【2342】 決戦の日行き場のない気持ちを  (篠原 2007-07-24 03:59:17)


 がちゃSレイニーシリーズ外伝 『多重スール狂想曲』………のさらに番外編? 【No:2307】の続きです。(続いてないけど)


 二人は双子だった。見た目もそっくりなら、性格も能力も好みもよく似ていた。
 そんなわけだから、二人が同じ一年生を妹にしたいと思ったのも、当然の成り行きだったのかもしれない。

 前に、一緒にロザリオ渡して受け取ってもらえた方が姉になるという、『どっちが妹にするか勝負』をしようとしたこともあった。その時はまあ、いろいろあってうやむやになってしまったのだけれど。
 だから今回の騒動は、二人にとってはある意味では願ったりな状況だとも言えた。
 二人はお互いを見て頷きあう。以心伝心。考えていることは同じだった。

「「いたっ!」」
 お目当ての少女を見つけた時、その少女はなにやら揉め事らしき中に割って入っていくところだったようだが、この大事だ。目の前のことに気を取られるている状態では、二人は細かいことにまで気を回していられなかった。そういう性格なのだ。
 二人で同時にロザリオを差し出し、声を揃えて言った。
「「私達の妹になりなさい」」
「まあ………」
 その背の高い一年生の少女は、一瞬驚いた表情を見せた後、にっこりと微笑んだ。
 その笑顔に勢いを得て、うんうんと頷きながらさらにそばによる二人。
 だが、不幸なことに、その少女のこめかみがひきつっていることに、二人は気付いていなかった。
「ひとがこの騒ぎを収めようと必死になっている時に、先輩方ったら………」
 にこやかに微笑みながら伸ばされた両手が差し出されたロザリオを素通りし、二人の頭をガシッと掴む。
「な・ん・の・嫌がらせですか!?」
 ギリギリギリ
 バスケットボールを片手で持てると噂されるその大きな手の平の半端ない握力が遺憾無く発揮される。
「あだだだだだだっ!」
「痛っ、本気で痛い!」
 ちなみに、先輩方という呼び方もリリアン女学園ではあまり一般的ではない。
 ここではお姉さま方というほうがより一般的なのだが、元々外部生で高等部からの編入組だった少女は、だいぶ慣れてきたとはいえ時折こういう部分が出てしまうのはいたしかたないことだった。
 まあ、この場合はあえて使わなかったという可能性も低くはない。
「わ、割れる、われるからっ!」
「はみ出るっ! なんか出る!」
 そろそろミシミシという嫌な音をたて始めていた両手の中の二人がいいかげんぐったりした頃合をみはからって、少女はようやくその手を離した。

「こんな騒ぎ、そう続きはしませんよ」
 その少女が言ったことは、例え事態がどう収束しようとも、取り返しの付かない大きな傷を残す可能性の示唆だった。
 例えばの話。もしこの騒ぎで多重スールが成立してしまったら、そしてじきに騒ぎが治まって元の状態になった時、それが否定の方向に向いたら、待っているのはおそらく悲劇だ。
 言われて、二人は考える。
 例えばの話。自分達二人がこのコを妹にしたとして……、結局ふりだしに戻るわけか。
 ……それはそれで、ちょっとショックというかなんというか………
 別に騒ぎが収まった後でも成立したままでもいいんじゃないかな、などと思わないでもない。
「………」
 何故かにらまれた。
 ふと、二人は去年の黄薔薇革命を思い出していた。
 あの時の騒ぎでの後追い破局組はほとんど復縁したというけれど、今回の場合、元の状態に戻るということは一度成立したスールの関係を解消するということだ。
 それに黄薔薇革命では言ってしまえば所詮は本来のスール間の問題、1対1の問題でしかなかったが、今回はちょっとばかり複雑だ。
「というわけで私はこの騒ぎを潰す、もとい、抑えてまわるのに手一杯で、申し訳ありませんが暇な先輩方の相手をしている暇はないのです。………暇そうですね。先輩方?」
 慇懃無礼というやつだろうか。言い方は丁寧だが目が怖い。そして何やらわきわきさせている手がもっと怖い。


「まあ、手を貸してくださるんですか」
 少女は嬉しそうにパンっと手を合わせて言った。
 手を貸すも何も、断ったらわきわきさせていた両手がまた伸びてくるに違いない。
 体育会系のようでいて、時々先輩を先輩とも思わない後輩だ。そりゃ背は二人より高いけど。
 とにかく怒らせたら危険なことはよくわかった。
 それにしても、まわりが浮かれまくっている状況下で一人でそんな事を考えていたのかこの1年は。
 その孤高っぷりといい、落ち着いた対処ぶりといい、かわいげが無いやら、凛々しいやらで、そこが良いといえばいえなくもないというか、目を付けただけのことはあるけれど。
 でもことあるごとに頭蓋骨が軋むのはちょっと遠慮したいかなあ。………などと。
 二人は様々な思考をめまぐるしく展開させながら、その少女を妹にするかどうか、もう少し考えてみることにしたのだった。


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