※ このSSは、瞳子が祐巳の妹になった後という設定でお送りします。
※ 瞳子がだいぶ壊れてます。
※ ちょっとだけグロ注意です。
ごきげんよう、松平瞳子です。
「 さあ祐巳、遠慮無く食べてちょうだい 」
「 うわぁぁ、美味しそう! 」
今、私は薔薇の館でお昼ご飯をいただこうとしているところです。
私の目の前では、ちょうど祥子さまがお姉さまにご自分で作ったというお弁当を差し出していますわ。
「 すっごい豪華ですねぇ 」
「 そお? うちの冷蔵庫にあったもので作ったから、特に豪華な材料を使った訳ではないのだけど・・・ 」
・・・祥子さま。普通、一般家庭の冷蔵庫に、そんな上等そうな牛肉が無造作に入っていたりはしないと思いますわ。
自分で言うのもなんですけど、我が松平家もかなり裕福なほうではありますが、ひょいと冷蔵庫を覗いて「 まあ、こんなところに霜降り和牛が♪ 」なんてことにはなりませんもの。
「 デザートはイチゴよ 」
「 うわぁぁぁ! 粒が大きいうえに揃ってますよ?! 」
「 お父さまが初物を貰ってきたらしいわ 」
だから・・・
確か初物のイチゴって、ご祝儀相場とか言ってとんでもない値段が付くはず・・・
まあ、お姉さまの喜ぶ顔を見たい祥子さまには、値段なんかどうだって良いのでしょうけど。
「 では、いただきま〜す 」
「 ふふふ、召し上がれ 」
「 ・・・・・・(ゴックン) うわ、このお肉、口の中で勝手にとろけますよ?! 」
やはり高級なお肉だったみたいね。
ああ、それにしてもお姉さまの嬉しそうな顔って、何故周りまで幸せな気分にしてくれるのかしら・・・
ついこの間までは、こんなふうにすぐ隣りでお姉さまのお顔をながめていられるなんて、思いもしなかった・・・ いえ、望んでもかなわないと思っていたのに。
この人が私を信じて手を差し伸べ続けてくれなければ、私は今頃・・・・・・
え? 何ですか。お姉さまのお顔を見る至福の時を邪魔しないで欲しいのですけど。
・・・え? 何で祥子さまがいきなりお姉さまにお弁当を作ってきたのかって?
それはたぶん、妹になりたてな私をかまいたくて仕方ないお姉さまが・・・・・・ そう、お姉さまったら、何かというと私にちょっかいを出してきて、「 瞳子の髪、綺麗だね 」とか「 瞳子の指、温かいね 」とか、隙あらば私に触れてスキンシップをはかるんですのよ? 私も別にスキンシップが嫌いという訳じゃありませんし、むしろ嬉し・・・ え? そんなことは聞いてない? いいじゃないですか、姉妹になりたてな私のノロケの一つや二つ聞いてくれたって。
はい? ・・・・・・誰がツンデレですか。私は私の気持ちに素直になっているだけです。お姉さまが私は私のままで良いっておっしゃってくれたから、私は自分の心を素直にさらけ出して生きると決めたんです。
そう、お姉さまなら、どんな時でも私を受け止めてくれるという信頼感があるからこそ、私も正直に・・・ 何です? 話を元に戻せ?
・・・仕方ありませんね。
そうそう、祥子さまのお弁当の話でしたね。
さっきも言ったように、私にばかりかまうお姉さまを見て、ご自分もかまって欲しくなったんじゃありませんか?
自分で言うのもアレですけど、今、お姉さまの視線をひとり占めしているのは、祥子さまではなくこの私なのですから。
ふふっ。「私のライバルになれ」みたいなことを言ったクセに、いざ私がお姉さまの寵愛を受け始めたら動揺するなんて、意外とヘタレですわね、祥子さま。
「 ・・・・・・瞳子ちゃん。なんだか貴方が私のことを見下した顔で笑っているような気がするのだけれど 」
「 気のせいですわ、祥子さま(にっこり) 」
「 ・・・そう。気のせいならば良いのだけど 」
チッ・・・ 余計なところで鋭いんだから。
え? 祥子さまに対して厳しすぎる? 去年の春頃の甘えっぷりはどこへいったのかって?
だって、祥子さまは今、お姉さまを誘惑する“敵”ですもの。(キッパリ)
あと少しで卒業なされるとはいえ、祥子さまは大学部に進むのだから、油断は大敵・・・ 解かりましたよ。話を元に戻せば良いのでしょう?
事の起こりは昨日の夕方。祥子さまがいきなり「 最近、自分で料理を作ることにハマっているのよ 」などと、私から見れば大根も大根、桜島級のくっさい演技で切り出してきたのです。そして話は「 最近は、自分のお弁当も作っているの 」と流れ、最終的には「 そうだわ。明日、祐巳にも私がお弁当を作ってくるから、評価を聞かせて 」という所にたどり着いたのです。
・・・きっと、前の晩から何度も、あるいは何種類も頭の中で会話をシミュレーションしていたのでしょうね。
ついでに言えば、それを聞いていた令さまも「 そう言えば最近、受験のせいでご無沙汰だったから、私も久しぶりに由乃に作ってこようかな 」などとおっしゃり、更には志摩子さままで巻き込んで、いつの間にか「第1回、薔薇さまが蕾にお弁当を作ってあげよう大作戦」というサブタイトルまでできてしまって、今日に至るという訳ですわ。
・・・次期薔薇さまの信任投票も終わったのだから、本当の意味での「紅薔薇さま」は私のお姉さまなんですけどね。
「 由乃、緑茶で良い? 」
「 うん、ありがとう 」
由乃さまも久しぶりに令さま謹製のお弁当を前に嬉しそうですわね。
それにしても、さすが令さまの作ったお弁当。おかずの種類の多さは言うに及ばず、色取りや栄養のバランスまで考えられた素晴らしいものですわね。
「 うわぁ、さすが令さまのお弁当。すごい美味しそうだね 」
お姉さまも羨ましそうに由乃さまのお弁当を覗き込んでますわね。
「 そお? まあ確かに令ちゃんのお弁当は美味しいけど、私にとっては特別なものでも無いんだけどね 」
冷静を装ってはいても、由乃さまもさり気なく自慢してるあたり、久しぶりに令さま謹製のお弁当が食べられて嬉しいんでしょうね。
・・・うわ、祥子さまが令さまを殺意のカタマリみたいな視線でにらんでる。
お姉さまがちょっと誉めたくらいで嫉妬するなんて・・・ プッ、かっこ悪。
なんだか最近、祥子さまのお姉さまへの執着心が悪化しているような気がしますわ。
私のせいかしら? 私がお姉さまに可愛がられているせいだとしたら・・・・・・ もっと悪化させてやろうかしら。(ニヤリ)
「 へぇ〜、手が込んでるねぇ・・・ うぇ?! 」
ん? お姉さま、何でお弁当を見て驚いているのかしら?
「 どうしたの? 祐巳さん 」
「 あ、ごめん。私、コレの佃煮って苦手だから・・・ 」
佃煮? いったい何の佃煮が・・・・・・・・・ ああ、確かにアレは私も苦手ですわ。
真っ白なご飯の上に1頭だけ存在するソレは、イソップ童話に出てくる“冬の寒さに力尽きたキリギリス”のようですわね。
「 う 」
あ、由乃さまも発見したみたい。微妙に顔が引きつったわ。
栄養学的にはとても良い食品なのかも知れませんけど、私もイナゴはちょっと・・・
「 イナゴの佃煮かぁ・・・ 私は食べられないなぁ 」
お姉さま、私も同意見ですわ。どんなに体に良くても、アレは食べたくありませんもの。
「 な、何言ってるのよ祐巳さん! 」
おや?
「 イナゴは高タンパクで、ビタミンやミネラルを含んだ栄養価の高い食品なのよ! 」
・・・さっき、イナゴを見た瞬間に顔が引きつったように見えましたけど? 由乃さま。
「 それに、繁殖力の高い昆虫は、食糧不足を解決する未来の食料とも言われてるって、令ちゃんも言ってたんだから! 」
ああ、何か詳しいと思ったら、令さまの受け売りなのね。
とりあえず由乃さまは、令さまを擁護することにしたみたいですわね。
イナゴをつまむ箸の先が震えているのに、無理矢理笑顔を浮かべて見せるその姿。妹として見習わせていただきますわ。
「 いわば、妹の未来を想う姉の愛が詰まったおかずって訳よ! 」
愛に“脚”とか“翅”が生えてるのは正直勘弁して欲しいですけど・・・ そういう理由ならば、私も好き嫌いなど言ってはいられませんわね。
もし、お姉さまが「 瞳子に食べて欲しいの 」なんて言いながら差し出すのならば、イナゴの1頭や2頭・・・ いえ、10頭でも20頭でも残らず食べてみせますわ!
「 へぇ〜、由乃さんは食べられるんだぁ、イナゴ。すごいね 」
あ、由乃さまが得意気な顔になった。
お姉さま! 瞳子もお姉さまが食べろとおっしゃるならば喜んで食べ・・・
「 私は“絶対無理”だなぁ。だって、虫だよ? 」
・・・・・・ そうですよね! ありえないですよね?! 虫を食べるなんて!!
・・・変わり身が早いとはなんですか。お姉さまの言うことに何か反論でもあるんですか?!
だって虫ですよ? 脚が6本ですよ? アナタ、もし足が6本生えた牛さんがいたら食べますか?!
「 何の話? 」
あ、令さまがお茶を持って戻ってきたわ。
「 令ちゃんが私の健康を考えたお弁当を作ってくれたって話 」
「 ふふっ、当たり前じゃない、そんなこと。どうしたのよ?急に 」
微笑み合う黄薔薇姉妹。
ああ、私もお姉さまとあんなふうに年季の入った夫婦みたいに笑い合えるようになりたいわ。
「 いや、祐巳さんがイナゴくらいで驚いているから・・・ 」
おお、さっきは見た瞬間「 う 」とか言ってたのが嘘みたいに、由乃さまが余裕の表情でイナゴを口に運んで・・・
「 ・・・イナゴ? 」
・・・あれ? 令さま、何で不思議そうな顔をしてるんですか?
「 イナゴの佃煮なんか入れてないわよ? 」
ぷ ち ゅ
今何か由乃さまの口からヤケにジューシーな咀嚼音が聞
し ば ら く お 待 ち 下 さ い 。
「 いやぁぁぁっ!! 脚がっ! 脚がぁ!! 」
「 祐巳! 見てはダメよ! 」
「 お・お・お・お姉さま! 翅の横からなんかはみ出て
今 し ば ら く お 待 ち 下 さ い 。
「 ちょっと令! 私の祐巳に変なトラウマができたらどうしてくれるのよ! 」
「 祥子さま、どさくさに紛れてお姉さまの所有権を主張しないで下さい! 」
「 ああっ! 由乃がなんか見た事も無いイキオイで泡吹いて
も う し ば ら く お 待 ち 下 さ い 。
「 真美。貴方のその整った髪、私の唇で乱してあげるわ 」
「 お姉さま・・・ 優しくして下さいますか? 」
「 うふふふ。さあ、怖がらずに脱い
す い ま せ ん 、 チ ャ ン ネ ル を 間 違 え ま し た 。
・・・今何かピンク色の世界が垣間見えた気が・・・・・・
え? 気にせず続けろ?
え〜と・・・
そう。約1名、意識を失って薔薇の館から強制退場させられました。
・・・・・・イナゴって、生きてる時から茶色い種類もいるんですねぇ。由乃さまも災難でしたわね。
それにしても、お弁当箱にフレッシュなイナゴが飛び込むなんて、少しだけ支倉家の衛生環境を疑ってしまいますわ。
・・・まあ、ありえない偶然なのでしょうけど。
ともかく、令さまがあの混乱の中で由乃さまのゲ・・・ げふん!げふん! え〜・・・由乃さまのエクトプラズム(比喩的表現)をきっちり片付けたうえで、由乃さまをお姫様だっこで保健室へ連れて行ったのはさすがですわね。
令さまが、まるで何ごとも無かったかのように綺麗に掃除していってくれたおかげで、私達は再び昼食を取り始めました。
お姉さまも、再び幸せそうにイチゴをほお張っていますわ。
お姉さまったら、軽くトリップしたような顔して・・・ 本当に甘いものがお好きなのね。
「 ・・・瞳子ちゃん 」
「 ・・・・・・(モグモグ) 」
「 瞳子ちゃ〜ん? 明らかに聞こえてるはずよね? 」
「 ・・・・・・(ゴクン) 祥子さま、フォークの先端をこっちに向けないで下さい。怖いですから 」
もう。ちょっと虫・・・ いえ、無視したぐらいで大人げの無い。
「 なんでしょう? 祥子さま 」
「 私にも一口、そのお弁当を分けてもらえないかしら? 」
“その”お弁当。
祥子さまが指差しているのは、今私が食べているお弁当箱。
え? 祥子さまは“おばあさま”の立場から、お弁当を通じて“孫”との交流を図ろうとしているのかって?
まあ、はたから見れば、孫のお弁当をちょっと味見しようとしているお茶目なおばあさまに見えるかも知れませんけどねぇ・・・
現実はそんなに甘くないと言うかなんというか。
「 瞳子ちゃん? 」
甘いといえば、この玉子焼き(モグモグ)かなり甘口ですわね。
「 瞳子ちゃ〜ん? 何を軽く無視してくれちゃってるのかしら? 」
でもこの甘さも愛情の量と比例しているとすれば、まさに(モグモグ)幸せの味ですわ。
「 松平 瞳子さぁん? 私にもその玉子焼きを少し分けてくださらないかしら? 」
声と顔は笑ってるのに、目だけが飢えたケダモノのように輝いてますわ、祥子さま。
ああ、玉子焼きがまだ一切れ残ってますわね。じゃあコレを祥子さまのほうへ・・・
「 そう、それを私にも・・・ 」
差し出すと見せかけて
か ぽ っ
「 んなっ! ・・・・・・豪快に一口でいったわね 」
「 (あぐあぐ)・・・・・・ん〜、おいひぃ♪ 」
「 くっ! この・・・ 」
んふふふふふふ。コメカミが引きつってますわよ? 祥子さま。
「 とおこちゃあぁん? (ピクピク) じゃあ、そっちのハンバーグを・・・ 」
まあ! 美味しそうなハンバーグですこと!
が ぽ っ
「 ぐあっ?! ハンバーグすら一口で?! 」
ん〜、(もっしゃもっしゃ)じゅーしーですわ。
「 瞳子ちゃん・・・ 少しは私にも渡しなさい! 」
ふっふっふっ。残念ながら、そうはいきませんわ。
何故ならコレは・・・
「 その、祐巳が作ったお弁当を!! 」
そう、お姉さまが私のために作ってくれたお弁当なのですから!
・・・え? 何で私がお姉さまにお弁当を作ってもらっているのかって?
少し考えれば解かりそうなものじゃないですか。
祥子さまがお姉さまの気を引きたくて、ご自分でお弁当を作るなんて行動に出て、「第1回、薔薇さまが(以下略)」なんてものを開催するに至れば、当然、薔薇の館でただ一人の「蕾の妹」である私があぶれることになりますよね?
優しいお姉さまが、私だけのけ者みたいな事態を見過ごすはずがありませんわ!
そもそも、「薔薇さまが蕾に」ということは、「姉が妹に」とも言えるわけです。当然、お姉さまは私を仲間はずれにしないためにもお弁当を作ってくれることになると、なんで気付かなかったのかしら? 祥子さまは。
「 ・・・瞳子ちゃん。そのマカロニサラダを差し出さないと、どうなるか解かってるかしら? 」
うっ・・・ またフォークを構えて・・・
お姉さまがイチゴでトリップ中でこちらに気付いてないからって、本性をさらけ出し始めましたわね?
仕方ありませんね。ここは一つ・・・
がっしょ がっしょ がっしょ!
「 あぁぁぁぁ?! 残らず一気に?! 」
(モリモリモリ)んっふっふっ。(ギョクン!)ぐっ?! ・・・お、お茶・・・・・(グビグビ、ゴクッ)
・・・・・・・・・くはぁぁぁ、さすがにイッキはきつかったですわ。
祥子さまではありませんが、お姉さまが見ていないスキに、こちらも思い切った行動に出てみました。
せっかくのお姉さまのお弁当を、こんなイキオイで食べるのは少しもったいないですけど、祥子さまのこんなガッカリした顔を見られたのだから、善しとしましょうか。
「 うぅぅ、祐巳の作ったお弁当・・・ 」
う。・・・・・・いや、そんなこの世の終わりみたいな顔をされると、さすがに私にも罪悪感が・・・
「 ごちそうさまでした! お姉さま、本当に美味しかったです 」
あ、お姉さまがイチゴの世界から帰還なさったみたい。お帰りなさいませ。
「 お礼に、明日は私がお姉さまにお弁当を作ってきますからね? 」
・・・え?
「 祐巳! それは本当?! 」
「 ええ、腕によりをかけて・・・ こんなに美味しく作れるかどうかは怪しいですけど 」
「 いいえ! 貴方が作ってくれるというだけで嬉しいのよ!! 」
あ〜・・・ 祥子さま完全復活ですわね。
まあ良いですわ。
明日は私もお姉さまにお弁当を作ってきますから。(ニヤリ)
それで、祥子さまがお姉さまのお弁当を夢中で食べ終えた後に、私が自らの手でお姉さまに私の作ったお弁当を「 はい、お姉さま、あ〜ん・・・ 」なんて言いながら食べさせてあげたら、祥子さまはどんな顔を見せてくれるかしら?
歯ぎしりしながら「 何で私はそれに気付かなかったの! 」なんて、悔しがるかしら?
ウフフフフ、やだ、なんだかスゴく楽しい?!
私ったら、こんなに性格悪かったかしら?
きっとアレね、お姉さまの愛が私を狂わせるのね。
ウフフフフフフ。
アハハハハハハハハハハハハ・・・・・・は? 白薔薇姉妹はどうしたのかって?
いますわよ、当然。
あの由乃さまの騒動にも無反応で、二人の世界を築いてますわ。相変わらずお熱い関係ですこと。
でも、ねぇ・・・
さすがに志摩子さまのお弁当・・・ と言って良いのかどうなのか・・・
重箱いっぱいの銀杏というのは、どうなのかしら?
さっきから乃梨子が引きつった笑顔で「 あと68粒・・・ 」なんて小声でカウントダウンしているのは、「100粒くらいが致死量」という噂の銀杏中毒までの、いわば破滅へのカウントダウンなのかしら。
まあ、全ては昨日、志摩子さまに「 乃梨子はどんなお弁当が良いの? 」と聞かれた時に、「 志摩子さんの好きなモノで良いよ 」なんて言った乃梨子自身の責任でしょうけどね。
・・・天然って怖いですわね。まさか「好きなモノ」を単品で重箱いっぱいに持ってくるなんて、誰も予想できませんもの。
でも困ったわね。このままだと、本当に乃梨子の身が・・・
あ、志摩子さまがお茶を淹れに席を立ったわ。
このスキに・・・
「 乃梨子 」
「 ・・・・・・・何? 」
「 ちょっと、顔が青いわよ? 」
「 大丈夫よ。中毒症状が出る前に、保健室にあるビタミンB6を静脈注射すれば問題ないわ 」
「 ・・・・・・・・・はい? 」
「 銀杏中毒の原因物質とされる4−0−メチルピリドキシンによって、ビタミンB6の神経系への作用が阻害されて嘔吐や痙攣を伴なう中毒症状が始まるから、その前に毒素に拮抗する量・・・ 8mg/Kg(体重1Kgあたり8mgの意)のビタミンB6を静脈注射すれば問題無いって言ってるの 」
・・・こんなにスラスラと対処法が出てくるってことは、普段からこんな事態を予想してたのかしら?
しかも、それを受け入れる方向で?
・・・・・・世の中、色々な形の愛があるんですのね。
「 乃梨子、志摩子さまがお茶を淹れにいったこのスキに、食べたフリをして銀杏を隠すとかいう発想は無いの? 」
「 志摩子さんの作ったお弁当に、そんなことができるかぁ!! 」
「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(そもそもコレをお弁当と呼んで良いのかしら?) 」
「 私は、この命に代えても、志摩子さんのお弁当を食べきってみせる! 真正面から志摩子さんの愛を受け止めてみせる! 」
・・・・・・まったく。
愛は良く人を狂わせますこと。