声をあげます。渋々と祐巳は聞いてみます。
「どうやって?」
「あ、その前にガラスの靴を履いてね」
「はいはい、っと。で、次は?」
「由乃さんの足に縄を括りつけて・・」
「縄って言った」
「・・・・・で、縄の反対側を祐巳さんの両手に縛る」
あれ?これ、どっかで見たことあると思っても後の祭りです。
「嘘、ねぇ、待って志摩子さん。私コレ知ってる。西部劇とかで、こんな拷問あったよね。あ、でも引っ張るの馬じゃなくて由乃さんだもんね、良かった」
胸をなでおろす祐巳に向かって、志摩子はにやりと笑います。
「『暴れ由乃』は100馬力なの」
言い終わると同時に、由乃に鞭を入れる志摩子。由乃はひひーんと鳴くとお城に向かい走り始めます。その足元で引きずられ、ズタボロになっていく祐巳を見て志摩子は『やっぱりドレスは要らなかったわね、どうせボロボロになるんですもの』と呟いていたとか。


ようやく祐巳はお城に到着しました。いえ、正確には祐巳を引きずった『暴れ由乃』が着いたのです。しかしイケイケ青信号由乃の暴走は止まりません。守衛やら警備やらをなぎ倒し、祐巳を引きずったまま舞踏会場に殴りこみです。
そして会場中央で祐巳を引きずり続ける由乃。会場はドン引きですが、一人の若者が颯爽と現れます。
「なんて独創的な舞なんだ、僕の好みにピッタリだ」
その若者こそギンナン王子だったのです。そしてあろう事か祐巳と一緒に引きずられ始めたでわありませんか。そう、この国の王子は真性の変態さんだったのです。
王子が、痛気持ちいいとか言ってるうちに時は過ぎ、12時の鐘が魔法の終りを告げます。
魔法で作られた馬と馬車(由乃とニラ)は消え去り、王子と祐巳が残されます。他の客はあきれて帰ってしまったようです。祐巳は逃げ出します。自分がボロボロになっているからではありません、変態と二人きりなのが怖いんです。そして祐巳は逃げる途中、階段で躓きます。
「ぎゃっ」
見事な階段落ちです。衝撃でガラスの靴とか粉々になっていますが、これで証拠隠滅です。捕まったらナニされるか分かりません。祐巳は逃げるように屋敷に帰りました。

「僕から逃げられると思っているのかな、シンデレラ?」
王子はガラスの靴の破片を掬いとりフンフンと鼻を鳴らします。変態を甘く見てはいけません。



数日後、王子によって町の女性の大半が、足の臭いを嗅がれる事になる。
その際一人の少女が城に連れかえられたようではあるが、はっきりとは解らない。
なぜなら、変態王子は変態が度を過ぎたため追放され、事件の全容を知る者がいなくなったのである。ほどなく、後継者を失った国王は親戚筋の松平に王位を譲るのだが、その娘の傍らには、幸せそうに微笑む一人の少女がいたそうな。

そんなお話。


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