【236】 柏木優の兄弟設計  (春霞 2005-07-18 23:43:34)


 「おい。 何だ。このタイトルは」 
 「うん? はっはっはっ。 企画書を見てしまったのか。 ユキチに気付かれない内に事を進めて、驚かせようと思っていたのに。 
  まあ、テクストどおりの意味だ。 他意はないよ。」 

 痛い。頭が猛烈に痛い。 俺が早死にしたら責任の2割は必ず こいつに負わせよう。 
 (え? たった2割なのかい? 何なら10割でも良いのに。) 
 (やかましい。 俺の関心の8割は祐巳の事だ。) 

 「なんで親父の事務所の名前が載っているんだ?」 手元の書類を叩きながら確認する。 
 「いや、最近家の中が手狭でね、」 
 ちょっとまて、あの巨大な家の、いったい何所が狭いんだ? 
 「それで、ちょっと私邸を作ろうかと思って、御義父さんの所へ依頼を持っていったんだが、」 
 私室じゃないのか。 って今『おとうさん』の発音が微みょーに変じゃなかったか? 
 「話していてすっかり意気投合してしまってね、つい兄弟と一緒に住むための邸宅(いえ)を依頼してしまったんだよ。」 
 こいつに兄弟なんて居たっけか? 
 思いっきり胡散臭そうな目で眺めてやると、少し早口でぺらぺらと聞いても居ない事までしゃべりだす。

 「ところでユキチ。 世の中には憲法24条と言うもののせいで法的に婚姻できない人々が居てね。 それでも同じ姓を名乗りたい場合に如何するかと言うと、養子縁組をするんだ。 」
 「それで?」 
 「つまりユキチ。 わが 『義弟(おとうと) 』 よ、お義兄さまとおよbyu 」 ばきょ。

 偉そうに人の部屋の窓枠に腰掛けて、なにやら法律的うんちくをたれていた変態の抹殺を完了した。 購入から間もないのにもう随分と赤バットに近づいてきた 『くぎクギくん3号』 をクロゼットの隠しに戻し、変わりに大き目の壷を取り出すと、
 「オトトイキヤガレ」 と呟きつつ常備の塩を撒いて奴の座っていた辺りを清めておく。 ついでに奴の荷物も外に放り出しておいた。 

 あとは、 
 「もしもし? 」 すっかり覚えてしまった番号をソラで押す。 子機登録のみだとしても、短縮に登録して誰かに気付かれたらえらい事なので、それはしない。 
 『はい? 』 
 「毎度悪いんだけど。 引取りにきてくれるかい? 」
 『…………』 
 「解ってるよ。 2枚でどうかな? 」 
 『………』 
 「3枚で頼むよ。 寝顔をつけるから。」 
 『5分で参ります。 ごきげんよう』 

  、、、、、 やがで遠くからバラバラとヘリコプターの音が近づいてきた。 
 もはや奴専用となりつつある回収アームで、奇妙なオブジェを荷物ごと引っ掴んでゆく。 はずなのが、今日に限って飛び去らない。 
 するすると、ホイストケーブルにぶら下がり、スカートを盛大に翻した瞳子ちゃんが降りてきた。 窓の向こうで、だまって右手を差し出す。 いつもはエージェント経由なのに。 さては 『寝顔』 に釣られたのか? 諦めた俺が窓越しに封書を渡すと、瞳子ちゃんは器用にもぶら下がったまま中身を確認し、……腰が砕けた。 
 あぶないなぁ。 気持ちは解るけど。 祐巳の寝顔は最叫だから。 
 フラフラしながらヘリが去っていくのを見送ってから、ダウンウォッシュのせいでポスターは剥れかけ、寝具はずれおちている自室を振り返った。 
 「また補充しとかないとな。 最近減りが早くて参るよ。 」 ポスターの影や枕の隅から、祐巳のまぶしい笑顔が見つめている。 
 「俺たちの幸せな未来のために。 頑張るよ祐巳。」 

 「と、そうそう。 親父のほうも締め上げとかないと。 まさか本当に縁組して無いだろうなあ」 ぞくう。 




 後日。
 「ねえ祐麒。 最近お姉様とお母さんがちょくちょく逢っているみたいなんだけど。 なにか聞いてる? 」 
 「いいや? なんだろうな? 」 

 今度はあっちか。 まったくあの変態にしてあの従兄妹ありという事か。 前途は多難だ。 



                  ◆◆◆ 


続いている訳でも何でも有りませんが! 
【No:174】 『ビキニプリンス優様感染危険』 でも優さんは大活躍です。 
若しかしたら、いらっしゃるかも知れない 光るの君 ファンの皆さんにささげます。 貰ってください。 返品不可です!(笑 


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