【2308】 どん底のブルース煤けた背中志摩子の手料理  (砂森 月 2007-06-14 20:25:31)


※未使用キー限定タイトル1発決めキャンペーン第14弾
 今回のブツは空想の産物です(何



 とある月曜日。志摩子さんが手作りケーキを持ってきたので放課後に薔薇の館で食べることに。そして最初に食べた由乃さんは言いました。
「まずっ」
 あ、志摩子さんの表情が曇った。うーん、でもそんなにまずそうには見えないんだけどな。
「まずいわね」
 今度はお姉さま。志摩子さん、顔に縦線入ってるけど大丈夫かな?
「お二人とも、お姉さまが作った物にケチ付けないで下さい」
 うん、やっぱり持つべき物はいい妹。でもそれと味とは別だよね? とりあえず一口。
「うーん、間違えて失敗作持ってきちゃった?」
「祐巳さままで」
 どうしよう、本当にまずい。志摩子さん、そんな悲しそうな目で見ないで。味は変わらないから。
「そんなに言うなら乃梨子ちゃんも食べてみればいいじゃない」
 由乃さんに言われて乃梨子ちゃんも一口。
「……あの、昨日は体調が優れなかったとか」
 えっと、ドキューンとか効果音聞こえたのは気のせいだよね? 志摩子さんは何かに打ち抜かれたようなリアクションをしてから燃え尽きた。というか、案外余裕ある?
「うーん、これ見た目スポンジケーキだけど生地は卵焼きだね。クリームはなんか魚のすり身っぽいしパイナップルのかわりにたくあん入ってたりするし」
 令さまが冷静にケーキ(と言えるのか?)の分析を始めると、部屋の隅にしゃがみ込んで床に「の」の字を書きながら何やら悲しい歌を口ずさんでいた志摩子さんがすっ飛んできた。本当にジャンプ1回で。
「失敗作とかじゃなくて、持ってくる物を間違えたんじゃない?」
 令さまの質問を聞きながら志摩子さんも一口。うわ、露骨にまずそうな顔してるよ。
「確かに私が作ったものではないですね。昨日から箱に入れて冷蔵庫に入れておきましたし、似たような箱はなかったので間違えることはないと思うんです」
「となると、途中で中身が入れ替わった?」
 祐巳も由乃さんと同意見。でもそんなトンデモ品と入れ替えるような人がいるのかなぁ?
「まあ、とりあえず」
 あれ、何かこの部屋急に寒くなってないかな?
「私の手料理をこんな物と入れ替えた人にはお仕置きが必要ですね」
 怖いよ、志摩子さん怖いよ。笑顔だけど目が笑ってないから。ついでに全身から黒いオーラ出てるから。っていうか乃梨子ちゃんまで染まらないでぇ〜。


 真相はあっけなく判明した。
 志摩子さんのお父様が間違って食べちゃったらしくて、慌てて見よう見まねで作ったのがさっき食べたケーキだったというわけ。道理で別物だったわけだ。
「志摩子さんが学校に持って行ったって聞いてまさかとは思ったけど、案の定だった訳ね」
 そう、真相はあっさり判明したのだ。ただし校門で待っていたアリスに聞いた、花寺の講演会の内容から。
「お……」
「し、志摩子さん落ち着いて」
「おとうさまーっ」
 乃梨子ちゃんの制止ももう手遅れ。非常に珍しい志摩子さんの絶叫がリリアンの敷地に響き渡ったのだった。


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