これは、琴吹 邑さまが書かれた【No:224】『騒動計画ドキュメント』(すごい引き運だ)の続きなのですわ。
翌朝。
志摩子さんからの連絡で、早出することになった乃梨子。昨日の今日である。あのあと祐巳さまは薔薇の館で部活から戻ってきた黄薔薇姉妹と会ったはず。なにかたくらんでいる。絶対たくらんでいる。
薔薇の館に招集された、祐巳さまをのけものにした山百合会と報道関係者が、案の定怪しい談合をしていた。
祐巳はどうせ夕べは悩んで悶々として眠れないわよ、ぜったいに早く起きてはこないわ、という紅薔薇さまの断言により、この時間になったのだ。
「報道関係者」は真美さま、日出実さん、蔦子さま、笙子さんの四人。聞けば真美さまは三奈子さまが例によってなにごとか嗅ぎつけて突っついてくるのを必死でごまかして来たらしい。あの人はなんで受験勉強に専念できな(以下省略)というひとくさりのあと、なにやら由乃さまがワープロで書いたプリントを配った。
「ゆうべ令ちゃんと考えたんだけどね、これはなんとかせなあかんって。」
なんでそこで関西弁になるかな由乃さま。
『瞳子ちゃんと祐巳さんをくっつけよう計画計画書』略して、とうゆ合体計画書
やっぱりこれか。それにしても祐巳さまにネーミングセンスが似ている計画にはろくなことがないのだが。
それにしても、好きだよなあ、この人たち。マリア祭ではめられた時には瞳子がシナリオを書いてきやがったのを黄薔薇さまが止めて、結局筋書きはなんと黄薔薇さまが書いたという。
たしかにコスモス文庫なら感動のナミダで売れそうな筋書きだった。なにしろ雑誌コスモス掲載のあれの評判が良かったから文庫シリーズ化されてベストセラーになったというのだから、少しはこちらにも還元して欲しい。小説の主人公というのはラクではない。
ぱらり、と見て形相が変わる紅薔薇さま。
「由乃ちゃん。」やさしい声が怖い。
「はい。あ、しまったっ。」
「私はなにもしない可能性大なのね。ふーん、由乃ちゃんは私をそんな風に見ていたの。」
「いあ、あ、あの、今回の事情から言って、ろ、紅薔薇さまが出ると話がさらにこんぐらがってややこしくなるんじゃないかと。」
「ふーん、由乃ちゃんは祐巳の思いこみを解くこともできない姉だと思ってるのね。」
ふっ、と笑った顔がやっぱり怖いよお。
しかたない。とてとてとて、と由乃さまのところへ行って耳元でささやく。
「紅薔薇さまは、茶話会の前に一年椿組に来られたんですよ。それで瞳子をたきつけて以下省略ごにょごにょ。」
「え、祥子さま、やるう。」
「ふふふ。祐巳や瞳子ちゃんの考えることなんてお見通しよ。」
「それにね。」あ、あ、顔が般若。
「卒業したセクハラおやじに頼るなんてことは、許しません。なんですかこの案3というのは。」
ははー。御意。
「じゃ、祥子、案2『祥子がんばれ』がいいのね?」と黄薔薇さま。
「どうかしら。白薔薇さま?」意味ありげに、お姉さまと私を見る紅薔薇さま。
「ふふふふふ、そうね、乃梨子。ここは案4『白薔薇に一任』でいいのじゃないかしら。」
「お姉さま。当然ですわ。祐巳さまと瞳子のためですもの。」
リベンジだよリベンジ。決まってるだろうが。
笙子ちゃんがいきなりこっちにシャッターを切った。
「乃梨子さん?笑いが妖しいですわよ。」
同時に志摩子さんを撮ったらしい蔦子さま。さすが。
「なにが怪しいんですか、笙子ちゃん。友情です。そうでしょ。」
「友情ですっていうとねえ。」由乃さま。
「誰かの口癖だったわよねえ。」黄薔薇さま
はああやっぱり。瞳子と思考回路が同じだってのは認めたくないが。
「それで志摩子。どういう手でいくの?真っ正面から説得してもああ見えて祐巳は思いこんだら頑固よ。」紅薔薇さまがお姉さまに話を振る。
「そう、やはり瞳子ちゃんに姉候補があらわれる、っていうのが一番いいと思うんですけど、由乃さんはねえ。」
「どうして私じゃいけないのよ。」
「茶話会の前に祐巳さんのおこぼれなんかいらないって宣言したじゃない。知れ渡ってるわよ。由乃さんじゃちょっと信憑性がないのよ。」
「駒が足りない。のですね。」真美さん。
「瞳子さんと親しくしている二年生といっても、祐巳さま以外はその他大勢で、特別に親しい人はいません。」日出実さん、チェックしてるんだ。
「そりゃそうよ、はたから見れば瞳子ちゃんは祐巳さん一筋だもの。なんで本人だけ気づかないのかほんとに。」
そうこなくちゃ。白薔薇の出番よ。出番。
「お姉さま、駒はちゃんといるじゃないですか。」
「え? 乃梨子、瞳子ちゃんと親しい二年生がいるの? 演劇部の人?」
「違いますよ。お姉さま、昨日のことをお忘れになりましたか。」
「あ・・・・わたし?」自分を指さして点目になるお姉さま。すかさずシャッター2発。
「ちょっと、写真部。少し自粛しなさい。まったく姉妹で狙い所が同じなんだから、怖い妹ができたものねえ。」あきれたように由乃さま。
「「あの、まだ姉妹じゃないんですけど。」」
お、息ぴったりだぞ、写真部予定姉妹。
「まだ、なのね。」にこっと笑う紅薔薇さま。
「仕掛けるならこっちの方が先かしらね。」
「かんべんしてくださいよ。祐巳さんにもやられたんですから。」めげる蔦子さま。そのめげた蔦子さまを見てふくれる笙子さん。かわいい。
「脱線しないで、祥子。志摩子が瞳子ちゃんにねえ。そう言えばマリア祭の前までは瞳子ちゃん、本気で志摩子の妹を狙ってたわね。」
「そうなんですか。ふーん。」きらり、と目が光るお姉さま。乗り気なのはいいんですけどお。志摩子さんが本気を出したら瞳子なんか簡単に落ちるぞ。志摩子さんの本気はすごいんだぞ。
「あのころの瞳子はお姉さまじゃなくても薔薇さまかつぼみなら誰でも良かったのよ。」
パシャッ。シャッター二発。あんたらねえ。そうかいそうかい。そんなにこの白薔薇のつぼみの顔はおもしろいんかい。
「だけどあの瞳子ちゃんに見破られないシナリオと演技って、できるの? 乃梨子ちゃん。」まだ案5『黄薔薇のつぼみに妹が』を自分がやりたいらしい由乃さま。
「だいじょうぶですよ。それに瞳子にはばれてもいいんです。ばれたらばれたで、瞳子は乗ってくると思います。」
「そうよね。祐巳さんにばれなければいい、というならどうにでもなるわ。」
ははは、乗り気になった志摩子さんってきっついわ。
「じゃあ、ざっと考えてきます。『瞳子ちゃんと祐巳さんをくっつけよう計画』改めシナリオ『マリア祭リベンジあしたの紅薔薇さまが未来を手招いてルンルン』略して『マリあさまが未手ル』」
一瞬メモを書く手が止まる新聞部姉妹。シャッターを押すタイミングを外してこける写真部予定姉妹。
「乃梨子ちゃん、脳みそ泡立ってるよ。」
「来年の山百合会は、祐巳の世界になりそうね。」
「それゆうべから考えてたでしょう、乃梨子。」
頭を抱える一同など気にせず、ニシシと笑う白薔薇のつぼみ二条乃梨子であった。