【237】 一度食べたら忘れない  (ケテル・ウィスパー 2005-07-19 01:59:51)


・・・・・・卒業旅行 第6話・・・・・・・・

「「いっせ〜〜の〜せっ!!」」

 ピッ ピピピピ〜〜〜〜ッ
 そろって携帯電話の電源をONにする、メッセージとメールが大量に来ていた。
 2人とも東京駅を出てから意図的に携帯の電源をOFFにして来た、帰ってから履歴を見せてからかってやろうかとも思ったけど、さすがに明日は祐巳さんと志摩子さん、それに小林君とアリス、高田君たちと合流するわけだから、放って置くわけにも行かない。 なんせ何時にどこに集合か聞く前に私が電源切ってしまったから‥‥‥‥。 ごめんなさい‥‥‥‥。


 2日目の宿は土肥の『湯の花亭』。 女性が泊まってみたい旅館100選で4位を受賞したんだそうで、とにかくロビーで靴を脱ぐと客室まで畳敷きなのよここ。 洋室はわずかに2室、私たちが案内されたのは和室海の見える露天風呂付き。
 海の幸メインの夕食はとっても幸せなメニューだった。 伊勢海老のボイルと、伊勢海老の鬼ガラ焼きと、伊勢海老の生け造り、これにアワビのお造りが付いてくるなんて。 祐巳さんいくらのコース頼んだんだろ?

 お造りの一切れに箸をつけた時”ふっ”っとあることが頭に浮かんだ、山葵を少し付けて〜、お醤油付けて〜‥‥‥。

「はい。あ〜〜ん(にこっ)」
「‥‥‥‥‥‥‥い、いや、そんな‥‥た、食べれるか‥‥」
「あ〜〜〜〜ん(にこっ)」
「‥‥‥‥‥‥‥あ〜ん」(パクッ)
「‥‥‥おいしい?」
「うん‥‥‥‥でも、けっこう恥ずかしいよ‥‥‥これ‥‥‥」

 わたしは結構いい気分でした。

 海の見える露天風呂は、まぁ、夕飯食べた後では暗くてどこが海やら分からない。 でも、電気を消して見ると、漁火や、遠くに船の灯りも見える。
 お風呂から上がって来たら、祐麒が荷物を引っ張り出してきてごそごそ何か探していた、髪にタオルを当てながらなにをしているのかと聞いてみると、携帯を探しているとのこと。
 
 そして冒頭のシーンとなったわけです。

「うわ〜、着信もメールもいっぱいだわ」
「こっちはそれほどでもないか、でも普段よりは多いかな? 珍しいものがある、高田からメールが着てる」
「珍しいの?」
「高田ヤツメール嫌いなんだよ、通話すれば済むだろうとか言ってた」
「は〜、まだいるんだ、そういう人も。 祐巳さんからばっかりか‥‥あっ、志摩子さん携帯持ってないんだった」
「その方が珍しくない?」
「あら、リリアンじゃあ結構多いわよ携帯持ってない人」

『由乃さ〜ん、ごめんなさい。 反省してるから。 それと、まだおばさんなんて呼ばれたくないから、くれぐれも早まったまねしないで!!』
『由乃さん、だまし討ちみたいなことしてごめんなさい。 でも本当にプレゼントのつもりでしたことなのよ。 祐巳さんがおばさんって呼ばれるのはしょうがないかしら? でも、おなかが大きくなると学校に通うの大変よ」

 昨日のメッセージとメールはこんな感じのものが大半だった。 志摩子さんは祐巳さんに携帯を貸してもらったらしい。 はぁ〜祐巳さんまだおばさんって呼ばれたくない、そりゃそうよね、当たってなきゃいいけど‥‥‥。 志摩子さん、微妙に黒いけど、まぁそういうとこあったし。

「ほんとにも〜あいつはなに考えてんだか‥‥‥」
「どうしたの?」
「小林のメール‥‥‥」

『ユキチ、だまし討ちの方は悪かった、ごめん。 でもいいか、これはチャンスなんだぞ。 絶対決めて来い!! あんな美少女と‥‥俺だったら1日部屋から出ないぞ、まぁおまえにゃ無理か』

 1日部屋にこもって何する気なんだろう? ナニするの? アリスのメッセージは‥‥‥。

『ユキチごめんなさいね、反省してるから嫌いにならないで。 もしも、由乃さんとうまく行かなかったら、わたしが慰めてあげるから』

 行く末が心配なのは私だけ? 高田君のメッセージは簡潔だった。

『申し訳ない』

 
 今日の分は昨日に比べれば少なくなっている、『連絡待ってます』がほとんど。 最後のメッセージが 17:34 祐巳さんからのメッセージだ。

『明日、修善寺駅に13:10着の電車で行きます。 先に付いたら待ってますから』

 修善寺駅に 13:10 了解。 でも、やっぱりこっちからメッセージやメールはしない。 電源をOFFにしてから閉じバックの中にしまう。

 座椅子に座ってお茶を飲んでいる祐麒を背もたれ代わりにして横に座る。 コテッっと肩に頭を預けて、マッタリした雰囲気を楽しむ、肩に回された手がやさしくマッサージするように動く。 向き合ってゆっくりと祐麒の首に手をまわす。

「また来ようね、こんな高級旅館じゃなくてもいいから。 事前にもっと良く計画立てて、のんびり回りたいね」
「そうだね、手元のガイドマップだけじゃなかなか判断付かないからね。 それにいきなりだったからね今回のは‥‥」
「南伊豆とか行って見たかったな〜、砂浜が綺麗だって言う話聞いたことあるわ。 夏辺りにまた来て見ましょうよ。 暑そうだけど」
「あ、水着姿見られるのか」
「‥‥‥‥変に期待しないようにね」
「‥‥それは知ってるから‥‥いてっ!!」

 目の前に丁度よさそうにあった耳に軽く噛み付いてちょっとした反撃をしてやった。 祐麒はごめんって言いながら私の髪にキスしてくれる。

「‥でも俺は、ある意味感謝してるよ、今回の旅行は」
「それは‥‥‥私もかな。 わわわっ!!」

 祐麒が、右手を私の膝の下に通し、左手を背中に回してそのまま私を抱え上げてしまう、急なことにびっくりした私は祐麒に強くしがみつく。 え〜〜と、これって、これって、なんていうんでしたっけ? 

 そのままこの部屋の電気を消して次の間、布団の敷いてある部屋へとご案内されていく私。 


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「そろそろかしら?」
「ん〜〜、あ、あの電車じゃないかな」

 シルバー地に青のツートンカラーの4両編成の電車が修善寺駅に着いた。 暫らく前についていた私たちは、時間近くまで駅前のお土産物屋さんを見て回っていた。                       
 こじんまりとしたガラス張りの修善寺駅駅舎から出てきた祐巳さん志摩子さん、小林君アリス高田君。 出口で少しキョロキョロしていたけど、私たち2人を見つけて気まずそうに近づいてきた。 私はジ〜〜〜ッと祐巳さんと志摩子さんを睨み付ける、思いっきり不機嫌そうな顔をして。 手は後ろで、修善寺に来る途中で収穫したあるものが入っている手提げ袋を隠し持っていた。

「‥‥‥‥ご、ごきげん‥‥よう‥‥」
「‥‥ごきげ…ん……よう」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 私は態度を崩さず、ジ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッっと睨み付けたまま。 祐巳さんと志摩子さんは少しうつむいたまま、冷や汗をいっぱいかいているようだ。

「あ…の、ご、ごめんなさい! まさかこんなに怒るなんて思ってなかったから!!」
「本当にごめんなさい」

 深々と頭を下げる。 これ以上おどかすのはかわいそうかな? 

「祐巳さん、志摩子さん‥‥‥」
「「は、はい!」」 

 ピシッっと直立不動の姿勢をとる。 なんか『イェスッ サー!!』に聞こえるんだけど。 男性陣は事の成り行きを見守っている。

「……目を閉じて、口を大きく開けなさい」
「……え…?!」
「はやく」
「「はい!!」」

 言われた通りに目を閉じて口を大きく開ける祐巳さんと志摩子さん。 傍から見てると駅前でこんなことしてるのは間抜けな図柄かもしれない。 私は後ろに隠し持っていたものを取り出して、ヘタを取ってからその赤くて甘酸っぱい爆弾を2人の口に放り込む。

「「!!??」」
「冷えてないけど、採れたてだからおいしいと思うよ、そのイチゴ」

 びっくりして目を見開いた、祐麒と同じくらい大切な親友2人を、私は抱きしめた。


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