【2361】 告白  (クゥ〜 2007-08-15 00:46:43)


 ホラーのラストです。
 ホラーはホラーらしくと言う事で……お約束な展開とか……そんな感じです。
 【No:2339】【No:2341】【No:2343】



 誰も居ない薔薇の館。
 ほんの数日前には、三人の薔薇さまとつぼみが集っていたのに、今は祐巳一人。いや、もう一人居た。
 楽しそうに浮いている舞ちゃんだ。
 「誰も来ないね」
 「そうだね」
 今日は、舞ちゃんのために、皆であの場所を綺麗にしてあげようと思っていた。
 その後に、志摩子さんと瞳子のお見舞いにでもと考えていたのに、誰も来ない。
 理由は分かっている。
 乃梨子ちゃんは、志摩子さんが目を覚ましたとかで先に帰り。
 由乃さんは理由は分からないが、お休み。それで菜々ちゃんが様子を見に、やっぱり帰ってしまっていた。
 祐巳も、瞳子の熱が下がったと今朝連絡があったので今すぐに会いに行きたいが、幽霊の舞ちゃんにあの周囲を掃除してあげると言ったので、予定通りにそちらを先に終わらせようと考えていた。
 「さて、こうしていても誰も来ないし行こうか」
 祐巳は軍手をはめ、鎌とボロ雑巾を持ち薔薇の館を出た。

 それから少しして血相を変えた菜々ちゃんが薔薇の館に飛び込んで来た。
 「紅薔薇さま!!」
 そう、叫んだが、そこに祐巳は居なかった。

 その時には祐巳は、石の所に着き。雑草を刈り始めていた。
 ザンザカザン!!ザッザッ!!
 「秘儀、回転切り!!」
 「祐巳、遊んでいないで早く綺麗にしてよ」
 「とほほ、乃梨子ちゃんか由乃さんが居たらツ込んでくれるのに」
 祐巳は泣き泣き一人で草刈を進める。
 刈り取った草は、少し離れた所に積み上げ。後日、捨てることにした。
 「あと一息って所かな?」
 一人での草刈だが、どうにか綺麗になってきた。


 「はぁはぁ、鞄はあったから校内に居るはずなのに」
 その頃、菜々ちゃんは祐巳を探して走り回っていた。
 だが、祐巳は見当たらない。
 「大変だよ、大変だよ」
 流石の菜々ちゃんにも今は余裕がない。
 「お〜い、菜々ちゃん!!」
 そこに、菜々ちゃんを呼ぶ声が響く。
 菜々ちゃんが声の方を見れば、スカートもプリーツも乱れまくりで走ってくる乃梨子ちゃんが見えた。
 「乃梨子さま?」
 「菜々ちゃん、ごめん、詳しく話している暇は無いんだよ。紅薔薇さま知らない?」
 「あっ!?」
 菜々ちゃんは口を思わず押さえ、乃梨子ちゃんを見る。
 「あの!!私も探しているのですが、その理由って舞さん?」
 「て、菜々ちゃんもなの?」
 「はい、お姉さまの見舞いに行って、そこで聞きました」
 「私もそう、志摩子さんが目を覚ましたと聞いて行ったら、志摩子さんが実は舞さんの姿が見えていたことを教えてくれて、事件の真相を知ったの」
 「では、白薔薇さまも、お姉さまと同じ考えと言うことですね」
 菜々ちゃんの言葉に、乃梨子ちゃんも頷き。
 「「危ないのは祐巳さま」」
 二手にすばやく別れた。


 「はぁはぁ、重い!!」
 「水、入れすぎ」
 「……でも、何度も運ぶのはイヤだし」
 「うわぁ、酷い言葉だ」
 「良いじゃない」
 まぁ、確かに何度か水を替えたほうが良いのだろうが、水運びって疲れるからなぁ。
 「重いしさぁ、許してよ」
 「う〜ん、それなら私が運ぼうか?」
 「運べるの?」
 意外な提案、一瞬、祐巳の頭に浮かんだのは浮遊するバケツ。
 ……見られたら騒動に成るかな?
 祐巳はそんな心配をする。
 「私が祐巳の体に入ってバケツを持つの」
 「それって……疲れるのは結局私じゃん」
 「そうかな?」
 「そうよ!!もう、いいよ。早く綺麗にしよう」
 祐巳はただでさえ水を入れたバケツを運んで疲れているのにと思いながら、石の所に辿り着くとさっそく石を洗い始めた。
 ――パッシャパシャ。
 バケツと一緒に持ってきた古びたタワシで石を磨く。
 少しすると石の周囲には、石を洗った水が溜まる。
 そして、水はゆっくりと広がっていく。
 ゆっくり、ゆっくり。
 ――パッシャ。
 「?」
 祐巳の足元で水がはね、祐巳はようやく気がついた。
 「な、何コレ?」
 だが、事態をすぐに理解できない。
 祐巳の周囲、と言うよりも石を中心に大きな水溜りが出来ていた。
 「私……」
 「どうしたの、祐巳。ふふふ」
 何故か耳元で笑う、幽霊の舞ちゃん。
 「私……こんなに水を零したっけ?」
 「零してないよ」
 「だよねぇ〜、せっかく綺麗に草を刈ったのに、これじゃぁグチャグチャに成っちゃうよね」
 「……あっ、そこが問題なんだ」
 何か的外れなことを言ったのか、幽霊の舞ちゃんは呆れ顔で見ている。
 「スカートが濡れるとか、靴が濡れるとかはないの?」
 「あぁ、そうか」
 言われてようやく祐巳はスカートや靴を見る。靴は少々濡れていたが、スカートは大丈夫のようだ。
 「うん、OK」
 「はぁ、まぁ、そのボケボケなところが祐巳らしいけれどね」
 「あはは」
 瞳子にはよく小言のように言われているが、幽霊の舞ちゃんにまで言われるとは思わなかった。
 「それじゃ、最後に水で流してっと!!」
 祐巳は、バケツに残っていた水を石にかけ流す。
 「よし!!」
 「「紅薔薇さま!!」」
 「おっ?」
 終わったと思えば、祐巳を呼ぶ声が響く。振り向けば、なにやら慌てている乃梨子ちゃんと菜々ちゃん。
 「そこに舞さんは居ますか?!」
 「?……いるよ!!」
 見えない二人が舞ちゃんに何のようなのだろうか?
 「「紅薔薇さま!!逃げてください!!」」
 「ふぇ?」
 乃梨子ちゃんと菜々ちゃんの言葉の意味が分からなかった。だが、すぐにその意味を知る。
 「祐巳」
 「えっ?」
 幽霊の舞ちゃんと出合って初めて祐巳は背筋に冷たいものを感じた。

 ――ざっぷん!!

 「「紅薔薇さま!!」」
 乃梨子ちゃんと菜々ちゃんの声が響く。

 「一緒に行こう」
 幽霊の舞ちゃんが囁いている。

 「がっは!!」
 祐巳は慌てて、先ほどまで磨いていた石にしがみついた。
 向こうから慌てた乃梨子ちゃんと菜々ちゃんがやってくるが、祐巳の周囲はその草に覆われた姿を池へと変えていた。
 「な、なに、これ」
 「池……だよ」
 「ま、舞ちゃん?」
 幽霊の舞ちゃんは何も変わらない態度のままで祐巳に話しかけていた。
 「池ってなに?」
 「ん?昔ね、ココには池があったの、そして、その池には河童が住んでいたの」
 「河童?」
 「そう河童」
 幽霊の舞ちゃんは嘘を言っているようには見えない。
 「なんで河童?」
 「私がその河童だから」
 「舞ちゃん、河童なの?」
 「祐巳は狸のお姫さま?」
 「「……」」
 幽霊の舞ちゃんの話はイキナリ変わる。
 「平成の?」
 「うん、化け合戦だけど、それ以上は危険だよ、いろいろ」
 「そう?」

 ……祐巳さまの思考もズレているんだけれど。
 乃梨子ちゃんは、危険な状態にも関わらずボケた会話をしている祐巳を見て呆れていた。

 ……紅薔薇さま、流石、面白いです!!
 菜々ちゃんは、笑顔だ。

 「祐巳さま!!舞さんです!!舞さんが、志摩子さんにも由乃さまにも瞳子にも呪いをかけたんです!!」
 流石に見かねた乃梨子ちゃんが祐巳に真実を伝える。
 「ほぇ?」
 それでもまだ祐巳には事態が掴めていない。
 「呪い?なんで」
 祐巳は、石にしがみついたまま乃梨子ちゃんを見る。
 「目的は祐巳さま自身ですよ!!それで、邪魔な舞さんが見える人に呪いをかけ学校に来れなくさせたんです!!」
 「見える人が邪魔?あっ、でも、志摩子さんは見えて…」
 「志摩子さんも見えていたんです!!ですが、舞さんの危険性を感じて見えない不利をして、このお札で封じるつもりだったんです!!」
 そう言った乃梨子ちゃんは高々とお札を掲げていた。
 「ちぇ、お札を持ってくるなんて」
 祐巳の頭上で、悔しそうな声が響く。
 「舞ちゃん?」
 「でも、見えていないあの二人では、あのお札も意味を成さないよね」
 幽霊の舞ちゃんは祐巳を見てニッコリと笑う。
 「舞ちゃん、どうして?」
 ようやく祐巳にも危険性が理解できた。
 「だって……」
 幽霊の舞ちゃんの姿が消え、祐巳の後ろの水面が揺れた。
 緑色の手。
 水かき。
 金色の瞳。
 裂けた口。
 「祐巳にコッチ側に来て欲しかったから」
 そこに居たのは河童だった。
 河童の舞ちゃんの手が祐巳の顔を覆う。
 そして、そのまま河童の舞ちゃんの手が祐巳を池に……。
 「祐巳さま!!」
 「紅薔薇さま!!」
 乃梨子ちゃんと菜々ちゃんの声が響き。
 「きゃぁぁぁぁ!!!!」
 舞ちゃんの声も響いた。
 「!?」
 祐巳の顔を覆っていた河童の舞ちゃんの手が祐巳から離れ。
 「祐巳!!」
 信じられない人の声が響く。
 そこに居たのは、大学に進学したはずの祐巳のお姉さま、祥子さまだった。
 「お、お姉さま?」
 「さぁ、お掴まりなさい」
 「は、はい……あっ、でも」
 「いいから、そのままでは風邪をひくわ」
 祥子さまの白い手が祐巳の手をしっかりと握る。
 「さぁ」
 祥子さまに引かれ水の中から上がろうとした祐巳の足を、河童の舞ちゃんの手が握る。
 「舞ちゃん?!」
 「祐巳、行かないで……」
 「貴女、祐巳から手を離しなさい」
 弱々しい河童の舞ちゃんの声、祐巳を守ろうとする祥子さまの力ある声。
 「祥子さま、舞ちゃんが見えるのですか?」
 「見えるわよ。彼女が見える条件は、いかに祐巳に近いかと言うことなの、霊感とかではなく。貴女の親友、貴女の姉妹と言うようにね。だから、志摩子の友人としか思っていない乃梨子ちゃんや、紅薔薇さまとしか見ていない菜々ちゃんには彼女は見えないのよ」
 祥子さまは、祐巳に河童の舞ちゃんが見える理由を教えた。
 「そして、見えれば」
 祥子さまの手には、乃梨子ちゃんが掲げていたような、お札。
 「ごきげんよう」
 お札は、弱々しい河童の舞ちゃんに貼られる。
 「ゆ、ゆみぃぃぃぃ!!!!」
 それが、河童の舞ちゃんの最後の声だった。

 河童の舞ちゃんが消え。
 池が消える。
 池の水で濡れていたはずの制服も何事も無かったように乾いていた。
 後で聞いた話だが、祥子さまは瞳子から連絡を受け祐巳の元に来たのだと言う。そこで、祐巳を探していた乃梨子ちゃんたちに会い。
 幽霊の舞ちゃんの見えない乃梨子ちゃんと見える祥子さまで、乃梨子ちゃんたちを囮にした作戦を立てたらしい。

 「お姉さまが来てくれたのは嬉しかったけれど、でも、舞ちゃんは」
 消えていく舞ちゃんの声が離れない。
 酷いことをした舞ちゃんだが、全面的に許せないわけではない。
 「成仏してくれたら良いのだけど」
 祐巳は温かいお風呂に浸かりながら、そんな事を思っていた。
 ここ数日は色々なことがありすぎて頭の整理が追いつかない。
 だから、消えた舞ちゃんの事だけを考えていた。
 「!?」
 不意に、体内から何かが込み上げて来て、祐巳はそのままお風呂の外に体を持って行く間もなく。
 お風呂の中に、それを吐き出してしまう。
 それは緑色の水だった。
 「……舞ちゃん?」
 「なに?祐巳」
 祐巳の声に、確かに舞ちゃんの声が返ってくる。

 そして、祐巳の顔を、あの河童の舞ちゃんの手が覆った。


 「ようこそ祐巳、くすくす」





 残酷系は苦手。
 でも、幽霊屋敷とかは好きなのでホラーに手を出したまでは楽しかったのですが、色々オブラートに包みすぎて意味不明。
 ここまで読んでくださった方に感謝。
                                『クゥ〜』


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