【2396】 全力疾走するマリア様黄昏の高速フォークダンス  (ROM人 2007-10-21 04:08:50)


※この作品はオリキャラ満載です。
 というか原作キャラ出てきません。
 そう言うのが苦手な方はスルーしてください。
 


 なぜ、私はこんな所に居るんだろう。

 希望を胸にやってきたサムライの国。
 なのに、このアメリカの出来損ないのような国はどうだ?
 ハラキリ・チョンマゲ・スシ・ゲイシャ。
 本で読んだオサムライさんなんてどこにも居ないじゃないか。

「ごきげんよう」
 ゴキゲンヨウ? この国に来る前に少し勉強した日本の挨拶は朝はオハヨーゴザイマス、昼はコンンニチハ、夜はコンバンワだったはずだ。
 私は父に騙されて日本じゃない別の国に連れてこられたに違いない。
 おまけに通うことになった学園は女の子しか居ない。
 教室に居ても、私の席から遠いところに皆集まって楽しそうに話している。
 どうしようもない疎外感を感じる。
『え…えっと……ごめんなさい』
 片言の英語で私に話しかけてくるクラスメイトは、私が応える前にあわてて逃げ出していく。
 毎日、こんな事の繰り返し。
 私は嫌われているのだろうか。
 話しかけてくる生徒はほとんど居ない。
 話しかけてきてもまるで怯えているように話して逃げていく。
 言葉がわからないことが恐い、それは多分私も同じだと思う。
 それにしても、あまりにひどくはないだろうか。
 私が話しかけると「これはペンです」と念仏のように唱えて逃げる生徒も居た。

 ティーチャがわからない言葉で授業を進める。
 元々の勉強嫌いに加えて、何を喋っているのかわからないとなれば授業を聞く気すら失せてくる。
 窓の外に広がる青い空に想いを馳せてみる。
 あの空の向こうには懐かしい祖国がある。
 こんな変な国にいつまでも居たくない。
 父の仕事は最低3年はかかるらしいと聞いた。
 私はその間ずっと、このけったいな国で暮らしていかなければならないのかと思うと嫌になってくる。

「はぁ……」
 屋上の一番高い場所で、ぼんやりと空を眺め続ける。
 休憩時間はいつもこうして私はひとりぼっち。
「あら、先客が居たのね」
 私にはわからない言葉でそう言った彼女は私の横に静かに座った。
「言葉、わからないのね?」
 私が首を傾げていると彼女はそれに思い当たったらしく、今度は身振り手振りをして私にそう言った。
 私は頷いた。
 身振り手振りと片言の英単語。
 ひとりぼっちだった私にようやく話しかけてきてくれた同世代の女の子。
「えっと、ワタシは2年生。 アナタは?」
 自分を指さし、指を二本だし、私はどうかと聞いてくる。
 彼女の真似をして指を一本だし一年生であると伝える。
「ワタシ ナマエ ミム ? アナタは?」
「ワタシは、ケイト、ケイト・ウィスパー」
「ワタシ オネエサン アナタ ミムさまとヨブ オッケイ?」
「ミムさま?」
 上級生らしい彼女はあまり英語を得意としていないようだが、それでも一生懸命だった。
 私も、久しぶりに誰かと話が出来るのが嬉しくて一生懸命それに応えた。
 気がつくと、休み時間はもう残り僅かで、予鈴のチャイムがそんな時間の終わりを告げた。

 それからの日々は少しだけ今までと違った。
 毎日、上級生の美夢さまといろんな事を話した。
 身振り手振りでお互いの気持ちを伝える。
 お互い、相手の言葉はよくわからないのにそれでも一生懸命だった。
 美夢さまは私に色々な言葉を教えてくれる。
 そうして、少しだけ日本語が理解できるようになった私にクラスメイト達も少しずつ話しかけてくれるようになった。
 憂鬱な日々が少しずつ変わっていく。
 コミュニケーションが取れるようになった日本人はとてもいい人達だった。
 オサムライさんは居なかったけど。
 私は、この国が少し好きになり始めていた。



「ロザリオ?」
「そう、ロザリオ」
 きらきらしている綺麗なロザリオが私の前で揺れている。
 美夢さまはどうやら、私の首にそれをかけると言っているらしい。
「ロザリオ プレゼント フォーユー ユーア マイ スール」
 ロザリオを受け取って私が美夢さまの妹になれ?
 よくわからないこの学園のシステムを美夢さまは身振り手振りで私に説明する。
 それは難しくってよくわからなかったけれど、美夢さまと強い絆で結ばれることなのだとしたら私に拒む理由はなかった。
 この学園で、真っ暗な闇に包まれていた私を照らしてくれたのは美夢さまだから。
 私は美夢さまのロザリオを受け取った。

「ロサ・フェディダ・アン・ブゥトン・プチスール?」
「そうよ、ワタシ、ロサ・フェディダ・アン・ブゥトン。 ユーはマイスールだからつぼみの妹オッケー?」
 美夢さまのロザリオを受け取った日の放課後、私は学園内の小さな建物に連れて行かれた。
 私の手を取り、上機嫌な美夢さまに連れられてギシギシと軋む階段を登っていく。
 そこには数名のおそらく上級生達が集まっていた。

「へぇ、美夢の妹は外人さん?」
「んー、確かにかわいいというか綺麗だけど本当に大丈夫?」
「大丈夫です、私が立派な黄薔薇に育てて見せますから」
 美夢さまの私の手を握る強さが強くなった。
 美夢さまは何だか緊張しているようだ。
「ねえ、あなたのお名前は?」
「…………」
「あ、ほらケイト」
 あ、名前を聞かれてるんだ。
「1年キク組12番。 ケイト、ケイト・ウィスパーデス」
「そう、ケイトちゃんというのね。 それで、貴女はこの黄薔薇のつぼみの妹になったそうだけれど……ねえ、あなた日本語わかる?」
「……紅薔薇様、あの……ケイトはまだ日本に来たばかりで言葉があまりわからないので」
「こら、美夢。 貴女ねぇ…いくら妹見つけなさいって言ったからって、日本語わからない外人さん連れてきてどうするわけ?」
「お姉さま……でも、私は彼女がいいんです。 決めたんです」
「うーん、でもさぁ、あなたの妹って事は山百合会の仕事を手伝ってもらわなくちゃいけないんだよ? それに、ゆくゆくは黄薔薇様になってあなたの跡を継ぐのよ?」
「でも……」
 美夢さまは何か上級生達に言われ、困っているようだ。
 言葉のわからない私にはどうすることも出来ず、ただ美夢さまの横に立っていることしかできなかった。
「はいはい、いいじゃないのよ。 美夢ちゃんが何とかするって言ってるんだからさ。 ねっ」
「茉莉、これは黄薔薇である私とそのつぼみである美夢の問題よ。 口出ししないで」
「おー恐っ。 でもさ、インターナショナルで面白い山百合会になると思わない?」
「……お姉さま。 どうしても、ケイトとの姉妹は認めていただけないと仰られるなら私……このお姉さまのロザリオをお返しいた…」
「「「ちょっと待った!」」」
 上級生達の声がハモった。
「いきなり、物騒な話しないで美夢ちゃん。 黄薔薇のつぼみがお姉さまにロザリオを返したなんて事が一般の生徒に知られたら大変なことになるわよ」
「そーそー。 大変なことになるよ? 新聞部が騒いで、真似して妹がロザリオ返す姉妹が続出して姉妹システムが崩壊するよ?」
「……でも、私はケイトがいいんです!」
 美夢さまは、黄薔薇様と呼ばれた上級生に必死に訴える。
 しかし、黄薔薇様は難しそうな顔をしたまま黙っている。
「あ、そーだ。 じゃあ、こうすれば? お試し期間って事でさ、夏休みまでの間ケイトちゃんには山百合会の手伝いをしてもらってさ。 その間に美夢ちゃんがケイトちゃんに言葉を教えてあげる。 ケイトちゃんが日本語喋れるようになって、山百合会のメンバーとして問題がないって事になったら認めてあげるってのはどう?」
「茉莉……わかったわ。 いい、美夢。 夏休みまでにケイトちゃんの事をちゃんと指導できればあなたとケイトちゃんの関係を認めてあげる」
「はい、お姉さま」







 私、向坂美夢は悩んでいた。
 お姉さま方から言い渡された夏休みまでの制限時間。
 その間にケイトに言葉を教えて、薔薇の館の住人としてやっていけるように指導しなくてはならない。
 ……正直、自分すらまだ薔薇の館の住人としてふさわしいかどうか自信がないんだけどね。
 ケイトと出会ったあの日、私はつぼみとしての重圧に押しつぶされそうになっていた。
 お姉さまは優しく私を見守ってくれるけど、全校生徒の注目の的である薔薇の館の住人として自分がどうすべきなのか私にはわからなかった。

 そんなもやもやを抱え、屋上でひとり考え事をしようと足を運んだ。
 普段は誰も来ない、私が一人で考え事をするための場所。
 そこに舞い降りた天使がケイトだった。
 日の光に照らされ輝く金色の髪。
 青い宝石のように綺麗な瞳。 
 思えば、一目惚れだったのかもしれない。
 彼女が下級生だと知った私はどんなことをしても妹になってもらいたいと願った。
 言葉がよくわからないケイトに自分の意志を伝えることに夢中になって、悩んでいたことを少し忘れていられた。
 そうだ、自分の出来ることをするしかない。
 どんなに悩んだって、自分の出来ることは限られているじゃないか。
 まずは、ケイトときちんと会話が出来るようになろう。

 薔薇の館を後にした私は、駅前の書店を目指していた。
 そして、財布の中身が許す限り英会話の本を買い漁った。
 まず、ケイトの言葉がわかるようになろう。
 それから、ケイトに少しずつ日本語を教えていこう。
 言葉さえ通じるようになれば、かなり前に進めるはずだ。
 私はその日、生まれて初めて勉強をしながら朝を迎えた。





「きゃあ、おねえさまっ!!」
 私とケイトが薔薇の館にやってきて間もない時だった。
 紅薔薇のつぼみで私の親友、柏木 春霞が悲鳴を上げた。
 そして、その瞬間彼女は意識を失って崩れ落ちた。
 薔薇の館の2階に黒い悪魔が現れたのだ。
 すばしっこく、部屋を我が物顔で這い回る。
 ただいま、薔薇の館の住人達は手に丸めた新聞紙を構え、敵の殲滅作戦を繰り広げていた。
「茉莉!! そっち行ったよ」
「ちょ、ちょっとやだ。 こ、こないでぇ〜」

ぷちっ

「……まったく、茉莉は。 ゴキブリぐらいで騒がないの」
 鮮やかな手つきでそれをしとめた紅薔薇様こと若杉奈留美さまは呆れたように言った。
「そうは言うけど、苦手な物は苦手なのよ」
 それはともかく、下級生である私の陰に隠れるのはどうかと思います白薔薇様。
「でも、なんでゴキブリなんて……」
 そう呟いた私にお姉さまが疑惑の視線を向けてくる。
「美夢、あなたまたお菓子をその辺に……」
 違います、断じて私ではありませんってば。
「ちゃんとゴミの処理はしてるはずだし、どうしたのかしら」
 私と同じくつぼみの沙貴さんがつぶやいた。

「……ま、まあ…それはともかく、さあ仕事仕事。 いまのうちに少しでも片づけておけば夏休みが一日でも延びるかもしれないわよ?」
 紅薔薇様は何故か少しあわてた素振りを見せたが、すぐにいつもの通りに戻った。
『ねえ、ケイト。 この書類のここをこうして合計を計算して、ここに書き込んで。 これみんな同じだからね』
 私は、寝ずに頑張って調べた英語を恐る恐るケイトに話してみた。
 ケイトは黙って聞いていたが、二パッと笑い「OK」と返してくれた。
「頑張ってるわねぇ…美夢ちゃん。 こりゃ賭けは美夢ちゃんの勝ちかもね」
 白薔薇様はお姉さまを横目でチラリと見ながらそう言った。





 私は、少しだけ調子に乗っていたのかもしれない。
 少しずつ言葉を覚えてくれるケイトに満足し、お姉さま達との賭けは勝ったも同然だと思っていた。
 でも、ケイトはどう思って居るんだろう。
 本当に、ケイトは私の妹になりたいと思っているのだろうか。

「ねえ、ケイトさんは黄薔薇のつぼみの妹になられるのかしら?」
「ケイトさんは薔薇の館でどのお姉さまがお好きなの?」
「ケイトさんは薔薇の館でどういった役割を担当されているの?」
「あ……え……Why?」
 ケイトを薔薇の館に誘いに行こうとケイトのクラスを訪ねようとしていた時だった。
 廊下の一角に小さな人だかりが出来ていた。
 その中心には困ったような、怯えたようなケイトの姿があった。
 薔薇の館の住人である私が過剰に親密にしている姿を目撃されればこうなることは想像できたはずだ。
 おそらく、ケイトに一番近い場所でケイトに質問を繰り返す生徒達はおそらく新聞部。
「ちょっと、何をしてるの!」
 私は我慢できずにその人だかりに飛び込んだ。
「黄薔薇のつぼみ! ケイトさんを妹にされるのですか?」
「ケイトさんは薔薇の館でどのような役割を……」
 言葉がわからないケイトより、私へのインタビューが確実と判断した新聞部の矛先は瞬時に私に向いた。
 私はケイトの手をぎゅっと握った。
「逃げるよ!」
 そして、走り出す。
「あ、お待ち下さい。 黄薔薇のつぼみ!」


 私達は追いかけてくる新聞部や野次馬の生徒から必死に逃げた。
 逃げる間中、ケイトは私の手をしっかりと握りしめていた。
 やがて、追いかけてくる生徒が居なくなるのを確認すると私達は温室に逃げ込んだ。
「大丈夫?」
 まだ少しだけ息が上がっている。
「コワカッタ………」 
 突然、ケイトが抱きついてきた。
 震える体はいつもよりも小さく感じた。
 私が助けにはいるまでケイトはどんなに心細かったことだろう。
 たくさんの生徒に囲まれ、わからない言葉で詰問され、私がケイトの立場だったらどう感じただろう。
 それは……すべて私のせいで。

「ごめんね、ケイト」
 私はケイトを優しく抱き返した。
 精一杯の謝罪の気持ちを込めて。
 もう、ケイトを苦しめちゃいけない。

 だから私は、ケイトを諦める事に決めた。





 最近、美夢さまが私を避けている。
 毎日のように薔薇の館に誘われて、一緒にお仕事をして言葉を教えてもらって楽しかったのに。
 時々見かけても何か辛そうな顔をして顔を背けてしまう。
 私、何かしてしまったのだろうか。
「どうしたの、ケイト。 元気がないみたいだけど、黄薔薇のつぼみと喧嘩でもしたの?」
 クラス委員の砂森月美さんが心配そうに私に話しかけてきた。
 彼女もまた、私に親切にしてくれる人の一人だ。
 私は首を振って答えた。

「何か事情があるんだよ。 ね、これから薔薇の館に行ってみようか」
 月美さんは私の手を取り、歩き始めた。
「………イヤ」
 恐い。
 拒絶されるのが恐い。
 急に冷たくなってしまった美夢さまにサヨナラを言われてしまうのが恐い。
 美夢さまとの絆が切れてしまったら……。
 私にとって、この学園での生活はすでに美夢さまとの生活になっていた。
 美夢さまを失ってしまったら、私は元のひとりぼっちな私に戻ってしまう。
「ケイト? ねえ、ちょっと……!!」

 私は月美さんを振り払ってその場から逃げ出した。
 スカートのプリーツは乱さないように。
 それがこの学園の掟だと教えてくれたのも美夢さまだったっけ。
 でも、追いかけてくる黒い何かから逃げるように私は走り続けた。





「黄薔薇のつぼみ、お話があります」
 考え事をしながら歩いていた私は、一人の下級生に呼び止められた。
 それは、ミーハーな薔薇の館の住人のファンな下級生のそれとは違って、深刻な真剣な表情だった。
「何かしら」
 だから、私も真面目な表情で答える。
「ケイトさんのことです」
 彼女の口をついて出た言葉に、私は彼女もまた新聞部のように私とケイトの関係を探りたがる人種なのかとウンザリしてしまった。
「貴女には関係のないことだわ」
 だから私は彼女との会話にこれ以上の意味を感じられず、会話を打ち切ろうとした。
「関係はあります! 黄薔薇のつぼみ、これ以上ケイトさんを弄ぶのはお止め下さい!」
 弄んでいるですって!?
 人の気も知らないで!
「貴女に何がわかるって言うの! 貴女に私の気持ちなんて」
 気がつくと、私は声を荒げて叫んでいた。
 しかし、そんな私に彼女は驚く様子もなく言った。
「私には黄薔薇のつぼみの気持ちはわかりません。 でも、ケイトさんが悲しんでいることだけはわかります」
 ケイトの気持ち?
 それを言った彼女の目に浮かぶ涙を見て、私はわかってしまったのだ。
 彼女はきっとケイトを特別な感情でみているのだと言うことを。
「優しくしたり、突き放したり……。 これ以上、ケイトさんを弄ばないでください」
 すでに涙声で彼女は言った。
「ごめんね……」
 私は、泣き出してしまった彼女を優しく抱きしめた。
 そう、私は逃げていたんだ。
 ケイトのためにケイトを諦めるなんて嘘だ。
 ケイトを傷つけ、ケイトに嫌われてしまうのが恐かったんだ。
 ケイトはまだ私を必要としてくれている。
 だから、それに応えなくてはいけない。
「ありがとう、これからもケイトの力になってあげてね」
 腕の中の彼女は、「はい」と小さく答えた。





 何故か、美夢さまに謝られて私はまた薔薇の館に足を運ぶようになっていた。
『ケイト、こっちの書類とこっちの書類の合計が間違ってないか確認して』
「OK」
 数字を照らし合わせるだけの書類作業。
 薔薇の館にはそれ以外の仕事も沢山ある。
 でも、文字が読めない私にそれを理解することは出来なかった。
『美夢さま、これはなんて書いてあるんですか?』
『これは、学園祭予算(案)って書いてあるのよ』
『ここはなんて書いてあるんですか?』
『ここには各部活動や同好会などの名前が書いてあるの、これは小説研究会』
 そんなやりとりを交わしながら、私は作業を進める。
 時々、みんなのカップが空になると紅茶を入れに立つ。
 薔薇様達も私の入れる紅茶に笑顔で「おいしいよ、ありがとう」と返してくれる。
 私はこんな薔薇の館の雰囲気を好きになり始めている。
 ここに居る人達の話している言葉を知りたい。
 言葉が通じれば、もっともっと親しくなれるはずだ。
『美夢さま、もっともっと日本語おしえてください』
『うん』
 
 その次の週末。
 私は美夢さまの家にお泊まりに行くことになった。
 美夢さまの家は私の家よりもかなり古い感じで、庭はまるで私がここに来るまで描いていた日本の家の庭に似た感じだった。
「さあ、入って」
 美夢さまに手を引かれ、玄関をくぐる。
 外から見ただけでも凄かったけれど、中に入るとまさにファンタスティックだった。
 美夢さまのお母様は着物を着ていて、どこもかしこもオサムライさんの家みたいだった。
「oh、ファンタスティック!」
 思わず、キョロキョロ見回してしまう。
「あらあら、そんなに珍しいかしら」
「もう、ケイトってば」
 「挨拶は?」と言われて慌てて美夢さまのお母様に自己紹介する。
 つい、はしゃぎすぎてしまった。

「それじゃ、これから英語禁止ね」
 夕食が終わり、美夢さまのお部屋に戻った私はいきなり美夢さまにそう言われた。
 英語禁止? それは、喋るなと言うことだろうか。
「ど・う・して?」
「ケイトはだいぶ日本語を聞くことは出来るようになってきたはずなの、だから今度は喋る練習。 聴くことができても喋れなければだめでしょ?」
『あ、そっか』
 バッシーン!
『痛い……』
 バッシーン!
 巨大な紙の武器で美夢さまに殴られた。
「いい、これから英語で喋ったらこの特大ハリセンでバシバシいくからね?」
 そう言った美夢さまは怪しげにニヤリと笑った。
 ……本当に私に言葉を教えるのが目的なんだよね、美夢さま……変な趣味とかないよね?
「あ、それからわざわざ姉の家に招かれてずっと黙ってるのは禁止だからね。 たくさんお喋りしようね」
 うわ……美夢さま意地悪だぁ。

 それからは思い出すのもおそろしい時間が、日付が変わるぐらいまで続いた。
 美夢さまの部屋にはハリセンと呼ばれる武器だったモノがたくさん散らばっていた。
 叩かれた場所が痛い……。 なんか、頭の形が変わっちゃった気がするよぉ……。
 言葉を覚える前に死んじゃうよぉ、美夢さまぁ……。




 
 薔薇の館での作業は今日も続く。
 お姉さま達との約束の時は刻一刻と迫ってきていた。
 書類整理も要領を得てきたケイトだったが、まだ完璧に日本語を理解するのは難しいようだ。
 お泊まり会も、もう何度やったか忘れるぐらいやった。
 それでも、お姉さま達との間にはやっぱり私の通訳が必要だった。
 このままでは、私はケイトを諦めなくてはならない。
 それだけは嫌だ。
 お姉さまにロザリオを返して、ケイトと姉妹になるか……。
『美夢』
 お姉さまの顔が脳裏に浮かんでくる。
 こんな、できそこないのつぼみをこれまで一生懸命導いてくれたお姉さま。
 黄薔薇の朝生みゆきさまと言えば、学園の中でも容姿端麗眉目秀麗な完璧な人だった。
 まさに、学園のマドンナにして全生徒の憧れの的。
 人気の面でも紅白の薔薇様を抜いてぶっちぎりトップだと思う(妹視点)。
 そんな人が私みたいな平凡な目立たない子を妹に迎えてくれたのだから今でも信じられない。
 お姉さまは私を、導いてくれただけじゃない。
 包み込んで守ってくれて……。
 辛い時も、悲しい時もお姉さまが居てくれたからここまでやってこれた。
 胸が締め付けられるように辛い。
 嫌だ、どちらも失いたくない。
 私はどうしたらいいんだろう。
 私が、もっとつぼみにふさわしいしっかりした人間だったなら……。


「あ、向坂さん」
 そこには、ケイトの担任の青田先生が居た。
 女子校であるリリアンで唯一と言っていいほどの若い男性教師。
 意図してか、このリリアンには男性教諭自体が少ない。
 それ故に、男性恐怖症の子も多く通っているのだ。
「ごきげんよう」
「はい、ごきげんよう。 向坂さんはこれから薔薇の館ですか?」
「はい、そうですけど」
「何だかとても辛そうな顔をしていましたけど、どうかしましたか?」
 ドキッ……。
 青田先生が心配そうに私を見る。
 普段授業や廊下ですれ違うぐらいじゃ全然平気なのに。
 やっぱり、幼稚舎からずっとリリアンの私は男性に対して免疫が弱い。
「え、えっと……その……だ、だいじょうぶです」
 だめだ、声がうわずっちゃう……。
「そうですか? それならいいですが……」
「あ、その……私」
 駄目だ、恥ずかしくて逃げ出したい。
 これって、恋かな……でも、青田先生モテるから……ライバル多すぎ。
 知ってるだけで青田先生に恋してる友達、片手じゃ足りないもん。
 こんな私なんて……。
「そうだ、向坂さん。 ありがとう」
 半ば、パニックに陥りそうな私に先生は突然にお礼を言った。
「へ? あわわ……。 な、なんのことでしょうか」
 私は、先生に礼を言われる覚えなんて無かった。
「ケイトさんのことですよ」
 思わず変な声を上げてしまった私に注意するでもなく、にっこり笑って先生はその理由を話してくれた。
 青田先生は、自分のクラスに外国人の女の子が居ることでどう接していいのかわからなかったそうだ。
 ちなみに、先生は英語は苦手らしい。
「ケイトさんにわかるように、日本語と英語で説明することも出来ないですし、授業もどう行ったらいいのかと困っていたんです。 私も逃げていたんですね。 でも、向坂さんは違いましたね」
 先生達すら、どう扱っていいのか困っていたところに私は飛び込んでいった。
 それが、先生達を動かしたんだそうだ。
「私の他の先生方も、もう一度英語を学び直しケイトさんの言葉を理解しようという事になったんですよ」
 ケイトが望むなら、放課後に特別授業を行ってもいいと言ってくれている先生達もいると先生は言った。
 私は、その事を聞いて嬉しくて涙が出そうになった。
 これでケイトは今までよりもずっとこの学園を、日本を好きになってくれるかもしれない。
 でも……思ってしまったのだ。


 そうしたら、私はいらなくなっちゃうんじゃないかな。





 いきなり、私は先生に謝られた。
 片言の英語で。
 美夢さまと違ってだいぶわかりづらかったけど、それでも言いたいことは何となく理解できた。
 先生も私の言葉がわからなくて怖かったのだという。
 放課後に特別授業をしてくれるという先生達。
 正直、勉強は好きじゃないんだけれど、そう言ってくれる気持ちがとても嬉しかった。
 きっと特別授業を受ければ今よりきっと日本語を覚えることが出来る。
 そうすれば、美夢さまと美夢さまの国の言葉で楽しく話せるようになるような気がする。
『是非、お願いします』
 私は、先生達にそう言ってありがとうございますと続けた。


『で、あるからして。 この作者は…』
 英語で教わる国語(日本語)の特別授業が始まった。
 これはちなみに中等部の教科書。
 こないだは初等部の教科書の内容も教えてもらった。
 薔薇の館に行く時間は大幅に減ったけれど、こうして日本語を教えてもらいながら補習をすることで、遅れていた勉強も取り戻すことが出来るはず。
 そして……2年生になるためには頑張らないといけない。


 ん、まてよ? そもそも日本語がわからない私を日本の普通の学校に放り込むのは相当無謀なのではないか? しかも、よく受け入れてくれた物だ。
 一回、両親と話を仕直す必要がありそうだ。
 日本人の友達の中に放り込めば嫌でも言葉を覚えられるとかのんきなことを言ってたはずだ、うちの親たちは。
 そんなことを考えている間にも補習授業は続く。
 私のノートには日本語(のつもり)と英語が並んでいく。
 ひらがな、カタカナ、漢字。
 日本語って難しい。
 曖昧な表現や、似た言葉で違う意味の言葉。
 でも、少しずつでも言葉がわかってくると苦手な勉強も楽しくさえ思えてくる。

 ただ、美夢さまとお話しする時間が随分少なくなってしまったのは寂しい。
 薔薇の館に行けるのは週に一度ぐらい。
 それでも、ちゃっかり美夢さまのお家には毎週のように通っているけれど。





 ケイトの補習授業が始まってから、一ヶ月が経った。
 お互い冬服だった頃に出会い、今はもう夏がすぐそこまで迫ってきていた。
 そろそろ友人達との会話にも、『期末試験』という単語が見え隠れし、サボっていたツケをどうするか頭を悩ませる事が多くなってきた。
 それは、同時にお姉さま達との約束の期日が刻一刻と迫ってきていることを示していて、なおさら私をブルーな気分にさせた。
 ケイトはすごい勢いで日本語を吸収していた。
 ただ、それはあくまで授業に必要な言葉が中心で、それ以外の部分はまだ私が教えることが多い。 
 驚いたことに、ケイトはこの期末試験をクリアできるかもしれないところまで進歩しているらしい。
 元から頭の作りは良いのだろう。
 もし、ケイトが日本語を完璧に理解できたとしたら……私、抜かれる?
 それはまずいと、目の前に広げたノートに書かれた試験範囲を頭の中に叩き込んでいく。
 うわ……こんなこと教わったっけ? 私ってば、かなり上の空?
 人の心配より、自分の心配。
 来年ケイトと同級生なんてまっぴらごめんだ。


 期末試験。
 ……私、逃げ出したい。
 テストのヤマは見事に外れ、私は思いっきり苦戦を強いられた。
 テストの結果が帰ってくるのが恐い。
 黄薔薇のつぼみが追試とか……非常にまずい。
 お姉さまに顔向けが出来ない。
 ロザリオ返せって言われるかも……。
 まさかここまでひどいとは思っていなかった。
 そういえば、この一学期頭の中はケイトのことばかりだった。
 万年平均点の私は、ちょっとでも気を抜くと真っ逆様に奈落の底。
 迂闊だった。

 ああ、テストが帰ってくるのが恐い。





 日本語がわかるようになって挑んだ期末試験。
 先生がハンデと言ってふりがなを振ってくれた特製の問題用紙のおかげで問題をすらすら解くことが出来た。
 国語(日本語)のテストは結構苦戦したのだけれど。
 それを話したら、美夢さまは自分のことのように喜んでくれた。
 でも、何故だか時々元気が無くなるのは何故だろう。
 ぶつぶつと「追試は嫌……補習はもっと嫌ぁ………」と呟いている時がある。
 
 もうすぐ夏休みになる。
 私がこの国に来て初めての夏。
 美夢さまと一緒に楽しい思い出を沢山作りたい。

 綺麗なステンドガラスを見つめながら、薔薇の館の階段を登る。
 多分、今日は一番乗りだと思う。
 2階の会議室の扉を開けると、予想通り誰も居ない。
 私は、美夢さま達が来るまでに掃除をしてしまおうと窓を開け箒で床を掃き出した。

「へぇ、それじゃ山百合会始まって以来のつぼみが赤点ってのは回避できそうなんだ」
「もう、春霞のいじわる……」
「普段からの努力が足りないのだよ、おーほっほっほ」
「もう、自分は余裕だからって……」

 掃除もほとんど片づくかなと思った頃、下の階から美夢さま達の話し声が聞こえてきた。
 やがて、会議室の扉が開く。

「あ、ケイトちゃんごきげんよう」
「ごきげんよう、ケイト。 一人?」

「一番乗りです」
 そう言った私を見て春霞さまが笑った。
「最初はどうなることかと思ったけど、だんだんと日本語うまくなってきたわね」
「そうですか?」
「うん、いいよすごく」
「当たり前じゃない、毎週うちで猛特訓してるもんね」
 そう言って美夢さまが「えっへん」と胸を張ってみせる。
「その熱意を少しは自分の勉強にも向ければ、赤点ギリギリで冷や汗たらさなくてもいいんじゃない?」
「うっ、うるさいわね!」

 えっ………。
 何気ない美夢さま達のいつもの会話だった。
 毎週行われてきた、美夢さまと私のお泊まり会。
 私は知らなかった。
 美夢さまは、自分の勉強する時間を削ってまでも私の為に時間を作ってくれていたんだ。
 テストを控えた先週だって、いつもと変わらずお泊まり会は決行された。
 でも、そのせいで美夢さまが……。

「……紅茶イレテきます」
 私は、逃げるようにお茶を入れに立った。
 美夢さまとのお泊まり会は楽しいけれど、いつまでも甘えていてはいけない。
 自分で前に進まなくちゃ。
 ぼんやりと視界が滲んだ。





 期末試験の結果は、なんとか最悪の結果だけは免れた。
 夏休みが山百合会の手伝いと補習だけで終わらずに済みそうだ。
 後は、残り少ない一学期の間にどれだけの仕事を前倒しでこなしておくかにかかっている。

 そして、お姉さま達との賭けもそろそろ期限が近い。
 はっきりと名言はされなかったが、夏休みまでということは一学期の終業式の日がタイムリミットなのだろう。
 ケイトはだいぶ日本語に慣れてきた。
 発音はまだまだ辿々しく、ボキャブラリーも乏しいがそれでも4月には一言も日本語を理解できなかった人間とは思えない。
 けれど、それだけ。
 決定的に、お姉さま達に納得して貰えるだけの材料がない。
「いい、今週もいつもの時間ね」
 薔薇の館からの帰り道、私はいつものようにケイトをお泊まり会に誘った。
「………今週はダメ」
 いつもだったら笑顔で返してくるケイトが何故か元気のない声でそう答えた。
「どうかしたの? 具合でも悪い?」
「……そうじゃないけど、ダメ」
 何かはっきり言えない用事でもあるのだろうか、ケイトは何処か歯切れが悪い返答しか返してこなかった。
「そう、じゃあ今週はいいわ。 その分、来週ビシバシいくから。 もう時間がないのよ?」
「…………」
 ケイトは俯いたまま答えない。
「……ゴメンナサイ」
 少しの沈黙、そしてケイトは私の前から走り去った。


 翌日、ケイトは薔薇の館に来なかった。
 2時間目と3時間目の間の休み時間にクラスメイトと歩いているのを目撃したので登校してきていたのは確かなはずなのに。
 そして、その翌日もケイトは薔薇の館に来なかった。
 心配になった私は、何度かケイトのクラスを訪ねたが、まるで私から逃げているように席を外していた。
 ケイトに避けられている。
 その理由がわからない。
 ケイトに会って、ちゃんと話をしたい。
 なのに、会えない時間が積み重なっていく。
 放課後の薔薇の館で私はほとんど仕事が手に着かず、お姉さまに帰るように言われてしまった。


 一人きりで歩く帰り道。
 ケイトと一緒だった時はあんなにも楽しかったのに。
 外はまだ明るいのに、私の周りだけ夜中のように暗い気がした。
 バスに乗り、駅前まで来た私は思わず足を止めた。
 本屋の中に入っていく姿。
 それは見間違うはずもない、ケイトの姿だった。

「これ、ください」
 ケイトは沢山の本をレジに積み上げサイフからお金を取り出していた。
 その内容は、ケイトには読めるはずもない小説から参考書。
 私は会計を済ませて出てきたケイトに声をかけた。

「えっ!?」
 思わず抱えていた本屋の袋を落としかけてしまうケイト。
「どうして、薔薇の館に来ないの」
 私は、逃げられないようにしっかりとケイトの腕を掴んだ。
「………………」
 ケイトは俯き答えない。
「どうして……私、なにかケイトに嫌われるようなことした?」
 ケイトはぎゅっと唇をかみしめたまま首を振って否定した。
「どうして何も言ってくれないの? お願い、答えて」
 ケイトの瞳からボトボトと大きな滴が溢れてはこぼれた。
「言ってくれなきゃ、何もわからない。 わからないよ!」


「ケイトさんは黄薔薇のつぼみに迷惑をかけないように頑張ろうと思ったんです」
 私の後ろから現れたその子は、泣いているケイトをあやすように包み込んでそう言った。
「砂森 月美ちゃん……だっけ?」
「黄薔薇のつぼみに名前を覚えて貰えるなんて光栄です」
「黄薔薇のつぼみって呼ばれるのは苦手なんだけどね」
 黄薔薇のつぼみと呼ばれるのは苦手だ。
 嫌でもその肩書きが私の上に重くのしかかる。
 その度に、お姉さまの妹が私でよかったのかそればかりを気にしてしまう。
「では、なんとお呼びすればいいですか?」
「美夢でいいよ」
「じゃあ、美夢さまで」
 彼女はようやく落ち着いたケイトの頭を優しく撫でながら、数日前の事を私に話した。
 ケイトから相談されたこと。
 私の代わりにケイトに日本語を教えてくれていたこと。
 ケイトは私のことを心配してくれていたこと。
「あはは……私の成績がよくないのは元々なんだけどなぁ」
 あの日の春霞とのやりとりで、ケイトは自分のせいで私の成績が悪かったのだと誤解したようだ。
「笑い事じゃないですよ? 美夢さま」
「いい、ケイト。 別に、ケイトとお泊まり会をしなくなって、ケイトに日本語教えたりしてなくたって私は元々勉強嫌いだから」
「……美夢さま、威張って言わないでください。 そんな事」
「春霞にはね、毎回言われてるのよ。 だから気にしないで」
 そう言って笑いかけると、ケイトもようやく少し笑った。
「………少しは、気にした方がいいんじゃないですか? 美夢さまのファンの子たち泣きますよ?」
「居るの? そんな奇特な子」
 一々ツッコミを入れてくる月美ちゃんがどこか春霞に似てるなと思いながら、彼女の言った事に驚く。
「ええ、特殊なフィルターがかかるんです。 薔薇の館の住人ってだけでどんな平凡な少女でもたちまち学園のアイドルに早変わりです」
「………そこまで言われるとちょっと悲しいなぁ」
「美夢さまは親しみやすくて人気かなりありますよ、うちのクラスでも」
「親しみやすいって、つまりお姉さま達みたいなカリスマ性が皆無で平凡だって言われてる?」
「まあ、そうとも言います。 でも、人気があるのは間違いないですよ」
 ……この子、ズケズケと酷いことばかり言う。
 泣くよ?
「でも、これで誤解が解けてよかった。 じゃあ、明日のお泊まり会は予定通り決行ね」
 そう、誤解が解けたのだから何の問題もないはずだ。
「いえ、ケイトさんは今週は私の家に泊まることになってますから」
 私とケイトの間に割ってはいる月美ちゃん。
 その顔には「勝利宣言」という四文字熟語が浮かんでいるようだった。
「ごめんなさい、美夢さま……月美さんと約束が」
 そういって、ケイトは頭を下げた。
「残念でした、美夢さま。 それではごきげんよう」
 
 そう言って立ち去るケイトと月美ちゃん。
 そして、私は見てしまった。
 月美さんがケイトの肩を抱いて歩いている所を。
 
 許せない………許せない………許せない………………許 せ な い!!!
  
 帰宅した私は、部屋で枕に八つ当たりして部屋中にその中味をぶちまけてしまうのだった。
 ケイトと一緒に勉強。
 ケイトと一緒におやつ。
 ケイトと一緒に夜ご飯。
 ケイトと一緒にお風呂。
 ケイトと一緒に一つの布団で…………。

 嫌だ、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せないぃ――――――――――――――――――――――――――!!!!

 その日は眠れない私だった。





 土曜日の授業はあっという間に終わった。
 今日の授業は無事に終わることが出来た。
 月美さんが今日の分の教科書に英語でふりがなを振ってくれたおかげだった。
 教科書を鞄にしまい、帰る準備をしていると月美さんがやってきた。
「今日の予定、忘れないでね」
「5時に駅前?」
「正解」
 そう言って、月美さんは笑った。
 私は、鞄を手に薔薇の館へ向かう。
 お昼ご飯を美夢さまと食べて、その後山百合会の仕事を手伝う予定になっている。
 今日は月美さんとの約束があるから早めに上がらせてもらわなければいけないけれど。
 薔薇の館に着くと、すでに紅薔薇様と春霞さまがお昼ご飯を食べていた。
「ごきげんよう、ケイトちゃん」
 そう、声をかけられて私もそれに応える。
「ゴキゲンヨウです」
 美夢さまの姿はまだ無かった。
「美夢ならもうすぐ来るはずよ。 まあ座ってお茶でも飲んでたら?」
 春霞さまに言われたとおり、私はお茶を入れにいく。
 紅薔薇様の分と春霞さまの分、そして自分の分。
 美夢さまの分もすぐに入れられるように、カップだけは用意しておく。
「ありがとう、美夢ちゃん。 日本茶の入れ方もだいぶうまくなったわね」
 紅薔薇様がそう言って笑った。
 普段は紅茶が多い薔薇の館だが、お昼休みにご飯を食べながら飲むのは日本茶と決まっているようだ。
「もうすっかり、薔薇の館の一員ね」
 春霞さまがそう言って笑った。

 お昼ご飯を食べる紅薔薇様と春霞さま。
 美夢さまはまだ来ない。
 春霞さまに「先に食べちゃえば?」と何度か言われたけれど、やっぱりお昼ご飯は美夢さまと一緒に食べたいと思っていた。
 美夢さま……遅いなぁ。
 先生に何かの用事を頼まれたと春霞さまが言っていたけれど……お腹減ったな。
 そんなことを考えていた時だった。
「うっ……!?」
 突然、さっきまで笑顔でお弁当を食べていた紅薔薇様がお腹を押さえて蹲った。
「お姉さまっ!?」
 春霞さまが慌てて紅薔薇様に駆け寄る。
 紅薔薇様は苦しそうにお腹を押さえ、椅子から床に崩れ落ちた。
 春霞さまは「お姉さま、お姉さま」と悲鳴のように繰り返す。
「私、先生呼んでくる」
 私は慌てて2階の会議室を飛び出した。
 目的地は、保健室。
 途中ですれ違った美夢さまにも事情を話し、美夢さまは薔薇の館へ、私は保健室へ走った。



「はぁ? 部屋に生えてたキノコを食べただとぉ?」
 保健室で寝かされた紅薔薇様を前に、黄薔薇様と白薔薇様が呆れたように呟いた。
「だって……せっかく生えてきたんだし、おいしそうだったからついお弁当に」
 紅薔薇様は顔の半分ぐらい布団をかぶって、ボソボソと言った。
「あのね、普通部屋にキノコなんて生えてこないわよ。 一体、どんな部屋だ」
 黄薔薇様がそう言うと、紅薔薇様の横に居た春霞さまがガタガタ震えだした。
「……お姉さまの部屋………お姉さまの部屋………お姉さまの部屋………いや……いや………いやぁ!!」
 頭を抱えるようにガタガタ震えながらうわごとのように繰り返す春霞さま。
「行ったこと……あるんだ」
 それを見た黄薔薇様と白薔薇様は顔を見合わせて呟いた。

「……あれは、地獄としか言い表せません。 招待された私達が何故か掃除をしなくてはならないと思うぐらい酷い惨状でした」
 沙貴さまは深刻なことを告げるような表情で語った。
「床がほとんど見えない部屋でした。 廊下まで異臭が漂い、壁は何かこの世の物とは思えない物質で覆われていました。 まるで、エイリアンに浸食されたかのような……でも、それの正体がカビだと知った時には目の前が真っ暗になりそうでした。 床は、元畳だった土。 部屋のあちこちには奇妙なキノコが沢山生えていました。 そして、春霞はあいつに出会ってしまったのです」
 沙貴さまはそこでいったん説明をやめた。
 春霞さまは何かを思いだしたように一層体を小さく丸め「嫌、嫌」と悲鳴を上げだした。
「体長25僂呂△襪隼廚錣譴襯乾ブリの大群………私は自分の身を守るのが精一杯でした」
 遠くを見つめる沙貴さま。
 何があったのかはこれ以上知りたくなかった。
 ただ一つ言えることは、春霞さまはその時一生残るトラウマになるような出来事を体験したと言うことだけだった。





 一学期が終わりを告げようとしていた。
 終業式を済ませ、薔薇の館へと向かう。
 タイムリミットは刻一刻と迫っている。
 掃除当番が終わると私は急いでケイトを迎えに行った。
 全てがもうすぐ決まってしまう。
「美夢さま痛い……」
 ケイトの手を握る力がつい強くなってしまった。
 薔薇の館の扉がものすごく重い物に感じられた。
 階段一段一段を踏みしめるように登る。
 逃げ出したい。
 そんな気持ちがこみ上げてきて足が震えてくる。
 ケイトはいつもとあまり変わっていないように見えた。
 そんなケイトが少し憎たらしくも思える。
 やがて、会議室の扉の前に着いてしまった。
 中からはお姉さま達の声が聞こえる。
 もう、後戻りは出来ないんだ。
 私は決心して扉を開いた。

「さて、夏休みの自主登校の日程だけどこんな感じでどうかしら。 都合の悪い人は前もって言ってね」
 食べたお弁当の味も、その前後に行った仕事の内容も会議の内容もあまり覚えてはいない。
 ただ、お姉さま達の口からその事についての言葉が出てくる事だけに怯えて過ごしていたかも知れない。
 しかし、会議を終え夏休みの予定についての話が終わり、みんなが帰り支度を始めてもその話題が出てくる事はなかった。
「あ……あの、お姉さま…? 私とケイトの事は」
 恐る恐る聞いた私にお姉さまは笑って言った。
「賭けはあなたの勝ちよ。 こんなに薔薇の館の住人としてなじんでるケイトちゃんを今さら認めないわけにはいかないでしょ? 奈留美が倒れた時も一番に動いてくれたのケイトちゃんだったんでしょ? ケイトちゃんはあなたの妹ってだけじゃなくすでに薔薇の館の大切な仲間だわ」
 お姉さまが認めてくれた。
 その事実が信じられないのか、私はお姉さまの姿がだいぶ小さくなるまでぼぉーと突っ立っていた。
「美夢さまどうしたの?」
 後ろからケイトに声をかけられてハッとなる。
 その手には私達と同じ夏休みの予定表が握られていた。
 私は、ゆっくりと振り向いた。
「これからは、美夢さまじゃなくてお姉さまと呼ぶのよ? いい?」
「お姉さま?」
「そう、お姉さま」
 もう、誰に遠慮する事もなくそう呼んでもらえる。
 ケイトの首に私の渡したロザリオの鎖が光る。
 私はケイトと手を繋いで走り出した。
 スカートのプリーツはちょっぴり乱れちゃったけど、セーラーカラーもちょっとだけ翻っちゃったけど今日だけは許して下さいマリア様。
 私達の夏はこれから始まる。



 それは、一つの物語の始まりである。












(おまけ)
 

  
「ふえぇぇん、もう追試確定………」
 一学期の期末試験が目前に迫ってきていた。
 焦れば焦る程、覚えなければならない漢字の山に溜息しか出てこない。
 清水良ちん大ピンチ。
「ふーん、大変だね。 でもさ、漢字なんて私は楽勝だったけどなぁ」
 この一見どこから見ても外人さんみたいな金髪のハーフの上級生は先日私のお姉さまになってくれた松野芽衣さま。
「だって、苦手なんですよぉ」
「しかたがないなぁ、ここはお姉さまである私が良のテスト勉強に一肌脱ぐか」
 そういってボンと胸を叩いてみせるお姉さま。
 その瞬間にゴホゴホと咳き込む。
 そりゃ、それだけクッションの少ない胸を叩いたりしたら咳き込みますって。
「……うー、なんか良がものすごく失礼な事を考えてるような気がする」
 お姉さま気のせいです。
 ほら、貧○はステータスだとかどっかのアニメでも言ってましたよ?
「とにかく、週末はうちでびっしりしごいてあげるからお泊まりセット持ってくるのよ? わかった?」


 そんなこんなでお姉さまの家でお泊まり勉強会が決行される事になったんだけど。
 勉強抜きでお泊まり会のが良かったなぁと思う良なのでした。 ←すでに本来の目的を忘れている。
 新しいパジャマと、着替えとえっと……服はどうしようかな。
 お姉さまのお家の方に可愛い妹だって思ってもらえるにはどの服が……。
 等々、結局試験期間中なのに勉強もせずお泊まりの仕度にほとんどの時間を費やし、これでは本末転倒などと微塵も思わない私は我ながら幸せな性格をしていると思う。

 そして、お泊まり当日(すでに勉強会の部分がどこかに消え去っている)がやってきた。
 お姉さまといつもの場所でいったん別れ、家に荷物を取りに帰る。
 お母さんが持たせてくれたクッキーの詰め合わせその他で、結構荷物は重い。
 やがて、駅前で待ち合わせしていたお姉さまと落ち合ってお姉さまの家へと向かった。

 お姉さまの家は結構新しめの大きなマンションだった。
 エレベーターに乗り、お姉さまに連れられて歩いていくと松野というお姉さまの家の表札が見えた。
「おかあさん、今帰ったよー」
 インターホン越しにそうお姉さまが言うとやがてお姉さまのお母さまがドアを開けてくれた。
 お姉さまのお母さまは綺麗なブロンドの髪で綺麗な青い目をしていた。

「えっ……美夢さま!?」
 お姉さまのお母さまは私の姿を見るなり、驚いたようにそうつぶやきフリーズした。
 美夢? え……それって。
「ま、まさかね……ごめんなさい。 ごきげんよう。 私が芽衣の母ケイトです。 よろしくね……えっと」
「あっ……し、清水…りょ…良です。 ご、ごきげんよう」
「アナタがあんまり私の知っている人に似ていたものだから、つい」
 そう言ってお姉さまのお母さまは私に頭を下げた。
「もしかして、母をご存じなんですか? 私の母は美夢といいます。 旧姓は向坂。 向坂美夢」
 そう、お姉さまのお母さまが私を呼んだ名は母の名前だった。
 今の私は母の若い頃によく似ているとよく言われていた。
「……こんな偶然があるなんて。 日本に戻って連絡を取りたかったのにすでに結婚されていてどこにいるのかわからなかったお姉さまの娘さんが芽衣の妹になっているなんて」 
 私の事を懐かしそうに見つめながら、お姉さまのお母さまは高校時代の話を色々としてくれた。
 見た目とはうってかわって、流暢な日本語を話すお姉さまのお母さま。
 そんなお姉さまのお母さまに日本語を教えたのはうちのお母さんだという。 ちょっと信じられない。
 うちのお母さんが黄薔薇さまをやっていたというのは我が家では冗談のように話されていたし、まさか本当だとは思っても居なかった。 お母さんごめん。
 私は携帯電話を取り出して、家にいるお母さんに電話をした。
 電話越しに事情を説明すると私はお姉さまのお母さまに電話をかわった。
 お姉さまのお母さまの声は次第に涙声に変わり、たぶん今頃うちのお母さんも同じだと思う。
 邪魔しては悪いので、私とお姉さまはお姉さまの部屋へと向かった。
 お母さん、今月の携帯の料金この分はお母さんが出してよね。

「で、さっそく試験勉強を始めるわよ」
「げっ、忘れてた……(汗)」
 しかも、勉強道具は何一つ持ってきていない私であった。
 結局、その後大急ぎで家に取りに戻り、ついでに着いてきたお母さんとお姉さまのお母さまは2○年ぶりの再会を果たしたのだとか。
 でも、私はそれどころじゃなかった。
 特大のハリセンを持ったお姉さまがこっちを向いて睨んでるんだから。

 漢字を間違えるたび、特大のハリセンが私の頭を襲う。
 漢字を覚える前に死んじゃう気がする。

 そして、私の眠れない夜が幕を開けるのだった。



(おしまい。)



※なお、この物語はフィクションだし原作マリア様がみてるとはまったく関係ありません。
 ROM人というヘタレSS書きが色々でっち上げた物語であり、実在する人物、団体、原作キャラとは年齢・性別・職業・ツベルクリン反応、その他郵便番号までまったく関係ありません。
 なお、本作品は【No:1648】『約束の時が近づく身を焦がす未練さよならだけが人生』の関連SSの一つです。
 
まあ、そんなわけで書き始めた当初から原作が随分進んでしまった為、入れようと思っていたエピソードも色々削ったわけですが、時代的には清子さまが一年生時代という設定です。
 この時点ではまだ清子さまはつぼみの妹になっていない設定。
 ROM人的には清子さまは紅薔薇でいて欲しいのでそう言うつもりで設定作りました。

キャスト
紅薔薇さま:若杉 奈留美さま
黄薔薇さま:朝生 みゆきさま
白薔薇さま:林 茉莉さま
紅薔薇のつぼみ:柏木 春霞さま
黄薔薇のつぼみ:向坂 美夢さま
白薔薇のつぼみ:一之瀬 沙貴さま
紅薔薇のつぼみの妹(予定):菊亭清子さま(後の小笠原清子さま)
黄薔薇のつぼみの妹:ケイト・ウィスパーさま
白薔薇のつぼみの妹:未定

ケイトのクラスメイト:砂森 月美さま 


 さて、そんなわけでがちゃSでついに30本目です。
 最近は、ROM人らしくROMに徹していたりする私ですが、あと何作かは書かせていただきたいネタがあります。
 それがいつになるのかはわかりませんが、その時はどうか生暖かい目でよろしくお願いいたします…………m(_ _)m



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