『がちゃSレイニー 行くべき道』篇
〜 最初から読まれる方 〜
・ 『筋書きのない人生の変わり目 【No:132】』が第一話です。
くま一号さんの纏めページ。
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確認掲示板をご参照ください。
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『琴線に触れる愛のパワー 【No:2203】』の続きです。
私はなぜか乃梨子さんの方をちらりと見た。
そのとき、何で私が乃梨子さんの方を見たのかはわからない。もしかしたら、虫が知らせたのかもしれない。
乃梨子さんは、じっと空を見つめていた、そしてそのまま、「出来ないこともないのか……」 とぽつりと呟いた。
突然呟いた乃梨子さんの言葉に興味を持たれたのか白薔薇さまが質問する。
「出来ないこともないって、何が?」
その言葉に乃梨子さんは空から白薔薇さまに視線を戻してから言った。
「すごく現実的ではないけれど、祐巳さまが瞳子と一緒にいるという条件と、瞳子がカナダに女優の勉強に行くという条件を両方兼ね備えることが出来る方法」
「そんな方法が本当にあるの?」
その言葉に私は思わず、身を乗り出して聞いてしまう。
正直なことを言うとカナダに行きたくないわけではないのだ。カナダに行くか祐巳さまを取るかの選択なら祐巳さまを取るというだけで。
「うん。まあね。現実的な方法ではないけど、今私の考えている方法なら」
「どんな方法なの? 教えてくれない?」
不安そうな声で、祐巳さまは乃梨子さんにそう聞いた。祐巳さまも本当は私はカナダに行った方が良いと考えている。それでも、私と離れたくないとの想いから。私に対して「いっちゃやだ」と言ってくれたのだ。
だからこそ、そんな夢みたいな話があるならという、わらにもすがる気持ちなんだろう。
「本当に、現実的な方法じゃないですからね。言って、がっかりしないでくださいよ」
そう言って、乃梨子さんはその方法を口にした。
乃梨子さんの言った方法は確かに、私と祐巳さまが一緒に過ごすという条件と、私がカナダで女優の勉強をするという二つの条件を満たすものだった。
しかし、その方法は乃梨子さんが言うように、お話にならないほど現実的ではなかった。
その言葉に、私は本当にがっかりして肩を落とした。
白薔薇さまも、それはさすがに無理じゃないのかしら?と、否定的な意見を述べる。
「でも、確かに、その方法なら、私と瞳子ちゃんが一緒にいられて、瞳子ちゃんはカナダで女優の勉強が出来るよね」
祐巳さまはそう言ってから、しばらく考えたあと、私たちに向かっていった。
「瞳子ちゃんのカナダ行きの回答。保留にしてもらっていい?」
そう言ったときの祐巳さまの目は、何か大きな決心をしたようなそんな目つきをしていた。
【区切り線中央】
時間になった。
選挙管理員会の人がやってきて、掲示板に覆われていた目隠しがはずされた。
その下に張り出された3人の名前には紅い花が咲いていた。
今年の生徒会役員選挙は信任投票だった。立候補者すべてが当選したことになる。
選挙結果を見に来ていた来年度の薔薇さまたちに、わざわざ、放課後残ってまで結果を知ろうとした人たちから次々とお祝いの言葉がかけられる。
その中で複雑そうな顔をして祝いの言葉に応えている人物がいた。
来年度の紅薔薇さまだ。
「おめでとうございます。当選したのに、あまり嬉しそうじゃないんですね?」
「ありがとう。乃梨子ちゃん。嬉しくない訳じゃないんだけどね。私なんかが紅薔薇さまだなんて、信じられないよ。自分の中では信任投票で落選するかもと思っていたくらいだし」
「よほどの事がない限り、リリアンで不信任を得るのは難しいのではないかと思いますが」
「まあ、私もそうだと思うんだけどね。でも、私だよ? 夢みたいだよ」
「だったら、ほっぺたでもつねってみますか?」
その言葉に来年度の紅薔薇さまは本当にほっぺたをつねった。
「いたい。………本当に夢じゃなさそうだね。しかし、私が来年度は紅薔薇さまか………ほんとに信じられないよ。祥子さまの妹になった当時の祐巳さんて、こんな感じだったのかもしれないなあ………」
あの時、私が言った案はほんとに非現実的な案だった。
祐巳さまと瞳子が一緒にいる事と瞳子がカナダで女優の勉強をすることその二つを両立させる方法。
それはただ単純なことだ。瞳子がカナダで女優の勉強をすること。
すなわち瞳子がカナダに行くならば、祐巳さまもカナダに行けばいい。そうすれば二つの条件が両立できる。
ただそれだけのことだ。言ってしまえばコロンブスのたまご。もちろん、普通に考えれば、それがどれだけ、非現実的な案かは小学生にもわかるだろうけど。
でも、驚くべき事は、祐巳さまはをねばり強く家族を説得し、その非現実的な案を実現させてしまったことだろう。
その話が薔薇の館に持たらされたとき、騒然となったのはいまだ記憶に新しい。
そのときに話題になったのが、薔薇の館の体制をどうするかということだった。
祐巳さまがカナダに行く。それはつまり、紅薔薇のつぼみがいなくなると言うこと。
妹がいない紅薔薇のつぼみがいなくなると言うことは、すなわち来年度の紅薔薇の席がまるまる空席になってしまうということだ。
由乃さまの妹もまだ勘定できない以上、計算できる来年度の薔薇の館の住人はたった3人しかいないことになる。
さすがにその状態は避けたいと言うことで、後を頼まれたのが、祐巳さまのお友達の桂さまだった。
「がんばってくださいね。私もフォローしますから」
本当に信じられないといった感じで、ぼんやりと掲示板を見つめていた桂さまはその言葉に あわててこちらの方を向いて言った
「祐巳さんに頼み込まれて、薔薇の館に出入りするようになってから、1ヶ月しか経っていないからね。足を引っ張るだろうけど、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
そう言って、私は来年度の紅薔薇さまに深々とお辞儀をした。