『フレーム オブ マインド』より
さて。『フレーム オブ マインド』の収録(?)も終わり、薔薇の館にまったりとした空気が流れていた。
「そういえば」
ふと、思いついたように祐巳は呟いた。
「今回も桂さん、なんか普通に出てたよね」
「ああ……、なんかもう、ダメね、あの人は」
と、気だるげに相槌を打つのは由乃さん。
この時点で薔薇の館に残っていたのは薔薇の館の2年生トリオと蔦笙コンビ、そして真美さんだ。
「だ、だめって?」
もとより事情もその存在も知らなかった笙子ちゃんが驚いたように言って蔦子さんに視線を向けた。
蔦子さんは笑って、「まあ聞いてなさい」とだけ言った。
真美さんは「ダメとまで言うか」と呆れたように笑っていた。
どう思う? と聞かれて、幸せそうな顔で紅茶を飲んでいた志摩子さんは、「何のこと?」と首を傾げる。
興味ないことにはとことん淡白ですかこの人は。
「まあ、この天然ふわふわ銀杏っ子はおいといて」
「ギンナンッコって、新ジャンルだね」
由乃さんの言葉に祐巳もどうでもいい相槌を返した。
真美さんがピクリと反応して何やらメモを取り出した。
「ギンナンッコ? 新ジャンル??」
またまた笙子ちゃんが不思議そうに首を傾げて蔦子さんを見たけれど、今度は蔦子さんは肩をすくめて見せただけだった。たぶん説明するのが面倒だったんだろう。
「出番が無いことが桂さんの桂さんたる所以。桂さんである意味だったのに」
「普通に出てきてたらもう、桂さんである意味無いよね」
何故か腹立たし気な由乃さんに、祐巳もちょっと思っていたことを言った。
「ちょっとちょっと」
バタンと音がしてビスケット扉が開き、話の進行上、薔薇の館から出ていた桂さんと可南子ちゃんが戻って来た。
「何なの、それ? 私に出番があって何が悪いの? いちいち皆の許可をとらなくちゃいけないの? いいじゃない。私に出ても。私だって少しは皆の話題になりたい」
憤慨して言う、桂さん。
対して由乃さんは、両手を腰にあててふんぞり返ると、無い胸を張って言った。
「はたしてそううまくいくかしら?」
「ど、どういうことよ!?」
「あなたは出番が無いという唯一にして最大の特徴を捨て去ったってことよ」
「な、なんですってっ!?」
決め付けるように言う由乃さんに、桂さんはうろたえた。
ちなみに一緒に入って来た可南子ちゃんは、我関せずとばかりに奥に入り、自分の飲む分だろう、紅茶を入れていた。
他の皆は黙って聞いている。興味が無いわけでも無いだろうがとりあえずは二人のやりとりを注意深く聞いているといったところだろうか。あるいは関わりたくないと思っているのかもしれないが。
「出番が無いことで話題になっていたのに、あなたは自身の存在意義を自ら放棄したのよ! これでもう、それこそ何の話題にものぼらないなんの変哲も無い普通の生徒になるってことよ。いいの? 出番以上にあなたは読者からの興味を失ったのよ!」
「そんなっ!」
まくし立てる由乃さんの言葉に、ショックを受けたようによろめく桂さん。
見かねた祐巳は、友達として一言フォローを入れた。
「っていうか、普通に出てきてたらもう、桂さんじゃないよね。桂さんじゃない別の何かだよ」
「祐巳さんまでっ!?」
……トドメとも言う。
由乃さんはここぞとばかりにビシッと桂さんを指差して言った。
「そう、つまり。あなたは桂さん失格です!」
「し、しっかくー!?」
「終わりましたね」
「うん」
ショックのあまり動かなくなった桂さんを見てポツリと呟いた可南子ちゃんに短く答える祐巳。
静まり返った薔薇の館には、指差しポーズの由乃さんと、真っ白に燃え尽きた桂さんを写真に撮るシャッター音だけがしばらく響いていたという。
『フレームアウトオブマインド』 完