パラレルです。嫌いな方は注意してください。あと無駄に長いと思います。すみません。文が稚拙なので読みにくいと思いますが、それでもよいという心の広い方はぜひ読んでください。
設定
リリアン女学園…魔族と戦う戦士を育成するために、創られた学校。バックにはヴァチカンがいるという噂がある。主な訓練内容は戦いかたと聖武器の生成。
山百合会…リリアン女学園に存在する生徒会。そこに所属する幹部は皆、圧倒的な法力をもち、生徒たちの憧れとなっている。
魔族…古来から人間たちと争ってきた種族。その姿は、異形であり、魔力を操ることができる。
聖武器…聖なる乙女の祈りの力によって具現化される武器。唯一魔族を浄化できる武器であり、一人ひとり武器の形状は違ってくる。具現するためには、多大な法力と、精緻なコントロールが必要とされる。
〜前世〜
身体にめり込む鉄の感触。
その時になって初めてあぁ、刺されたんだとぼんやり考えた。
私の身体を貫く短剣は、特殊な封具のようで、次第に身体が石化していく。
痛みなんかはなかった。封具の効果も破ろうと思えばすぐに破ることもできる。
…でも、封具で私を貫きながら、涙を流す貴女をみると、酷く胸が軋むような感じがして、…何もする気にならなくなった。
『泣かなくてもいいんだ。貴女は何も間違っていない。』
私はそっと手を伸ばすと、涙をぬぐった。その涙はとても暖かかった。
そう、貴女は何も間違っていない。…どうあろうと私は魔族の王で、人間の敵なのだから。
『私はしばらく眠ろう…。私がいると貴女は傷ついてしまうだろうから。…でも、遠い未来、私は覚醒する。…その時、こんな愚かな争いは消えているだろうか…。』
自分で問いかけておきながら、私には答えは見えていた。
『…いや、無理だろうな。この争いは、人間と我が眷属、どちらかが滅びるまで続く。』
思わず、諦めたような笑いがもれた。
私は、傍らで震えている身体を抱きしめる。そっと背にまわされた腕は、力強く私を締め付ける。その強ささえとても心地よかった。
『我が眷属を傷つけ、殺した人間が憎い。』
抱きしめているその身体がビクンと震えた。でも、これも偽らざる本当の気持ちだった。
『私は、彼らの王として守らなければならなかった。…でも私は、何もしなかった。…人間たちを滅ぼすこともできたのに。』
これは、ただの独白だ。
『…貴女が、人間じゃなければ…。私はもっと早く狂気に堕ちることができたのに…。
』
私は、今、どんな表情をしているのだろう。
『私が目覚めたとき、貴女はもういない。…だけど生まれ変わってまた、出会う。…貴女は全てを忘れてしまっているだろうけど。』
でも、きっと私はまた、貴女を探すのだろう。
何度生まれ変わっても、魂が惹かれあう。
『次…会うときは、私は魔族の王として全てを終わらせることができるのだろうか。』
そろそろ石化の進行が早くなってきた。私は抱きしめていた身体を一瞬さらに強く抱きしめると、そっと突き飛ばした。
…貴女の見開かれた瞳の中の私は、ちゃんと微笑めているだろうか。
貴女の傍にいられるだけで幸せだったのに…。私たちは殺しあう。
『…苦しい。』
『…哀しい。』
疲れきったように呟くと私はそっと目を閉じた。貴女が綺麗だとほめてくれた金の瞳が石に変わるところなど見せたくなかった。
『時間だ。』
そう呟くと私の身体は完全に石化した。
魔族の私には理解できないと思っていた感情があった。
胸の奥をきつく締め付けるような、胸の奥で激しく燃えるような激しい熱情。
今なら理解できる。
私はきっと貴女を…。
『アイシテル…。』
最期のその言葉は貴女に届いただろうか…。
〜現世〜
不肖、福沢祐巳、ただ今ピンチです。
「はっ…はぁっ…はぁっ…っ。」
走るたびにサイドのツインテールがぱたぱた揺れて、スカートなんてばっさばっさ翻ってるけど、気にする暇なんてありません。
「はっ…はっ…はっ…はっ…はっ…はっ…はっ…はっ…。」
体育の授業でもこんなに走ったことはないくらい真剣に走って…早く逃げなきゃ追いつかれちゃう。
息が苦しい。
きつい。
足が痛い。
そのままマリア像の前を走りぬけようとした時、
「…っうぎゃぅ!」
慌てたからなのか、足がもつれて、思いっきり転んでしまった。
何でこんなときに…。急いで立とうにも疲れきった足は、思うようには動かない。
『グルルルルルル…。』
その時すぐ後ろから、不気味なうなり声が聞こえる…。
恐る恐る後ろを振り向くと、
「ひっ…。」
口からは引きつったような意味を成さない悲鳴しか出てくれない。
そこにいたのは自分の数倍もあろうかという魔族だった。
どうしよう…。いくら考えようとしても、頭の中は混乱してまとまらない。
『ガァァァァァァァァ!!』
目の前の魔族は、威嚇するように一際大きく吼えると、まさに襲わんと飛び掛ってくる。
「っ…誰かっ…助けて…。」
身体は恐怖で竦んでしまってまったく動かなかった。
魔族はすぐ目の前まで迫ってきていた。
あぁ…わたしここで死んじゃうのかな…。
そんな風に死を覚悟したときだった。
涙が浮かんで、ぼやけた視界ののなかで紅い光がはじけた。
全ては一瞬の出来事だった。
紅い光は魔族を切り裂いた。
魔族は浄化の光に包まれて消えて逝った。
そして目の前には魔族に代わって、美女が一人、悠然と立っていた。
その右手には美しい彫金が施された細身の長剣が握られていた。その剣は、しばらく紅い光を帯びていたが次第に光は弱まり消えていく。
…聖武器だ。
しばらく呆然と聖武器をみつめていたが、そろそろと、その持ち主を確認しようと、視線を上げて…
フリーズした。
腰まで流れるような美しい黒髪。日本人形を思わせるような整った顔立ち。
「…紅薔薇の蕾…。」
そこに立っていたのは、リリアン生徒会、山百合会の幹部、紅薔薇の蕾、小笠原祥子様だった。
「怪我はないかしら?」
祥子様のお優しい問いかけに慌てて顔を上下に振って立ち上がった。…絶対顔が赤くなってる。
祥子さまは、その美貌と、気品、そして圧倒的な能力で校内の憧れの的だ。
無論、私も祥子様の大ファンであった。
山百合会の他のお姉さま方も素敵だけど、祥子様が一番素敵だと思う。
「…あら?」
祥子様はなぜか私の胸元に目をとめた。
…どうしたんだろう?何か問題あったのかな?
そんなことをわたわたと考えているうちに、祥子様は右手に握っていた聖武器を消して、祐巳にほうに近づいてきた。
「えっ…あの…その…?」
突然の出来事にうまくしゃべれない。
そんな祐巳のことなどおかまいなしに祥子様は胸元に手を伸ばした。
頭が沸騰する。…なんで?…どうして?
「…タイが曲がっていてよ。」
そういって祥子様は、タイを直してくださった。
しかし、突然の出来事に私は固まってしまった。
直し終わると祥子様は固まってしまった私を不審におもったのかそっと私の顔を覗き込んだ。
「…?」
至近距離で目が合って、さらにフリーズしてしまう。
あぁ…なんて…麗しい…。
祥子様は一瞬不思議そうな顔をして、しかしすぐにいつもの凛々しい表情にもどると一歩さがって距離をとった。
「身だしなみはいつもきちんとね。マリア様が見ていらっしゃるわよ。」
そう仰ると、祥子様は踵を返し、そのまま立ち去っていってしまった。
フリーズが解けない私は、いつまでもその後姿見つめ続け、完全にその姿が見えなくなった時に、お礼を言ってないことに気がついて一人ショックに打ちひしがれるのであった。
祥子は薔薇の館に向かって歩きながら先ほど出会った少女のことを思い出していた。
目を合わせた瞬間胸の奥に、懐かしさと、切なさを感じた。…どこかで、会ったことがあるのかしら…?
いくら首を傾げてみても行き当たる答えはなく、疑問は深まるばかりだった。
「それにしても…。」
祥子は先ほどの少女のことを思い出して思わず目じりが緩んだ。
熟れたりんごみたいに真っ赤な顔をして、信じられないといった表情。…あんなに固まってしまって…。
笑いがかすかに漏れる。
「名前を…聞いておけばよかったわ。」
軽く溜め息をつくと、祥子はすぐに表情を引き締めた。
最近は魔族の襲来も激しいし…。気を緩めている暇はないわ。
紅薔薇の蕾としての仕事は膨大にある。皆の期待に応えなければならない。
気高き薔薇たちはその人気に合わせて多忙なのであった。